3つ(あるいは5つ)のスクリーンに向けたトランスメディアデザイン

モバイルの利用は増加するが、デスクトップコンピューターの重要性は残る。その結果、企業は複数のプラットフォーム向けにデザインせざるをえず、視覚的なデザインや機能、ユーザーのデータ、口調での連続性が要求される。

いわゆる「ポストPC」の将来像で、モバイル機器が唯一の重要なユーザーインタフェースプラットフォームになるだろうと予測する人は多い。中にはモバイル用のウェブサイトをまずデザインし、その後、付け足しとして、デスクトップPC用にデザインを修正することを勧める人さえいる。

しかし、私はこれに反対である。

なにか新しいものが古いものに終止符を打つという主張は物語としては素敵なものになるだろうが、物事がそういうふうにうまくいくことは稀である。Peter Zollmanがかつて言ったように、「例外になりそうなのは街の触れ役(訳注: 昔、新しい規則や布告などを触れ回る係の役人)くらいで、新しいメディアが古いメディアを廃業に追い込んだということは一度もない」。テレビがあっても、ラジオも、ついでに言えば、生の劇場も残っている。コンピューター業界にはメインフレームがまだ残っており、IBMはそれによって毎年何十億ドルもの収入を得ているのである。

最近はコンピューターが安いため、主なニーズごとに、豊かな国では複数の機器を保有している人がほとんどである。もちろん、「コンピューター」の中には、PCだけでなく、タブレットや携帯電話、メインフレーム、サーバーも含んでいる。たいていの家が地下室にメインフレームを所有することがないのはわかりきっているが、写真やビデオのライブラリー用に家族でファイルサーバーを持っている家は多い。

(「デスクトップPC」の中には、WindowsやMacintosh、Linuxが当然含まれているが、もし、使いやすくなれば、例えば、webOSを走らせるデスクトップマシンのような新しいプラットフォームも将来、ここに入る可能性がある。同様に、ラップトップやミニタワーなども含まれている。なぜならば、物理的なサイズよりもユーザーエクスペリンスのほうが重要だからである。ラップトップは移動可能ではあるが、移動を前提としたモバイル機器ではない。したがって、私はそれをPCの亜種としてカウントしている)。

PCの重要性は残る

デスクトップPCにはモバイルに優っている点がもともと2つある:

大きな画面と大きな入力機器というのはデスクトップPCがもともと持っている強みである。モバイル機器はユーザーが持ち歩けるように小さくなければならないからだ。デスクトップPCには少なくとも次の10年は通用するだろう強みが他にも4つある:

  • より高速な回線。それによって、シンプルなウェブページを1秒未満でダウンロードする等の、要求される応答時間を支援する。対照的に、モバイルのユーザーはあたかも今が1998年であるかのような苦労をしており、モバイルサイトのテストをすると、ダウンロードの遅さへの不満がよく聞かれる。
  • ハードウェアに魅力がある。例えば、プロセッサは速く、メモリは多く、ハードドライブの容量も大きい。コンピューターの能力というのは既にもうかなり強力ではあるが、それでも20年経てば、今のPCはそろばんと同じくらい貧弱に思えてくるだろう。ほとんどのアプリケーションはそれほど大きな能力は要らないだろうが、中には必要とするものもあるだろう。
  • ソフトウェアが成熟している。これは痛し痒しではある。ソフトウェアが古くなるにつれ、不純物も蓄積されていくからである。それでも、複数のウィンドゥを操作し、その間でコピーやペーストをするなど、携帯電話よりもデスクトップPCのほうがずっと容易に行えることはいくつもある。
  • 印刷ができる。ペーパーレスのオフィスというのは神話である。人々はハードコピーを欲しがることが多いからである。したがって、たいていのデスクトップPCにはプリンターが直接つながれるか、ネットワークで接続され続けることになるだろう。一方、たいていのモバイルでは印刷は不可能である。これは変わったほうがよい。実際の印刷はその機器がプリンターネットワークのWiFiの範囲内に入るまでは延期されるにしろ、モバイルのオペレーティングシステムにある印刷するというコマンドによって、ユーザーの指定するリモートアクセス可能なプリンターで印刷が可能であるべきである。

回線容量やハードウェア、ソフトウェアの能力の高さというのは、デスクトップPCの一時的な強みに過ぎない。モバイルのほうが変化する速度が速いので、この分野でのユーザーからのニーズのほとんどを支援するのに十分なレベルにそのうち到達するだろうからだ。

しかしながら、インプットとアウトプットが優れているというのは、デスクトップのユーザーエクスペリエンスにとっては息の長い強みといえる。

私は画面のサイズに対しては頑固である。画面が大きければ大きいほど、ユーザーの生産性は大いに高くなるからである。30インチの画面を経験したことがある人は皆、それよりも小さい画面で大きな仕事をするということを考えるとうんざりするものだ。PCメーカーがさらに大きな画面を出さないことは私には驚きである。(300dpiのクリアな画質の40インチ画面が出たら、私は真っ先に手に入れようとするだろう)。

哀しいことに、Appleを除けば、PC製造業者は例外なくマーケティングや製品の差別化の能力に欠けている。「生産性を10%上げるために、500ドル余分に払ってこのマシンを買おう」とは誰も言わないのである。年間50,000ドル以上稼ぎ、毎日最低1時間以上コンピューターと過ごす従業員全員に1台ずつ買えば、それは企業にとってすばらしい投資になると言っているのだが。(先週、自分のところの従業員の1人に、彼女の出張中の生産性を上げるため、最上級機種のラップトップを買うのに余分に500ドル出すことを伝えた。しかし、Sonyのサイトのどこにもそのような文言は見つからなかったので、私は自分でそうした主張を作り出さねばならなかった)。

利用は小さな機器にシフト。しかし、デスクトップにもたくさんの価値が残る

IDCは今年のPCの販売が昨年比4%しか伸びないだろうと推定している。しかし、これは不況時の成熟した製品の成長率としては、それほどひどいのものではない。それでも、携帯電話やタブレットに利用の大部分がシフトするにつれ、将来的にデスクトップPCのシェアが下がっていくのは紛れもない事実だろう。

「撮る価値のある出来事が起きるとき、手元にあるカメラこそが最高のカメラである」とカメラマンは言う。これがポケットカメラや携帯電話のカメラになってしまうことは多いだろう。人々がプロ仕様のカメラを持ち歩くのは、写真を撮ることを計画しているときのみというのが一般的だからである。

同様に、何かしたいとき、手元にあるコンピューターこそが最高のコンピューターである。これが携帯電話やタブレットになってしまうことは多いだろう。私は家の周りではiPadを持ち歩いているので、ウェブで何かを調べたいときに手近にあるのはそれになる。例えば、私はiPadのOpenTableアプリを利用して、夕食の予約をよくする。そのアプリはデスクトップPCで見られるOpenTableのウェブサイトよりも垢抜けないが、PCのあるところまで1分かけて階段を上がるよりは、出来の悪いアプリのせいでインタラクションに余分にかかる20秒の負担を我慢するほうがましである。

このように、デスクトップから携帯電話やタブレットに大量の利用シフトが起きるだろうが、かなりの割合でデスクトップの利用も続くだろう。機器の種類ごとに正確な割合を出すのは難しいが、最も高い価値を生み出す利用の大部分がデスクトップに留まるであろうことはかなりはっきりしている。したがって、価値で分けた機器間での割合は、PCにとって良い結果になるだろう。時間で分けると、タブレットや携帯電話のほうに次第に割合が移っていくだろうが。

もちろん、ユーザーエクスペリエンスのプロジェクト全体にわたって出資金を配分するとき、重要なのは価値(すなわち、儲け)であって、時間ではない。

初期に実施した、2000年のモバイルユーザー調査以来、モバイル機器にとってのキラーアプリはひまつぶしになるものである。これが再び意味するのは、小さな機器の利用の大半が生み出す価値は、かなり低いものであるということだ。例えば、カジュアルゲームをしたり、ソーシャルネットワークの更新をチェックしたり、有名人のゴシップやその他一般のニュースを読んだり、断続的利用に向いたアプリを使ったりすることがそれにあたる。

そう、非常に成功したひまつぶしのアプリを提供したプロバイダーの中には、ごく少数ではあるがかなり儲けているところもある。例えば、Angry Birdsはダウンロードで3億ドル以上を売り上げている。しかし、これによってあの病みつきになる鳥達を飛ばすことに費やされた費用はユーザーの時間1時間あたり3セント程度である。同様に、有名人のゴシップはページビューあたり、おそらく0.02セントにあたるだろう。(よくわかっていないマーケティングマネージャーは誰も見ないバナーに現状、もっと払っているかもしれないが、一般的なコンテンツやトラフィックに対するCPMは実際の価値に合うように徐々に1ドルよりずっと下に落ちていく。宣伝費が永遠に無駄に費やされるということはないのである)。

もっと高い価値を生み出すモバイル利用もある。例えば、私がOpenTableのアプリで夕食の予約に費やした時間は、そのレストランにとっては115ドル、OpenTable自身には約1ドルの収入に置き換えられた。言ってみれば、1時間あたりにすると60ドル = 2,000 × Angry Birdsのプレイの価値、となる。

反対に、友達や家族にEメールをしているときのように、デスクトップ利用の多くにはほとんど商業的価値がない。それにもかかわらず、デスクトップの利用にはビジネス価値がかなり高いものがたくさんある:

  • 企業のタスクのほとんどはデスクトップPCで行われる。最近実施した企業ポータルの調査で、モバイル専用のデザインの採用は信じられないくらいゆっくりであることがわかった。企業のIT部門は保守的であることで有名である。すべての流行を追うのはお金がかかりすぎるからというのが良い理由になっている部分もある。しかしながら、営業チーム等の移動しながら働いている人達の支援強化に有効な、モバイルイントラネット機能を追加するという点においては、彼らは怠慢すぎると私は強く思っている。それでも、従業員がオフィス内にいるときには、ほとんどの作業はデスクトップPCで行われるべきであることは確かである。
  • eコマースでの購入のほとんどはデスクトップPC上で行われる。商務省の概算によると、現在、アメリカのeコマース収入の2%がモバイル機器によってもたらされている。モバイルコマースはモバイルのユーザーエクスペリエンスが向上するにつれ、伸びていき、人々はもっと気楽にモバイルサイトでクレジットカードの情報を入力するようになるだろう。というのも、モバイルでの売上は2015年までに15%伸びることが一般に予測されているからである。この急激な成長率によって明らかなのは、モバイルのサイトやアプリに投資するのは賢いということである。しかし、売上の85%を占めるフルサイトを軽視すれば、悲惨なことになるだろう。また、eコマースの売り上げの総量は今後10年で倍増するだろうから、デスクトップの相対的シェアが減少しようともそのサイトを通しての売上の絶対量は伸びていくだろう。
  • 複雑なタスクのほとんどはデスクトップ上のほうがはるかに優れたユーザーエクスペリエンスを提供できるため、今後もデスクトップ上で行われるだろう。私が言っているのは、次に買う車を調べることから、新たな病状(とその関連する医薬品)について学ぶこと、投資ポートフォリオの管理にいたるまでのすべてである。そう、証券会社のモバイルアプリで株取引はするかもしれないが、新しい投資信託についてはデスクトップで調べることになるだろう。
  • B2Bタスクのほとんどはデスクトップ上で行われていくだろう。複雑で時間のかかる仕事、例えば、法律事務所を比較して評価し、推薦できる候補のリストをまとめて、その要点を説明するプレゼンテーションを上司のために行うというのがそれにあたる。携帯電話、あるいはタブレットを使ってでさえ、こうした仕事はありえないだろう。

つまり、モバイル機器の使用は劇的に増加するが、高い価値を生み出す使用の多くはデスクトップPCに残るだろう。ほとんどの企業は両方の種類の機器をサポートする必要がある。さらに、こうしたことは2種類のユーザーエクスペリエンスの異なった特性に焦点を当てた、別々のUIデザインによって行われる必要があるということがユーザビリティ調査ではわかっている。1種類のサイズのUIがすべてのサイズの画面に合うのではないのである

第3の画面: TV

モバイル機器とデスクトップPCに続いて、画面ベースのユーザーエクスペリエンスの3番目の大きなカテゴリーになるのがテレビである。ユーザーの時間にして、1時間あたり20セントから2ドルになるというのは割と価値が高い。(我が家では1人あたり1時間約2ドル、ケーブルテレビ会社に払っている。しかし、我々はたいていの家庭よりはかなりテレビを見ない。Amazon.comはStar Trekのエピソードをどれでも1ドル99セントで配信しているが、これも高いほうの値段になるのではないかと思う)。

私はモバイルとデスクトップのユーザビリティに焦点を絞っているが、それはTVベースのインタラクションデザインに携わる企業がほとんどないからである。リモコン無法地帯という記事で示したように、そのユーザビリティはたいていは酷いものである。しかしながら、KinectのジェスチャーUIで示したように、将来的には希望もある。

現在のところ、TVのためにデザインするというのは、主にエンターテイメント業界や家電業界の企業に関わる話である。しかし、もしインタラクティブTVのユーザビリティが大幅に向上すれば、このプラットフォームに対して注意を払う必要のある企業はもっと増えるだろう。その時点で、確かなことは1つである。すなわち、モバイルやデスクトップ両方のデザインとははっきり異なる、第3のUIをTVは必要とするだろう

第4、第5の画面: 極小、巨大

モバイルやデスクトップ、もしかするとさらにはTVのため、2つか3つの異なったUIをデザインするだけでは十分ではないかもしれないと言わんばかりに、考えなければならない極端なサイズの画面が2つある。つまり、本当に本当に小さいものと、本当に本当に大きいものである。繰り返すが、いずれもそれ固有のUIを必要とする。

極小画面に入るのは、たくさんの家庭用電化製品についている切手サイズのディスプレイである。最近では私の歯ブラシにすら画面が付いていたりする。定義をほんの少し拡大すると、埋め込みのRFIDチップやQRコードのついたアイテムによるユーザーエクスペリエンスも入れることができるだろう。

巨大画面には会議室サイズのディスプレイから始まり、スマートビルや、訪問者や患者を正しい建物や部屋に案内する病院のようなスマートキャンパスまでが入る。

今のところ、この極端な2つのサイズに関するユーザビリティ上の作業はあまり行われていない。しかし、固有の課題があるのは明らかである。そして、そこでの優れたUIが携帯電話やデスクトップPCのそれとは相当に違うものになる必要があるのは確実であろう。

トランスメディアのユーザーエクスペリエンス

ほとんどの企業が展開するUIデザインは、おそらく、モバイルとデスクトップ向けの2つのみになるだろうが、業界によっては3つか4つ、あるいは5つすべてを展開する必要もあるだろう。その数がいくつであれ、覚えておくべき重要なポイントは2つある:

  • まったく異なる機器カテゴリーのためのUIデザインは、別々のはっきり違うものを作ろう。例えば、各プラットフォームメーカーのヒューマンインタフェースのガイドラインに合わせるためのわずかな修正の結果、iOSとAndroid向けのようにデザインが似てしまうというのは構わない。しかし、ちょうどモバイルとデスクトップのアプリが違うのと同じように、モバイルサイトとデスクトップのフルサイトは違っていなければならない。
  • UIや機能の集まりが違おうとも、機器間の製品ファミリー感は残そう。この結果、必要になるのがトランスメディアデザイン戦略である。

プラットフォーム間でまとまりのあるユーザーエクスペリエンスを実現するためのガイドラインの網羅的なリストを提供できるほど、トランスメディアのユーザビリティに関する我々の経験はまだ十分ではない。しかし、以下の4つの論点を正しく理解することが不可欠であるということはよくわかっている:

  • 視覚的な連続性。異なったサイズの画面上ではUIは異なって見えることになるが、同じコインの裏表のように感じられるほどには似て見えるべきである。それはロゴやカラースキームが同じというだけでは十分ではない。インタラクティブな要素も見た目が似ていなければならない。レイアウトが違ってくるのは明らかだが、プラットフォーム間を移動しても、どこになにが配置されているか、ユーザーがなお確信が持てるようにしておくべきである。
  • 機能の連続性。機器が小さくなればなるほど、楽に提供できる機能の集まりは少なくなってくる。しかしながら、どこにいても同じメインの機能が利用可能であるとユーザーは感じ続けるべきである。もっと重要なのは、たとえ簡素化されていたとしても、そうした機能が一貫した働きをする、と彼らが感じ続けるべきということである。例えば、eコマースのサイトで商品評価を提供しているとしよう。そのとき、モバイルとフルサイトの両方で同じ評価尺度が使われるべきだが、モバイルサイトではもしかするとユーザーは新しいレビューを入力できないかもしれないし、デフォルトでは既存のレビューの全文が表示されないかもしれない。しかしながら、きちんとデザインされていれば、ユーザーはモバイルサイトの利用中も、フルサイトのレビューの恩恵を受けていると感じ続けるだろう。
  • データの連続性。ユーザーのデータはどこにいても同じであるべきである。機能の集まりが異なるため、すべての場所で利用可能にはならないデータもあるかもしれないが、複数の場所からアクセス可能なものは同じであるべきである。ユーザーがさらなるアクションとして、「同期」しなければならないということがないようにしよう。
  • コンテンツの連続性。デスクトップ向けよりもモバイル向けのほうがずっと簡潔に書く必要があるということはわかっている。しかし、基本的なコンテンツ戦略は同一であるべきであり、とりわけ、すべてのプラットフォームで類似した口調を用いるべきである。そうすれば、どこでも同じに「聞こえる」からである。例えば、子どもはウェブデザインにあるキャラクターが大好きである。もしそれを使うとしても、モバイルサイトにはすべての生き物を出すためのスペースはないかもしれない。しかし、フルサイトにいる主人公は出すべきである。(これは視覚の連続性を高めることにもなる。つまり、キャラクター達は少ないピクセルで描かれるとしても、基本的には同じに見えるべきである。ついでに言えば、キャラクターの再利用はナビゲーションの軸がキャラクターである点において、機能の連続性を高めることにもなる)。

結論を言えば、クロスプラットフォームなUIは違っているべきだが、似ていなければならない

公開:2011年9月12日(原文:2011年8月29日)
著者:Jakob Nielsen
原文:Transmedia Design for the 3 Screens (Make That 5)

分類キーワード