企業ユーザビリティの成熟:
第5期から第8期

管理されたユーザビリティを確立した組織でも、ユーザビリティの悟りの境地まで行き着くには、長い道のりが待っている。これら成熟度の高いレベルを突き進むには、何年もの努力が必要になる。

本当の意味でのユーザ主導型組織になるために、企業はほとんどの場合同じような一連の段階を踏んでいき、徐々にユーザビリティへの貢献の度合いを増していく。先週の記事では、ユーザビリティに対して批判的な段階から、ユーザビリティ予算枠を確保するまでに至る、この長旅の初期段階について説明した。

第5期: 管理されたユーザビリティ

この段階に来てようやく、ユーザビリティが企業の中で確立できたといえるようになる。第4期では、ユーザビリティのための予算が、組織の中のあちらこちらに分散して使われている。しかし、その予算は前触れもなく取り消され、従業員たちは拘わっているプロジェクトの中で、ユーザビリティ以外の仕事に回されてしまうようなことも起きる。

第5期では、ユーザビリティ管理者によって率いられた正式なユーザビリティ部門が結成され、その管理者がその企業のユーザビリティを掌握しているという特徴がある。一般的にこの部門は、初めのうちは少人数で結成されるが、その数はだんだんと増し、その企業が頻繁にユーザテストを行うようになってくると、専用のラボ室を持つようになる。

第5期で使われるユーザビリティの方法論は第4期のまま変わらず、開発サイクルの中で遅い時期に行われることの多い、ユーザテストに重点がおかれる。ここでの大きな違いは、ユーザビリティ部門のメンバーがお互いから学び合い、手法を洗練していくため、調査の質が安定して、よくなっていくということだ。

ユーザビリティ部門はまた、ユーザビリティ・レポートのアーカイブを構築し、過去の調査結果で判ったことを蓄積しておける。そうすることによって、その企業のユーザたちへの理解を深めることができ、その会社独自のデザイン・ガイドラインを最適化することができる。こういったクロス・スタディーによって得られた洞察は、やがて第6期の特徴となる、システマチックなユーザビリティ手法の確立へとつながっていく。

第5期にははじめて、全デザイン・プロジェクトと組織全体のユーザビリティを管理する、ユーザビリティ管理者がいる。ユーザビリティ管理者が個々の誤ったデザインを修正しているならば、彼らにとって最も重要な仕事を失敗している。彼らにとって最も重要なのは、組織の成長を促進し、ユーザビリティに携わっている従業員たちを束ねて、もっと戦略的に動かすことだ。

ユーザビリティを推し進める方法は、第6期に移るところで変わる。この時点でユーザビリティ管理者は、プロジェクトの終了間際にテストを行うだけでなく、もっとシステマチックなユーザビリティ手法を取り入れることが、どれだけビジネス上大きな価値になるのかを、重役たちが体感できる機会を作る必要がある。

問題は、第5期でのユーザビリティに使える予算は、推奨されているユーザビリティ手法を全てのプロジェクトで行うには、少なすぎるということだ。ユーザビリティ管理者は、特に見込みのあるプロジェクトを拾い出し、ユーザ志向型のデザインで目を見張るような成功を収める必要がある。その他のプロジェクトでは、第5期の特徴である、もっと断片的なユーザビリティ手法で、どうにか切り抜けなければいけない。

第6期: システマチックなユーザビリティ手法

第6期に入れば、ユーザビリティは、もはやユーザインターフェイスに最後の仕上げとしてちりばめられるだけの、魔法の薬ではなくなっている。企業は、ユーザ志向型デザインを行うためには、いくつもの調査と、段階的な開発期間で構成された、形の定まった手順が必要であることに気付いている。重要なプロジェクトでは、初期段階でのユーザ調査を行うまでは、いかなるデザイン作業にも着手しない。一般的には、ユーザインターフェイスのデザイン標準か、または中央管理されたデザインパターンを企業内で構築している。

さらに第6期では、全プロジェクトの全段階に渡って、ユーザ体験の品質を記録するための方法を編み出していることが多い。上層部は、他のビジネス指標と同じように、そうして採取された品質指標をモニターし、デザインが酷いプロジェクトは、公開される前に修正されるようになる。

この段階で最善のインターフェイス品質を 1 回の手直しでは実現不可能だということを企業は自覚し、繰り返し手直しする方法をとることが多い。初期のペーパープロトタイプから最終的な実装までの間、各段階でテストを行い、何度もデザインを手直しして洗練させていくほうが、よい結果が生まれるのだ。

未だに大判振る舞いとはいえないものの、第6期のユーザビリティ予算は、重要なプロジェクトで幅広いユーザ調査を行うのには十分なリソースを割り当てることか可能なくらいにはなっている。各プロジェクトが、そのユーザ体験のビジネス価値の違いによって、優先順位を決定されるというのも、第6期に入ったことを示している。ユーザビリティのリソースをあまり割り当てられていないプロジェクトでも、公開の承認を得られる前に、何かしらの形でユーザビリティが評価されるようになる。

第6期からさらに進むためには、全管理職、全プロジェクトメンバーたちに、ユーザビリティが彼らの仕事の一部であり、ユーザ調査の結果は仕事を効率化し、満足な仕事をできるようにするものだと、納得させなければいけない。ユーザビリティの予算を増やしてもらうために上司を説得したのに変わって、相手が個人個人になっただけで、あたかも第2期に戻ったような感じだ。

第7期: 統合されたユーザ志向デザイン

第6期で企業は、フィールド調査を使い始める。第7期になると、この初期段階のユーザ調査方法がもっと目立つようになってくる。第7期では、プロジェクトの目的や必要条件を設定する段階も含めて、全開発工程がユーザデータの影響を受けながら進められる。

ユーザ体験の品質を単に査定するだけのことが第6期では一般的だが、第7期では定量調査によって実際の数値を測定することも多くなる。さらに各プロジェクトには、そのデザインがリリースされる前に満たさなければいけない、ユーザビリティの目標が設定されるようになる。

第6期以前でユーザビリティは、製造物の使い勝手を保証するための、品質改良手段でしかなかった。第7期になると、どんなものを作るべきかを定義する手段として、ユーザビリティのデータが使われるようになる。

インタラクション・デザインだけでいえば、ユーザビリティの悟りの境地ともいえる第7期から先に進むのは、難しいことだ。第8期では、ユーザビリティがデザインの枠を超える。この壁を越えるには、またもや相手を重役たちに絞り込んで、ユーザビリティを伝道する必要がある。

第8期: ユーザ主導型企業

第8期になると、ユーザのデータは各プロジェクトを定義するだけではなく、その企業が投資するべきプロジェクトを決める決定材料となる。つまり企業は、全体的な方向性と優先順位を決めるために、ユーザ調査を行うようになるのだ。また、全般的なユーザ体験の定義が画面内で行われるものにとどまらず、企業の他の接客にも及ぶことになる(たとえばホテルの応接室やロビーのデザイン方法など)。

第7期と第8期の違いは、度合いにある。用いられる方法論にはあまり違いがないが、この究極の成熟レベルでは、得られた結果が企業の戦略や活動に影響するようになり、インターフェイス・デザインの枠を超えたものになる。

数え切れないほどのマーケティング指南書が、顧客からのインプットを企業判断で反映するよう唱えているが、実際に観察された行動のデータをこの目的で使っている企業は希だ。ほとんどの企業は、アンケートなどの方法で顧客たちの意見を探ろうとするが、顧客たちの実際行動に比べて効果は薄い。顧客の実際行動を調査するには、ユーザビリティの方法論が必要になる。

一歩ずつ前進

下に示すのは、私が多くの国の数え切れない企業と拘わった経験から見積もった、企業が一般的に各ユーザビリティの成長段階を進むのにかかる時間だ。(第1期から第4期までの定義については、先週の記事を参照。)

  • 第1期:企業は、何十年もユーザビリティに批判的なままでいられる。デザイン上の悲劇が起こらないと、先に進もうという意欲は起きない。
  • 第2期から第4期:企業は多くの場合、これらの段階で各 2 年から 3 年費やす。第2期(ユーザビリティは意識されているものの、デザインチーム自身の意見に頼っている状態)から第5期(ユーザビリティ管理者がいるユーザビリティ部門の設立)までは、7 年間くらいかかるのが一般的。
  • 第5期から第7期:高い成熟度での成長速度は、かなり遅くなる。第5期と第6期で各 6 年から 7 年過ごすことが多いので、第5期から第7期に入るまでには 13 年くらい必要だ。
  • 第8期:この成熟段階まで上り詰めた企業が少なすぎるため、第7期から第8期まで何年かかるか見積もるのは、現段階では早すぎる。たぶんほとんどの場合、20 年間くらいかかるのではないかと思う。

まとめると、第2期(極めて未熟なユーザビリティ)から第7期(成熟したユーザビリティ)まで 20 年かかる。そこからさらに最後の段階に至るには、もう 20 年必要とするのではないかと思われる。

もちろん正確な年月は、組織によって違う。変わらないのは、8 つの段階を、順番に通過しなければいけないということだ。新企業は、その設立者の過去のユーザビリティ経験値によって、第3期や第4期くらいからはじめることができる。中には最初の 10 人の社員の中に、ユーザビリティ専門家を含める場合もある。それでも高い成熟度は、他の企業と同様に順番に進んでいく必要がある。

貴方の会社が低い成長段階にあったとして、ユーザ主導型のデザインプロセスで提唱される全てのことを成し遂げるよう号令をかけて、無理矢理高い成長段階に引っ張り上げてしまうのは、誘惑的だ。しかしそれをしてしまうと、悲劇に見舞われる。組織の中で一度にいくつもの変更を行うと、拒否反応が出る。人々は高い成熟度のコンセプトや条件に、初期段階で時間をかけて徐々に慣れていかなければ、その変化に対応しきれなくなってしまうのだ。

深海潜水がよいメタファーだ。深いところから一気に水面に出てしまうと、減圧症になってしまう。

もちろん、たとえば今第3期にいて、次は第4期に進むべきだと知りながら、もっと魅力的な第5期や第6期があることを知ってしまうと、欲求不満になるだろう。しかしながらほとんどの場合、一歩ずつ段階を踏んでいくほうが成功する。

成長を早めたいのであれば、一歩を大きくするのではなく、各段階をもっと速く進んでいこう。組織の考え方を効率よく変えていく方法が判れば、新たな段階に入った時点で、次の段階に進むことを計画しはじめられる。

公開:2006年5月1日(原文:2006年5月1日)
著者:Jakob Nielsen
原文:Corporate Usability Maturity: Stages 5–8

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