デザイン変更は抜本的にやるべきか、それとも、少しずつやるべきか

古いものを捨て、新しいものを取り入れる前に、そうすることがユーザーの目標達成のために必要だという確実な証拠があることを確かめよう。

ユーザーエクスペリエンスに関わる最大の問題は、メガメニューを利用するのか、あるいは他のタイプのナビゲーションメニューを利用するのかといったような個別のデザイン課題のことではない。求められているのは、もっと視野を広げて、UXに関して最優先すべき戦略をまず決めることである。すなわち、大改革を目指してすべてを一気に変えるのか、あるいは少しずつ品質を向上させるというやり方を取り、一歩ずつ進んでいくのか、である。

ユーザーエクスペリエンスというのは品質に関わる分野なので、デザインを徐々に変えていくことには良い面がたくさんある。QAについての広範な調査から、継続的な改善こそが高品質の製品を生み出すとされていることがわかっているからだ。その一方で、微調整を一回加えた結果よりも、すべてを一斉に改善することで品質をずっと高いレベルに押し上げることにも数多くの利点はあるだろう。

では、UXの戦略として、大きな改革を一回行うのか、それとも小さなステップを繰り返すのかはどのように選択するといいだろうか。

Webサイトの全面的な見直しには、しかるべき理由がいる

サイトのデザイン変更には途方もない量の調整とリソースが必要になることが多い。デザイン変更のプロジェクトでは、単にサイト全体のスキンのビジュアルだけを見直し、スタイルやレイアウト、処理だけを新しくする場合もある。だが、タクソノミーや情報アーキテクチャ、コンテンツ、ユーザビリティ上の課題に真剣に取り組んでいく場合もある。どちらにしても、デザイン変更のプロジェクトは必ずユーザーのデータをベースにし、明確な目標と成功度を測る尺度を設定するようにしよう。そして、こうした目標を達成するために、少しずつ変更を加えていこう。全面的なデザイン変更はデータからみてそうしたほうがいいことが明らかな場合にのみ、実施すればよい。

自分たちのサイトのコンバージョンレートを調べ、顧客によるフィードバックを入手して、課題が何で、プロジェクトの規模を大きくする正当な理由が存在しているかどうかを判断しよう。正しいデータを収集すれば、ユーザーが欲しいと思っていないデザインを提供してしまうとか、ROIで妥協するというリスクは減る。

あわてないようにしよう。さもないと退屈さから道を踏み外す。サイトのデザイン変更のプロジェクトに着手すると、企業は「隣の芝生は常に青い」症候群にかかってしまうことがある。すなわち、他の人(あるいは企業)のほうが自分たちより優れていると思ってしまうのである。こうした思い込みはまるで間違っている可能性もあるのだが。

組織からデザイン変更プロジェクトへの協力を求められた場合に、私が最初にする質問の1つが「なぜ?」、つまり、なぜデザイン変更をしたいのか、である。その返答でよくあるのが、「長年、アップデートしてなかったから」。あるいは「古く、稚拙に見えるから」だ。そして、言葉にはされないが、「自分がそのデザインに飽きているから」というのが理由であるデザイン変更プロジェクトは多いのである。

あなた方は自分たちの今のサイトに飽きているかもしれない。しかし、顧客もそうである可能性は低い。彼らは毎日長時間座って、そのサイトを見つめているわけではないからだ。たいていの会社は、顧客が月に一度でもサイトを訪問してくれればラッキーだろう。訪問がもっと頻繁な場合でも、ユーザーというのは安全で慣れ親しんだデザインを好む傾向にある。

古いものを捨て、新しいものを取り入れる前に、そうすることがユーザー中心型のデザインにするには必要だという確実な証拠があることを確かめよう。そして、問題の本質に踏み込めるソリューションについての議論をしよう。デザイナーは問題解決へのアプローチとして、今、流行しているものへの変更を提案し、華やかさに欠けるコンテンツストラクチャ、インタラクションデザインのような側面は無視しがちである。しかし、後者こそが問題の原因であることは多い。訪問者があなた方のサイトで過ごす時間は、あなた方が自分のデザインを凝視している時間には遠く及ばない。したがって、彼らには流行りのものに対するそれほど強い願望もない。顧客は極端にタスク指向なので、Webサイトがユーザブルであることのほうがきれいさよりもずっと大事なのである。

通常は、大規模な見直しではなく、少しずつ変更していこう

Webサイトの抜本的な変更はユーザーにとっては不快なものであり、ビジネスにとってもリスクとなる。組織全体と上位のステークホルダーから新しいサイトへの同意を得るには膨大なコストと労力が要るからだ。また、組織がデザイン変更プロジェクトを立ち上げ、野心的なタイムラインを設定しても、議論が果てしなく続いて、そうしたタイムラインが延々と引き伸ばされるだけになることは多い。スタートしては中断するということを繰り返すプロジェクトもあれば、完全に失敗に終わるプロジェクトもある。開発チームというのはスタート時は盛り上がっているものだが、すぐに悲惨な状態になっていくのである。

最も成功率の高いデザイン変更プロジェクトとは、明確で測定可能な目標が設定されているものである。サイト全体のデザイン変更に取り組む前に、解決したい問題と獲得したい結果を定義することが必要なのである。

最低限の調整で間に合うなら、根本的な変更はしてはならない。必要もないのに大規模な見直しをするWebサイトが多すぎる。デザイン変更を行う正当な理由がある場合でも、解決しなければならない課題の多くがデザイン変更をする内容とは分けられてしまって、限定的に少しずつ改善するしかなくなっているのが現実といえる。測定指標をチェックしよう。何を変更すべきかを推測で決めてはならない。データを利用して、問題の程度を判断し、その解決に必要な最小限の変更をほどこそう。根本的な変更をすると、ユーザーにとって非常に重要なものをうっかり破棄してしまいやすくなるからである。

自分の認知バイアスを自覚しよう。人の心とは客観性を失わせる方向に働くものだ。古いことわざも次のように言っている。「持っているものが金槌だけだと、あらゆるものが釘に見える」。ツールやテクノロジーが利用できるおかげで、Webサイト制作者の注意が真の課題から逸れ、選択すべき道を判断する目が曇っている可能性がある。たとえば、ビジュアルデザイナーは本能レベルでの判断によって、デザイン変更を正当化してしまうことがあるし、美観を重視したソリューションを選びがちではある。良いデザイナーとは、こうしたバイアスの存在を認識し、データを基準にして、正しいソリューションを選択していくものである。

ユーザーに新しいインタフェースに切り替えてもらうことのコストを考慮しよう。ユーザーは変化が好きではない。サイトを新しくすれば顧客を引きつけられるという意見に惑わされてはならない。認知的な努力を減らすため、人は過去の経験をベースにインタフェースにどうやってインタラクトするかを推測する。一旦、やり方を覚えると、ユーザーはそのシステムは今後も同じように機能すると期待するものなのである。

よく考えずに乱暴なデザイン変更をして、ユーザーエクスペリエンスを混乱させてはならない。顧客は変化に対してたじろくものだ。新しいデザインのほうが明らかに優れている場合でもそれは当てはまる。デザインの切り替えを決める前に、デザイン変更のユーザーへの影響を評価しよう。1日か2日かけて、あなた方の既存サイトのユーザビリティ調査をすることには非常に意義がある。

時には大規模な見直しをするのが良いこともある

広範囲にわたる変更はリスクを伴うので、一般には避けるべきである。しかしながら、まれにサイトの大規模な見直しをするのにふさわしい理由がある場合もある。課題が美観に関する範囲にはおさまらない場合、あるいは、明白な問題があり、一時しのぎのバンドエイド的な調整ではもう抑えられない場合、ときには、そうしたバンドエイドを引っぺがして、問題自体を解決するのがよい。以下のような理由がある場合には思い切ってデザイン変更をしてみよう:

  • 少しずつ変更していくことによる見返りが極めて小さい、あるいはない。たとえば、長年、少しずつ修正をするということに取り組んできたため、サイトを改良するためにできることがもうほとんどない。反復を何度も繰り返してきたので、自分でも収穫逓減のポイントがわかってしまっている。
  • テクノロジーがひどく時代遅れで、重要な変更をすることができない。バックエンドシステムがユーザーにとっての重要な行程に不可欠なインタラクションや機能をサポートできない。顧客がコンテンツにモバイルデバイスでうまくアクセスできなかったり、ソーシャル機能が不恰好だったりする。数年前まではうまく機能していたサードパーティ製のツールがあなた方の顧客のニーズの変化についていけなくなっている。
  • サイトのアーキテクチャが込み入っていてごちゃごちゃである。サイトがひどい混乱状態にあり、訪問者の期待通りに機能しない。企業のブランド戦略が以前と比べて大きく変わった。サイトのナビゲーションのストラクチャに徐々に変更を加えて、情報アーキテクチャの変化や戦略の転換に少しずつ対応させてはきたが、数年にわたってその場しのぎの対応をしてきた結果、まとまりのないサイトになってしまい、ユーザーが自分のニーズを達成できなくなってしまっている。
  • サイト全体にわたってコンバージョンレートが非常に低い。データ分析から、顧客の満足度を上げるための解決策を取ることを不可能にするような大量の課題があることが明らかである。離脱率と直帰率が極端に高く、ページビューが少ないことがコンバージョンの測定で示された。課題が膨大で、複雑に入り組んでいるので、いくら漸次的な修正をしても、許容レベルにまでコンバージョンが上がらない。
  • ベンチマーク調査から、あなた方のサイトがライバルにはるか及ばないことが明らかである。ライバルがサイトの変更をするたびに自分たちも変更したくはないとは思う。しかしながら、他サイトのほうがユーザーのニーズにうまく応えていっているということで、自分たちが顧客を失っていっていることが調査から示された場合にはそうせざるを得ないだろう。

結論

あなた方の選ぶ道(漸進的か大規模な見直しか)は、ユーザーのニーズとビジネスゴールが両立するものであるべきだ。コンバージョン調査(つまり、サイトのアクセス解析やユーザーテスト)の情報を活用して、課題を特定し、その解決方法を決定しよう。信頼できる数値のおかげで、常に正しい課題に集中することができるようになり、政治的議論をしないですむようになるのである。

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調査レポート(英文)