期待どおりの回答を引き出す:
日記調査エントリーの設計
選択式、自由記述式、マルチメディア形式の質問のバランスを取ることで、質の高い回答を得られる日記エントリーを設計しよう。
日記調査において、日記エントリーは中核をなすデータ要素であり、提示された質問に対して参加者が提供する各回答のことを指す。このエントリーのテンプレートをどのように構成するかは、収集されるデータの質と、参加者に求められる負担の両方に直接影響する。調査で使用できる日記調査のエントリーには、選択式、自由記述式、マルチメディア形式の3種類がある。(訳注:以降、「エントリー」は日記調査への参加者の1回の回答、および、そのために設計される質問のセットを指す)
選択式の日記エントリー
選択式の質問では、参加者はあらかじめ定義された一連の回答(たとえば、多肢選択式や評価尺度式の質問に対するもの)の中から選択することになる。選択式にすると、参加者の負担が最小限で済み、通常、定量的な指標への変換も容易である。
構造化されたエントリーは、以下の目的で用いられる:
- 時間の経過に伴う変化を追跡する、または機能、タスク、参加者、調査条件間の体験を比較する。
- 特定の行動の頻度や継続時間を記録することで、行動を追跡する。
- 参加者から毎日、一定の形式で簡潔な回答を引き出すために、簡単な状況把握を行う。
例:栄養管理アプリ
あなたが栄養管理アプリについて調査しているリサーチャーで、調査の目的が、日々の食事提案が時間の経過とともにユーザーの食習慣にどのような影響を与えるかを明らかにすることだとする。そこでの調査課題は次のようなものになるだろう:
調査課題
「パーソナライズされた栄養フィードバックは、ユーザーにより健康的な食事選択を数週間にわたって促すか」
この課題を調べるために、構造化された回答を記録してもらう以下のような日記のエントリーを設計できる。
| 質問形式 | 例 | 目的 |
|---|---|---|
| 単一選択 | 今日の食事のうち、アプリが提案したメニューは何食含まれていましたか。 ○ なし ○ 1食 ○ 2食 ○ 3食以上 | 採用率を測定する |
| 評価尺度 | 今日は、あなたに合わせて設定された栄養の目標をどの程度守れましたか。 ○ まったく守れなかった ○ 少し守れた ○ ある程度守れた ○ ほぼ守れた ○ 完全に守れた | 参加者が栄養目標を時間の経過の中でどの程度一貫して守っているかを追跡する |
| 評価尺度 | 今日の食事提案はどの程度役に立ちましたか。 ○ まったく役に立たなかった ○ あまり役に立たなかった ○ ある程度役に立った ○ とても役に立った ○ 非常に役に立った | その機能の知覚価値を把握する |
これらの構造化された質問は、利用状況や知覚価値の傾向を明らかにする定量的なフィードバックを提供する。調査期間を通じて、アプリによるパーソナライズされた提案が参加者の食事パターンに影響を与えているかどうかを示すことができる。
しかし、構造化された質問は、そうしたパターンの背後にある「理由」を明らかにするにはあまり効果的ではない。あらかじめ定義された回答選択肢の範囲外にある、予想外の行動や感情、体験をとらえることはできないからだ。この不足を補うには、構造化された質問と、「今日の食事の選択に影響を与えたものは何ですか」といった自由記述式の短いフォローアップ質問を組み合わせるとよい。
自由記述式の日記エントリー
自由記述式の質問は、参加者に自身の言葉で、共有したい範囲で自由に、体験や考え、感情について記述するよう促すものである。日記調査における質問形式の中で最も柔軟性が高いが、参加者にはより多くの負担がかかる。
日記調査において自由記述式の質問が用いられるのは、参加者が以下のことをできるようにするためである:
- 出来事を記述する。
- 記録した出来事について、フィードバックを提供したり、考えを共有したりする。
出来事の記述(出来事の記録)
調査対象の出来事について参加者に詳しく記述してもらいたい場合、自由記述式の質問を日記エントリーの主な回答欄として位置づけることができる。
以下の目的がある場合に、この形式を使用するとよい:
- 出来事やタスクを取り巻く、実際の詳細なコンテキストを把握する。
- 重要な局面において、参加者がどのように解釈し、体験し、判断しているかを探る。
- 事前に予測できなかった予期せぬテーマや問題点を明らかにする。
これらの質問は、問題領域を定義している段階にあり、どのようなパターンが存在するかがまだわからない探索的調査において、特に有効だ。また、予期せぬ知見や行動を浮き彫りにし、今後の調査課題やプロダクトの方向性をかたちづくるのに役立つことも多い。
エントリー末尾のコメント(振り返りやフィードバック)
自由記述式の質問は、エントリー全体の最後に配置することもできる。こうした質問項目により、日記のエントリー内の他の質問には当てはまらなかった内容でも、参加者は自由に書き込むことができる。
以下の目的がある場合に、この手法を活用するとよい:
- 参加者に、問題点、提案、または特筆すべき点を共有する最後の機会を提供する。
- 複数のタスクや体験にまたがるような、より広範なフィードバックを収集する。
- 調査側が予期していなかった話題を、参加者が自身の言葉で書き出しやすくする。
例:スマートスピーカー
スマートスピーカー向けの新しい音声コマンド機能をテストしているとしよう。テストの目的の1つは、人々が1日の中のさまざまな活動において、この機能をどのように利用するかを把握することである。
調査課題
「ユーザーは、娯楽、生産性向上、ショッピングといったさまざまな活動において、スマートスピーカーの有用性をどのようにとらえているか」
「音声コマンドを使ってタスクを完了する際、何が助けになり、何が妨げになっているか」
どの活動を行ったかを把握するために、日記のエントリーの冒頭に複数選択式の質問を配置するといいだろう。
| 質問形式 | 例 | 目的 |
|---|---|---|
| 選択式(複数) | 今日、スマートスピーカーを何に使いましたか。(当てはまるものをすべて選択) □ 娯楽(例:音楽再生、ニュースの聴取) □ 生産性(例:リマインダー設定、タスク管理) □ ショッピング(例:買い物リストへの商品の追加、購入) | どの活動を行ったかを特定する |
次に、選択された各選択肢について、参加者に何を行ったのかを記述してもらう自由記述式の質問を追加するとよい。
| 質問形式 | 例 | 目的 |
|---|---|---|
| 自由記述式(出来事の記述) | 今日、スマートスピーカーをどのような娯楽活動に使いましたか。 | 参加者自身の言葉で、コンテキストや理由を把握する |
その活動について、評価尺度を用いたフォローアップ質問を続けてもよい。
| 質問形式 | 例 | 目的 |
|---|---|---|
| 選択式(評価尺度式) | 今日、スマートスピーカーは娯楽用途でどの程度役に立ちましたか。 ○ 1 = まったく役に立たなかった ○ 2 ○ 3 ○ 4 ○ 5 = 非常に役に立った | 有用性に対する認識を測定する |
こうした組み合わせにより、参加者は自分の行ったことを記録し、その有用性を評価することができる。最後に、以下のような振り返りの質問を含めることをお勧めする:
| 質問形式 | 例 | 目的 |
|---|---|---|
| 自由記述式(エントリーの末尾) | 今日のスマートスピーカーの使用で、わかりにくかった点はありましたか。 なぜそう感じたのか、詳しく説明してください。 | 構造化された質問では明らかにならない、ユーザビリティ上の問題やわかりにくい点を特定する |
| 自由記述式(エントリーの末尾) | ご自宅でスマートスピーカーをもっと快適に使えるようにするために、他に何か提案やフィードバックはありますか。 | エントリー内の他の箇所ではとらえられなかった、より広範な振り返りや改善案を参加者が書き込めるようにする |
自由記述式の質問からは定性的な詳細情報が豊富に得られる一方、参加者の負担やデータの一貫性に影響を及ぼすといったトレードオフも生じる。自由記述式の質問では、通常、参加者にかかる負担が増えるため、エントリーの詳しさにばらつきが出ることもある。数文しか書かない参加者もいれば、数ページにわたる情報を記入する参加者もいるからだ。
エントリーが短すぎると重要な詳細を見逃す恐れがある。しかし、長すぎると参加者がうっかり個人情報やセンシティブな情報を共有してしまう可能性がある。こうした回答のばらつきにより、追加のフォローアップ質問や、場合によってはフォローアップインタビューが必要になることもある。
さらに、自由記述式の質問は分析が難しくなる傾向がある。主題分析などの手法を用いる必要が生じたり、定量的な指標を手作業で抽出しなければならない場合があるためである(たとえば、参加者が報告したスマートスピーカーによるさまざまな娯楽活動において、それぞれ何人がそのためにスピーカーを使ったかを数えたい場合は、その情報を自由記述式の回答から抽出する必要がある)。
マルチメディア形式のエントリー
マルチメディア形式の日記のエントリーでは、言葉だけでは伝えきれない視覚的な詳細やコンテキストに関する詳細をとらえるため、参加者に写真、スクリーンショット、音声、または動画を提供してもらう。これらにより、ユーザーの行動の具体的な例が得られ、リサーチャーは参加者が何を見ているかを把握することができる。
以下の目的がある場合に、マルチメディア形式の入力を活用するとよい:
- ユーザー行動の視覚的または聴覚的なコンテキストを把握する。
- 参加者がテキストでは正確に説明しにくい瞬間(例:ジェスチャー、表情、レイアウト)をとらえる。
- プロダクトの使用中に自然に発生するユーザビリティ上の問題やエラー、回避策を(リアルタイムで)特定する。
- 参加者の実際の体験から得られた視覚的な例を用いて、自己申告によるデータの裏づけや検証を行う。
例:学食での食事に関する調査
あなたが大学生の学食での食事習慣を調査するリサーチャーだとしよう。学生が健康的な食事を取ることを後押しする要因やその障壁を理解したいと考えており、特に食事の選択と摂取の瞬間を重点的に調べたいと思っているとする。
調査課題
「学生の学食での食事選択にはどのような要因が影響しているか(例:味、価格、手軽さ、健康面)」
「どのような状況的要因(例:時間的制約、周囲の人々)が彼らの決定に影響を与えているか」
日記のエントリーには、以下のような質問を含めることができる:
| 質問形式 | 例 | 目的 |
|---|---|---|
| マルチメディア形式 | 食べる前に、食事の写真を撮ってください。 | 食事の種類、量、食品の多様性を視覚的に記録する。これは参加者にとって、詳細な食事内容を文字で入力するよりも容易である。 |
| 選択式(単一) | この食事を選んだ主な理由として、最も当てはまるものはどれですか。 ○ 手軽さ ○ 食事制限 ○ 健康 ○ 価格 ○ おすすめ ○ 味 ○ その他:具体的に記入してください | 食事の選択に影響を与える主な要因を特定する。 |
| 選択式(評価尺度) | 今日の食事にどの程度満足していますか。 ○ 1 = 非常に満足 ○ 2 ○ 3 ○ 4 ○ 5 = 非常に不満 | 食事への満足度を測定する。満足度は今後の食事の選択に影響を与えたり、特定の選択を後押ししたりする可能性がある。 |
| 今日は誰と一緒に食事をしていますか。 (当てはまるものをすべて選択) □ 1人(同席者なし) □ クラスメート □ 家族 □ 友人 □ パートナー □ たまたま同席した人 □ その他:具体的に記入してください | 食事の選択や摂食行動に影響を与える可能性のある社会的コンテキストを把握する。 | |
| 自由記述式 | 今日の食事の選択に最も影響を与えたものは何ですか。 | 社会的要因や感情的要因など、意志決定の背景となるコンテキストを提供する。 |
このシナリオでは、マルチメディア形式の質問のほうが参加者が回答しやすい。食事の写真をさっと撮るほうが、詳細な説明を文字で入力するよりも、多くの場合、手早く自然だからだ。また、写真があれば、量やコンテキストなど、参加者の食事の様子をリサーチャーが正確に見て取ることができるが、そうしたことはテキストだけではとらえにくい。
ただし、マルチメディア形式のほうが常に容易であるとは限らない。録画やファイルのアップロードは、特に環境や端末の都合で写真や動画の撮影が不便な場合、参加者の日常のルーティンを乱す可能性がある。分析の観点から見ても、マルチメディア形式のエントリーはリサーチャーにとってより時間のかかる作業となりうる。画像や動画を確認、分類し、安全に保存するには、テキスト回答に比べて手順が増える。また、画像データでは、パターンを抽出したり行動を定量化したりするために手作業でのコーディングが必要になることも多い。
マルチメディア形式のためにかかる労力は状況によって異なるため、マルチメディア形式の質問を取り入れるかどうかは慎重に検討すべきだ。導入の可否を判断する際は、参加者の負担、分析にかかる労力、そしてデータの正確性のバランスを取る必要がある。
質の高い日記エントリーの秘訣
質問形式のバランスを取る
ほとんどの日記調査は、1つの質問形式だけに依存しているわけではない。実際、日記調査では一貫性と詳細さのバランスを取るために、通常、選択式、自由記述式、そして場合によってはマルチメディア形式の質問を組み合わせる。
ただし、留意すべき点として、すべての質問が参加者の負担や分析の負担において同等であるわけではないことが挙げられる。他の質問よりも回答に時間がかかる質問があるということだ。しかし、一般的な目安としては、参加者の負担をまず第一に考え、分析の負担はその次に考慮しよう。
参加者の負担
参加者の負担とは、日記のエントリーを完了するために参加者が費やす時間と労力を指す。選択式の質問は、回答に時間がかからず、認知負荷も軽減されるため、一般的に最も負担が少ない。それに対して、自由記述式の質問は、記憶の再生、振り返り、文字入力を必要とするため、多用すると疲労につながることがある。
マルチメディア形式の質問の場合、参加者の負担の大きさはさまざまだ。たとえば学生の食事に関する調査では、参加者は食べたものを文字で入力する代わりに、食事の写真をさっと撮ることが可能だ。このタスクは負担が少なく、特にテキストメッセージで日記エントリーを提出する場合に有効である。対照的に、スマートスピーカーとのやり取りを録音してクラウドリポジトリにアップロードする作業は、参加者のタスクの妨げとなり、かなりの負担となるだろう。
分析の負担
分析の負担とは、回答を解釈する際にリサーチャーが直面する時間的負担や作業の複雑さを指す。選択式の質問は、コーディングや比較が最も容易である。一方、自由記述式の質問では、リサーチャーが回答を体系的にコーディングし、主要なテーマを特定する必要がある。これには多くの時間がかかるし、バイアスが入り込む可能性もある。
マルチメディア形式のデータは、こうした複雑さをさらに増大させる。たとえば、マルチメディア形式のファイルは管理や安全な保存が難しいことがある。参加者が動画や音声メモを提供する場合、リサーチャーは分析前に内容を文字起こししたり要約したりする必要があり、その分、時間とコストが増える。その後、これらのファイルは、定性的なテキスト回答とほぼ同じように分析されるため、リサーチャーは内容をコーディングし、パターンやテーマを特定する必要もある。
質問形式のバランスを取る際は、分析の負担を最小限に抑えることよりも、参加者の負担を減らすことを優先しよう。質の高いデータは、よく考え、一貫性を持って回答できる参加者から得られるものだ。日記エントリーの負担が大きすぎると、参加者は質問を飛ばしたり、回答を急いだりしてしまう可能性がある。その結果、不完全だったり、信頼性の低い知見しか得られず、調査全体の結論の説得力を弱めてしまいかねない。
エントリー1件あたり5~10分を目安にする
参加者が回答を続けられ、疲労感が生じないように、日記調査のエントリーは短く保とう。参加者は調査期間中、このエントリーに繰り返し記入することになるため、長いフォームは離脱のリスクを高める。日記調査のパイロットテストを実施し、1エントリーの記入が5~10分程度で済むことを確認しよう。15分以上かかると、参加者は質問を飛ばしたり、報告そのものを完全に放棄してしまう可能性が高い。
トレードオフのバランスを取る
それぞれの質問形式が調査の課題や目的に何をもたらすかを慎重に検討しよう。適切な詳細度を把握するために、参加者に負担のかかるタスクが必要になることもあるが、それ自体は問題ない。重要なのは、その調査に本当に必要なものは何か、そして情報に基づいた判断を行う上で「これで十分」と言えるものは何かを見極めることである。
こうした必要性に基づいて、質問形式を組み合わせて活用すればよい。自由記述式やマルチメディア形式の質問を任意回答にすれば、参加者は自分に関係のない質問を飛ばせるため、離脱を防ぐ助けになる。しかし、すべての質問で、長い回答や詳細な回答を求めてしまうと、負担が急速に積み重なり、参加者が徐々に減っていく恐れがある。結局のところ、調査上の必要性と参加者の負担とのバランスを取ることが、最も価値のある知見をもたらすことになるだろう。
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