ISO 9241-210批判 2/3

ISO 9241-210:2010には大きく3つの問題がある。その問題について3回に分けて指摘する。2回目は、対象としてサービスを安易に取り入れていることについて。

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1. UXについて(つづき)

1.4 UXと品質特性

この点に関連して、2.15の注3では「Usability, when interpreted from the perspective of the users’ personal goals, can include the kind of perceptual and emotional aspects typically associated with user experience. Usability criteria can be used to assess aspects of user experience.」という形で、usabilityとUXの緊密な関係性を主張している。しかし、そこに書いてあるemotional aspectsについて、どのようにデザインすればいいのかといったことは書いて無く、説明が十分とはいえない。

UXについては、たとえばHassenzahlは、ergonomic qualityとhedonic qualityといった用語によって両者を区別しているが、ともかくemotional aspects(僕はsubjective qualityと言っている)の設計や評価についての説明が不十分だ。

さらにいえば、usability以外の品質特性についてはどうなのかが書かれていない。いわば全く無視されているに等しい状態である。ユーザビリティと並列に位置づけられるべき信頼性やメンテナンス性などの品質特性については、当然それは満足感に影響するものだし、UXにも関係してくる。このあたりも、ユーザビリティの実現プロセスに関する規格だったISO 13407に、強引にUXに関する規格の性格をも持たせようとした無理がでているように思う。

翻って、人間工学に関するTC 159でなく、情報技術に関するJTC 1における規格化を見てみると、ISO 9126-1:2001やその改定版であるISO 25010:2011では、品質特性についての詳しい整理が行われている。ともかくISO 25010では、品質特性について緻密な検討が行われており、ISO 25010では製品品質と利用品質とが区別されている。ISO 9126-1ではISO 9241-11のusability定義との対応がメチャクチャに近かったものが、ISO 25010ではそれなりに整備され、対応づけされているように見える。そして、この規格では、製品品質と利用品質を区別することにより、一種の因果関係、つまりまず製品品質があり、それを使った段階で利用品質が問題になるという関係が明確にされている。この点、TC 159の規格では、まだ全体に詰めが荒いように思われる。

1.5 UXの主観性や個人性

UXWPが書いているように、UXというものは主観的であり、個人に特有なものである。その意味で、HCDをやったからusabilityが高くなるかどうかという以上に、HCDをやったからUXが望ましいものになるかどうかは不確実な筈である。manufacturerの側でUXを決定することはできないのだから。

その点については、UXD (UX Design)という表現に対してDUX (Designing for UX)という言い方の方がいいだろう、といった議論がアメリカのサイトで為されていたのを見たことがあるが、僕も同様の意見だ。確定的なデザインができない以上、それを目指している、という意味でforを使うのは適切だと思う。

このあたり、もちろんHCDをやればUXの優れたものがデザインできます、などとは一行も書いてないが、もう少し、UXの主観性や個人性について、対象物のデザインや評価の方法についても配慮があってしかるべきだったように思う。

以上をまとめると、ISO 13407はユーザビリティを志向するHCDのプロセスに関する規格としてそれなりにまとまっていたものが、ISO 9241-210でUXを含めることになったため、記述の不足や不整合などが起きてしまっている、ということになる。

2. サービスについて

2.1 サービスの組み込み

まずユーザビリティの定義として、ISO 13407では2.3で「Extent to which a product can be used by specified users to achieve specified goal with effectiveness, efficiency and satisfaction in a specified context of use」というISO 9241-11:1998の定義を援用している。これはこれで良いと思う。しかるに、ISO 9241-210では2.13で「usability extent to which a system, product or service can be used by specified users to achieve specified goals with effectiveness, efficiency and satisfaction in a specified context of use」となり、ISO 9241からadaptedしたと表記されている。要するに相違点は、対象がproductからsystem, product or serviceに変化した点である。

このsystemとproductとserviceは、時に順番がproduct, system, serviceとなったりもするが、いつも一緒に使われていて、service単独の定義は2のTerms and definitionsの部分にも載っていない。要するに「一般用語」として解釈しなさいということだろう。

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公開:2013年1月30日
著者:黒須教授

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