スマートフォンとPDA、そして電子ブック

従来型の携帯電話と電子ブックの中間にあるスマートフォンについて、一つ考えられるのは、マルチメディア型電子ブックと在来型の携帯電話に機能分割され、「いささか中途半端な製品」としてPDAと同じ運命をたどるのではないか、ということだ。

  • 黒須教授
  • 2010年12月10日

iPhoneによって火がついたスマートフォンの流行は、docomoなどのアンドロイド携帯の登場によって定着しているかのように見える。しかし、その将来については未知の部分があると思っている。その参考になるのが1990年代に流行したPDAの動向だろう。

もともとのPDAはスケジュール管理や住所録、電子辞書、電卓、カメラなどの機能を持っていたが通信機能は持っていなかった。この点がPDAの最大の弱点といえ、携帯電話やPHSの普及と高機能化によって、徐々に市場を奪われ、古典的PDAは現在では既に滅亡してしまったと言っていいだろう。基本的な特徴は、パソコンや電子辞書、電卓、デジタルカメラなどの持っていた機能を統合し、携帯できるようにした点にあり、その意味で使える(ユーザブル)な機器だったといえる。しかし、パソコンの世界でもインターネットの普及によってローカルな情報処理の限界が認識され、また携帯電話やPHSの登場と普及によって「つながる」というユーザエクスペリエンスの楽しさや利便性を人々が認識するようになると、通信機能の欠落が決定的な短所となってしまったわけだ。

こうしたPDAの歴史を見てみると、現在のスマートフォンは、通信機能のついたPDAとみなすこともでき、その流行はPDAの新たな復活と考えることもできる。

ただ、ちょっと待って欲しい。数値的には未確認だが、現在スマートフォンを使っている人のなかには、従来の携帯電話を併用している人が結構いる。話を聞いてみると、電話機能やメール機能を使うには従来型の携帯電話の方が便利だからということで、PDAはネットに接続してSNSサービスを楽しんだりという使い分けをしている。スマートフォンユーザのなかには、タッチパネルでの文字入力に習熟していて、メールの入力は特に面倒ではない、という人もいる。しかし多くのユーザにとっては、従来のボタン方式の方がテキスト入力には便利なのではないだろうか。さらに大きさと重さの問題もある。もちろん携帯電話とスマートフォンを併用すると重さは倍以上になってしまうが、ともかくスマートフォンの大きさはポケットに入るぎりぎりのものといえる。基本的に女性は携帯電話でもバッグに入れている人とポケットに入れている人がおよそ半々のように思うが、バッグをもたない男性は、ポーチなどに入れている人もいるものの、その大半はポケット収納だろう。しかし、ユーザビリティの観点からみたとき、そのポケットぎりぎりサイズの画面に表示される文字は小さくて読みやすいとはいえない。

こうしたなか、電子書籍の動きが活性化してきた。以前からSonyのPortable Reader Systemなどが存在していたが、この流行にトリガーをかけたのは2007年に登場したAmazonのKindleだろう。ページ操作などに難点はあるものの、読みやすい液晶や価格の低い書籍データの提供などにより、着実にユーザを増やしている。AppleがiPadをリリースしたのは、スマートフォンでの文字の読みやすさに対する「反省」とKindleなどの電子書籍ブームの到来が予想されたからと思われる。まだ重量などの点で電子ブックとしては使い勝手に難のあるiPadだが、画面で文字などを読むという作業においては「あのくらい」の画面サイズは必要と思われる。そして電子書籍ブームの到来である。出版業界も出版不況からの脱出のチャンスとして大きな期待をもっており、この動きはほんものになるだろうと思われる。

さて、そうなったらどういう棲み分けになるだろう。ノートパソコンは、テキストを入力したり数値を入力して計算したり、プレゼンテーションに使ったりというビジネスユースがあるから、これが消えることはないだろう。ただ、もっと簡便にネットコンテンツや書籍コンテンツを、見やすい画面サイズと読みやすい文字サイズで閲覧できるマルチメディア端末としての電子ブックは、さらに普及していくことだろう。Kindleのようにキーボードが付属するか、iPadのようにタッチ画面になるかは微妙なところだが、Kindleではキーボードを使う頻度は低く、そのためかキーボードサイズも小さくなっているところから考えると、タッチ方式でカラー画面で軽量でバッテリーの持ちのよい製品が開発されれば、爆発的に普及するように思われる。

そうなると、考えられる一つの道筋は、スマートフォンはマルチメディア型電子ブックと在来型の携帯電話に機能分割され、「いささか中途半端な製品」としてPDAと同じ運命をたどるのではないか、という気がしてならない。

ユーザのやりたいことは有限といえる。だから、それをどのように製品カテゴリーに分割するかという問題が重要になる。それぞれの製品カテゴリーにおいて、それなりのユーザビリティを確立することができれば、その製品カテゴリーは定着し、それ以外のカテゴリーを駆逐することが起こりうる。

ここ2、3年の動向に注目したいと思っている。