4つの悪しきデザイン

コンテンツが足りない、リンクが分かりにくい、ナビゲーションの出来が悪い、カテゴリーページが使えない…さて、ビジネスへの悪影響はどれがもっとも深刻か? この中では、コンテンツが不十分なあまりにもたらされる損害が一番である。

毎年、ユーザ調査や日々の生活の中で大量の悪しきデザインを目撃する。Don Normanと一緒に仕事をしているせいか、エレベータに乗ればボタンの不出来にイライラさせられる。20年前にDonが言ったとおりボタンをデザインしてくれないのはどうしてなのだろう?

ウェブデザイナーも同じで、私が13年前に言ったとおりには作ってくれない。悪しきデザインに遭遇しても何ら不思議はないのである。今日は、最近見かけた愚かなデザインをいくつかご紹介しよう。

コンテンツが足りない: Lincoln Center(リンカーンセンター)のジャズ公演

ニューヨークでユーザビリティカンファレンスを主催していたとき、スピーカーの皆さんをジャズコンサートにお連れしようと考えた。Lincoln Centerのジャズ公演情報を探していて辿り着いたのが次のページである。

Lincoln Centerで催されているジャズコンサートに関するページのスクリーンショット

手に入った情報は、演奏家たちの名前とトロンボーンのリード奏者の写真が一枚。たったそれだけだった。演奏家たちの経歴もなければ、どんなジャズを聞かせてくれるのかも記載がない。評論記事からの引用もリンクもなし。オーディオクリップもないので視聴はむろんできなかった。

公正を期して付け加えるが、例に挙げたウェブサイトjalc.orgで紹介している公演の中にはオーディオクリップを準備しているものもある。音楽関連のサイトがマルチメディアを活用しようと思ったら、まずミュージッククリップで視聴できるようにすることだ。言葉よりもずっと簡単に音楽を伝えられるのだから。Metropolitan Opera(メトロポリタンオペラ)のウェブサイトでクリップを聴けば、怪しげな雰囲気のタン・ドゥンのオペラ陽気なモーツァルトのクラシックとの違いを1分もかからずに理解できる。

しかし上に示したページでは、コンサートについての情報を何一つ知らないままにユーザが“make a reservation(予約する)”をクリックすることを期待してリンクが(大きな文字で)用意されているだけである。そのバンドをよく知っている人ならともかく、そうでない人がクリックすることは決してないだろう。

メールで友達に連絡したり、ハンドヘルドPCで見る人がプレーンテキスト表示に切り替えたりできるようにと洒落た機能が提供されているが、もう少し詳しいコンテンツを用意することの方がずっと有益だろう。

情報のニオイがしないリンク:New York Times (ニューヨークタイムズ)

nytimes.comのサイトでは、各記事の最後にリンクがある。

New York Times のウェブサイトに載っている記事の終わり部分のスクリーンショット

どれくらいの人が“Next Article in Business(ビジネスに関する次の記事)”というリンクをクリックするだろうか? リンクが“記事19”となっていた場合よりも少しは多いかもしれないが、大勢のクリックは期待できない。

記事の番号以外にまったく情報のないリンクを使っているウェブサイトもある。12年前に行ったSlate.comの評価では、そんなリンクを酷評したものだった。リンクには情報のニオイをすり込んで、クリックした後にどんな情報が待っているのかをユーザに教えてあげるべきである。リンクをしらみつぶしにクリックできるほど時間を持て余している人などいないのだから。

Times は数字でデザインを援護できるかもしれない。私の非難とは裏腹に、この分かりにくいリンクでも十分な数のクリックがあるのかもしれないからだ。数百万規模のユーザがいれば、どんなに愚かなデザインでも使ってくれる人が現れる。こうしたデザイン原理が、道行く人々の感覚に執拗な攻撃を仕掛けてくるTimes Square(タイムズスクエア)の雰囲気に似た詰め込みすぎのウェブサイトを生み出すことになるのだ。

要は、ページ上に用意された数々のデザインが余分なデザイン要素ひとつで台無しになるということだ。無関係のリンクを押しつけることで、意味のあるリンクまでをも無視するようにとユーザに教えてしまっているようなものなのである。

(更新情報:Times のサイトが改訂され、各記事の最後にあるリンクは“More Articles in Business ≫ (テクノロジーに関する他の記事はこちら)”のように記されるようになった。マシにはなったが、まだ完全ではないので私の批評はこのままにしたい。というのも、この悪しきデザインは1年以上採用されていたし、[一部]を修正しても尚、この間違ったリンクから学べることがあるからだ。)

奥の階層にスプラッシュページを利用:Christopher Norman Chocolates (クリストファーノーマンチョコレート)

Christopher Normanのチョコレートをほおばれば、それは美味しい体験になる。しかし、そのウェブサイトの味は酷い。メインのナビゲーションメニューからカテゴリーを一つ選択すると、そのカテゴリーの製品リストが表示されると思いきや、代わりにスプラッシュ画面が現れる。たとえば、“Geometrics & Fruits”をクリックしたときに表示されるのが次の画面である。

Christopher Norman Chocolates のカテゴリーページ(本当の意味でのカテゴリーページへ遷移する前のスプラッシュページと言った方が正確かもしれない)のスクリーンショット

普通のユーザなら、このカテゴリーの製品はここに表示されている2種類と考えるだろう。そして、梨の形のチョコレートかドミノボックスを欲しいと思わないユーザはあっさりページを後にする。このカテゴリーの商品一覧を見るには、ここからもう一度クリックして奥へ進まなければならないのだった。

トップページにスプラッシュを使うのも好ましくはないが、トップなら一度出くわすだけで済む。しかし、各カテゴリーページにスプラッシュを使ってしまうと、商品すべてを見るためにユーザは何度も余分なページを通過しなければならない。

メタファの混乱:Specialized Bicycles

自転車関連商品のベンダー specialized.comは、サスペンションシステムのカテゴリーページに博物館のメタファを使っている。

Specialized(自転車関連商品のベンダー)のウェブサイトにあるカテゴリーページのスクリーンショット

バイクのパーツで作った “鯨のスケルトン”は大いに気に入った。しかし、サスペンションの機構を詳しく見るために擬似3D環境を歩き回るのには大変骨が折れた。

3Dナビゲーションは大概使いものにならない。操作が難しい上に、2Dのインターフェイスほど選択肢を分かりやすく表示してくれない。時間も余分にかかりがちだ。

メタファがユーザインターフェイスの学習を容易にしてくれることがある。別の領域で得た知識をユーザが転用できるからだ。しかし今回の例では、自然史博物館の歩き方を知っていても、バイクのパーツを特定するのが容易になるわけではない。メタファを使ったウェブサイトはたいてい度を超してしまっていて、結局ユーザビリティの低いものになっている場合が多い。メタファの持つ魔力が、ユーザに伝えるべき本来の情報を曇らせ、デザインチームの意識を逸らしてしまうかのようである。

悪しきデザインがもたらす損害

これらの悪しきデザインがウェブサイトのオーナーにもたらす損害はどれほどだろうか?

New York Times の被害がおそらく一番少ない。ニオイのないリンクをほとんどのユーザがただ無視するだけだからだ。しかし同時に、機会損失を生んでいることも間違いない。新聞社は、同じ場所にその記事と関連性の高いコンテンツへのリンクを置くことが可能なのだから。ページの最後まで読んだ読者がその下にあるリンクをクリックする可能性は高い。その場所をうまく使えば、ページビューを2~5%上げられるだろう。

損害がもっとも大きいのは、情報の足りないジャズのページだと思う。製品ページのユーザテストから明らかに言えるのは、製品に関する質問にしっかり答えてくれるページでは、ユーザが買い物に進む確率が高いということだ。何の情報も提供していないに等しいLincoln Centerのページは、Wycliffe Gordonの熱狂的なファンにしかチケットを売れていないと推測される。

情報を追加すれば、Wycliffe Gordonのファン以外にも売れるはずだ。少なくとも5倍の売り上げは見込めるだろう。ユーザビリティの改善によるROI(投資対効果)を調査すると、1,000%を超える売り上げ増を確認することもある。意味のある情報を追加するだけで、このページは10倍株にもなり得るのだ。どれだけの売り上げ増になるかは、この奏者を崇拝する熱烈なファンとたまにはジャズでも楽しみたいと考える程度の人との比率によってくる。後者の割合が非常に高ければ、コンテンツの改善で売り上げを爆発的に伸ばすことができるだろう。

残りの二つのサイトにもたらされる損害は、以上2件の中間である。大きなサイトになれば、扱いにくいナビゲーションがサイトの失敗を決定的なものにすることもある。10,000を超える商品の中で探し物をしているユーザには、途中の不要なスプラッシュページや高慢なメタファは耐えられないに違いない。しかし、Christopher NormanやSpecializedのように商品数が僅かな場合、意欲的なユーザであれば悪しきナビゲーションを乗り越えて使ってくれるだろう。ページ数が少ないウェブサイトであれば、ユーザがすっかり迷子になってしまうようなことはほとんどないのである。

もちろん、強く動機付けされていないユーザは、ほんの少し迷っただけですぐにサイトを後にするだろう。サイトの規模に関係なく、悪しきデザインは会社に損害をもたらすのである。

2008 年 4 月 14 日