eコマースを滅ぼすのは低いユーザビリティ
eコマースサイトでのユーザの成功率はわずか56%。ほとんどのサイトは、文書としてまとめられたユーザビリティガイドラインの、わずか1/3にしか適合していない。よって、サイトのユーザビリティを向上させれば、売上とサイト生き残りの確率をかなり高めることができるだろう。
ユーザビリティが低いと、eコマースは滅びるのだろうか?答えはノーだ。まず第一に、数多くのサイトが閉鎖に追い込まれたり、劇的な規模の縮小を余儀なくされているものの、eコマースは滅んではいない。第二に、サイトが破綻しているのは、支出が収入を上回っているからで、ユーザビリティによる影響は二次的な要因に過ぎない。
買ってもらえなければ儲らない
ユーザビリティは収入にどれくらいの影響を与えているのだろう?最近の調査で、私たちは、eコマースサイトでのユーザのタスク試行を496件観察した。テスト対象は、合衆国をベースとする20サイト。大規模なサイトを中心に、いくつか小さめのサイトも混ぜてある。平均すると、ユーザの成功率は56%だった。
ユーザがそのサイトを使えないために、eコマースサイトは潜在売上額のほぼ半分を失っている。言い換えると、ユーザビリティが向上すれば、平均的なサイトは現在の売上を79%増加できるはずなのだ(潜在売上額の44%と、現在の成功率56%との比率から算出)。
収入が79%増加していれば、これまでに廃業したサイトの多くは生き残れていただろう。
国外でのユーザビリティはさらに悪い。同じ20サイトのショッピングを北部ヨーロッパで調査した結果によれば、これらのユーザに国内ユーザと同レベルのユーザ体験を提供するだけで、海外売上を49%増加できるという見積もりが出た。
北米のデザインの有効性をアジア、ラテンアメリカ、南部ヨーロッパで調査すると、決まってさらに深刻なユーザビリティ問題が明らかになる。したがって、国際ユーザビリティに十分な力を入れることで、これらの地域での売上は、北部ヨーロッパの見込み額を上回る増加が期待できる。
eコマースサイトにはユーザビリティ改善の余地がかなりあり、よって売上増加の可能性も高い。私たちは、独自のユーザビリティ調査に基づいてeコマースユーザ体験のためのガイドライン207ヶ条を含むレポートを出版した。中規模のeコマースサイトをいくつか評価してみると、これらのサイトは、平均して207のユーザビリティガイドラインのうち37%にしか適合していないことがわかった。特にひどかったのは国際ユーザビリティで、ガイドラインへの適合率はわずか15%に過ぎなかった。
売上額ベストのサイトは、eコマースユーザビリティガイドラインへの適合率が高い。大手eコマースの10サイトで平均してみると、ガイドラインへの適合率は53%だった(ガイドライン110件に適合、97件に違反)。
ウェブの現実を直視せよ
ユーザビリティガイドラインへの適合率が高く、売上が好調なサイトですら、破綻することがありうる。すでにいくつか実例もある。10年先にならないとフル活用できないくらいのインフラ構築に資金をつぎ込んでいれば、キャッシュフローは苦しくなって当然だ。
1997年に、私は専門特化したサイトがウェブの価値の大部分を生み出すと予想した。この時の仮定は、少し楽観的に過ぎたようだ。ウェブ広告からの収入をページビューあたり1セント、ウェブ経済全体の価値は今ごろ1.3兆ドルに達しているだろうと想定していたのである。ふたを開けてみれば、オンライン広告の価値低下は想像以上の速さで進行し、マイクロペイメントにもとづいた新しいビジネスモデルも十分浸透したとはいえない。とはいうものの、私の基本的な分析は変わらない。より小規模で、ターゲットを絞ったサイトがウェブの基礎となるのだ。
1999年から2000年初期にかけて、eコマースの重役の多くは私の分析に納得しなかったし、「一刻も早くビッグになる」ために盛大に資金を使いまくっていた。彼らは間違っていた。
何をなすべきか
製品に問題がないとすれば、以下2つの基本原則に従うことでeコマースはうまく機能し、利益を上げられるだろう。すなわち、支出をコントロールし、ユーザビリティを向上させてユーザを逃さないことだ。
eコマースは、電子カタログを使った通信販売に過ぎない。通信販売で利益を上げられるものなら、eコマース企業でも生き残れるだろう。それどころか、eコマースの方がうまくいくことだってありうる。複雑なB2Bでの製品やサービスの販売では特に有効だ。
デザインさえ正しければ、eコマースウェブサイトはカタログよりも優れている。よいデザインとは、従来のカタログを上回るコンテンツ、写真を提供し、さらにマルチメディアデモ(必要に応じて)、定期的な更新、豊富な商品数、迅速な国外配送、使いやすいサイト検索(もちろん検索ガイドライン29ヶ条に従おう!)といった特徴をあわせ持ったものだ。
マイクロペイメントが標準化するまでは、ウェブサイトの収入は製品販売から上げるしかない。当然ながら、この種の販売をユーザにとって利用しやすいものにすることが、短期的な生き残りの上では最良の選択となる。
2001年8月19日