WAPの反動

ヨーロッパで、WAPの反動が起こっている。

  • 先週Londonで開催されたNetMedia 2000会議で、講演者のほとんどが、WAPは当面本流とはいえないと指摘した。サービスが標準以下だからだ。
  • イギリス、およびヨーロッパ大陸の新聞各紙は、WAP電話機がいかに役に立たないか、サービスがいかに使いにくいかを書き立てている。
  • コメンテーターの多くが指摘するのは、ごく単純な事実だ。すなわち、すでに電話機を手にしているのだから、たいがいの用件は単なる音声通話でことたりる。WAPの出る幕などない。

WAP = Wireless Application Protocol; a way to access Web content over mobile telephones.)

状況は大きく変わってきた。

1999年10月

  • 私が1999年10月発表のAlertboxで、WAPはポータビリティへのアプローチとしては間違ったものであると書いた時、この意見はかなり少数派に属していた。
  • 他のコメンテーターのほとんどは、1999年の当時、話題絶頂だったWAPにすっかり入れ揚げていた。

2000年4月

つい最近、2000年4月に私がヨーロッパへ旅をしたときでさえ、まだ多くの人がWAPに過大な期待を抱いていた。2000年4月時点では、冷静な視点から初期のWAP電話機のユーザビリティを研究した人の中から、いくつか問題点を指摘する声が聞かれた。だが、大勢としては、ほんの数ヶ月前までWAPに好意的だった。

2000年5~6月

状況が変わり始めた。ヨーロッパの新聞紙上に初めて否定的なレビューが掲載されるようになった。WAPを実地に試してみて、使えないと判断した記事だ。

2000年7月

今や、新たな共通認識ができてしまった。WAPの未来が明るいなどという予測をする人は、もはや誰もいない。熱狂は、次のものへとシフトしてしまったのだ。

  • より大きな画面と高速な常時接続を備えた未来のモバイルサービス(英国の電話会社Orangeを除く。この会社は愚かにも、何かダウンロードするたびにわずらわしいダイアルアップが必要になるHSCSDという技術を採用した)
  • 日本のiモードシステム。現世代のサービスとしてはWAPより優れている。

もっとも印象的だったのは、NetMedia’2000の発表者のひとり(WAP支援側として会議プログラムに掲載されていたのに、宗旨替えをした)が、講演の始めに語った次の発言だ。「私は以前、大手電話会社でWAPのマーケティング担当チーフを務めていました。でも、これはうまくいかないという結論に達したので、転職してASPで働いています」。どっちも似たような流行語だが、こっちの方がまだ見込みがある。

ロンドンのウェブデザイン事務所から来た発表者たちは、ここまで率直ではなかった(WAP関係のクライアントから得られる収入は馬鹿にならないから)。だが、発言の中では「モバイルインターネット」という用語の方を好んで使っていた。この行間を読み込めば、近い将来に迫ったWAPの破綻を見越して、できるだけ距離を置いておきたいという彼らの本音が垣間見える。次世代のソリューション提供者としては、信用問題に関わることだから。

WAPの開発: 「一度のデザインで、どこでも表示」は通用しない

WAPのユーザビリティが悲惨なのにはいくつか理由がある。画面があまりにも小さすぎる。帯域幅が狭い。接続が必要になるたびに、いちいち電話をかけ直さなくてはならない。数値キーしかなく、入力用デバイスとしてはお笑い種だ。挙げ句の果てに、認証が必要な際には、通常のパスワードではなく、数値でのPINコード入力を推奨するありさまだ。同様に、端末実機のデザインにも統一性がない。中にはヒューマンファクターが低過ぎて、同じ制約の中でも十分可能なはずの良好なユーザ体験を提供できないものもあった。

こういった多くの弱点があるために、WAPサービスのデザイナーは、各電話機ごとに各サービスを最適化する必要に迫られた。各機種の制約や、操作テクニックに合わせるのだ。各端末モデルごとに別々のサービスをデザインしなくてはならない。プラットフォームの弱点が多ければ、それだけターゲットを絞ってデザインを最適化し、利用可能なユーザビリティを最後まで使い切る必要が出てくるからだ。

悲しむべき結論に達する。通常のブラウザ向けのサービスより、WAP用のサービスを開発する方がずっとお金がかかるのだ。ウェブが初期にあれだけ成功を収めたのは、開発が簡単だったからだ。ひとつウェブサイトを作れば、そのままでプラットフォームの壁を越えて利用できる。わざわざ複数バージョンのウェブサイトをメンテナンスしたいと思う人はいない、というのが、ブラウザ戦争から得られた教訓だった。この点でもWAPに分はない。

クローズドなサービス: 壁のある庭

大手電話会社のほとんどは、彼らのWAPサービスをクローズドなものにしている。顧客は、好きなサイトへアクセスできないことがある。電話会社と巨額の取引をしたサイトだけが、アクセス可能なのだ。明らかに独占禁止法違反だ。すでにヨーロッパでは、サードパーティのサービスにもアクセスできるよう要求する訴訟がいくつか起こっている。

モバイルインターネットサービスに関して「壁のある庭」的アプローチを取ると、困ったことが2つ起こってくる。

  • ウェブを小さく分割してクローズドなサービスを行うことは、Metcalfeの法則に反するヨーロッパの電話会社は、モバイルインターネットが持つ可能性の90%をフイにしようとしているのだ。残り10%を独占し、高額な料金を吹っかけるために。確かに彼らにとってはいいことかもしれない。だが、社会やネットワーク経済全体にとってみれば、大損害というしかない。
  • 言論の自由が封殺される時、それはすなわち、民主主義が危機に瀕している時でもある。インターネットは、これまでの人類史上でもっとも自由なメディアであったし、その価値のほとんどは、誰もが、思いついたサービスを、何の断りもなく即実行できたことから生まれている。対象を絞り込んだコンテンツやソリューションこそがウェブの魅力であり、今後もこれを維持していくべきだ。

2000年7月9日

公開: 2000年7月9日 (原文:2000年7月9日)
著者: Jakob Nielsen
原文:WAP backlash

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