モバイルプッシュ通知のデザインにおける5つの間違い

アプリの通知を受け取るようにユーザーに求める前に、その価値を彼らに提示しよう。さらに、何についての通知であるかをユーザーに伝えるとよい。通知は一気に送信してはならない。また、通知は容易にオフにできるようにしておこう。

モバイルプッシュ通知は、適切におこなわれれば、ユーザーに関連のある情報を提供して彼らにアプリの利用を促すことができる。しかし、実装が不十分だと、通知のせいでユーザーがアプリとのインタラクションをやめてしまうこともあるし、さらにひどくなると、アプリ自体を削除してしまうこともある。

スペインのTelefonica Research (Pielot 2018)の調査によると、2016年に平均的な携帯電話ユーザーは1日あたり56件の通知を受け取っていた。今はもっと多いのではないだろうか。通知を適切に設計する必要があるのは間違いない。さもなければ、ユーザーエクスペリエンスに大きな悪影響を及ぼすだろう。通知は次々に来るのだから。

通知は、通常、ユーザーの直接的な行動によって発動するわけではない。だが、ユーザーにとって(おそらく)何らかの意味があるイベントを知らせるものだ。通知には、ユーザーのアクションが必要なものと受動的なものという、主に2つの種類がある。アクション要求型の通知は、その名前が示すように、通知で受け取った情報に基づいてユーザーが行動を起こす必要のある通知だ。受動型の通知は単に情報提供をするためのものだが、プッシュ通知の大半は受動型である。

メールを受け取ったら、すぐに読まなければと思うことはないだろうか。そのメッセージが重要な場合や一刻を争う内容の場合はそうするほうがいいだろう。しかし、そのメッセージが重要でない場合は、それに気を取られ、それを読んだことで時間を無駄にした、と不愉快になることもあるだろう。プッシュ通知も、同じ理由でユーザーの邪魔になる可能性がある。

通知は、ほぼすべての種類のユーザーインターフェースで起こる。たとえば、Windows 10では、通知は、通常、タスクバーからスライドアップして短時間だけ出る「トースト」して表示されるか、タスクバーの通知専用エリアに小さなアイコンとして表示される。聴覚インターフェースで通知が特に邪魔になるのは、ユーザーの思いもよらないときにシステムが通知メッセージを読み上げ始めた場合だろう。この記事では、モバイルデバイスでの通知に焦点を当てる。モバイル通知は(適切に利用されれば)、非常に役に立つ可能性がある。多くの人はモバイルデバイスをほとんど常に持ち歩いているので、重要なイベントについてはその発生時間がいつであろうと、それについて知らせることが可能だからだ。

この記事では、モバイルアプリでよく目にする、以下の5つのプッシュ通知に関する間違いについて説明する。

  1. ユーザーに通知を有効にするよう、最初の起動時に要求する
  2. 通知にどんな情報が含まれるのかをユーザーに伝えない
  3. 通知を一気に送信する
  4. 関連のない内容を共有する
  5. 通知をオフにしにくい

間違いその1:ユーザーに通知を有効にするよう、アプリを初めて起動した直後に要求する

アプリをダウンロードしたばかりのユーザーは、アプリがもたらすことになる価値を必ずしも明確に理解しているわけではない。つまり、その時点では、アプリはまだユーザーの信頼を得ていない。にもかかわらず、ユーザーの画面に入り込む許可を求めているということになる。一体、ユーザーはアプリの通知から何を得られるのか、ということだ。

このルール違反はあまりにも頻繁に発生するため、ユーザーはもはや許可を求めるメッセージをほとんど読んでいない。私たちの実施した調査では、そうしたメッセージへの対応として、「許可しない」(Don’t allow)を即、クリックする人が多かった。代わりに、アプリは相互主義を活用すべきであり、最初にユーザーに何らかの価値を提示する必要がある。まずはユーザーにアプリを経験してもらおう。そして、ユーザーが次に利用したときに初めて、通知を受け入れてくれるように依頼するとよい。

してはいけないこと

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写真のプリントを注文するためのアプリのFreePrintsは、「始めよう」(Get started)というページに遷移するシンプルなスプラッシュ画面で新規ユーザーを出迎える。しかし、ユーザーがこのページにある宣伝文句を読む間もなく、メッセージが割り込んできて、彼らに通知の許可を求める。FreePrintsは、ユーザーがどんな種類の通知を受け取ることになるのか、また、通知の内容がなぜユーザーにとって価値があるのかを伝えることを怠っている。

すべきこと

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モバイルゲームのConquestは、ユーザーにアプリを経験してもらってから、通知を有効にするように依頼する。このゲームでは、プレイヤーは複数のタスクを完了すると、ステータスとレベルを上げることができるが、プレイヤーとしてのレベルが1つ上がったところで初めて、ユーザーは通知を有効にするようにゲームから求められる。

間違いその2:通知にどんな情報が含まれるのかをユーザーに伝えない

“X 社は通知を送信します。よろしいですか?」というiOS がユーザーに送信する一般的なメッセージについて考えてみよう。このメッセージは、ユーザーがこの会社から得られることではなく、この会社がユーザーに求めていることに焦点を置いている。(ソーシャルメディアやニュースアプリなどの)一部のアプリでは、ユーザーは通知に表示される情報の種類について合理的に推測することも可能だろう。だが、ショッピングやエンターテイメント系アプリから送信された通知の内容はより推測しづらい。通知の性質に関する詳しい情報があれば、その通知が自分に必要なものかどうかがユーザーにもわかるし、アプリの知覚される信用性や信頼性を向上させることもできるだろう(結局のところ、通知について正直に透明性を保つようにすればよいということであり、ユーザーをだまして通知を受け入れさせようとしてはならない)。

何についての通知であるかを伝えて、ユーザーがあなた方の依頼を受け入れてくれる確率を上げよう。

してはいけないこと

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料理の動画やレシピを収録しているTastyアプリには、通知に載ることになる情報についての説明がない。ユーザーは、Tastyがなぜ自分に通知を送信したいのか、そして、その通知の中身は自分の見たいものなのかどうかということを考え込んでしまい、前に進めなくなっていた。

すべきこと

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ARプラネタリウムアプリのNight Skyには、通知の内容の説明がある(天体観望条件や物体の上昇時間など)。ユーザーに通知を有効にするように求める前にアプリ側でこうした情報を提供することで、ユーザーは情報に基づいた意思決定を行うことができる。

間違いその3:通知を一気に送信する

誰かに玄関のベルをしつこく鳴らされたことはないだろうか。通知が一気に来たことでインターフェースから受ける印象がまさにこれだ。短い間隔で大量に通知を受け取ると、ユーザーは圧倒されてイライラし、通知をオフに(あるいは、もっとひどい場合は、アプリを削除)してしまいかねない。言うまでもなく、たびたびの通知はずさんで素人っぽい感じ、もっと言えば、注目を求めているように見え、悪い印象がユーザーにずっと残るだろう。

ユーザーの画面をいくつもの通知で塞ぐのではなく、数を絞った通知を意味のあるやり方で送信しよう。一度に送信しなければならない通知が 5個以上ある場合は、それらを1つのメッセージにまとめるとよい。量よりも質への転換を図ろう。そうすれば、必ずユーザー満足度が向上するはずだ。

してはいけないこと

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To-DoリストアプリのWunderlistは、期限が来ているタスクの通知を1つ1つ送信する。リマインダーを通知で受け取るのは、その量の多さに圧倒されない限りは有用である。しかし、期日が同じ項目が複数あると、一気に通知が来ることになる。

すべきこと

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Instagramは、投稿した写真に複数のユーザーから「いいね!」(like)があると、そうした通知を1つにまとめる。この事例では、Instagramは11個の別々の通知を送信するのではなく、1つだけ通知を送信し、そこに2人のユーザーの名前とそれ以外のユーザーの人数を入れている。(名前を挙げる2人のユーザーは、投稿したユーザーにとって最も重要と思われる人たちであって、単に直近に「いいね!」をしたユーザーではないのが理想だ)。

注:iOS 12は、1つのアプリの全通知を1つのスタックにまとめることで、一気にくる通知に対処しやすいようにしている。しかし、同様の通知が10個もまとめられていると、最悪、ユーザーが圧倒されてしまうし、良くても、退屈である。一気に送信される通知への対応をオペレーティングシステムに任せるのはやめよう。

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iOS 12は、1つのアプリからの通知をすべて、1つのアラートの下にまとめる(左)。そうしたスタックの1つをタップすると、そのアプリからのすべての通知の一覧が表示される(右)。

間違いその4:関連のない内容まで共有する

通知はどんなものであっても割り込みになる。我々の注意を引いて、その通知に注目を集めることを目的としているからだ。メッセージが自分に関連がないと、そうした割り込みはイライラするものだ。受信トレイの未読メッセージをゼロにしておきたい人というのはいるが、スマートフォンのロック画面に出ている通知をチェックして片付けてしまいたい人もいる。そのユーザーが後者のグループの場合、自分に無関係な通知をスワイプしてどけるのは、なおさら手間のかかる面倒くさい作業と感じられることだろう。

アプリで発生する細かい事柄に関する通知をユーザーにいちいち送信するのは大きな間違いである。通知が画面にポップアップするたびに、ユーザーをあきれさせるようなアプリにするべきではない。また、「まぁ、ユーザーが設定でオフにすればいいわけだし」と自分たちの行動を正当化すべきでもない。そうではなく、ユーザーに情報を提供して、アプリに関与してもらうために、通知にはユーザーに関連の高い内容を記載しよう

してはいけないこと

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個人間送金アプリのVenmoは、取引が発生するたびに(そのユーザーが関わっていない場合にも)通知を送信する。このアプリにはフィードがあり、いつ自分の友人が他の誰かにお金を送信したのかがわかる。アプリを利用するとき、この機能は迷惑というほどではない(少し不思議ではあるが、邪魔にはならない)。しかし、こうした内容の通知はメインユーザーと関連がない。彼らには関わりのない内容だからだ。

すべきこと

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Reddit(訳注:アメリカの巨大オンライン掲示板)は、フォローしているsubreddit(訳注:2ちゃんねるの「板」にあたる)に話題になっている投稿があると、ユーザーに通知を送信する。購読しているsubredditでの人気のある投稿に関する通知は、ユーザーにも関連があり、彼らもアプリを開いてさらにコンテンツを探索する気になるだろう。

ユーザーが通知の頻度と関連性の両方をさらにコントロールできるのが理想だ。もしかしたら、ある期間内の通知の最大希望数を指定するとか、あるいは、通知を発動するイベントには一定以上の重要度を求めるというのもあるかもしれない。後者の機能をユーザブルにするのは容易ではないが、ユーザーが重要度を指定しやすいドメインの場合は極めて有効だろう。しかし、調査によると、カスタマイズしたほうが長い目で見ればかなり便利な場合も、ほとんどのユーザーはわざわざシステムをカスタマイズしたりはしない。したがって、ユーザーが自分のプリファレンス設定を変更できるようにしているということは、デフォルトの設定のままで使い続ける多数のユーザーに、あまりにも多くの(あるいはどうでもいいような)通知を配信するための言い訳にはならない。

間違いその5:通知をオフにしにくい

ユーザーが通知をオフにしようとする理由はさまざまだ:

  • 受け取る通知が全体的に多すぎる。
  • 以前ほど、その通知の内容の関連性または重要度が高くない。
  • 通知で気が散ると感じる。

理由がなんであれ、通知をオフにする機能がなかなか見つからないようにするのは禁物だ。それはユーザーをだまそうとする行為であり、企業やアプリへの信頼性を低下させて、まさにアプリを削除する理由をユーザーに与えることになるからだ。

アプリの通知は単純明快なやり方ですぐにオフにできなければならない。ユーザーがアプリ内で通知の設定を編集できるようにしよう。そうすれば、彼らはスマートフォンOS側の設定に移動しなくて済む。さらに、この機能はユーザーの期待に沿うようにアプリの「設定」セクションに配置し、彼らが確実に見つけられるようにしよう。

してはいけないこと

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経済関連のニュースの配信に特化したアプリである、The Economic Timesでは、それらしき表現があるにもかかわらず、ユーザーはアプリ内で通知の設定を変更することができない。ハンバーガーメニューには、「通知ハブ」(Notifications Hub)(左)と「設定」(Settings)(右)という、通知の設定を変更できそうだとユーザーがいかにも思いそうな場所が2箇所ある。しかし、「通知ハブ」には、通知の変更に関する情報は一切ない。また、「設定」ページでも、ユーザーが通知設定を編集することはできない。通知を変更するには、ユーザーはスマートフォン全体の通知設定に行く必要がある。

すべきこと

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脳トレーニングアプリのElevateでは、ユーザーはアプリ内で通知設定を編集することが可能だ。「設定」(Settings)ページ(左)に移動し、「プッシュ通知」(Push Notifications)を選択して、各種プッシュ通知のトグル状態を変更できるページ(右)に移動すればよい。

結論

通知は、関連がないと邪魔になり、ユーザーをいらつかせる。マイナスの感情を引き起こすリスクは冒さないほうがよい。プッシュ通知を送信する許可を求める前に、ユーザーがあなた方のアプリを経験できるようにして、そのバリュープロポジションを理解してもらおう。どんな種類の通知を送信するのかも伝えるとよい。また、ユーザーがアプリの通知設定をすぐに見つけられて、編集できるようにしよう。そして、通知は一気に送信しないようにして、現在、ユーザーに関連の高い内容を共有することにしよう。

モバイル通知と関連するトピックについて、さらに詳しくは、我々のレポート『UX for Mobile Applications and Websites』にて。

参考文献

Martin Pielot, Amalia Vradi, and Souneil Park (2018): Dismissed!: a detailed exploration of how mobile phone users handle push notificationsProceedings MobileHCI ’18 Conference.