カスタマージャーニーマップを分析する7つの方法

ジャーニーマップを検討して、感情曲線の低いポイントと高いポイントや、期待値を設定できなかったところ、不要だったり長すぎるステップ、チャネルの遷移、真実の瞬間を特定しよう。こうした情報を利用して、カスタマージャーニーを改善するために取り組むべき状況を見つけよう。

カスタマージャーニーマップは、ペルソナセグメントが目標を達成するために経験するプロセスを可視化したインフォグラフィックだ。ジャーニーマップは、顧客が時間の経過とともにどのように目標に取り組むのかを理解するために実施する長期的な調査によって発見される物語やテーマ全体を伝えるのに有用である。

このジャーニーマップでは、新しい自動車を調べて、試乗し、購入するというプロセスのさまざまなステップが説明されている。このマップによって、ユーザーの視点から見たエクスペリエンスについての高度な物語を手に入れることができる。
(訳注:アメリカでは新車購入時も、日本のように好きな仕様を注文して待つのではなく、ディーラーにある在庫から選ぶのが一般的なため、ユーザーはどのディーラーにどんな仕様の自動車の在庫があるのかを調べることになる)

このジャーニーマップには、新車購入時のユーザーエクスペリエンスを理解し、分析するのに必要なすべての情報が含まれている。しかし、この図では、マップから得られる知見と取り組むべき状況という、マップの重要な部分をあえて省略している。この部分は、カスタマージャーニーマップの一番下にあることが多く、組織がカスタマージャーニーを最適化および改善する方法を明らかにするところだ。

この記事では、ジャーニーマップを分析する方法と、そこから知見および改善のために取り組むべき状況を特定する方法を示す。

ジャーニーマップの分析

このようなジャーニーマップを作成するには、長期的な調査と分析が必要である。

ジャーニーマップはそれぞれに見た目が異なる。調査から得られる知見とその結果としてのビジュアルは、カスタマージャーニーのコンテキストやその背後にある活動、その活動を達成するペルソナに全面的に左右されるからだ。とはいえ、カスタマージャーニーには7つの共通要素があるので、分析の際にはこうした要素を探し出すべきである。

1.  カスタマージャーニーの中の期待が満たされていないポイントを探そう。

ユーザーは、特定の期待を抱いて、組織とのインタラクションに臨む。そのため、インタラクションが彼らの期待に沿わない場合は、カスタマージャーニーの中に問題点があるということだ。そうした事例を特定するには、まずペルソナがどういう人であるかをよく考えてみる必要がある。このペルソナにとって重要なことは何か、このカスタマージャーニーの前はどこにいたのか、何を見てきて何をすでに知っているのか、と自問してみるとよい。ユーザーの心の空間に身を置き、彼らの気持ちになってみることで、どのインタラクションがユーザーの事前の考えや期待と矛盾しているのかを理解できるはずだ。

そして、ユーザーが懸念を口にした箇所を探すことはもとより、明確な不満や否定的なコメントがないインタラクションも、このロジックを使って評価するべきである。

また、ユーザーが他のエクスペリエンスからの期待をこのジャーニーに持ち込むこともある。たとえば、ユーザーはホテルに自動車で乗り付けるとベルボーイがドアを開けてくれるものと期待している。なぜならば、ベルボーイのいるホテルに自動車で乗り付けるといつもそうしてもらえるからだ。つまり、これがその状況に合わせて形成されたメンタルモデルというわけだ。しかし、組織の中には、カスタマージャーニーの早い段階で不正確な期待値を設定してしまっているところもあれば、まったく期待値を設定できておらず、ユーザーにあれこれ推測をさせ、その推測がはずれた場合は彼らを失望させてしまうと思われるところもある。

問題の起こる箇所を見つけて、その引き金となった要因とそこでの期待値がどのように設定されたか(または設定されなかったか)を特定するために、カスタマージャーニーをさかのぼって検討しよう。期待値と現実の間の矛盾を解決するための作業をしなければならない。

今回の自動車購入時のジャーニーマップには、Ericの期待が明らかに満たされていないポイントが二箇所あった。そうした事例には赤丸の番号を付記している。

赤丸1:「このWebサイトはコマーシャルとはだいぶ違うように見える」。
赤丸2:「一部のリストの内容にはがっかりした…写真がほとんどない」)。
Ericはyournextcar.comのテレビ宣伝広告を見たことがあり、Webサイトに対する彼の期待は、その広告に影響を受けていた。しかし、コマーシャルで利用されていた画像や事例の機能と詳細情報のレベルは、彼の地域や彼がサイトで閲覧した自動車では利用できなかった。そのため、彼の期待は満たされず、この企業とのジャーニー全体の中で摩擦の直接的な原因となった。

2.  不要なタッチポイントやインタラクションを特定しよう。

カスタマージャーニーの中で、エクスペリエンス全体を効率化するために削除できるステップはないだろうか。プロセスを最適化して、総インタラクションコストを削減する論理的な方法を探してみよう。それには、不要になった既存のステップを削除したり、カスタマージャーニー全体に効率をもたらすエクスペリエンスに何かを追加したりする必要があるかもしれない。

赤丸1:「1日に何度もサイトをチェックしないと、自分の条件に完璧に合った車を見落としてしまいそう」。
このカスタマージャーニーで、Ericは彼の基準を満たしている新車を販売前に見つけられるように1日に何度もWebサイトにアクセスしている。このような行動はEricに余計な不安をもたらすと同時に、不必要なタッチポイントを複数追加することでこのプロセスにかける彼の労力を増大させている。YourNextCar.comは、新しい自動車が追加されたときにはそれに注意を向けてEricに通知することで、常にサイトをチェックする必要性から彼を解放するべきである。

3.  感情曲線の低いポイント、つまり摩擦点を特定しよう。

一歩下がってカスタマージャーニー全体を見てみると、ユーザーが最も苦痛や摩擦を経験している地点を確認できるはずだ。これらのポイントは、通常、カスタマージャーニーの感情曲線では視覚的に谷として表現される。このカスタマージャーニーの感情曲線が最低点に到達した場所を確認し、曲線中の他の低いポイントと比較してみよう。これらのポイントは最適化の最終候補リストに入れておくべきだ。ただし、こうした困難はどれも優先度が同じというわけではない。依存関係や制約が関与している場合もあるからだ。チームと協力して、低くなっているどのポイントに最初に対処し、どのポイントを後回しにするかを決めよう。(ピークエンドルールにより、カスタマージャーニーの中で感情曲線が最も低くなっているポイントは、ユーザーエクスペリエンスのブランディング効果に特に悪い影響を及ぼすだろう)。

赤丸1:「すべてのディーラーが1枚の地図上に表示されたらいいのに。そうすれば、運転ルートの計画を立てられるから」。
赤丸2:「選択肢を絞り込んだり、他の情報源を検討したりするのが大変。表計算ソフトを使う必要がある」。
赤丸3:「なんで試乗するのにこんなに時間がかかるんだ。試乗にはいろいろと手続きがあり、そこで営業されることになるとわかっていれば」。
このマップの感情曲線の形からわかるように、Ericのエクスペリエンスが最もうまくいかなかった部分は「比較」(compare)フェーズと「テスト」(test)フェーズの間にある。こうしたフェーズ中のいくつかの摩擦の事例が、彼の気分をこれほど低下させた要因になったということだ。まず、このサイトはEricが選択肢を比較して絞り込む助けにならなかったので、彼はその作業をおこなうための手動プロセスを自分で作成するしかなかった。第二に、サイトのおかげで興味のある自動車のリストを作成することはできたが、そうした自動車があるディーラーの所在地が1枚の地図上に表示されなかったので、ディーラーの場所をすべて見ることができる最善の方法を自分で考え出さなければならなかった。そして、最後に、彼はサイトからディーラーへ移行する準備ができていなかった。試乗のためのディーラー訪問は彼が予想していた以上に長く時間がかかるものだったのである。

4.  摩擦の大きいチャネル遷移を突き止めよう。

カスタマージャーニーの多くは、デバイスやチャネルをまたいでおこなわれる。カスタマージャーニーが中断し、摩擦が発生するのは、ユーザーがチャネルを変更するときであることが多い。たとえば、あるユーザーが企業から特定のサービスに関するニュースレターを受け取ったとする。彼女はそのサービスに興味があったので、ニュースレターの中のcall-to-actionボタンをクリックした。しかし、その特定のサービスについて詳しく書かれたランディングページに連れていかれる代わりに、このユーザーがたどり着いたのはその企業のトップページだった。この時点で、彼女はそのサービスを見つけるために努力しなければならない。あるいは、別のユーザーは、携帯電話でフォームに入力し始めたが、それが面倒になったらノートPCで入力したいと思うかもしれない。しかし、このフォームでは、そうすると作業は失われ、やり直しになってしまう。こうしたチャネル遷移の問題点を特定し、効率化する必要がある。既成概念にとらわれてはならない。ユーザーに一生懸命がんばらせるのではなく、橋をかけて彼らが楽に向こう側に行けるようにしよう。

赤丸1:「このモバイルアプリは、(Webページにある)いろいろな機能が欠けている」。
赤丸2:「すべてのディーラーが1枚の地図上に表示されたらいいのに。そうすれば、運転ルートの計画を立てられるから」。
赤丸3:「なんで試乗するのにこんなに時間がかかるんだ。試乗にはいろいろと手続きがあり、そこで営業されることになるとわかっていれば」。
最初、Ericはモバイルアプリを利用したいと思っていた。しかし、モバイルアプリにはWebページのすべての機能があるわけではないことがわかった。そのため、アプリをダウンロードした彼の労力は無駄になったし、すぐにがっかりすることにもなった。そして、彼はジャーニーの早い段階でアプリを使うのをやめたので、カスタマージャーニーでこの後、利用可能だった効率化の機会を逃してしまった。さらに、彼はオンラインでの比較フェーズから対面の試乗ステップに移行する際にも摩擦を経験した。運転ルートを計画するためのサポートがなかったこと、ディーラーで体験することについての期待値が設定されなかったことがその理由である。

5.  ユーザーが費やす時間を見極めよう。ジャーニーマップに、カスタマージャーニーの主要な段階の所要時間を記載しよう。

この情報はエクスペリエンスの分析のための別の視点を提供する。ユーザーが各フェーズの土台となるサブステップを達成するのにどのくらい時間がかかるかを調べよう。そうした時間は適切だろうか。多くの場合、費やされた時間はユーザーの作業量と相関する。そして、カスタマージャーニー中の、時間と労力に問題がある箇所を指摘しよう。

赤丸1:「比較フェーズ:1ヶ月」
Ericのジャーニーの比較フェーズは1ヶ月かかっている。これはやや長いように感じられ、ここで彼がジャーニーをうまく続けられなくなる危険性がある。このフェーズにこれほど時間がかかった理由は複数ある。考えられるのは、アプリ外での比較やExcelのスプレッドシート作成、自分の条件に合う自動車を探すための地域の在庫のチェックという、Ericが手作業でおこなっていた作業が比較フェーズの時間をさらに長引かせたということだ。YourNextCarには、取り組むべき状況、つまり、プラットフォームを最適化してカスタマージャーニーのこの部分を効率化する機会が複数ある。

6.  真実の瞬間を探そう。

カスタマージャーニーのポイントの中には、非常に重要で、残りのエクスペリエンスを左右するものもある。ここでは、ペルソナの態度やニーズ、優先順位について考えてみるとよい。カスタマージャーニーの中に、そのペルソナにとっての「成功を左右する瞬間」がないか。その瞬間とは、調査でいろいろな感情が確認できたり、ユーザーごとに選ぶ経路に大きな相違が見られる瞬間かもしれない。この瞬間がうまくいけば、それがエクスペリエンスとして蓄積されるはずだ。たとえば、自動車保険の顧客が初めて請求をおこなう場合を考えてみよう。彼女は責任をもって保険料を払ってきており、今は保険金を円滑に支払ってもらう必要がある。したがって、この請求に関する最初のインタラクションが、このペルソナにとっての真実の瞬間(moment of truth)になる可能性がある。そこで問題が起こると、このユーザーは次は競合他社に行ってしまうかもしれないからだ。必ず真実の瞬間を見つけ出すことだ。そして、見つけた場合にはそれに皆の注意を喚起する必要がある。

赤丸1:「このモバイルアプリは、(Webページにある)いろいろな機能が欠けている」。
Ericは調査フェーズ中にモバイルアプリの利用をやめたため、比較フェーズで役立つであろう重要な機能を発見することができなかった。モバイルアプリケーションでは、検索条件を満たす新しい自動車のアプリ通知を楽に設定できるようになっていた。この機能は、このジャーニー中の彼の気分が最も下がったポイント、つまり、購入対象になりそうな新型車をWebサイトで何度も何度も再確認する必要があることによる不安と労力をなくしてくれただろう。したがって、アプリを放棄することのコストが非常に高くついたので、このタッチポイントは真実の瞬間と見なすことができる。彼がアプリを使い続けていたら、このジャーニーはもっとずっとうまくいっていたはずだからだ。

7.  感情曲線が高くなっているポイント、つまり、期待が満たされていたり、期待を越えているポイントを特定しよう。

優れたUX実践者は、すべてのエクスペリエンスでうまくいっている点も指摘して、常に分析のバランスをとるべきである。カスタマージャーニーの感情曲線における高いポイント、すなわち、ユーザーが満足しているインタラクションについても検討しておこう。彼らはどの地点でポジティブな考えや感情を表現しているだろうか。これらの知見も貴重だ。そうした知見を増幅したり、ジャーニーの他の場所で同様のエクスペリエンスを再現したりできるかもしれないからだ。

赤丸1:「気に入った車を保存することができ、そのリストが自動的に作成されるところがいい」。
赤丸2:「このアプリは車についてのメモを取ることができるのがとても気に入っている。すごく便利!」。
自動車の購入エクスペリエンスに大いに役立つ機能があったということで、Ericがポジティブな感情を表明したポイントがこのカスタマージャーニーには2か所あった。カスタマージャーニーの適切なポイントで機能が発見されると、顧客の感情とカスタマージャーニーの成功には決定的な違いが生まれる。

マップの作成のためのカスタマージャーニーの調査を検討する場合にも、他の人が作成したマップの意味を理解する場合にも、何を探すべきかを知ることが重要だ。マップの作成者としては、視覚的な強調と物語を通して、これらの重要な要素を特定して、皆の注意を喚起する必要がある。一方、そうした視覚化されたマップの利用者としては、実行可能な知見を見つけるために、カスタマージャーニーマップを見るためのレンズのようなこのチェックリストを活用してほしい。

カスタマージャーニーマップ作成について、さらに詳しくは、我々のトレーニングコース、「Journey Mapping to Understand Customer Needs」にて。