ジャーニーマップ作成の基礎

ジャーニーマップとは、1人のユーザーが目的を達成するためにたどるプロセスを視覚化したものである。

ジャーニーマップはよく使われるUXのツールだ。あらゆる形やサイズ、フォーマットがあり、コンテキストに応じてさまざまな方法で利用できる。この記事では、ジャーニーマップとはどういうものか(そして、どういうものがジャーニーマップではないのか)、関連用語、よく使われる変化型、ジャーニーマップの活用方法といった、ジャーニーマップの基本を取り上げる。

また、カスタマージャーニーマップは、いつどのように作るべきかその5段階のプロセスジャーニーマップ作成の実際を論じた記事も閲覧可能である。

ジャーニーマップの定義

定義:ジャーニーマップとは、1人のユーザーが目的を達成するためにたどるプロセスを視覚化したものである。

もっとも基本的な形式のカスタマージャーニーマップの場合、マップ作りは、ユーザーの一連の行動を時系列にまとめることから始まる。次に、そのあらすじをそのときのユーザーの思考や感情で肉付けして、物語にしていく。そして、この物語を凝縮して、練り上げ、最終的に視覚化する。

カスタマー/ユーザージャーニーマップ
ほとんどのジャーニーマップは似たような形式を取る。一番上は、特定のユーザーと特定のシナリオ、そして、該当する期待または目的がくる。真ん中部分は、ユーザーの行動と思考、感情によって構成される上位のフェーズだ。一番下は、マップから導き出される重要なポイントである、取り組むべき状況や知見、社内の担当となる。

「ユーザージャーニーマップ」と「カスタマージャーニーマップ」は言い換え可能だ。どちらも1人のユーザーの製品やサービスの利用を視覚化したものだからだ。「カスタマー(顧客)」という用語はこの手法には使えないという主張もあるが(特にある種のB to B製品では、すべてのエンドユーザーが厳密な意味でのカスタマー、たとえば製品購買担当者であるとは限らないため)、マップをどう呼ぶかについて整合を取るのは、マップ内のコンテンツの整合を取ることに比べれば、さほど重要ではないだろう。

ジャーニーマップの主要な構成要素

ジャーニーマップにはあらゆる形やサイズ、フォーマットがある。しかし、その見た目がどうであれ、ジャーニーマップは以下の5つの重要な要素を共通してもっている:

1. 出演者

出演者とは、そのジャーニーを経験するペルソナ、つまり、ユーザーのことだ。出演者はそのジャーニーマップが誰についてのものか、すなわち、誰の視点からのマップかということを示す。通常、出演者はペルソナと一致しているので、マップ内の出演者の行動はデータに基づいている。

1つのマップで提供する視点は1つのみとし、強力で明確な物語を構築しよう。たとえば、ある大学が出演者として選ぶのは、学生の場合もあれば、教職員の場合もあるだろうが、それぞれのジャーニーは異なるものになるはずだ。(両方の視点をとらえたいなら、この大学は2つのユーザータイプのそれぞれについて、2つ別々のマップを作成する必要がある)。

2. シナリオ + 期待

シナリオとは、ジャーニーマップが取り組む状況を記述したもので、出演者の目的またはニーズと具体的な期待が付随する。たとえば、お金を節約するために携帯電話の料金プランを変更するというシナリオがあるとする。そのシナリオでの期待には、決断を下すために必要なすべての情報を見つけやすいこと、というのがあるだろう。

シナリオは、(既存の製品やサービスのための)現実的なものもあれば、まだデザイン段階にある製品のために想定されたものの場合もある。

ジャーニーマップは、(買い物や旅行のような)連続したイベントが含まれていたり、プロセス(つまり、時間とともに一連の遷移が生じる)を説明したり、複数のチャネルが含まれる可能性のあるシナリオに最適である。

3. ジャーニーのフェーズ

ジャーニーのフェーズとは、そのジャーニーにおける上位レベルの段階のことだ。組織はジャーニーマップ内の残りの情報(ユーザーの行動や思考、感情)をここで得ることができる。段階というのはシナリオによって変わってくる。とはいえ、それぞれの組織で、所定のシナリオに対してどういうフェーズにするのかを決めることを可能にするデータを持っていることが多いだろう。以下にいくつかの例を示す:

  • eコマースのシナリオの場合(たとえば、Bluetoothスピーカーの購入など) 、そこでの段階は、発見、お試し、購入、使用、サポートの依頼など。
  • 高額な(高級品の)購入の場合(たとえば、試乗してからの車の購入など)、そこでの段階は、関与、体験、探求、評価、購入の正当化など。
  • B2Bシナリオの場合(たとえば、社内ツールの公開など)、そこでの段階は、購入、採用、保有、展開、支援など。

4. 行動や考え方、感情

出演者のジャーニー中の行動や思考、感情のことで、ジャーニーの各フェーズ内にマッピングされる。

行動とは、ユーザーが取る実際の行動や手順のことだ。この要素の目的は、順を追って細かい粒度で個々のインタラクションを記録していくことではなく、出演者がそのフェーズでおこなった手順を物語にして語ることにある。

考え方は、ジャーニー中の各段階でのユーザーの思考や疑問、動機、情報ニーズに該当する。ここでは、調査での顧客の発言をそのまま使うのが理想である。

感情は、ジャーニーの全フェーズにまたがる1本の線として描かれ、その体験での感情的な「上がり」「下がり」を文字どおり示す。この線は、どこでユーザーが喜んだり、不満を抱えたりしているかを教えてくれる、感情のコンテキストレイヤーとして考えるとよい。

5. 取り組むべき状況

取り組むべき状況というのは、(社内担当や指標などの追加的なコンテキストとともに)マップ作成から得られる知見のことで、どうやったらそのユーザーエクスペリエンスを最適化できるかの回答を与えてくれるものだ。知見や取り組むべき状況は、チームが以下のような情報をマップから引き出すのに役に立つ:

この情報を用いて何をやるべきか。

誰が担当して、どんな変更をするのか。

最も取り組むべき状況は何か。

実装する改善案をどのように測定するのか。

カスタマージャーニーマップ例(携帯料金プランの変更)
「行ったり来たり大忙しのJamie」というペルソナが、携帯電話の料金プランをどのように変更するかを描いた、シンプルな上位レベルのカスタマージャーニーマップの例。包括的なジャーニーマップは常に主要な構成要素を含むべきだが、そのマップでどの構成要素を優先しようとするのかは、ジャーニーマップ作成という取り組みのゴールによる(また、そうすべきである)。(参考までに、ジャーニーマップのテンプレートが利用可能である)。

ジャーニーマップの変化型

ジャーニーマップには、密接な関係にあるため、混同されやすい概念がいくつかある。

このセクションの意図は、単にあなた方個人がそうした用語を理解し、混乱しないですむようにすることだ。ここに書かれている定義にしたがい、組織全体の言葉の使い方の変更について話し合ったり、努力したりすることを勧めているわけではない。そうではなく、あなた方のチームでこれまで検討してこなかった手法の特徴のガイドとして、ここでの定義を利用してほしい。

ジャーニーマップ vs. エクスペリエンスマップ

エクスペリエンスマップは、ジャーニーマップの親だと考えればよい。ジャーニーマップは特定の出演者(ある製品の1人の顧客またはユーザー)と、(ある製品やサービスについての)特定のシナリオをもつ。一方、エクスペリエンスマップはその双方について範囲がより広く、一般的なユーザーが経験する一般的なエクスペリエンスが対象である。

エクスペリエンスマップは特定のビジネスや製品の情報を伝えるのではなく、人間のある一般的な行動を理解するために用いられる。対照的に、カスタマージャーニーマップは具体的で、特定のビジネスや製品に焦点を当てている。

例として、ライドシェア市場(UberやLyft、Bird、Limebikeなど)が存在する以前の世界について想像してみよう。1人のユーザーがある場所から別の場所へどのように移動するかについてのエクスペリエンスマップを作成しようとすると、そのマップには、徒歩、自転車、車の運転、友達の車に同乗、公共交通機関、タクシーの呼び出しなどのエクスペリエンスが入ってくるだろう。我々はそのエクスペリエンスマップを利用することで、料金が不明なこと、悪天候、タイミングが予測不可能なこと、現金での支払い、といった問題点を特定することができる。そして、こうした問題点を用いて、ある特定のタイプのユーザーがLyftのアプリを使ってどのように車を呼ぶのか、という、特定の製品の未来のジャーニーマップを作成することができるだろう。

ジャーニーマップ vs. サービスブループリント

ジャーニーマップがエクスペリエンスマップの子どもなら、サービスブループリントはエクスペリエンスマップの孫だ。サービスブループリントは、ある特定のカスタマージャーニーのさまざまなタッチポイントにおける(人やプロセスなどの)サービス要素間の関係を視覚化する。

サービスブループリントは、カスタマージャーニーマップの第2部と考えるとよい。この手法はジャーニーマップの拡大版といえるが、ユーザーに焦点を当てる(そして、ユーザーの視点からとらえる)のではなく、焦点を当てるのはビジネス自体である(そして、ビジネスという観点で考える手法である)。

上記のLyftのシナリオでいうと、先ほどのジャーニーマップを受けて、そのカスタマージャーニーをサポートするためにLyftの社内ですべき事柄によって、カスタマージャーニーマップを拡張していけばよい。このブループリントには、ユーザーとドライバーとのマッチング、ドライバーへの連絡、運賃の計算などが含まれることだろう。

ジャーニーマップ vs. ユーザーストーリーマップ

ユーザーストーリーは、機能や機能性を計画するためにアジャイルで利用されている。各機能はユーザーの観点からみた簡潔な説明に意図的に凝縮される。この説明では、ユーザーが何をしたいのか、そして、その機能がどのように役立つか、に焦点が置かれる。ユーザーストーリーの典型的なフォーマットは、「[ユーザータイプ]として、私は[目的]をしたい、そうすれば[メリット]がある」という一文である。たとえば、「当座預金の口座名義人として、私は自分のモバイルデバイスで小切手を入金したい。そうすれば、銀行に行かずにすむ」となる。

ユーザーストーリーマップはユーザーストーリーのビジュアル版だ。たとえば、上記のユーザーストーリー(「当座預金の口座名義人として、私は自分のモバイルデバイスで小切手を入金したい。そうすれば、銀行に行かずにすむ」)を受けて、その機能を利用するときにユーザーがおこなうだろうとチームで想定した手順を書き出すとする。そうした手順には、ログイン、入金手続きの開始、小切手の撮影、取引の詳細情報の入力などがあるだろう。そして、手順ごとに、カメラにアクセスできること、小切手のスキャン、数字の自動入力、署名の承認などの必要な機能を書き留めていけばよい。ユーザーストーリーマップでは、こうした機能は付箋に書かれて、機能の追加先となる製品リリースごとに分類される。

ユーザーストーリーマップは一見、ジャーニーマップのように見えるかもしれない。しかし、ジャーニーマップの目的が発見と理解(大局的にとらえる)であるのに対し、ユーザーストーリーマップは計画と実装(局所的に考える)のためにある。

ジャーニーマップとユーザーストーリーマップには同じ情報が含まれていることもあるが、そうした情報はプロセス内の異なるタイミングで利用される。たとえば、先ほどのLyftのジャーニーマップから、ユーザーが大人数の団体だった場合に問題が生じる、ということが示されたとする。この問題に対応するために、チームは複数の車の呼び出しというオプションを導入するかもしれない。ユーザーストーリーマップを作成すれば、この機能(複数の車の呼び出し)を細分化できる。その結果、製品開発チームはリリースサイクルと該当するタスクの計画を立てることができるだろう。

ジャーニーマップを利用する理由

ジャーニーマップ(と他の大半のUXマップ作成)のメリットは2つある。1つ目は、マップを作成するというプロセスによって、話し合いをせざるをえないので、チーム全体のメンタルモデルが強制的に一致することだ。組織には、断片的にしか理解していない、という問題が蔓延している。成功指標が部門ごとに異なっているのがその理由だ。ユーザー視点で全体のエクスペリエンスを見るという責任を負っている人が誰もいないからである。ビジョンの共有こそがジャーニーマップ作成の重要なゴールだ。なぜならば、それ抜きでは、カスタマーエクスペリエンスの改善方法について合意することは不可能だからである。

2番目は、マップを作成することによって得られる中間生成物をシェアすることで、ユーザーやサービスについて理解したことを関係者全員に伝えられることだ。簡潔で記憶しやすく、また、共有ビジョンが作り出せるように情報を伝達する仕組みとして、ジャーニーマップは有効だ。さらに、マップ自体が、チームが前進するにあたっての意思決定の土台にもなる。

結論

ジャーニーマップの作成は、一連のインタラクションにおける顧客の不満と喜びの瞬間を明らかにすることで、彼らのエクスペリエンスを全体的な視野でとらえるプロセスといえる。成功すれば、取り組むべき状況が明らかになり、顧客の問題点に取り組んで、情報の断片化を緩和することで、最終的にはユーザーのためにさらに良いエクスペリエンスを作り出すことができるだろう。

ジャーニーマップ作成について、さらに詳しくは、我々のトレーニングコース、「Journey Mapping to Understand Customer Needs」にて。

添付書類

NN/g Journey Mapping Template (PDF)