中間世代のユーザに見られる、Webでのパフォーマンス低下
25歳から60歳までのユーザ層では、ウェブサイトの利用能力が1歳年を取るごとに0.8%低下している。それは主に1ページ当たりの利用時間が増えるのが原因だが、年取るにつれてナビゲーションが難しくなるせいでもある。
われわれは過去の幅広い調査に基づいて、児童、ティーンエイジャー、シニア層のそれぞれに特化したウェブユーザビリティガイドラインを作成してきた。これら世代別のユーザ層にはそれぞれ特徴があり、デザイナーがサイトのターゲットとする世代に訴求するにはその特徴を理解しておかねばならない。
しかし、その狭間に属するのはどんな人々なのか? その中間世代には、ちゃんとした呼び名さえ付いていない —— 私は普段、25歳から60歳までの“主流ユーザ”という呼び方で済ませている。だがこのユーザ層は、いくつもの理由からとりわけ重要な世代と言える:
- この世代には、その上下の世代より多数のユーザが属している。アメリカ合衆国の場合、人口の49%が25歳から60歳までに含まれる(35%はその下、16%はその上の世代となる)。
- 主流ユーザはみなちゃんと仕事を持っている。したがってもっとも裕福で、オンラインで支払う金額も一番多い。
- ほぼすべてのB2Bサイトが、この世代をターゲットとしている。“主流”の定義を65歳まで広げると、それが一段と確実になる。それより上の世代は、われわれのユーザビリティ調査では公式に“シニア”と呼ぶ。
- 事実上、イントラネットユーザはほぼすべてこの世代に属する。やはり上限を65歳まで上げれば、それが一段と確実になる。
私はちょうど、「Fundamental Guidelines for Web Usability」セミナーのコース内容を改定するために先月実施した調査で得た定量的データの分析を終えたところだ。ユーザのアテンションを定量的に示す注目すべき数値の他に、検索やスクロールといったウェブでの重要な操作について、予想を上回る目新しい統計結果が得られた。これらはすべて、まもなく開催するユーザビリティカンファレンスで発表する予定だ。
また今回の調査では、その発表内容にうまく絡めることができなかった中間世代のユーザについても知見を得ることができた。カンファレンスのプログラムを組むに当たっては、“使えるニュース”を参加者に提供することにひたすら専念したので、ウェブサイトのビジネス価値を最大化するためにもっとも重要なデータだけを取り上げている。以下の世代別のデータは、そこまで重要なものではないことが後々分かるだろう。興味深いデータではあるが、ROIを高める要因ではない。幸い、サイバースペースという場所はオフラインのイベントより制約が少ないので、カンファレンスで割愛せざるを得なかった純粋に面白い(が、金にはならない)スライドをネタに、このようなコラムを書けるわけだ。早速、そのデータをお見せしよう:
世代別のユーザパフォーマンスデータ
25歳から60歳の世代では、ウェブサイトでタスクを完了するための所要時間が1歳ごとに0.8%増える。
別の言い方をすれば、同じタスクを完了するのに、40歳のユーザでは30歳のユーザより8%多くの時間がかかる。50歳のユーザは、それよりさらに8%多くの時間を要するのだ。(数学に強い読者なら、この時間は指数関数的ではなく直線的に増加していると分かるだろう。)
61名のユーザを調査したことを考えれば、この結果は5%のレベルで統計的に有意だと言える。
これはすなわち、40代から50代の人々は、やるべきことも満足にできないということなのか? そんなはずはない。年を取るにつれて上達することは、他にいくらでもある。
25歳から60歳までのユーザ層で見られる年齢別の差異などは、個人差の激しさに比べれば取るに足らないものだ。ウェブサイトやイントラネットの使い方は、ユーザごとに千差万別である。
ウェブサイトでタスクを実行するための所要時間について、私は5-5-5ルールという法則を見出した。過去の幅広い調査を通じて得られたデータが、以下の事実を示している。
- 操作時間の少ない順に見て、下位5%のユーザは
- 上位5%のユーザに比べて
- 約5倍の時間を要する
つまり、もっとも操作の遅いユーザは、一番速いユーザより400%も多くの時間を要するのだ。1歳年取るごとに生じる0.8%の増分は、相対的にごく些細な違いとなる。
したがって、50歳の素早いユーザは、30歳ののろまなユーザを日々打ち負かしているのだ —— しかも数百パーセントの大差を付けて。
ウェブでのパフォーマンスが年齢と共に下がる理由
タスクの実行時間が年齢と共に0.8%ずつ増えていくのは、2つの要因による。ユーザは1歳年を取るごとに:
- 1ページ当たり0.5%多くの時間をかけるようになり、
- タスク1件当たり0.3%多くのページにアクセスするようになる。
言い換えれば、ページの中身を理解したり、テキストに目を通したり、情報を取り出すのに、年を取るほど時間がかかることが最大の要因なのだ。それより影響は小さい —— が、やはり重大な —— 問題として、年を取るほどウェブサイトのナビゲーションでつまづくことが増えるという点も挙げられる。
25歳から60歳の主流ユーザ層でさえ、年齢が上がるほどウェブサイトの利用に時間がかかるのは当然だと感じるだろう。人間の加齢プロセスは25歳ごろから始まり、認知能力が衰えたり、視覚が鈍くなったり、反応時間が遅くなったり、細かい作業が苦手になったりしていく。ものを考えるのにも一段と時間がかかる。記憶容量は減っていくし、五感で知覚した情報を処理するのにより多くの時間を要する。
人間の行動に関わるこれらすべての要素が、ウェブサイトでユーザが目的を達成するスピードに影響するのだ。
また、ここには共変数(covariant)が一つある: すなわち、ユーザがウェブを使い始めた年齢だ。ウェブが登場したのは比較的最近のことなので、現時点では50歳のユーザは40歳ごろから、30歳のユーザは20歳ごろから使い始めたことになるだろう。これが2050年ごろになると、50歳のユーザは5歳からウェブを使い始め、結果的に45年に渡る経験を積んでいることになる。一方、2050年に30歳になるユーザは、25年分の経験しかない。このように上の世代ほど経験豊富となる時代が来れば、年取ったユーザが遅れを取ることはなくなり、0.8%のギャップは狭まっていくはずだ。もちろん正確な予測は無理だが、加齢によるペナルティは1歳ごとに0.5%程度まで減ると考えられる。ただし、これは今後10年間のウェブ戦略を考える上で大した問題にはならない: これからも当分は、現状の0.8%というレベルに留まり続けるだろう。
主流ユーザの加齢 対 シニアユーザ
このように、現状では25歳から60歳の間で1歳年を取るごとに、ウェブサイトの利用スピードが0.8%ずつ遅れる計算となる。
この数値は、ウェブサイトを利用する際にシニアユーザが主流ユーザより74%も多くの時間を要するという調査結果と、どう折り合いが付くのだろうか? 代表的な例で言えば75歳のシニアユーザは35歳の主流ユーザより40歳年上なので、1歳ごとに0.8%の差が付くとしても、シニア層での遅れは32%にしかならない。
ここでの差を説明できる材料となるのは、加齢は若いうちから始まるものの、60歳ごろから、特に70歳を過ぎるとかなり進行が早まるという事実である。認知力や知覚、運動能力の変化を示すグラフは、ホッケースティック状の急カーブを描いて落ち込む。
それゆえにわれわれは、ウェブサイトをシニアユーザにも使えるようにするための特別なユーザビリティガイドラインを用意しているのだ。65歳を過ぎる頃になると、ユーザニーズがあまりにも多様化するので、それらに応えるための明確な手順が必要なのである。
このように、1歳当たり0.8%という遅れは、25歳から60歳の主流ユーザ層でしか見られないものだ。それより上の世代では、パフォーマンスの低下はさらに激しくなる。
所得とウェブでのパフォーマンス
25歳から60歳の主流ユーザ層では、年齢と所得の間に正の相関関係がはっきりと見て取れる: 年輩の従業員は、若手より給料が高い傾向があるからだ。私は年齢と所得のそれぞれによる効果を区別してから、タスク実行時間が1歳ごとに0.8%増えるという数値を出した。したがって、これは所得の効果を排した、年齢だけに関わる数値だ。
逆に年齢による効果の方を除くと、所得による効果は今回調査した61名のユーザのパフォーマンスについてぎりぎり有意となる数値(p=.09)を示した。
年齢の効果を除いた場合、所得が10,000ドル増えるごとに、ウェブサイトを利用するための所要時間は2.2%少なくなっているのだ。
ここでその因果関係をよく考えてみなければならない: 所得が多いからウェブサイトを上手に利用できるわけではない。実は、そのまったく逆に考えれば説明が付く: ウェブサイトの使い方がうまいから、所得が増えるのである。もっと包み隠さず言えば、認知能力が優れている人間ほどウェブサイトをてきぱきと利用できるし、脳みそが大きい人間ほど収入も多くなるというわけだ。
(ラボの外に出れば、ユーザがただ裕福だというだけで高いパフォーマンスを見せる傾向があるかもしれない: より大きなモニタを買える余裕があるほど、スクロール要らずでより多くの情報を見られるので、ウェブサイトの利用効率が上がるのは間違いないからだ。ただしわれわれの調査では、テストユーザが利用するパソコンの種類や画面サイズ、インターネット接続の速度は全員同じなので、裕福なユーザほど条件が有利なわけではない。したがって、それらの条件は調査結果と無関係となる。)
1歳当たり0.8%のパフォーマンス低下が意味するもの
今回の調査によるこれらの新たな発見は、ウェブサイトのデザインを実践する上でどれほどの影響を及ぼすのか? まあ大したものではない。シニアユーザと青少年ユーザについてはそれぞれ専用のガイドラインを用意すべきだが、50歳と30歳の顧客に別々のユーザビリティガイドラインを用意する必要はない。
(確かに、50歳と30歳のユーザでは関心のあるコンテンツが違うことが多い —— たとえば音楽の好みには世代による違いがあるだろう —— が、好みのコンテンツにアクセスするための操作方法まで別々にしなくてもよいのだ。)
ウェブの現状を考えると、ユーザビリティの面で特別な措置を講じる理由とするには、わずか数パーセントの違いではまるで足りない。それだったら、みなさんのウェブサイト(またはイントラネット)のビジネス価値を倍増させるくらいの課題の方に注力すべきだ。
一般的に5回程度のテストセッションを実施すれば、そこまで重大なデザイン上の課題はほぼ洗い出せるので、5名のユーザによるテストをすれば十分だと言える。主流ユーザ層の中での年代差を見出すには61名のユーザをテストする必要があったことを考えると、このエッセイで論じてきた差異など、実際のデザインプロジェクトでは二次的な —— あるいは三次的な —— 問題にしかならないほど影響の小さいものだと分かる。
対策を講じられるアドバイスとして、最後に以下の2点を挙げておこう:
- ユーザテストを実施する際には、必ずターゲットとする年代層全体から偏りなくユーザを選ぶこと。
- どんな操作が“簡単”だと言えるのかについて、25歳のウェブデザイナーの意見を鵜呑みにしないこと —— 特に、ターゲットオーディエンスが50歳の管理職ユーザだというなら尚更だ。
2008 年 3 月 31 日