これまでのUXは終わり、新たなUXへ

企業は、プロダクトレベルの狭いUXの視点から、顧客ライフサイクルにわたる体験を包括的にとらえる視点へと移行しなければならない。

長年にわたり、経営者たちはUXへの投資の価値に疑問を呈してきた。そして、今、成熟したデザインシステムが整備され、AIによる自動化が期待されるなかで、従来のインタフェースレベルのデザイン作業は重要でないように思えるのかもしれない。

しかし、この見方はUXの価値が向かう方向を根本的に誤解している。次なるフロンティアは、個々の画面やワークフローを完璧にすることではなく、数か月にわたり複数のチャネルやテクノロジーにまたがって展開されるカスタマージャーニー全体を、最大の効果が得られるように構成することだからだ。進化する準備ができている企業にとって、この変化は、永続的な競争優位性を確立する大きなチャンスとなるだろう。

UXは終わったのか

最近のUX人材の大量解雇や、AIがプロダクトデザイナーに取って代わるという憶測は、一部の経営者が、顧客への価値はビジネスへの価値である、という基本的な真理を忘れていることを示している。こうした価値の交換こそが、満足度とロイヤルティの高い顧客を生み出すのである。

UXの価値を主張することは、従来から一部の企業にとっては常に難しいことだったが、かつてUXを重視していた企業ですら、UX関連の職を削減し始めている。かつては問題解決という影響力のある取り組みに調査や戦略のスキルを活用していたUX実践者たちは、いまや自分たち自身がコモディティ化されていると感じている。ユーザー中心とはまったく思えないビジネス上の指示に従って、ただピクセルを操作するだけの存在に貶められていると感じている、というのである。その一方で、経営者たちは、次の四半期の株主報告書に向けた短期的な小手先の改善を追求するあまり、近視眼的な意志決定を下している。

1990年代、ドン・ノーマンとヤコブ・ニールセンが先頭に立ってUXの定義に取り組んでいた頃、UXの価値はかなり明白だった。人々は、そのテクノロジーを使いこなせないのであれば、採用しようとはしなかったからだ。この考え方はうまく機能し、我々のUXスキルは、今日、世界全体を動かすデジタルシステムの構築に貢献したのである。

それから30年近くが経過し、デジタルビジネスのエコシステムは成熟した。多くの企業では、確立されたデザインシステムが整備されており、経営者たちはやるべきことはもう終わったと考えているようだ。すなわち、すべての問題はすでに解決され、ユーザー中心のデザインにこれ以上資金を投じる必要はないというのである。顧客が何を必要としているかはすでにわかっており、今ではそうしたシステムを迅速かつ容易にデザインできる、と。

しかし、これは近視眼的な結論である。

UXの新たなパラダイム

この結論を導くような真実も多少存在するようには思う。プロダクト中心のデザインを通じて、我々は、最も効果的なフォームのデザインボタンの文言に至るまで、(プロダクトのインタフェース内という)ミクロなレベルでユーザーエクスペリエンスを最適化してきた。しかし残念ながら、今日では、プロダクト中心のデザイン改善によって大きなビジネス価値が生まれる可能性はもはや低くなっている。だが、だからといって、我々はもう用済みになったというわけではない。

UXにはまだ多くの革新の余地があり、問題解決の機会も数多く存在する。UXは依然としてビジネス価値をもたらすことができる。この分野は転換点にある。顧客がチャネルのエコシステムを横断しながら長期にわたって得る、マクロな体験の最適化に焦点を移す必要がある。

モバイルコンピューティングが登場する前は、プロダクトとのインタラクションをデザインするだけで十分だった。しかし、人々は今やブランドと強く結びつくようになり、プロダクトとのインタラクション以外でも、Eメールプッシュ通知テキストメッセージなどを受け取っている。その結果、これらすべてが、かつてないほど密接につながったストーリーをかたちづくることになった。

プロダクトのUIから、ジャーニーのためのデザイン(ジャーニー中心のデザイン)へと焦点を移すことで、企業はミクロなレベル(プロダクト内のインタフェース)とマクロなレベル(さまざまなチャネルやタッチポイントを通じて、時間をかけて提供するサービス)の両方でユーザー中心の原則を適用し、顧客に提供する価値を高めることが可能になる。

これもまたUXである。しかし、それはインタフェースを超えてUXを適用し、カスタマーエクスペリエンスの全体像を積極的に受け入れ、向き合うというものだ。こうした人間的な要素に焦点を当てることをやめてしまうと、それを重視する競合他社に追い抜かれるリスクがあるだろう。

新しいUXとは、瞬間ではなく映画を作ること

こうしたことすべてが、私が観たウォルト・ディズニーについてのドキュメンタリーを思い出させる。プロダクト中心のUXデザインが短編アニメーションであったとすれば、我々は長編アニメーション映画を作るような方向に技術を進化させていくべきだ。

ディズニーは、初期に『蒸気船ウィリー』や『シリー・シンフォニー』といった短編アニメーション作品で成功を収めた。技術革新、経済的要因、観客の需要、感情に訴えるストーリーテリングへの信念、創造的野心、そしてリスクを取る意志が相まって、彼は長編アニメーションへと舵を切った。彼の最初の長編アニメーション映画『白雪姫』(1937年)は、業界に革命をもたらした。

ディズニーのように、我々もその瞬間だけでなく、より広範な体験をデザインすべきである。タッチポイントの体験は、我々が創造しうるより広範な感情的ブランドストーリーの中の一場面である。我々は、瞬間それ自体と、そうした瞬間がどのように結びついて長編映画を形作るのかの両方を最適化するために、システム的思考を用いなければならない。

コンピュータのオペレーティングシステムが時間の経過とともに古くなり、変化に対応できなくなって、効果的に処理できなくなるのと同じように、企業の運営システムも古くなる。新たなデジタルビジネスの時代に競争していくには、ユーザーエクスペリエンスの運用アプローチをジャーニー中心のデザインに対応できるように早急にアップデートする必要がある。

ジャーニー中心のデザイン+AI:成功のレシピ

このように、ユーザー中心のデザインをビジネスに適用する方法を根本から変化させることで、4つの大きなメリットが生まれる:

  1. デザインイノベーションの機会の増加、その結果としてのビジネス成果の改善
  2. CXとUXの運用の連携による、より戦略的かつビジネス主導のサービスの提供
  3. より高度な分析と、デザインによって収益を生み出すジャーニーにもたらされる投資収益率(ROI)を測定する能力
  4. AI駆動のソリューションにより、サービス提供をパーソナライズし、ビジネス成果を改善する機会

この変化にうまく対応できる企業にとって、AIは大きな役割を果たすだろう。しかし、時代遅れの運営システムにAIを適用しても、その効果は限定的で、すぐに頭打ちになるはずだ。高性能なプログラムを10年前のコンピュータで走らせたところで、実際にどの程度のことができるというのか、ということだ。

企業の運営システムをアップグレードすることで、AIをより有効に活用できるようになる。これに人間中心のバリュープロポジションを組み合わせることで、収益性を最大限に高めることができるだろう。