ユーザビリティの基礎知識
ユーザビリティとは何か? どのように、いつ、どこを改善できるのか? なぜ配慮する必要があるのか? この概論的な回答は、こうした基本的な疑問に答えるものである。
この記事は、あなたの上司や、その他の誰であれ、時間はないが基本的なユーザビリティ知識を得る必要のある人に対して書かれたものである。
What
ユーザビリティとは、ユーザインタフェースがいかに使いやすいかを示す質的属性である。「ユーザビリティ」という言葉はまた、デザインプロセスにおいて使いやすさを向上させるための手法をも意味している。
ユーザビリティには、5つの質的な構成要素がある:
- 学習しやすさ: 初めてそのデザインに触れたユーザーが、どれくらい容易に基本的なタスクを達成できるようになるか?
- 効率性: いったんそのデザインを学習したユーザーが、どれくらい迅速にタスクを達成できるようになるか?
- 記憶しやすさ: しばらく使用しない期間をはさんだ後、再びそのデザインに戻ってきたユーザーが、どれくらい容易に習熟度を取り戻すことができるか?
- エラー: ユーザーが陥るエラーの数、そのエラーの深刻さ、そして、そのエラーからの回復の容易さはどうか?
- 満足度: そのデザインを使うのは、どれくらい楽しいか?
その他にも重要な質的属性はたくさんある。中でも重要なのはユーティリティ(有用性)である。これはデザインの機能性を示す言葉である。つまり、ユーザーが必要なことを行えるか、ということだ。ユーザビリティとユーティリティは、等しく重要である。どんなに簡単でも、必要のないことならあまり意味はない。そのシステムでやりたいことができるはずであっても、ユーザインタフェースが難しすぎて実現不可能なら、やはりうまくない。デザインのユーティリティを調査するには、ユーザビリティ改善のためのユーザー調査手法と同じものが利用できる。
Why
Webでは、ユーザビリティは生き残りになくてはならない条件だ。Webサイトが使いにくければ、みんな去ってしまう。そのサイトで企業が提供しているもの、ユーザーができることを、ホームページではっきり伝えられなければ、人は去ってしまう。Webサイトで迷子になったユーザーは去ってしまう。サイト上の情報が読みにくかったり、ユーザーの重要な疑問に答えられなかったりすると、人は去ってしまう。パターンがあることにお気づきだろうか?Webサイトの取扱説明書を読んだり、インターフェイスを理解しようとして試行錯誤するユーザーなどいない。ほかにもWebサイトは山のようにあるのだ。ユーザーが困難に直面した場合、そこを去るというのが第一の防衛線だ。
eコマースの第一法則とは、すなわち、ユーザーは見つけることのできない製品を買うことはできない、ということである。
イントラネットでは、ユーザビリティは従業員の生産性の問題である。ユーザーがイントラネットで迷子になったり、難解な指示を読み解くのに費やした時間は、成果をあげられない彼らに支払う無駄金に通じる。
現状でのベストプラクティスは、デザインプロジェクト予算の10%をユーザビリティに回すことである。平均すると、これでWebサイトの品質指標は2倍以上になり、イントラネットの品質指標は2倍弱になる。ソフトウェアや物理的な製品の場合、改善率はこれほどにはならないのが普通だが、デザインプロセスでユーザビリティに力を入れれば、それでもかなりのところまでいける。
内部向けのデザインプロジェクトでユーザビリティを2倍にすることは、トレーニング予算の半減と、時間あたりの従業員の処理能力の倍増につながると考えればいいだろう。外部向けのデザインでは、売上の倍増、登録ユーザーないしは顧客誘導の倍増、その他、デザインプロジェクトの努力目標が何であれ、その倍増につながると思えばよい。
How
ユーザビリティ調査には数多くの手法がある。だが、もっとも基本的で有用なのは、ユーザビリティテストである。これは次の3つの要素から構成される:
- 代表的なユーザーを何人か確保する。eコマースサイトなら顧客だし、イントラネットなら従業員だ(後者の場合、自分の所属する部署以外から人を選ぶべきだ)。
- そのデザインを使って、ユーザーに、代表的なタスクをやってもらう。
- ユーザーの行動を観察する。そのユーザインタフェースで何がうまくでき、何が難しそうかを見る。こちらは黙って、ユーザーに話してもらおう。
重要なのは、ユーザーをひとりずつテストし、どんな問題もひとりで解決させることだ。手助けをしたり、画面上の特定の個所に注意を誘導したりすると、テスト結果を台なしにすることになる。
デザイン上のもっとも重要なユーザビリティ問題を明らかにするには、通常は5人のユーザーをテストすれば十分だ。大規模で徹底した調査を行うよりは、小さなテストを数多くやって、各テストの間でデザインを見直していった方が無駄がない。ユーザビリティ上の欠陥を、見つけ次第、修正していくのである。反復デザインは、ユーザーエクスペリエンスの質を高める上でベストの方法だ。版を重ね、ユーザビリティテストしたインターフェイスのアイデアを増やしていけば、それだけよいものができあがる。
ユーザビリティテストはフォーカスグループとは違う。後者は、デザインのユーザビリティを評価する手法としては不十分なものだ。フォーカスグループはマーケットリサーチのための手法で、インタラクションデザインを評価するには、ユーザインタフェースを使ってタスクを実行する個々のユーザーを、じっくり観察しなくてはならない。人々の声を聞くというのは、誤解の元である。彼らが実際にとっている行動に注目しなくてはならない。
When
ユーザビリティは、デザインプロセスのすべての段階にからんでいる。調査を複数回行う必要があるので、個々の調査は、迅速に安価に進めるようお勧めする。主なステップは次のとおり:
- 新しいデザインを開始する前に、古いデザインをテストして、残したり、強調したりすべきよい点、ユーザーのトラブルの種となっている悪い点を明らかにする。イントラネットに取り組んでいるのでない限り、競合他社のデザインもテストして、自社に似た機能を持つ幅広い代替インターフェイスに関するデータを得ておく。(イントラネットに取り組んでいるのなら、イントラネットデザイン年鑑を読んで、他社のデザインに学ぼう。)
- フィールド調査を実施して、自然な環境でユーザーがどのように振舞うかをみる。
- ひとつ以上の新しいデザイン案にもとづいたペーパープロトタイプを作って、テストする。この段階では、デザイン案にかける時間は少ないほどいい。テスト結果にもとづいて、すべてをやり直すことになるからだ。
- テスト結果のもっともよかったデザイン案を、複数回の反復を通じて磨き込んでいく。荒いプロトタイプから、コンピュータ上で動作する高品質なものへと、徐々に移行する。反復を重ねるごとに、テストする。
- 定評あるユーザビリティガイドラインにもとづいて、デザインを評価する。自分が以前に行った調査でも、出版されている調査でも、いずれに依拠してもかまわない。
- 最終デザインを決めて実装したら、もう一度テストする。実装時には、細かいユーザビリティ問題が必ず入り込むものである。
デザインの実装が完全に終わるまで、ユーザビリティテストを先延ばしするのはよくない。そんなことをしたら、テストの結果わかった致命的なユーザビリティ問題の大半は、修正不可能になるだろう。こうした問題のほとんどは構造的なものであることが多く、修正するには大幅な再構築が必要になる。
高品質なユーザーエクスペリエンスに至る唯一の道は、デザインプロセスの初期段階でユーザビリティテストを開始し、途中、ステップを踏むごとにテストを継続することである。
Where
週に少なくとも1回はユーザー調査を実施するのなら、専用のユーザビリティラボを設置する価値がある。だが、ほとんどの企業では、会議室やオフィスでテストを行えば十分だろう。この場合、邪魔が入らないようにドアを締め切れることが条件となる。重要なのは、本物のユーザーをつかまえて、となりの席でデザインを使ってもらうことである。必要な道具はメモ帳だけだ。
次回のコラムでは、ユーザビリティにまつわる迷信のうち、主なものを取り上げて議論する。再来週、またお目にかかろう。