2013年 イントラネット・ベスト10
イントラネットチームの規模は倍増したが、この投資から、企業が、ソーシャル機能の統合強化や情報フィルタリングの進歩といった成果を得ていることは間違いない。受賞組織の70%はSharePointを利用していたが、そこには徹底的なカスタマイズが施されていた。
2013年の優れたデザインのイントラネット、ベスト10は以下の通り:
- Acorda Therapeutics, Inc.(アメリカ): バイオテクノロジー企業
- American International Group, Inc.(アメリカ): 130か国以上の法人、機関、個人の顧客に向けて、生命保険や年金サービスを提供する保険組織
- AT&T(アメリカ): 電気通信会社
- Hager Group(ドイツ): 住宅や商業ビル向けの電気設備メーカー
- Luzerner Kantonalbank AG(スイス): スイス最大の州立銀行の1つで、基本的な銀行サービスや住宅ローン、企業への融資、資産管理アドバイスに力を入れており、プライベートバンキング分野で富裕層への総合的な投資顧問サービスを提供
- ONO(スペイン): 電気通信会社
- Saudi Commission for Tourism and Antiquities (SCTA)(サウジアラビア): 観光地や観光客向けのアクティビティ、サウジアラビアの歴史を代表する遺跡を所掌し、その支援、管理をする政府機関
- Swiss Mobiliar Insurance & Pensions(スイス): 保険会社
- WorkSafeBC(カナダ): ブリティッシュコロンビア州の労働者賃金委員会
- XL Group plc(アイルランド): 世界中の産業、商業、専門サービス企業にサービスを提供する保険及び再保険会社
受賞対象のほとんどは、組織全体や様々な担当業務に利用できるようデザインされた、大規模なイントラネットアプリケーションである。しかし、今年受賞のうちの2組織のものは専門イントラネットだった。具体的には、AT&Tが提供しているのは顧客に対応する従業員用のナレッジマネジメントポータルで、Luzerner Kantonalbankのイントラネットは顧客アドバイザー対象のものである。
今回、トップ10のうちの3か所を保険業界が占めた。公益事業と電気通信会社も2組織ずつが受賞するという昨年の結果を再現した。
要約すると、6つの業界が今年受賞の顔ぶれの中でイントラネットデザインの最前線に立った:
2001年以来の受賞組織のうちの18%を占める金融機関は、このコンテスト全体で第2位の活躍で、テクノロジー企業(22%)に続いている。
アメリカとヨーロッパの経済はまだ良くないが、今、こうした国のイントラネットデザインは盛り上がりを見せている。今年度の受賞団体の所在地は以下の7か国だった:
- アメリカ(3団体)
- スイス(2団体)
- カナダ(1団体)
- ドイツ(1団体)
- アイルランド(1団体)
- サウジアラビア(1団体)
- スペイン(1団体)
Saudi Commission for Tourism and Antiquities (SCTA) は中東からの最初のDesign Annual(:イントラネットデザインについての年次レポート)受賞者である。しかし、それ以外のトップ10受賞団体には初登場の国はなかった。1回目のDesign Annual 以来、アメリカの団体は66回、カナダは9回、ドイツは8回、スイスは7回、スペインは5回、アイルランドは3回の受賞をしている。中でも、国の規模からして、スイス(人口790万人。つまりアメリカの2.5%)の活躍は最もすばらしいものだろう。
すばらしいイントラネットを作り出すには何年もかかる
イントラネットを新たに作ったり、イントラネットを再設計するというのは、決して、ちょっとした努力でさっとできることではない。
2001年以来、すばらしいイントラネットを作り出すには、作業開始から公開までどのくらい時間がかかるかを追ってきたが、平均すると、そうした過程には42か月、つまり約3年半かかっている。そして、今年度、その平均は27か月、つまり約2.3年だった。
今、道を切り拓いているのは小規模な企業
ここ4年間は小規模な組織がトップ10のほとんどの位置を奪取している。今年度の受賞組織の平均従業員数は18,800人で、13年前にこのコンテストを始めて以来(2004年の政府組織のみに絞ったDesign Annualを除くと)、最少である。今年度の各組織の規模はAcorda Therapeuticsの350人から、AT&Tの127,000人にまで及ぶが、そのうちの7サイトがサポートする従業員数は5,000人未満であり、規模が8番目のところのサポートする人数もちょうど6,000人だった。
巨大企業が成果を上げていることも確かだが、13回のDesign Annual全体での受賞団体の平均従業員規模は約57,000人であり、繰り返しになるが、新たに受賞した企業の規模の小ささが目立つ。近年の受賞組織の平均従業員数は以下の通りだった:
- 2009年: 37,500人
- 2010年: 39,100人(ただし、140万人の店員を抱えるとてつもなく大きな外れ値であるWalmartは除外している。)
- 2011年: 37,900人
- 2012年: 19,700人
- 2013年: 18,800人
数字は実質的には3年連続で変化がなかったが、昨年、減少し、今年度もほぼその数を維持していた。
2年というのはある傾向を断じるにはデータ不足だろう。しかし、さらに踏み込むと、データからわかるのは、質の高いイントラネットを作るのは容易になってきている、ということのように思われる。リソースが限定されている規模が小さめの組織でも今やそれは手の届くところにあるからである。
チーム規模は依然、拡大中
組織の規模は小さくなったが、イントラネットチームの平均人数は増えており、すばらしいことに、今年、イントラネットに従事する人数は今までのDesign Annualを通して最大の27人となった。AT&Tのチームは我々が見てきた中で最大の107人という他にはないメンバー数を抱えており、今年の平均を押し上げた。しかし、AT&Tを除いても、今年のチームメンバー数の平均は18人と依然、過去最大である。
イントラネットチームの人数は組織の全従業員数の0.14%に相当している(つまり、従業員1,000人あたり1.4人がイントラネットのスタッフ)。これは過去最大だった昨年の0.07%の2倍である。
グラフが示すように、イントラネットチームの規模は2001年から2007年までは(小さくて)変動がなかったが、その後、2007年から2011年にかけ、少し大きくなった。そして、ここ2年、イントラネットチームは急激に大きくなっている。少なくともこれ以前のなまぬるい成長に比べると。
ここからわかるのはイントラネットデザインに割り当てられるリソースが増えていっていることである。すばらしいイントラネットを作るには十分な人的リソースが必要だ。デザイン、開発、デプロイ、執筆、管理、統治をするスタッフがいなければ、従業員に情報を提供して、やる気を出させ、生産性を上げて、情報の共有を促す、という第一級のイントラネットを作り上げることは不可能だからだ。ごく少人数のチームにイントラネットのデザインや管理のような大変な作業に取り組むよう依頼するのがおかしいのである。たとえそれが即時導入可能なアウトオブボックスソリューションを「ただデプロイするだけ」であっても。
外部コンサルタントによる関与は継続
受賞したイントラネットチームは、外部のコンサルタントから、追加の人手やアドバイスを求めていた。2004年から受賞イントラネットのチーム構成についての情報を集め始めたが、当時、外部コンサルタントがいたのは、受賞10チームのうち4チームだけだった。しかし、過去2年同様、今年度も10チーム中8チームに外部コンサルタントが入っている。そうしたコンサルタントの多くが携わっていたのが(特にSharePointを利用する)開発業務である。 しかし、彼らはデザインや開発、ユーザビリティ調査、計画立案、プロジェクト管理、スケジューリングにも従事していた。
外部の業者やフリーのコンサルタントが提供するのは特定分野での専門知識、つまりイントラネットチームにずっと必要なわけではないスキルである。また、彼らは従業員の知見というものに信憑性も与えてくれる。
コンテンツ作成者をデザインプロセス初期段階から巻き込む
ベスト10に入ったイントラネットチームは、新しいイントラネット作成のごく初期段階から組織中の人々を巻き込み、様々なチーム、オフィス、勤務地の従業員に彼らのニーズや働き方を必ず説明させている。かつて無視されていたグループの1つがコンテンツライターで、彼らはデザインプロセスが後期になって呼ばれることが多かった。しかし、今年の受賞チームはコンテンツオーナーやコンテンツライターとごく早い段階でミーティングをしていた。そのため、不要なコンテンツの削減や古いコンテンツの編集、フィードバックが絶え間なくできるようになり、マイグレーションやテスト、最適化のための時間が十分に取れている。
ウェブ向けのライティングやイントラネットコンテンツの調査からわかったのは、全体のユーザーエクスペリエンスで最も影響力があるのは言葉である場合が多いということである。ウェブサイトやイントラネットにユーザーが行くのは情報を得るためだからである。
機能のトレンド
ここ数年のイントラネットで目立つ機能のトレンドには以下のようなものがある:
- メガメニュー
- ビデオチャンネル
- 従業員名簿の個人プロフィールの強化
- パーソナライズされたホームページと各セクション
こうしたトレンドは今年も続いているが、同時に以下のような新たなトレンドもある:
- その組織についてのTwitterやFacebook、LinkedIn等のソーシャルサイトからのフィードをホーム画面やニュースのページに掲載する。従来、イントラネット上のソーシャル機能は内部共有用で、オフィスの壁の外で起きている事柄には利用されていなかった。しかし、Acorda Therapeutics, Inc.やAIGは今回、この良い例となっている。
- ユーザーが正しい情報を絞り込むのに役立つよう、UIにフィルターを組み入れる。ファセットを利用して、検索結果内のコンテンツを減らし、的を絞るというのは、かつてはユーザーが扱うにはなじみがなさ過ぎるか、あるいは難しすぎた。しかし、フィルターのデザインが改善され、また、ウェブサイトの必需品ともなってきたため、ようやくイントラネットも後に続き始めている。XL GroupやLuzerner Kantonalbank、AIG、AT&Tでは実装がうまくいっている。
- 従業員検索のサジェスト内にアクションリンクを提供し、そこにその人物についての最も重要な情報を入れて、ユーザーにそのリスト自体からその連絡先へのEメールや電話、ブックマークといった行動を起こさせる。OnoやLuzerner Kantonalbank、Acordaではこのような興味深い機能を表示している。
モバイル最適化は一時停止
昨年同様、今年度の受賞者でイントラネットのモバイル専用バージョンを提供していたのは1組織だけだった。つまり、簡単に言うと、モバイルイントラネット分野の成長は一時停止している。2009年のDesign Annualにはモバイルに最適化されたイントラネットデザインが3件あった。そして、2011年にはその受賞数は6件と倍になり、モバイル空間の将来はさらに明るいように見えていたのだが。
今年、AT&Tが提供しているのはiPadに最適されたモバイルアプリで、それは会社の最前線にいる販売業者と販売管理チームを主にサポートし、AT&Tの小売店のモバイル化ロードマップと連携するために構築された。最前線の販売業者がそうしたタブレット用オペレーティングシステムへの移行を開始したところで、AT&Tは今度はAndroidとWindowsオペレーティングシステムをサポートする予定である。こうしたチ-ムにとっての大きな課題はモバイルウェブサイトを開発するのか、それとも各オペレーティングシステム向けのネイティブモバイルアプリを開発するのかを決断することだった。AT&Tの開発チ-ムは両方のやり方を混ぜたアプリを作り出して、できる限りHTML5を利用しながら、必要に応じてネイティブコントロールのユーザビリティ上のメリットも提供している。
Swiss MobiliarとAcorda等のサイトもネットワーク上の従業員にアクセスできるモバイルイントラネットを提供してはいる。しかし、どちらもモバイルに最適化されたサイトではない。
イントラネット向けのモバイルデザインをする場合のよくある参入障壁は以下のようなものである:
- データセキュリティについての心配。
- プラットフォーム選択の難しさ。
- デザインを作り出し、それをメンテナンスするリソースの不足。
- モバイルユーザーエクスペリエンスに優れたフルセットの機能を実装すべきか、特定のタスク向けのアプリを実装すべきか、に対する確信のなさ。
Sharepointについてのアドバイス
今年度の受賞者のうちの70%がMicrosoft SharePointをなにかしら利用して、すばらしいイントラネットを作り出していた。我々は通常、特定のイントラネットソフトウェアや開発ツールを推奨しないことにしている。そうした推奨は広範囲のデザインオーディエンスにとっては限定された一時的なものであることが多いからである。しかしながら、今年度の受賞者の間でのSharePointの普及や、世間一般でのSharePoint利用の伸びを考慮し、受賞チームメンバーによるSharePointについての喜びと苦しみの物語をここでいくつか共有したいと思う。
最も説得力のある見解は以下のようなものだった:
- ユーザビリティ上の課題解決にSharePointの機能を利用しよう。イントラネットの厄介なユーザビリティ上の課題には、SharePointの機能の利用で解決できるものもある:
- コンテンツのすべてに対する埋込み型インデクシングを利用し、検索能力を向上させよう。SharePointではドキュメントやページのタイトルだけでなく、各ページの全コンテンツによるインデックス作成が可能である。Hager Groupのような組織ではこのことを利用して、検索能力を大いに向上させていた。そうした分類モデルにより、最適化オプションを利用した効率的なメタデータ検索や全文検索が容易になるからである。
- MS Officeを統合して、文書の作成と管理が楽にできるようにしよう。
- 必要のないユーザーには、編集コントロールのような機能は制限して隠すようにしよう。
- 自分たちの組織でSharePointがうまく機能するように、デザインをカスタマイズして開発する計画を立てよう。即時導入可能なアウトオブボックス製品がある組織にぴったりだと思うのは間違っている。そうした製品にはかなりの量のデザインや開発の作業が必要になることが多いからだ。実際、開発を手伝ってくれる外部リソースを雇う必要もあるかもしれない。SharePointを利用している7サイト中の5サイトが、社外のSharePointコンサルタントを雇い、システムの大半を作ってもらっていたからである。
- チーム(コラボレーション)スペースについて従業員を教育し、新しいスペースを作るタイミングについての規則を定めよう。SharePointではチームスペースを作り出すことが容易である。そこでは開発者以外の人でもコミュニケーション用の空間を作り、維持することが可能になる。こうしたエリアはチームの助けとなる、活発で生き生きしたエコシステムになる可能性もあれば、縦割りの情報しかない日の当たらない場所、つまり、特にそのスペースをよく知らない人たちにとっては、古く、重複していて、隠された、見つけにくい情報しかない場所になる可能性もある。組織として気をつけないと、多数あるイントラネットサイト間にコンテンツが隠れてしまうという、従来からのイントラネットの課題が、今風に微妙に形を変え、すぐ顕在化するだろう。こうしたことを避けるためには、1)チームスペース全体の適切なインデックス化を確実に行い、2)影響の大きいコンテンツはメインのイントラネットIAに統合するように設計し、3)新しいスペースを作らずに、今あるスペースを極力利用するよう奨励しよう。また、チームスペース向けではない、「公式」コンテンツライターを指名することも重要である。チームスペースではあらゆる種類のコンテンツを共有することが可能で、それは各組織内での非常に強力なモデルである。しかしながら、このモデルによって、全社的なコンテンツが見落とされる可能性もある。こうしたことを避けるためには、その組織全体のためのコミュニケーションチームの設置が有用だろう。
- 自分たちによるブランディングの実行には時間がかかりうることを理解しよう。デザイナーたちはその組織のブランディングを利用することがSharePointスペシャリストの業務ということを認めている。それは、特定のエリアに注目を集めるためにSharePointのデフォルトのUIをカスタマイズするのも同様である。
- アクセス許可はシンプルにしておこう。デザイナーはパーソナライゼーションをユーザーにとって非常に役立つものにしようと、ロールを非常に細かくしてバックエンドを複雑にしてしまうことが多い。システム全体で見ると、これを設計し維持するのは泥沼になる可能性があり、SharePointも例外ではない。こうしたことを避けるために、今年度の受賞者たちが推奨するのは、機密書類にプロテクトをかけることである。しかし、アクセス許可の粒度は下げすぎないようにしよう。
- 設計や従業員間の良質なコミュニケーションのため、
Enterprise 2.0機能を追加しよう。SharePointによってコメントやレーティングのような強力な機能の入れ替えは容易になる。しかし、従業員にはイントラネットでこうした機能をどうやって利用するかについてのガイダンスが必要である。例えば、経営陣はソーシャル機能を公式に認めて、利用すべきであり、彼らの利用に関する期待や規定を説明した文書がイントラネット上に存在すべきである。また、読者の反応を促すことでコンテンツライターを支援するため、彼らにはすべての記事の最後に質問あるいは行動を起こすきっかけとなる言葉を追加させ、読者にそのトピックについて考えさせよう。最後になるが、イントラネットの支援者を説得して、対話の口火を切らせよう。コメントしてみたいと思っている人は多いものである。しかし、彼らは一番先にそれをしたいとは思ってないからである。
フルレポート
2013年の10の受賞対象の、204枚のフルカラーのスクリーンショットが入った、373ページのイントラネットデザイン年鑑がダウンロード可能。
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ニールセン博士のAlertbox新着コラム「2013年イントラネット・ベスト10」 http://t.co/YRLOSadQ イントラネットチームの規模は倍増したが、この投資から、企業が、ソーシャル機能の統合強化や情報フィルタリングの進歩といった成果を得ていることは間違いない。
— U-Site編集部 (@UsabilityJp) January 23, 2013