カスタマーエクスペリエンスにおける3つのレベルのペインポイント
ペインポイントとは、カスタマーエクスペリエンスのさまざまなレベルで発生する問題のことであり、インタラクションレベル・カスタマージャーニーレベル・関係性レベルのペインポイントがある。
UXの専門家は、ユーザーの目標達成にできるだけ効果的に貢献するエンドツーエンドのカスタマーエクスペリエンスを作リ出すことを目指している。そのために、ユーザー調査を行い、ユーザーとそのニーズ、さらにそうしたニーズに彼らが取り組む際に遭遇する可能性のある障害を理解しようとするのである。このような障害を我々は通常、ペインポイントと呼んでいる。ペインポイントとは、製品やサービスに関するカスタマーエクスペリエンスにおける問題のことである。
「カスタマーエクスペリエンス」という言葉は、ペインポイントを定義する上で非常に重要だ。我々は、他の記事で、カスタマーエクスペリエンスを、インタラクションレベル・ジャーニーレベル・関係性レベルという3つのレベルから成ると定義した。1つのペインポイントは、この3つのレベルのいずれにおいても問題になる可能性がある。つまり、あるペインポイントは、インタフェースとの特定のインタラクションに関連していることもあれば(この場合、その問題は、通常、ユーザビリティ問題と呼ばれる)、顧客が目標を達成しようとしているときのジャーニーに関連していることもあれば、顧客の企業との長期的な体験に関連していることもあるのである。
ペインポイントの具体例
ではまず、こうした3つのレベルのペインポイントの例をいくつか見てみよう。
1. インタラクションレベルのペインポイント:サポート担当間でたらい回しにされる
カスタマーサポートに電話し、必要事項を伝えたところ、「その要求を処理できるはず」の別の部署に回されただけだった、という経験は誰にでもあるだろう。この場合、時間が無駄になるだけでなく、また一から問題を説明する必要もある。しかも、言われる内容が食い違っていることも少なくない。こうしたやり取りは、時間の無駄であるし、混乱を引き起こす。
2. ジャーニーレベルのペインポイント:注文をしたのに、何か月も受け取れない
私は最近、Pelotonの自転車を購入した。注文後に、その自転車は3か月後に配送されるという連絡があった。この納期の長さにはがっかりしたが、新型コロナウイルスの流行中に自転車の需要が高まったことを考えると、ある程度予想されたことではあった。しかしながら、3か月も待ったところで電話が来て、NN/gのUXカンファレンスでの講演中にその自転車が配送される予定だと言われた。そこで、カスタマーサポートに配送スケジュール変更のための電話をすると、指定された日時に受け取るか、それとも配送予定をさらにまた3か月後に変更するか、という選択を迫られた。このジャーニーのペインポイントは、ジャーニーの始まり(自転車の購入)からジャーニーの終わり(自転車に初めて乗る)までの期間が長いことだ。さらに、配送の待ち時間について前もって教えてくれなかったこと、配送日を変更するにはカスタマーサポートに電話する必要があったこと、指定できる配送スケジュールに融通がきかないこともペインポイントだった。
3. 関係性レベルのペインポイント:サービスに対してお金を払っているにもかかわらず、広告を見なければならない
私はテレビ番組を視聴するためにHuluにお金を払って会員になっている。しかしながら、それにもかかわらず、広告が定期的に出てくるのである。これは他のストリーミングサービス(NetflixやHBO Maxなど)と比べると異常なことで、ユーザーとしての私の期待に応えていないし、業界の基準も満たしていない。したがって、そうした広告は、私とHuluとの全体的な関係におけるペインポイントである。つまり、金銭的な貢献をしたにもかかわらず、相応の報酬が得られないので、この企業に対する信頼が低下したということだ。それだけでなく、この広告のせいで、ネットの掲示板を読んだり、Huluのサポートに問い合わせをしたりしてこの問題を解決するのに時間を費やす羽目になったが、結局、それはうまくいかなかった。
ペインポイントは多様である。広範なものもあれば具体的なものもあるし、重大なものもあれば比較的重要でないもの、明白なものもあれば隠れているものもある。ペインポイントの特定は、ユーザーの真のニーズに応える解決策を生み出すための第一歩なのである。
ペインポイントとユーザビリティ問題
UXの世界では、用語が飛び交い、そうした用語が増大していっている。しかし、この記事は、従来からあるユーザビリティ問題に対して新しい言葉を作り出すことを目指すのではなく、ユーザビリティ問題よりもさらに広い概念を定義することを意図している。カスタマーエクスペリエンスをユーザビリティ、つまり、インタラクションレベルのユーザーエクスペリエンスよりも広い概念として定義する必要があるのと同じように、ペインポイントも従来のユーザビリティ問題という枠を超えた、包括的な問題として定義する必要があるということだ。
ペインポイントにはユーザビリティ問題も含まれているが(それらはインタラクションレベルのペインポイント)、他にもカスタマージャーニーでの問題や顧客と組織の間の全体的な関係における問題といった、より高次元のものも含まれることを忘れないようにしよう。
ペインポイントがユーザーに及ぼす影響
ペインポイントというのはどれも、時間や余分なステップが必要になったり、実際に金銭的な損失が出るなど、ユーザーにコストが発生するものだ。ペインポイントの中には、インタラクションコストや認知負荷の増加につながるものもあり、これはユーザビリティに関する問題でよく見られる。たとえば、エラーが発生しやすい複雑なワークフローは、インタラクションコストの増加につながる可能性がある。そうしたエラーを修正するために、ユーザーが追加的な手段を講じなければならないからだ。あるいは、インタフェースが非常にわかりにくい場合、ユーザーは電話で助けを求める必要があるかもしれない(その結果、インタラクションコストが増加する)。
他には、時間コストが発生するペインポイントもある。プロセスが完了するまでにユーザーが長時間待つ必要がある場合などがそうだ。
また、ユーザーに金銭的なコストが発生するものもある。たとえば、インターネットプロバイダーが頻繁にダウンするようだと、ユーザーは携帯電話をホットスポットとして使用することを余儀なくされ、余分なデータコストが発生する可能性がある。
最後になったが、ペインポイントがユーザーに及ぼす目に見えにくい影響として、信頼と信用の喪失というのがある。企業とのやりとりに満足がいかないと、ユーザーは裏切られたような感覚に陥ることが多い。こうした経験は、時間が経つにつれて、企業に対する全体的な信頼を損ない、ユーザーがその組織との関係を終わらせる原因となることもありうる。
ペインポイントの特定と優先順位づけの方法
さまざまなUX調査方法を利用することで、ペインポイントの種類を特定してから、その種類に応じた基準に基づいて優先順位を付ければよい。
インタラクションレベル
特定する:インタラクションレベルのペインポイント(つまり、ユーザビリティ問題)は、ユーザビリティテストなどのユーザー調査によって確認することができる。ほとんどのUXでは、この種類の問題を特定することが主眼に置かれてきた。
優先順位を付ける:ユーザビリティ問題は、その重大度によって分類されてきた。その問題がユーザーや製品の人気に及ぼす影響、問題の発生頻度、さらに、ユーザーがその問題に複数回遭遇する可能性があるかどうかが基準になる。
ジャーニーレベル
特定する:ジャーニーレベルのペインポイントは、ユーザーインタビューや日記調査、フィールド調査、カスタマージャーニーマップ作成などの探索的調査の組み合わせによって発見される。こうしたアプローチによって、ジャーニー全体にわたってさまざまなデータポイントを収集して、ユーザーの目標達成のためにインタラクションがどの程度うまく連携できているかを評価することができるようになる。
優先順位を付ける:ジャーニーレベルのペインポイントでは、組織の再編や社内プロセスの変更を広範囲にわたって行う必要があることが多く、CX(カスタマーエクスペリエンス)の変革が求められる場合もある。ジャーニーレベルのペインポイントに優先順位を付ける際には、以下のような要素を考慮しよう:
- ジャーニー全体にわたるペインポイントの影響:このペインポイントによって、ジャーニーのどのくらいの範囲にマイナスの影響があるだろうか。その影響は1つのフェーズだけにとどまるものなのか、それとも複数のジャーニーフェーズにまたがって広がっているのか。
- ペインポイントの解決の実現可能性:あなたの会社や組織は、現実的にどの程度までペインポイントを改善することができるだろうか。
関係性レベル
特定する:関係性レベルのペインポイントは、顕在化するのに長い期間がかかる。我々の目標は、1人の顧客ライフサイクルにわたるある組織に関する体験と、その組織の顧客としての累積的なペインポイントを評価することだ。このレベルのペインポイントの特定には、ベンチマーク調査(ブランドロイヤリティ・推奨度・全体的な顧客満足度の測定)、アナリティクスデータ、あるいは個々の顧客のデータを追跡・管理する技術インフラを利用する。こうした技術インフラを構築するには、ジャーニー全体から得られる顧客の行動データを単一のソースに統合して、個々のユーザーと企業との関係や長期にわたる彼らの行動の詳細情報を含む、顧客のシングルビュー(訳注:複数のソースからのデータを統合して作成された、顧客の全体像)を作成する必要がある。
優先順位を付ける:関係性レベルのペインポイントは、最も複雑で優先順位を付けるのが難しい。長期的な変革を実行に移すために、社内外の多くの事業部門が協力し合うことが求められるからだ。このレベルのペインポイントに優先順位を付けるには、以下のような点を考慮しよう:
- 複数のジャーニーにまたがるペインポイントの影響:このペインポイントによって、マイナスの影響を受けるジャーニーはいくつあるか。その影響は1つのジャーニーだけにとどまるものなのか、それとも複数のジャーニーにまたがって広がっているのか。
- ペインポイントに起因する解約率:このペインポイントが原因でどれだけの顧客があなたの会社から離れるだろうか。
- ペインポイントのせいで失われるブランドロイヤルティ:顧客が製品を使わなくなる可能性があるか。製品を他の人に薦める可能性が低くならないか。今後は競合他社を選ぶだろうか。
結論
ペインポイントを特定して解決すること、さらに、その発生を防ぐことは、UXの専門家としての我々の仕事の核といえる。ペインポイントは我々の仕事に意味を与え、時間とリソースを集中させる助けになる。デザイン変更の原動力になるのは、機能を手当たり次第に要求することではなく、ペインポイントであるべきだ。ペインポイントによって、顧客中心の議論ができるようになるからだ。
ペインポイントは決して理想的なものではないし、そのすべてを解決することは費用対効果に優れたやり方ではない。ときには、トレードオフの関係によってUXのリソースを戦略的に適用する必要もある。そこで、ユーザーのペインポイントを明らかにし、その優先順位を付けたら、可能性のある解決策を探り、将来のロードマップに落とし込むといいだろう。
変更履歴
2022年11月15日:「一人の人の生涯にわたるある組織に関する体験」という訳(原文:the lifetime experience that a person has with an organization)を、「1人の顧客ライフサイクルにわたるある組織に関する体験」に変更しました。