useは「使用」か「利用」か

useとは利を伴うもので、利益や利便性と関係する概念であり、利用とは利点を積極的に生かして恩恵を受けることである。したがって、目標達成のために人工物を用いる場合、useを利用と訳すのが適切だろう。

  • 黒須教授
  • 2014年9月3日

ユーザビリティ(usability)ユーザ(user)の元になっているuseという単語だが、これについても使用と訳す場合と利用と訳す場合が混在しており、整理が必要だなと考えていた。

「使用」とするケースには、usabilityを使用性と訳したり、ユーザを使用者と訳したりする場合がある。「利用」とするケースには、ユーザを利用者と訳す場合がある。さて、利用と使用、どちらが適切なんだろう。

useとは、利を伴い、利益や利便性などと関係する概念

そもそものuseという単語について調べてみよう。古来、日本にも使用人といった表現はあったようだが、他の学問同様、人間工学も欧米から移入されたものだから、その起源をイギリスあたりに求めるのが適切かと思う。Encyclopaedia Britannica 2008には次のように書かれている。

in medieval English property law, the right of one person to take the profits of land belonging to another. It involved at least two and usually three persons. One man (A) would convey or enfeoff land to another (B) on the condition that the latter would use it not for his own benefit but for the benefit of a third man (C) who could be A himself. C (or A), thus, had the profits-that is, the use-of the land and could treat the land as he pleased.

(中世イギリスの所有権法では、他人に属する土地から得られる利益を別の人間が受け取る権利(のことであった)。そこには少なくとも二人、通常は三人の人間が関係している。ある人(A)は、別の人(B)に土地を譲渡したり封土として与える際に、後者(B)がそれをuseして自分自身の利益をえるのではなく、第三の人(C)-これはA自身である場合もあるが-に利益を与えることを条件としていた。したがって、C(またはA)は、それによって利益を得る、すなわち、その土地をuseすることやその土地を望むように扱うことができた)。

この語源から考えると、useという概念は、利を伴うものであり、利益や利便性などと関係があると思われる。さらにいえばuseを利用と訳すことに対して積極的なエビデンスを与えるものである。

usabilityについては、ISO 13407:1999をJIS化する時に、それ以前の規格、たとえばISO 9241-11:1998の翻訳JIS規格と同様に「使用性」とするかどうかが議論されたが、使用性という言葉があまり一般的ではないという理由からユーザビリティとカタカナで表記するようにしたという経緯がある。これは前述のuseに関する語源的解釈と、たまたま結果的には整合性のあるやり方になっている。もちろん「利用性」と訳すことも考えられないではなかったが、それは使用性以上に一般的ではないことから、たとえ議論になったとしても、早々に棄却されていただろうと思われる。したがってusabilityについてはユーザビリティというカタカナ表記で良かったと考えられる。

格下のものとして扱う「使用」、利点を積極的に活かす「利用」

翻って、日本語での使用と利用について考えてみたい。新明解国語辞典では、使用については「具体的な用途に応じて何かを使うこと」、利用については「そのものの持つ利点を積極的に生かして使って、恩恵を受けること」という語義が与えられている。

たしかに色々なプロダクト、掃除機からATMから携帯電話をuseすることを使用すると訳してもいいようには思える。掃除とか振込とか連絡という用途に応じてそれらの機器を使っているからだ。ただサービスについて考えてみよう。使用人という言葉があるように、人について使用という言葉を使う場合には、その人を自分より一段格下のものとして扱うというニュアンスがある。使用人であれば仕方がないかもしれないが、レストランのウェイトレスや病院の医師や看護師、交番の警察官によるサービスを考えた場合には、ウェイトレスや医師や看護師、警察官を一段格下に位置づけるのは失礼にあたり不適切である。その意味で、useを使用と訳すのは適切ではない場合がある、ということになる。

反対に、利用と訳すならば、掃除機やATMや携帯電話についても、その利点を積極的に活かして恩恵を受けることと考えていいし、ウェイトレスや医師や看護師や警察官についても、その利点を積極的に活かして恩恵を受けることと考えられる。つまり、プロダクトの場合についても、サービスの場合についても、useを利用と訳すのが適切と考えられる。もう少し言うなら、ISO 9241-11のように、目標達成のために製品(人工物)を用いる場合、目標が達成されれば、そこには「利」があることになり、たんに使うという使用より、使うことにより利がえられるという利用の方が適切であるともいえるだろう。

とすれば、userについてはユーザ(またはユーザー)というカタカナ表記が用いられることも多いが、あえて日本語で表記をしようとする場合には、使用者ではなく、利用者とした方が適切である、ということになる。どうだろう、user interfaceは利用者インタフェース、user centered designは利用者中心設計、user researchは利用者調査、user profileは利用者プロフィルとなるのだが、それでいいのではないだろうか。