評判管理

200万あるウェブサイトのうち、どこに行くのがいいかを知りたければ、方法は2つある。

  • ブランド:ユーザは、そのサイトがある程度の品質を提供してくれるということを知っている。その品質がユーザの満足のいくものである場合、サイト内の他のページももっと見てみる価値があるはずだ。
  • 評判:ユーザは、そのサイトの品質について知っている他のユーザのアドバイスに従う。

現状では、ほとんどのウェブプロジェクトがブランディングに注力している。ウェブそのものが比較的小規模のうちに強力なブランドを築いておけば、ウェブが大きくなった時に、そのサイトは利益を出せるようになるだろうという理屈だ。よいウェブブランドの実例がnews.comだ。情報産業で何が起こっているのか知りたければ、たいていの最新ニュースはnews.comへ行けばわかる。

一部の大規模サイトにはブランドが役立つかもしれないが、ユーザが何100万ものサイトを扱う上ではあまり役に立つ仕組みとはいえない。これに反して、ウェブには、多数の小規模サイトの登場をうながす性質がある。そして、ウェブの価値の大部分は、こういった専門的サイトに由来している。よって、ウェブには、圧倒的な多様性を理解するための仕組みが必要なのだ。

コンピュータを使って品質を自動的に測定する方法はないので、ウェブ品質の評価に関しては人間の判断に頼るしかない。評判管理(reputation manager)は、こういった人間による判断の処理を自動化する手法であって、それ自体は何ら評価を行うものではない。言い換えると、ウェブオブジェクトの品質はもっとわかりやすい形で表現する必要があるのだ。

私の考える評判管理のあるべき姿は、何億人ものユーザから何10億もの個別の品質判断を集めて組合せるというものだ。インターネット上で何らかの情報源に出会ったら、そのサイトの品質評価を投票するための画面がウェブ用クライアントソフトに表示される。これは、インターフェイス上にボタンを2つ追加することで実現できるだろう。満足ボタンと不満ボタンだ。何もしなければ、中間の評価となる(ユーザインターフェイスへの負担を最小限にとどめたいからだ)。特にこれはいい、と言えるようなものにユーザが出会った時には、「よい」ボタンを押す。同様に、「だめ」ボタンをクリックして、がっかりさせられたサービスに罰を与えることもできる。

もっとも簡単な評判管理は、各情報源の評価の平均値を算定するというものだ。だが、もっと高度なサービスを目指すなら、コラボレーション型フィルタリングの考え方を取り入れて、ユーザごとに異なった評価算定を行うべきだ。基本的に、評判管理を利用して、自分と似たような好みをもった他のユーザを見つけ、こういったユーザが出した評価の重みを増やしておくのだ。ウェブユーザの数は5年以内に5億人に達するだろうから、どんなに珍しいものであっても、まず間違いなく自分と興味を同じくする他のユーザを見つられるはずだ。よって、評判管理は、Spice Girlsが好きな人とそうでない人で、扱いを変えることができるわけだ。

評判管理はウェブサイト全体の評価を集めるのにも利用できるし、ページごとに、あるいは会議室やチャットルームへの発言者に対しても適用できる。この結果得られた評判は、有用な、あるいは興味深いサイトにユーザを誘導するのに利用できるし、また、チャットルームやオンライン会議室への発言のうちで、あまり価値のない人の発言をカットするのにも利用できる。こうすれば、評判管理はより強力な間抜けよけ(bozo filter)になる。

評判管理は、マイクロペイメントと組み合わせると特に有効だ。クリックに課金されるとなれば、その先にあるウェブサイトがいいかどうか、前もって知りたいと思うはずだ。

ウェブ評判の実現に向けて

評判管理は、まず、大企業のプロクシサーバに組み込まれたり、大手サービスプロバイダが付加価値サービスとして提供したりするようになるだろうと予想している。両ケースともに、多数のユーザの行動に関するデータを単一のポイントで収集することが可能だ。3年以内には、評判管理サービスはインターネット全体をカバーするようになり、ユーザはひとつ推薦してもらうごとに小額をマイクロペイメントで支払うという形で利用できるようになるだろう。

インターネットには、すでに独立の評判管理が存在する。Alexaは、残念ながらブラウザ用のアドオンになっていて、ユーザのウェブ用クライアントソフトと完全には一体化していない(言うまでもなく、現状のブラウザは、ウェブアクセスクライアントとしても不十分だ)。Alexaのもつ機能のうち、このコラムとの関係でもっとも重要なものは以下の通り。

  • ウェブ上のほとんどのサイトについての評判統計。訪問回数やその人気度がわかる。
  • 今見ているページに関連した他のよいサイトへのお薦めリンク

特に目立つ統計でなくても、インターフェイス上に品質評価を明示的に取り入れることで、ほとんどのウェブサイトは得るところがあるはずだ。単にログファイルを分析するだけでも、サイト内でもっとも人気のあるのはどこかがわかる。こういったページを、検索結果や一覧の中で目立つ位置に表示しておくのは筋の通ったやり方だろう。例えば、私自身、過去のAlertboxコラム一覧では、過去にもっとも多くの読者を得たコラムが目立つようにしてある。こうしておけば、新しい読者が選択肢の多さに圧倒されてしまうこともないし、もっとも興味の持てそうなリンクに集中できるようにもなる。過去の記事がもっとたくさんある場合は、トップヒットだけを集めたページを用意するというのも一法だ。

1998年2月8日