複数拠点ユーザのサポート

約半数のユーザは、複数の拠点からインターネットにアクセスしている。このことがサービスのデザインにおよぼす影響は少なくないはずだが、ユーザは1台のコンピュータにしがみついているという前提に立ったシステムは数多い。

かなり目立たない場所ではあるのだが、最近、商務省から発表されたレポートの一部に、興味深い掘り出し物のデータが掲載されている。このデータがインターネットの将来にもたらす意味は大きい。2001年9月時点で、合衆国のインターネットユーザの45%は、自宅とそれ以外の場所(通常は職場)の両方からネットにアクセスしている。これに対して、1998年の時点では、ひとつ以上の場所からネットにアクセスしていたユーザはわずか20%しかいなかった。

インターネットの利用形態は、たった3年で、圧倒的に単数拠点で行われる活動から全体のほぼ半数のユーザが複数拠点で行う活動へと変貌をとげた。このデータからすでに半年経っていることを考えると、現在までの間に、複数拠点ユーザが半数を超えていてもおかしくはない。

データの同期

職場と自宅のPCを同期させるために、この双方を小さな装置に同期させている人たちがいる。この装置をベルトにつけて、自宅と職場を行ったり来たりするわけだ。この装置のひとつは Palm Pilot と呼ばれている。だが、現代のテクノロジーからすれば、これですら石器時代も同然だ。

私の Blackberry PDA と、メインのワークステーションは、インターネットに常時接続している。だというのに、アドレス帳とカレンダーを同期させようと思ったら、Blackberry をクレードルに差し込む以外に方法がないというのはどういうことだろう?ネットワークが空いているときを見計らって、両機種の間で更新情報を送信するように、なぜできないのだろう?

複数コンピュータのためのユーザインターフェイスには、機器間の接続をシームレスで目に見えないものにすることが求められる。ユーザに明示的な行動を期待しても、ユーザがそれをすっかり忘れてしまうといった状況が必ず起こってくる。その結果、同期は不完全となり、ひいてはシステム全体の動作不全を引き起こすだろう。

ネットワークこそがユーザ体験であり、個々の構成要素は、すべてこの大きな全体像にうまく適合するようにデザインするべきだ。現在のところ、あるテクノロジー(ハードウェア、ソフトウェア、ウェブサイト、イントラネットサービスのいずれであろうと)が何らかの他の要素と連携をとる必要がある場合には、思いがけない事態が起こることが多い。

デザイン上考慮すべき点

複数拠点からインターネットにアクセスするユーザが目だって増加している。このことが、システムデザインに及ぼす影響として重要なのは、以下のような点である。

  • 個人の識別。コンピュータを識別しても仕方ない。パーソナライゼーションとログインの単純化という点からみて、Cookie は長期的なソリューションとはいえない。
  • 複数のコンピュータ、デバイス間での設定とカスタマイズの保全
  • 自動的なデータの同期。もしくは、最低でも同期のための機能を備えておくこと。
  • ユーザがあるアクセスポイントから別へ移った場合の、シームレスなタスクの引継ぎ。やりとりの途中で中断できるようにし、しかも一からやり直す必要なく違うコンピュータから継続できるようにしておくべきだ。
  • スケーラブルな UI を提供すること。インターフェイス要素の中には、デスクトップPCのようなフル機能のデバイスでのみ用いるべきものがある。だが、限られた UI しかサポートしないモバイルシステムやその他の低機能デバイスでも、ユーザ体験としては明らかに同じものになっていなくてはならない。
  • ファイアウォール幻想からの脱却。ラップトップや自宅のコンピュータから機密性の高いファイルにアクセスする必要がある人は、そのファイルをローカルのハードディスクに移動している。CIA の高官でさえやっているのだ。あなたの会社の普通のビジネスプロフェッショナルが、こういったセキュリティ違反をやっていても不思議はない。そうしないと、仕事にならないからだ。権限のあるユーザ(網膜スキャンで個人認証してもよい)がモニターで閲覧する時以外は、あらゆる情報が常時暗号化されるようなセキュリティモデルに移行しなければならない。

ユーザ増加 = ユーザビリティニーズの増大

もうひとつ、この商務省レポートから興味あるデータを紹介しよう。2001年9月現在で、合衆国人口の54%がインターネットを利用している。3年前の33%からは、劇的な増加である。

ついに、合衆国住民の半数がオンラインになった。他の先進国でも同様の統計が出ている。もちろん、全員がオンラインになるまでには、まだまだ時間がかかるだろう。発展途上国の低い成長率が、引き続き問題となる。

基本的には、今やエリート層全員がオンラインになった。新しモノ好きの人、テクノロジーおたく、高学歴の人は、ほぼ全員がインターネットを使っている。この先10年は、残り半分の人々にとってインターネットを使いやすいものにしていくことが、ユーザビリティに課せられた課題となるだろう。高校をドロップアウトした人に簡単だと思ってもらえるものを作ることに比べれば、大卒の人にとって簡単なものを作ることなど、実にたやすい。だが、それこそが、今後の課題でもあり、チャンスでもあるのだ。

2002年5月26日