メンタルモデル

ユーザーがUIについて知っていると思っていることは、彼らがそれをどう利用するかに強い影響を及ぼす。メンタルモデルのずれというのはよくあることであり、特にデザインで何か新しいことをしようとするときには起こりがちである。

メンタルモデルはヒューマンコンピュータインタラクション (HCI) の最も重要なコンセプトの1つである。実際、我々もインタフェースデザインの原則での1日セミナーで、それがデザインとどう関連するか、かなりの時間をかけて扱うことにしている。

ここではユーザビリティ調査から得られた事例を何件か報告しようと思う。具体的な例を挙げることで、(「メンタルモデル」のような)抽象的なコンセプトの理解の助けになるのは偶然ではないからである。

そうはいっても、まずは少々の理屈について、我慢して読んでもらわなければならない。つまり、メンタルモデルの定義とは何か、ということだ。メンタルモデルというのは、目の前にあるシステムについてユーザーが信じているもののことである。

この定義を構成する2つの重要な要素に注目して欲しい:

  • メンタルモデルの基礎になっているのは信念であり、事実ではない。すなわち、それはあなた方のウェブサイトのようなシステムについて、ユーザーが知っている(あるいは、ユーザーが知っていると思っている)ことについてのモデルである。ユーザーの考えていることは、うまくいくと、現実に密接に結びついたものとなる。というのも、ユーザーは自分のメンタルモデル上でそのシステムについての予測を立て、そのモデルによって予測される適切なコースに基づいて、今後の行動の計画を立てるからである。したがって、デザイナーにとっての最も重要な目標は、ユーザーがある程度正確な(そしてその結果役に立つ)メンタルモデルをうまく構築できる程度に、ユーザーインタフェースによってシステムの基本的性質の情報を伝えることになる。
  • ユーザーは1人1人自分自身のメンタルモデルを持っている。メンタルモデルというのは各ユーザーの頭の中にあり、ユーザーが変われば同じユーザーインタフェースに対して、異なったメンタルモデルが構築されることもありうる。さらに、これはユーザビリティにおける大きなジレンマの1つであるが、一般的にいって、デザイナーとユーザーのメンタルモデルの間には隔たりがある。デザイナーには知識がありすぎるため、システム創造時に形成される彼らのメンタルモデルは素晴らしいものとなり、その結果、各々の機能を理解するのは簡単なように彼らには思えてしまう。ユーザーのUIについてのメンタルモデルはやや不十分であることが多く、そのために、間違いを犯したり、そのデザインを利用することはかなり難しいと思ってしまったりする傾向が強い。

最後になるが、メンタルモデルというのは流動的なものである。というのも、厳密にいうと、それは頭の中に組み込まれているものであり、外部メディアの中に固定されているものではないからだ。システムについての経験が追加されれば、そのモデルが変化しうるのは明らかだが、他のユーザーと話したり、他のシステムから学んだ教訓も生かす等、他所からの刺激に基づいて、ユーザーが自分のメンタルモデルをアップデートする可能性もある。

インターネットのユーザーエクスペリエンスについてのJakobの法則を思い出して欲しい。すなわち、ユーザーはほとんどの時間をあなたのところ以外のサイトで費やす。したがって、あなた方のサイトに関する顧客のメンタルモデルは、その大部分が他のサイトから集められた情報に影響されることになる。人々はウェブサイトというものはどれも同じように動くことを期待しているのである。

混乱したメンタルモデル

調査で見られるユーザビリティ上の問題は、システム内の異なるパーツを混同するという混乱したメンタルモデルをユーザーが持っているため、起きる場合が多い。

例えば、「Google」という単語は他の検索エンジンのトップクエリであることが多く、「Yahoo」と「Bing」はGoogle上でスコアが高い。なぜに人々は既に名前がわかっている場合に、ウェブサイトについて検索しようとするのか。なぜ、単に、例えば、www.bing.com とURL欄に打ち込まないのだろうか。

その理由はユーザーの多くが、スクリーン上の「入力ボックス」がどのように機能するのかについて、正確なモデルをまるで持ち合わせていないことにある。ボックスに何かを打ち込むと、時には彼らの行きたいところにたどりつけることもある。しかしながら、何をどこに打ち込むべきなのか、また、各々の入力ボックスが正確にはどのように機能するのかというのは、彼らの知識の範囲を超えていることが多いのである。

似たような入力ボックスを区別できないということが、機能として、複数の検索を置くのは避けようというガイドラインの主な理由である。ウェブサイトやイントラネットで同一ページ上に検索エンジンがいくつかあると、ユーザーにはその違いがわからないことが多い。彼らは目に止まったボックスのどれにでもクエリを入れようとし、何も結果が返ってこないと、そのサイトには答えがないのだなと思ってしまう。(実際には、彼らが利用していたのは、全てをカバーするわけではない専門分野に特化した検索だった可能性もある)。

このガイドラインの1つの例外は、イントラネット上では従業員名簿用の検索はできれば別にするほうがいいというものである。なぜならば、たいていのユーザーのメンタルモデルでは、同僚の連絡先を見つけるという作業は、「検索」と見なされていないからである。について調べているのであって、情報を検索しているのではないというわけだ。逆に、どんな開発者の頭の中でも、従業員名簿はもう一つのデータベースであり、電話番号はデータを構成する一部分であるというふうにイメージされている。先述したように、ユーザーとデザインチームのメンタルモデルは非常に異なっているため、現実世界で機能するものをデザインするには、ユーザーのほうのモデルを理解する必要がある。

ユーザーが混同するのは検索ボックスだけではない。コンピューターに詳しくない多くのユーザーは、いろいろな共通機能について、その差異を理解していない

  • オペレーティングシステムのウィンドウ vs. ブラウザのウィンドウ
  • ウィンドウ vs. アプリケーション
  • アイコン vs. アプリケーション
  • ブラウザのコマンド vs. ウェブアプリの固有コマンド
  • ローカル情報 vs. リモート情報
  • パスワードやログインオプションの違い(ユーザーは自分のEメールにログインするかのように、別のウェブサイトにログインしてしまうことがよくある)。

メンタルモデル慣性

Netflixは映画のレンタルDVD宅配サービスである。Netflixは一般的なEコマースサイトとは異なった機能を持っており、そのため、有名サイトのユーザビリティというプロジェクトで、新規ユーザーにテストしてもらったときには、以下のような問題が起きていた:

  • Netflixの「キュー」に映画を追加するとき、ユーザーはEコマースでのショッピングカートについてのメンタルモデルを利用して、その後、何が起きるかを予想した。つまり、何も起こらないと彼らは考えてしまったのだ。カートに物を入れても、そのアイテムが郵送されてくることは普通はない。まず、精算の画面に進み、その後、それが欲しいということを確認する必要があるからである。
  • しかしながら、実際にはNetflixはキューの一番上にあるDVDを即、郵送してくる。その後、そのDVDが郵便で帰ってくると、彼らはキューの中にある次の映画を送ってくる。あなたはサイトに行く必要もないし、何もしなくてもよい。そのために、通常のショッピングカートの代わりに「キュー」機能があるのである。

ユーザーのメンタルモデルにおける慣性は大きい。つまり、彼らはよく知っている物にこだわりがちである。たとえ、それが役に立たないときでも、だ。この議論に関してだけは、慎重な姿勢を取り、新しいインタラクションスタイルを考え出したりはしないほうがいいのは確かなのである。

その一方で、革新が必要なときもあるわけだが、一番良いのは、昔からあるよく知られているやり方より、大幅に優れていることが明白な場合にのみ、新しいアプローチを採用することである。Netflixが企業として成功しているのは明らかだが、この成功の大きな理由は、キューから顧客に絶え間なく映画を送っていることにある。

ウェブ上で何か新しいことをするときには、非常に大きなデザイン上のチャレンジに向き合うことになる。では、そのサイトについての有効なメンタルモデルを構築する生きたチャンスを持つユーザーに、どのようにその新しいコンセプトを説明したらよいだろうか。

驚くべきことに、1つの誤解によって、ユーザーのセッション全体が妨げられ、その結果、彼らはサイトで起きるすべてを誤った解釈をするようになってしまう。失敗につぐ失敗を通しても、基本になっている前提について、決して彼らは疑問に思わない。これはまた別の話になるが、可能であるならいつでもユーザーの既存の期待には応えたほうが良い。仮に、もしそうしないのなら、自分たちのしていることを明確に説明しているかどうかをよく確認しよう。その一方でまた、いかにユーザーが読みたがらないかということに対する、さらなるチャレンジに自分たちが直面しているということも理解しておいたほうがよいだろう。

メンタルモデルに基づいて行動する

メンタルモデルのコンセプトを理解することは、自分たちのデザインにあるユーザビリティ上の問題を解明することに役に立つ。人々がサイト上で間違いをするとき、彼らの作ってきたメンタルモデルには誤りがあることが多い。その時点でUIを変更することは不可能かもしれないが、ユーザーエクスペリエンスの初期の段階で、ユーザーにより正確なメンタルモデルを教えることは可能だ。あるいは、ユーザーがあるものの区別ができないことを認識し、そうした区別をやめなければならなくなることもありうる。

メンタルモデルにミスマッチがある場合、取れるオプションは基本的に以下の2つである:

  • ユーザーのメンタルモデルにシステムを合わせる(ほとんどのモデルは似ていると仮定すれば)。これはIA上の問題を解決するのに、我々が推薦することの多いアプローチである。つまり、もし、人々がある物を間違った場所で探すようなら、探している場所にそれを移せばよい。カードソーティングはユーザーの情報空間のメンタルモデルを発見するのに役立つ方法であり、結果、それに応じたナビゲーションをデザインすることができるようになる。
  • ユーザーのメンタルモデルを進化させ、あなた方のシステムをより正確に反映したものにする。例えば、説明の方法を改善し、ラベルの表示内容をより明確にして、UIをよりわかりやすくすることによって、(たとえ、基本のシステムを変更しないままでも)このことは可能である。

メンタルモデルは、マニュアルやドキュメンテーション、チュートリアル、デモ、その他、ユーザーを支援するものを開発する際の重要なコンセプトである。こうした情報はどれも簡潔でなければならないが、その一方で、サイト全体を理解するのに必要になる重要なコンセプトを知らしめる必要もある。短い漫画で示すというのも時には試す価値があるだろう。コンセプトを視覚と言語の両方の形で同時に提示すると、メンタルモデルの形成が促されることが研究から明らかになっているからである。

私がユーザーテストで思考発話法を好む主な理由の1つに、ユーザーのメンタルモデルについての知見を与えてくれるからというのがある。デザインを利用している間、何を考え、信じ、予想しているのかをユーザーが言語化してくれれば、彼らのメンタルモデルにある多くの情報を統合して知ることができる。また、より高度な知識抽出手法を用いれば、メンタルモデルについてのさらに深い洞察を得ることも可能だ。しかし、たいていのデザインチームでは、何回かの短いセッションで思考発話法を利用すれば十分だろう。もし、間違ったメンタルモデルによって、自分たちのビジネスに損失が出ているのではないかと思うなら、どんな場合でも最初にしなければならないのが、シンプルなユーザーテストであることは間違いない。