UXの定量的な計測が、活動の寄与度合いを知るために重要
MeasuringU ジェフ・サウロ氏の講演
サービス/プロダクトのUXを向上させるためには、その活動の費用対効果を正しく計測することが欠かせません。ジェフ・サウロ氏の講演より、UXを計測し、それをふまえて次のアクションへ繋げる方法をご紹介します。
2015年10月7・8日、「ソシオメディア UX戦略フォーラム 2015 Fall」が開催されました。この記事では、MeasuringUのジェフ・サウロ氏による「ユーザーエクスペリエンスの定量化:メソッド、ROI、そしてNPS – ウェブサイトのユーザーエクスペリエンスをベンチマークする」と題されたセッションの内容を紹介します。
なぜUXの計測が必要か
UX(ユーザーエクスペリエンス)の定量化、すなわちUXを計測することは「改善内容がUXにどの程度寄与したかを知るために必要である」と強調していました。ビジネスにおいて投資対効果を検証することは基本的なことであり、これはUXへの取り組みにおいても例外ではないことを示しています。
UXの計測に重要なポイント
UXを計測する手順を大きく「計画」「実行」「解析」に分け、それぞれで重要な点を解説されました。
「計画」において最も重要なことの1つは「対象者の決め方」です。単に「性別」「年齢」といった属性だけではなく、評価対象となるプロダクト/サービスに対しての「そのブランドに対する思い入れ」「似た経験をしたことがあるか」「初見かリピーターか」といった条件が大事であると述べています。そのサービスを初めて利用する人の場合は満足度を低く評価する傾向があるため、リピーターだけに調査をして結果が良かったからといってそのサービスが優れているとは断言できないとしています。
「実行」においては、「タスクの選定」「タスクの設計」「タスクの提示」のステップを紹介いただきました。これは基本的なユーザーテストと同様の内容・注意点であり、ユーザビリティ調査の知見をそのまま適用することが可能です。
「解析」では、定量的なデータを扱う上で注意すべき点として「被験者内評価」と「被験者間評価」の2パターンを取り上げ、それぞれのメリット・デメリットを解説しました。
前者は、“一人の被験者が複数のサービスを評価する方法”で、後者は、“一人の被験者は1つのサービスのみ評価する方法”です。前者には順序効果があるためそれを相殺する為の調査計画が必要であること、後者には統計的な処理をするためには比較的大きいサンプルサイズが必要であるといった特徴があることを述べています。UXの計測においては前者を用いることが多いようです。
UXの計測例
セッションの後半では、実際にUXを計測した事例として「レンタカーの申込サイト」における調査内容等を紹介いただきました。
この調査は、オンラインで調査が完結する仕組みを用いている点が特徴的です。アンケート会員から調査対象者を選出した上で2つのタスクを提示し、調査対象者は各タスクの実施後に「タスクを遂行できたかどうか」「難しかったかどうか」「タスクを完了できた確信があるか」といった視点で主観評価を行います。一方でタスク実施時のログを取得・解析し、タスクが遂行できたかどうか客観的な視点からの評価も行います。
これら主観データ・客観データの両側面から「タスク達成率」「難易度評価」「平均タスク達成時間」「タスク未達成の場合の未達理由」等を数値化することで、競合と比較して自社サービスのUXがどの程度優れているか/不足しているか、自社サービスのリニューアルの前後で改善効果があったかといったことを判断します。
UX計測後のアクション
UXを計測した後は、それをふまえて次のアクションへ繋げることが重要となります。特に計測によって問題点が見つかった場合は、より良いUXを提供できるような改善が必要です。
どのように改善すべきかは、前述の計測結果だけでは不十分です。先の事例ではタスク内容を動画で記録しておき、分析者がそれを見返すことでユーザーがなぜタスクに時間がかかったか、なぜ使いにくいと感じたのかといったことを見出すことで改善に繋げていました。
UXの計測は大切ですが、計測しただけでは次の改善までは繋がらないことに留意が必要です。至極当たり前ではありますが、分析して適切に改善し再度測定を繰り返すことでUXを向上させることができます。
調査設計が大事であることを改めて認識
今回のジェフ・サウロ氏の講演を取材し、各種調査を行う上では調査設計が極めて大事であることを再認識しました。
サンプル数、対象者条件、測定すべき指標、その指標をどう扱うか等を正しく設定することがUXの計測に繋がります。
これは我々がさまざまな種類の調査を設計する場合も常に意識していることと共通しており、これらのノウハウを生かすことが十分に可能であると認識しました。
一方で、どの指標をもって”UXを計測した”とするかは、その組織において共通意識として合意を取っていく活動も欠かせないと感じます。
また、数量的なデータはあくまで効果測定のためのものであり、その原因を把握し改善方針を策定するには質的なデータの取得、専門家による行動分析が必要であるため、我々のようなユーザビリティ専門家がUXの向上に不可欠であると再認識した講演でした。
(取材:株式会社イード リサーチ事業本部HCD事業部・宮内)
外部の関連記事
この講演の本質に迫る、ジェフ氏とフォーラム主催者の篠原氏の対談記事が、翔泳社のBiz/Zineで公開されています。さらに詳細をお知りになりたい方はご参照ください。
UX戦略フォーラムとは
UX戦略フォーラムはソシオメディアが2014年から開催している講演イベントのシリーズで、そこでは、企業の中核にUXを捉えるための組織活動を管理・運営・推進する“UX戦略”に関するさまざまな情報や議論の場を提供しています。
今回はその5回目。「メトリクスの探求」というサブタイトルで、どのようにしてUXデザインを定量的に把握・評価し、経営に活かしていけばよいのか、その知見を、この分野で活躍する国内外の7名の専門家が、具体的な事例を出しつつ紹介してくれました。
ソシオメディアは、UX戦略フォーラムを2016年以降も続けていくとのことです。メディア協賛をしているU-Siteでも、具体的な内容や日程がわかり次第、続報を伝える予定です。