「評価してください」

エンジニアの人たちは、自分たちで何かを作ってからそれを「評価してください」と言ってくることが多いように思う。その背景を考えると、人間中心設計の考え方やアプローチがきちんと伝わっていないのではないか、と思えてくるのだ。

HCD関係者と話しをしていると、エンジニアの人たちって、自分たちで何かを作ってしまってから「それを評価してください」と言ってくることが多いんじゃない、という話になることがある。

考えてみると、そうして声をかけてくる背景には、人間サイドからのエンドースメントが欲しいという気持ちがあるからかもしれないが、さらに考えると、それできっといい評価が得られるに違いないと思い込んでいるのかもしれない。人間サイドを全く無視していないという点では褒めるべきことかもしれないが、その自信の強さには困惑させられてしまう。もし評価の結果が消極的なもの、ないし否定的なものになったとしたら、彼らはどうするつもりなのだろう。その発表をとりやめて、ゼロからやり直す謙虚な気持ちでいるのだろうか、それともそんな評価は無視してしまえばいいと思っているのだろうか。あるいは何らかの言い訳をして話を通してしまおうとするのだろうか。そのあたり、こうした話をもちかけてくるエンジニアの人たちの気持ちは理解することが困難だ。

同じような傾向はデザイナにもある。ただ、デザイナは自分たちでそれなりの人間理解をしていると思っている傾向が強いからか、話をもちかけてくることが頻度的には少ないように思う。ある意味では、エンジニアよりも「危険性」に満ちているとも言えるだろう。

振り返ると、ユーザビリティ工学のアプローチは評価という活動から始まっている。できあがった製品に触れて、何かおかしい、何か不自然だ、何か不適切だ、といった気持ちになることがあり、しかしながらそれが何であるかが明確に特定できない。それだったら評価法を確立して問題点を明確に把握できるようにすべきだ。そんなところから評価アプローチがユーザビリティ工学の発展の基礎になったといえるだろう。しかし、そうした評価アプローチが企業活動のなかで難儀したことはあちこちで書いているとおりである。曰く、評価して問題点を摘出できても、もう時間がない。曰く、問題点を直すことができても、それが売りに繋がるわけではない。

こうした状況を打破したのが、ISO 13407によって提起された人間中心設計のプロセス志向のアプローチだった。そのプロセスにはもちろん評価活動も含まれていたが、それに先んじる設計の上流から人間中心的な活動を始めることが必要だと指摘されていた。それともう一つ、Nielsenのようにユーザビリティをユーティリティと区別するのではなく、両者を含めてユーザビリティと考えようとする動きがあり、2000年前後を境にしてユーザビリティ工学への見直しが行われるようになった。少なくとも人間中心設計の関係者はそう考えているといって良いだろう。

しかし、前述のようなエンジニアの言葉がでてくる背景を考えると、どうも人間中心設計の考え方やアプローチがきちんと伝わっているとは思えない。人間中心設計以前のユーザビリティ工学による評価活動あたりまでしか情報が伝わっていないように思える。ひとつ考えられるのは、評価活動では、その結果がエンジニアにも伝えられる一方、ユーザ調査のような活動にはエンジニアは参加しておらず、結果的に彼らの視野に入ってきているのは評価活動だけだ、という可能性だ。もちろん人間中心設計を体系的に学ぶ機会もなかったであろうエンジニアにとっては、自分たちの視野に入ってきたものが全てとなる。

デザイナの場合はエンジニアとはちょっと違うように思う。現在、デザイナは設計の上流工程を重視するようになっている。それはそれでいいのだが、そのユーザ調査のやり方が本来のエスノグラフィックなアプローチとは違っているように思う。彼らはコンセプトを重視し、その独自性や新奇性を重視する。そうしたコンセプト生成のための着想源としてフィールド調査を利用しているようなところがある。そこには謙虚なフィールドワーカーの姿はなく、代わりに自己主張の強いクリエイターがいる。もちろんクリエイティブなプロセスは重要だが、人間工学に出自をもつ人間中心設計とはどこか異なる目線があるような気がする。そして、さらに重要なことは、デザイナは評価を避けようとする傾向がある。クリエイティブなアウトプットが彼らの自我と深く結びついているとしたら、たしかに理解できないことではない。作品にたいする評価は、自我に対する批判と受け止められてしまうだろうからだ。

このように、エンジニアにしても、デザイナにしても、まだ適切な形で人間中心設計の枠組みを受容できるようになっていないのが現状のような気がする。

公開:2014年1月30日
著者:黒須教授

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