置き配のUX
置き配は、消費者にとっては配達を待つ面倒がなく、配達員にとっては再配達の面倒がないという具合で、盗難があまりに頻繁に起きないようであれば、すべてのステークホルダーにとってありがたいシステムといえるのではないだろうか。
置き配
三省堂が発表した2019年の新語第9位に「置き配」が登場し、『三省堂現代新国語辞典』には既に「置き配」が「宅配する際に、品物を対面して渡すのではなく、指定された場所に置くことで配達すること」と定義されている。2020年にamazonが置き配を採用して以来、身の回りでも宅配便の荷物の置き配が徐々に広く行われるようになってきたが、アメリカでは、日本とは若干異なるやり方ではあるが、すでに約7割の配達物が日常的に置き配されているのだそうだ。日本の場合、宅配便は最近のことだが、牛乳の置き配は1897年に始まったという歴史があるようだ。
置き配の利便性
筆者はamazonや楽天などで書籍やCDなどの小物から自転車のような大物まで、いろいろなものを購入しているが、これまではその受取りに苦労していた。ポストには不在票がたくさん入れてあって、「ああ、済まないことをした」と思いながらも、配達員への連絡の面倒さに負けて連絡をせず、再配達を待つことが多かった。クロネコや佐川は、そのままにしておいても再配達してくれるので、その親切に甘えていた。しかし、こういう自分にとって不便なのが郵便局の配達だった。ポストには不在票が入ってはいるのだが、再配達は原則的にやってくれず、保管期限がすぎると送り元に返送してしまうという、ちょっとお役所仕事的なやり方に不満を感じていた。ネットで配達依頼をする際には日時を指定できるから、その分ありがたくはあったのだが。
ともかく、いつくるかわからない配達に対応するのは結構大変だった。筆者は朝風呂の習慣があるのだが、風呂は配達が始まる10:00までに入っておかねばならない。たまに9:00台にくる配達員もいるから、安全をみたら9:00前に入浴する必要があった。そして玄関のブザーが聞こえにくかったため、在宅なのに気づかずにやり過ごしてしまうこともあり、そのためブザーを買い直したりすることになった。そもそも何月何日に配達が来るかもわからないから、そんな心配を毎日しなければならなかった。
クロネコや佐川がメールで配達物がとどいたことを知らせてくれ、ブラウザで日時を指定できるようになったのはとてもありがたかった。日本郵便もそういうサービスをしてくれればありがたいのだが。ともかく、そのおかげで風呂にはゆっくり入れることになったし、自分にアラートをかけるのは予定されている時間枠の二時間だけで済むようになった。
さらに、の置き配である。これはamazon直送の場合だけのようで、amazonで購入してもクロネコや佐川を利用して配達する場合には相変わらずメールとブラウザで時間指定をしているが、直送の場合は、置き配のおかげで、玄関まででていかねばならないという面倒もなくなった。夕方近くに玄関をあけて、何か届いているかを確認すればいいのである。
もちろん、置いてある荷物の盗難とか、雨に濡れてしまうのではないかといった心配はあるが、前者は次項で触れることとする。後者については、玄関のひさしの下に置いてくれるかどうかという配達員の気配りに依存することになるが、amazonの荷物はダンボールのなかでビニール包装されているので、まあさほど心配することはない。
盗難のリスク
置き配は、玄関前あたりに荷物がそのまま置いてあるわけで、筆者の家の場合は、玄関ドアから道路までの間にコンクリートの遮蔽があるので、道路からは荷物が見えない。しかし、玄関ドアが道路から丸見えのお宅の場合には、やはり盗難が心配になるだろう。さらに、筆者の家の前の道路は袋小路になっている私道なので、不審者がやたら通る心配も少ない。まあ、置き配に向いた家と環境、ということである。
以前住んでいた雑司が谷のマンションには、一階に宅配ボックスがあった。二十個くらいのボックスがあり、安全性の面では文句なかったのだが、荷物がきていることが通知される機能がなかったので、専用カードを持参して荷物が来ていないかを時々チェックする必要があった。CDやDVDや本をたくさん購入していた頃、海外出張があって10日ほど留守にしていたら、荷物が山のように届いたことがあった。基本的に一人の配達員は一つのボックスを使うので、合計して十数個のボックスを筆者一人で専有する結果になってしまった。これはいかんと思い、出張の前にはamazonなどでの買い物を控えるようになったが、いまでは思い出のひとつである。
宅配ボックスがあるマンションなら盗難の心配はないのだが、それが無い場合、アパートや戸建ての場合、特に人通りの多い道路に面している場合にはどうしたらいいのだろう。指定場所を玄関先でなく、自転車のカゴやガスメータの下とかにするという工夫によって、盗難の可能性を低くすることも考えられる。また、世間には、置き配ボックスとか置き配バッグというものがある。しかし、それごとゴッソリ車などに載せて逃げられてしまったら元も子もないだろう。もちろん、そんなに盗難の可能性がなければ、これらの用具は有用だろうし、また雨から商品を防げるというメリットもあるだろう。
また配達し終えたときに、指定場所に置かれた荷物の写真を送ってくれるというサービスもあるらしい。筆者は使ったことはないが、これなら確実に配達されたことはわかるし、盗難の場合は、盗難にあったことがすぐにわかるだろう。
で、結果からいうと、盗難されてしまった場合は諦めるしかない、ということのようだ。ただし、amazonの場合には、盗難された旨を連絡すれば、同一商品の再配達か商品代金の全額返金という形で補償してくれるようなので、すぐに商品を手にすることは叶わなくても、損をすることは無いようだ。また販売側が損をすることもないようになっているらしい。ただ、配達されたのに盗難されたといって代金返済をもとめるという犯罪行為をするものが出てくる可能性はある。もちろん、何度もやれば怪しいということになるが。
対面接触の回避
置き配が注目されるようになったのは、コロナとの関係といえる。コロナの感染を恐れて、対面的接触を避けたいという消費者の気持ちが、置き配を後押ししたと言っても良い。筆者は、どちらかというと、配達員と雑談をしたり、彼らにお礼を言ったりする習慣があるが、世の中には配達員との接触を好まない人もいるだろう。また、一人住まいの女性の場合には、配達員との接触を不安に思うケースもあるらしい。そうした人々にとって、置き配は好ましい配達方法といえるだろう。
トータルとして置き配はいいUXをもたらすのでは
このように見てくると、消費者の側にとって置き配は、配達を待っている面倒がなく、万一盗難にあっても補償されるので安心である。配達員にとっては、再配達の面倒がない。販売側は、盗難にあっても損をする心配が無い、という具合で、盗難があまりに頻繁に起きないようであれば、すべてのステークホルダーにとってありがたいシステムといえるのではないだろうか。
もちろんどういう場合でもクレームをつける人は一定数いる。置き配の場合、盗難や破損、雨濡れなどでそうしたクレームのつく可能性は高まるだろう。それが合理的な理由であり、合理的な範囲でのクレーム(要求)であれば、合理的に対処すればいいのだが、その範囲を超えたクレームについては民度の向上を期待するしかないのかもしれない。
ともかく今後、このやり方は一般化していくのではないかと思われ、消費者の立場としては歓迎する方向で考えていいのではないだろうか。なお、各業者の対応状況については、ネットショップ担当者フォーラムの記事に詳しくかかれている。