「職種にしばられず誰でも人間中心設計ができる組織にする」 ゆめみの社内啓発の取り組み

毎年恒例、HCD-Net認定人間中心設計専門家へのインタビュー。2021年は、UXデザインコンサルティングに強みをもつ株式会社ゆめみの岩野 真理子さんと村上 雄太郎さん、太田 朝子さんに、受託開発会社におけるUXデザインの取り組みを伺いました。

  • 濱谷曉太、羽山祥樹、森川裕美
  • 2021年12月2日

(以下、敬称略)

岩野 真理子 株式会社ゆめみ、サービスプランナー。主に企業のアプリ新規立ち上げ、既存のアプリリニューアルを手掛ける。HCD-Net認定 人間中心設計スペシャリスト。

村上 雄太郎 株式会社ゆめみ、UXデザイナー。HCD-Net認定 人間中心設計スペシャリスト。

太田 朝子 株式会社ゆめみ、UIデザイナー。HCD-Net認定 人間中心設計スペシャリスト。

株式会社ゆめみ「ワークショップの模様」

人間中心設計のプロセスを習得するハッカソンを全社で開催

――ゆめみでは、積極的に人間中心設計プロセスを採用しているそうですが、例えばどのような取り組みがあるのでしょうか?

村上:全社員に向け、社内のハッカソンイベントを通じて人間中心設計プロセスの習得をする機会をつくっています。そして、クライアントワークでも実践しています。ハッカソンは、コロナ禍になったタイミングで実施しました。自分たちが興味の持てるサービスをゼロから作るという目的で、人間中心設計のプロセスを用いてアイデアを考え制作するワークショップを行いました。

太田:私はクライアントワークのチームとは別に、ゆめみの社内のブランディングチームにも所属しています。去年、ゆめみが新しいロゴに変えた一連のプロセスにも、人間中心設計のマインドセットを取り入れていました。

――ハッカソンが開催された経緯を伺ってもよろしいですか?

村上:ゆめみはコロナ禍になってすぐ、ほぼ完全にリモートワークの状態になりました。新しいメンバーも入ってくるタイミングでいきなりオンラインになったり、今まであった交流や予期せぬ出会いがなくなってしまったことに会社として課題感がありました。そこで、いろいろな職種の方と交流しつつ、事業の中心であるサービスを作ることができないか?という発想から始まったハッカソンでした。参加者それぞれがコロナ禍のなかで抱えている課題から発想して、そこで出てきた課題に共感する同士がチームを組みました。最終的に30人前後が参加する5チームになりました。

――参加者はどのように選ばれたのですか?

村上:社内で告知して、挙手制で集めました。営業、PM(プロジェクトマネージャー)、デザイナー、エンジニアの4職種の社員に手を挙げてもらいました。デザイナー、エンジニアが半数以上を占めていました。

株式会社ゆめみ 「オンラインハッカソンの模様」

自分たち自身をユーザーにして、欲求や課題の深掘りを体験

村上:ハッカソンでは、自分たち自身をユーザーとして、お互いの欲求や課題をヒアリングしていきました。出てきた欲求や課題をグルーピングした後に、チームの編成を行いました。

岩野:私のグループは、私がプランナー兼ディレクター、デザイナーが1人、サーバーサイドエンジニアが2人、フロントエンドエンジニアが2人という体制でした。そのため、アイデア出しから、動くプロトタイプまで作り切ることができました。

最初に、自分たちが感じているコロナ禍の悩みの中で、何に一番苦痛を感じているのか掘り下げました。「毎日同じ日々の繰り返しで、何も変化がないのが辛いんじゃないか」と私たちは考えました。なかなか変化を起こすのが難しい状況でもあるので、日常のささいなことでもわくわくすることに繋げていければ、ちょっとした変化が生まれるんじゃないかという着想からサービスを考えていきました。

コロナ禍になる前は、そもそも自分たちはなぜ予定を詰め込んで色々なところに出かけていたのか、もう一段思考を深めていくと、「わくわくしたいから」「新しいことを知りたいから」だったということに行き着きました。これが足りないのが一番の鍵だと考えました。「単調な日々の中で、すごく楽しみで、首を長くして待つ」という思いがコアバリューとしてあったので、キリンのジラフからもじって、「ジラル」というサービス名をつけました。もっと毎日、楽しみを作ろうという意図もありました。

例えば、明日頼んでいた商品が届くとか、オンラインの講座に参加するとか、イベントを登録しておくと、あと何時間で届くよ!とカウントダウンされ、予定までの時間が常に可視化されます。さらに「友達が明日こういうオンラインボードゲーム大会をやるよ」という情報を知ることができたら「自分もちょっと参加させてよ」と申し込めるので、それが新しい楽しみにつながっていくのではないかという思いがありました。

最終的にコーディングまで行いました。動画を作れるメンバーがいたので、実際にイベントを登録する紹介動画も作成し、発表しました。

岩野さん

はじめて人間中心設計にふれるメンバーも試行錯誤しながら取り組む

太田:ハッカソンのプログラムは全体的に三つに分かれていて、最初が「思考のプログラム」。アイディエーションとリサーチの部分で、人間中心設計プロセスを体験してもらうワークショップを行いました。そのあと「口説きのプログラム」という、アイデアを一緒に実現する他のメンバーを募集するプログラムを行い、最後にアイデアを実装するための「創造のプログラム」をやるという3段構成になっていました。

私は「思考のプログラム」には参加していなくて、「口説きのプログラム」で口説きを受けて参加しました。私のチームにはお子さんがいる方が多かったので、子どもが家にいて働くお父さんやお母さんを見るという、子どもの社会科見学的な目線がポイントになっています。子どもにIT系の仕事の職業体験をしてもらうというコンセプトが決まった段階から参加しました。

岩野:うちのチームも太田さんを口説いたのですけど振られちゃいました。

――取り合いだったのですね。

太田:(笑)岩野さんのチームは、もう十分手だれが揃っていたので、私はお役に立てなさそうだなと。私のチームは、デザイナーとエンジニアも初めて人間中心設計のプロセスを実践するメンバーが多くて、どう進めたらいいか分からない状態でした。

運営側が用意してくれたフレームワークにはじめて取り組む方も多かったです。私自身は前職で一度経験があったので、何となくは理解していたのですが、このプロジェクトではみんなで手探りでやりましたね。

右 太田さん

「同じ言葉」でもメンバーごとに浮かべている「ユーザー」が異なる、という体験

――実際に作られた前段の「思考のプログラム」のアウトプットを見てどうでしたか?

太田:普段の業務では、UIデザインのフェーズは要件がすでに固まった状態ではじまるため思考が狭まったり、やれることが限られていたりします。決められたガイドラインに対して「より使いやすく」という目線で業務に向き合っているメンバーが多かったので、自由でのびのびとしたアイディエーションをみるのは初めてでした。広がりのあるフレームワークを使うことで、普段の思考からは出てこないようなアイデアが出ていたのが印象的でした。

企画したターゲットは「子ども向け」とはなっていたのですけど、議論を重ねるうちにチームメンバーによって「子ども」と思っているものが異なっていることがわかりました。2歳や3歳の子をイメージしている人と小学校1年生、小学校6年生とではまったく違います。出発点では「ターゲットは子どもです」とメンバーの意識が整っていましたが、それぞれペルソナを描いたらバリエーションがあったので、もうちょっと絞らなきゃいけないねとなりました。

私たちのチームの最終的なコンセプトは、「ゆめみに職業体験に来るワンデーイベントで使うデジタルサービス」になりました。チームメンバーの自宅には実際のユーザーとなるお子さんがいるので、実装したプロトタイプである「VRの中に3Dで出てくる」オブジェを見せて率直なコメントをもらって、すぐ直すといったプロセスを行いました。「これ、どう?」といって見せると、グサッとくる率直な意見があったりとか(笑)。ビジュアル面で言うと、子ども向けの幼いビジュアルを作り過ぎると「それじゃあんまりドキドキしない」という意見がありました。子どもたちは、意外と大人でよく見ているという気づきもありました。

ハッカソンで学んだプロセスをクライアントワークに活かす

――ハッカソンを経験する前後で、自分たちはどう変わりましたか?

村上:僕はハッカソンの運営として、どうしたらはじめての参加者でも人間中心設計のプロセスにのっとって思考してデザインできるか、ワークショップの設計を考えました。人間中心設計を知らない人にフレームワークを使ってもらうことへの解像度が上がりました。実際にクライアントと一緒にプロジェクトをするときに、このフレームワークを用いるという判断がやりやすくなりました。

岩野:私はHCDの資格を持っているので、いつも人間中心設計のプロセスを使ってサービスプランニングをしています。今回は、村上さんをはじめとした運営の方が流れやフレームワークを決めてくれたので進めやすかったです。今回のハッカソンで、これなら異なる職種の方とも一緒に進められそうだと気づけたのが大きな学びでした。

最近のクライアントワークでのご相談として「プロジェクトを一緒にやることを通じて、人間中心設計の考え方を教えてほしい」という依頼が多いので、ハッカソンでやった仕組みと流れを活かせればと考えています。

右 村上さん

ユーザーの声がシビアなアプリのオンボーディングを人間中心設計で改善

――実際のクライアントワークではどのように人間中心設計プロセスが活用されていますか?

村上:ゆめみは大手のクライアントが多い会社です。その中の一社とのお仕事で、新規事業企画のプロジェクトがありました。何もないところからコンセプトをつくって、その受容性の調査を行いました。

既にクライアント自身でユーザーインタビューを実施されていたのですが、何度でもやりたいとのことだったので、プロジェクトの前半は一緒に伴走し、後半はドキュメントやフレームワークを残したりして、クライアントが自走できるようにしました。これは、ゆめみのコア事業である「内製化支援」にもつながるものでしたね。

プロジェクトの対象は、金融商品のアプリでした。お金が紐付いているので、ユーザーはシビアです。アプリストアのレビューも厳しい。他のアプリに比べて、多くのネガティブな意見が溜まっていて、要望をどう整理したらいいか分からない状態になっていました。

太田:初心者をターゲットにしたアプリで、使ってもらえば確実に金融商品の知識がつくものだったのですが、ターゲットユーザーに届いていないという課題感がありました。そこで、アプリのオンボーディング時にユーザー自身のタイプ診断を行う設計とし、ゆめみが得意としているゲーミフィケーションの視点を取り入れながら提案しました。

村上:どれだけ丁寧なオンボーディングがあっても、金融商品に関しての業界知識自体がないと使えないのが難しいところなんです。ユーザーが学びやすいよう、学習コンテンツへの遷移やヘルプ、サポートコンテンツにも手を加えました。

ペルソナを複数設けてジャーニーを定義し、それぞれのペルソナごとの使い方を突き詰めました。漠然と複数にジャーニーが分かれているのではなく、ユーザー自身がそれぞれのパターンのプレーヤーであることを感じながら遊べるようにしました。ゆめみのお家芸のゲーミフィケーションの要素がここで活きてきます。

クライアントワークで作成する成果物のイメージ

人間中心設計の資格をとることで、解像度が高くなる

――お三方が人間中心設計の認定資格を受験した背景を、それぞれ教えてください。

村上:僕は、ゆめみに入社してからデザイナーになりました。人間中心設計スペシャリストを取得したのが半年前です。ちょうどデザイナーになって2年たったタイミングで、改めて体系的にインプットしたいと思ったのがきっかけのひとつでした。もうひとつは、クライアントワークをするなかで、デザインプロセスやUXデザインについてプロとしての意見を求められた時に、解像度高く説明できない自分に気づいたことです。クライアントの要望が抽象的な言葉であっても、自分の中で咀嚼して理解した上で最適なプランやアイデアを提示する必要があります。ちゃんと理解しないといけないな、と思いました。

岩野:私は2018年度に合格しました。私も村上さんと同じで、キャリアチェンジをしています。もともとはエンジニアとして入社しました。

入社時からいずれプランニングをやりたいと思っていたので、企画職になりました。でも私が所属する京都オフィスでは、企画職は私一人だけだったんです。企画とはどういうふうにやったらいいのか、アイデアだけを考えたらいいのかよく分からないという気持ちがずっとあり、いろんな書籍を読んだり、セミナーに参加していました。京都で人間中心設計のセミナーがあり、そこではじめてこのような考え方があるんだと知りました。そこから、人間中心設計の資格を取るには、手法をちゃんと実務で活用しないといけないことを知り、実際に取り組みはじめました。実案件で実践できたので、資格の取得に挑戦しました。

太田:私は大学でデザインを学んでいたので、「人間中心設計」というキーワード自体は授業で教わっていました。ゆめみに入って、資格を取得されている方がたくさんいることや、資格を保持していることが顧客からの評価に繋がることを知ったのが受験のきっかけです。

デザインの資格ってあまりなくて、自分に何ができるか示せる指標がほしいという思いが就職活動中にありました。人間中心設計の資格は、申請書類に書かないといけない量がすごくて難しいという話も聞いていたので、躊躇はありました。コロナ禍でほとんど外出ができなくなって、今が資格取得に集中できる機会だと思いました。村上君が計画的に動き始めていて、やるぞ!と声かけしてお尻をたたいてくれたのが一番のきっかけです。これに乗っからないともう自分はやれないと思いました。

――受験しようか迷っている方に伝えたいことを教えてください。

岩野:人間中心設計の資格は、マインドに活きてくるものがあるので、デザイナーやプランナー以外のどんな職種の人でも学ぶ価値があります。実際にゆめみには人間中心設計の資格をとった営業職のメンバーがいます。また、エンジニアも学んで損はないと思います。自分の職種には関係ないかなと思っている方にも、興味を持ってもらえたらいいなと思っています。

村上:「人間中心設計の資格は申請書類を書くのが大変」と耳にすることが多かったのですが、実際に書いてみると人間中心設計への理解がグッと深まりました。自分がこれまでやってきたことの振り返りにもなりました。「UX」という分野が広すぎて困っている人にもオススメです。大変な部分もありますが、自分の血となり肉となり形になるので、受験をぜひおすすめします。

岩野:ゆめみの社内には、人間中心設計のマインドが根づいています。デザイナーだけが人間中心設計を扱うのではなく、職種にしばられず、もっと誰でも人間中心設計をできるようにしていきたいですね。

――ありがとうございました。

取材・文:濱谷曉太、羽山祥樹、森川裕美

インタビューの模様

※文中に記載されている所属・肩書は、取材当時のものです。

人間中心設計専門家・スペシャリスト認定試験

あなたも「人間中心設計専門家」「人間中心設計スペシャリスト」にチャレンジしてみませんか?

人間中心設計推進機構(HCD-Net)の「人間中心設計専門家」「人間中心設計スペシャリスト」は、これまで約1300人が認定をされています。ユーザーエクスペリエンス(UX)や人間中心設計、サービスデザイン、デザイン思考に関わる資格です。

人間中心設計(HCD)専門家・スペシャリスト 資格認定制度

主催
特定非営利活動法人 人間中心設計機構(HCD-Net)
受験申込
2023年11月1日(水)~11月21日(火) 16:59締切
応募要領
https://www.hcdnet.org/certified/apply/apply.html

資格認定制度について
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