最も重要なユーザビリティ活動

実施する価値が最もあるのはフィールドスタディだろうか、それともユーザーテストだろうか。それは企業のユーザビリティ成熟度に左右されるが、できることが1つだけなら、ユーザーテストが確実である。

次のようなシナリオについて考えてみてほしい。あなたは(まだ始まっていないが)もうすぐ始まるデザインプロジェクトのプロジェクトマネージャーにアドバイスを与えているところである。ところが、ユーザビリティ活動1回分の時間と予算しかないと言われた。では、その活動は何であるべきだろうか。そして、この1回の活動はそのプロジェクトプランのどの時点に入れるべきか。

私の回答を読む前に少し時間を取って答えを考えてみよう。この自由ではあるが、じれったい状況であなたはどうするだろうか。世の中にあるユーザビリティ手法はどれでも選択可能だ。しかし、できることは1つだけである。

(ここでの目的を踏まえ、複数の段階からなる長期間の反復調査を「1つのこと」とするごまかしはだめである。本当に聞きたいのは、ユーザビリティの明確な1ステップのことだからである)。

ではここから推奨する答えを2つ紹介し、両者の間でのトレードオフについて議論したいと思う。

選択肢1: デザイン開始前のフィールドスタディ

ユーザビリティの専門家が常にこぼしているのは、呼ばれるのが遅すぎて、たいしたことができないということだが、それはその通りだ。つまり、機能群が決定されてしまっていると、一般にはUIを整理することを目的とした付加価値の低い手法を使うしかないからである。

しかし、私のシナリオではプロジェクト開始前にユーザビリティに関するアドバイスが求められている。したがって、はじめにユーザー調査を実際に行って、その結果を最初にデザインすべきものを決めるために利用することが可能である。

そのため、ユーザーのオフィスや家、工場の現場、病院、その他どこでもプロジェクトがサポートしようとしている活動をしている場所に行くことができる。そして、諺でいうところの、壁にとまっているハエのように振る舞おう。つまり、実際の生活で人々が何をしているかを観察しよう

フィールドスタディ中はこの手法についての以下の重要な教訓を頭に置いておこう:

いつも言うように、ユーザーはデザイナーではない。したがって、彼らの要求は話半分に聞いたほうがよい。その代わり、ユーザーのパフォーマンスを桁違いに向上させる、決定的機能が生じる機会を待とう。この新しい機能が必要かどうかはユーザーにはわからない。しかし、ユーザーが次善の策に時間を浪費していたり、あるいは望ましいタスクを達成しようとすることすら簡単にあきらめようするのを見れば、そのデザインが優れているかどうかの目星をつけることは可能だ。

選択肢2: 忠実度の低いプロトタイプによる初期段階でのユーザーテスト

もう1つの方法では、初期デザインができるまで待って、シンプルなペーパープロトタイプを作り、それを少数のユーザーでテストすることが可能である。その後には、テストで明らかになったユーザビリティ上の無数の問題を修正することもできる。

こうした初期の段階なら、ユーザーインタフェースのアーキテクチャに大きな変更を行い、要素をいろいろと動かして、機能のデザイン変更をすること、そして、役に立たないことが明らかになった、あるいは紛らわしい機能を削除することすらまだ可能である。テストをするのはコーディングの前なので、システムの新しい機能をいくつか導入することも可能かもしれない。

表面的なUIだけでなく、機能性のデザイン変更を行えることがペーパープロトタイプを利用する最大の理由の1つである

そして、もう1つの理由は、システムがすべて実装された後の変更のほうが、そのシステムがただの図であるときにそのデザインプロセスのもっと前で同じ変更を行うより、100倍以上費用がかかることだ。費用をかけずに変更できるなら、デザイン変更に対するあなたのアドバイスを経営陣が受け入れる確率も実際、ずっと高くなるだろう。

すべてが終わるまで待ってから、「そのデザインの有効性を実証する」ためにユーザビリティ調査を行うと、費用がかかりすぎるため、大きな変更ができなくなる。その結果、アイコンを認識しやすくするといった、小さな修正で済ませてしまうことになるだろう。

ユーザーテストでわかるのはユーザーがどのように考えて、どう振る舞うかであるため、チームはその製品の完成に向かいながら、調査結果を役立てることができる。理想的には、このさらに改善されたデザインを対象にしたユーザーテストを追加し、さらに多くの調査結果を得るのが一番だ。しかし、この練習問題のルールを守り、テストの回数は1回ということにしておこうと思う。

リスクマネージメントが手法を決める

2つの選択肢のどちらが仮想プロジェクトのユーザーエクスペリエンスを改善するための1回きりの活動にふさわしいか。各選択肢から期待できるメリットを検討することから話を始めよう:

どちらを選ぶべきかは明らかなように見える。なんだかんだ言っても、1000%の見返りというのは、38%の見返りよりもずっと大きな利益を生むからである。したがって、フィールドスタディのほうがシンプルなプロトタイプのテストより若干費用がかかろうとも、選ぶべきは選択肢1のように思われる。

しかし、早合点してはいけない。上記の箇条書きをもっとじっくり読んで欲しい。というのも、フィールドリサーチにあるのは大きな利益をもたらす抜本的革新の発見の可能性だけだからである。つまりこの選択肢はリスクがずっと大きいのである。

フィールドスタディは1回きりのユーザーテストより有益であることが多いとは私も思う。しかし、それはユーザビリティ上の大きな問題がない高品質のユーザーインタフェースをデザインチームが提供できると信じられるときのみの話である。

企業のほとんどはユーザビリティについて実際にはあまり知らないし、デザインチームはユーザーを困惑させたり、そのサイトから追い払ってしまうUXの不具合をいくつも持つデザインを日常的にしているものである。

最終的なユーザーインタフェースの出来が酷く、そのせいでそこにある機能が事実上利用できないというなら、フィールドスタディによって素晴らしい機能を開発するヒントをチームが得られるかどうかは関係なくなってくる。ターゲットユーザーが使うことができないものは存在していないのと同じだからである。

これこそが、一度のユーザーテストを最も確実なアプローチとして推奨することに最終的に賛成する理由だ。ユーザーテストをすれば、ユーザーが実際に必ず使う製品が確実に手に入る。テスト抜きでもうまくいく可能性はある。しかし、役に立たないものを出荷する確率はより高くなるだろう

ところで、プロジェクトの組織のユーザビリティの成熟度が高いことがわかっているなら、私は自分のアドバイスを覆して、フィールドスタディを支持するだろう。こうした理想的なケースでは、チームは過去のプロジェクトで既に集中的にユーザー調査を行っており、ユーザビリティについての教訓を自分たちのものにしている。また、その企業には策定されたきちんとした裏付けのあるUI基準やデザインパターンがあることになる。

現実の世界ではユーザーテストなしに確実にデザインを出荷できるほど進化した企業はほとんどない。したがって、できることが1つだけなら、90%以上のチームはフィールドスタディではなく(面白味には欠けても)より確実な選択肢であるユーザーテストを行うほうがいいだろう。

組織の成熟度を判断するための手がかりが最後にもう1つある。それは我々ができるユーザビリティ活動が1つだけだったということだ。本気でユーザビリティを信じている企業は、プロジェクト全般に渡って、ユーザビリティ活動を一連の連続するものとして計画するのが一般的で、プロジェクトには反復デザインとそれ以外のユーザー中心のデザイン手法の両方が組み入れられているものである。違うタイプのユーザー調査で互いを補完でき、1つのことを繰り返し行うよりも大きな価値が作り出せるからである。

もちろん、顧客を非常に重視した企業にもユーザビリティによるインプットなしにすばやくデザインしなければならない場合もあるだろう。しかし、時間的にユーザビリティ活動を1回しかできないというのは、たいていの場合、ユーザビリティがあまり成熟してないことを示し、その企業がユーザーテストによってデザインを整理することなしにはユーザブルなデザインを提供できるとは思えないということを意味している。

公開:2012年7月31日(原文:2012年7月16日)
著者:Jakob Nielsen
原文:The Most Important Usability Activity

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