デザインプロセスについて 1/4
設計のプロセスモデルについては、ISO 13407:1999がその考え方を提示して以来、「ぐるぐるまわすこと」というような形での理解がそれなりに浸透している。そこで本稿ではまず、PDSやPDCAについて触れたいと思う。
プロセスモデル
設計のプロセスモデルについては、ISO 13407:1999がその考え方を提示して以来、「ぐるぐるまわすこと」というような形での理解(その程度じゃ困るのですが)がそれなりに浸透している。ISOの考え方も、ISO 9241-210:2019で最新版が提示されたこのタイミングで、デザインのプロセスモデルについてのいくつかの考え方を整理しておきたいと思う。
ちなみに、ISO 9241-210:2000のJIS化は、今年、ISO規格の制定から19年が経過した時点でJIS Z 8530:2019として行われたが、ISO 9241-210のさらなる改訂版であるISO 9241-210:2019の方は、現在、和訳作業がほぼ完了し、来年前半にはJIS Z 8530:2020として制定される見通しである。JIS規格がたった一年で改定されるということで、関係者の間には混乱が起きるとはおもうが、今度のJISはIDE(原文に忠実に同じ内容のものとしてJIS規格化する。JIS Z 8530:2019はIDEだった)ではなく、MOD(原文について必要に応じた改変を施す)ものになっているため、読みやすさは向上するだろう。なお、JISも今年の9月に「日本工業規格」から「日本産業規格」へと呼称が変わっている。
そこで本稿では、PDSやPDCAについて触れる。次の原稿でISOのプロセスモデルに、三番目にデザイン思考のプロセスモデルに、最後に筆者のデカゴンモデルに触れたいと思う。
PDS
本稿でPDSサイクルについて述べるにあたっては、大西、福元 (2016)と志賀(2014)を参考にさせていただいた。両論文の著者の皆さんには深く感謝したい。まず、古典的なプロセスモデルにはPDS (Plan Do See)がある。一般には、計画、実行、評価と訳されていて、筆者はそのモデルの構造的簡潔さを評価している。
実行が全体プロセスの基本になるものの、それをちゃんと行うためには計画がきちんとされていなければならないし、実行をしただけではそれが適切だったかどうか分からないので評価が必要になる。話は飛ぶが、それは、登山でも、旅行でも、結婚でも、政策でも同じことだ。また、心理学実験などでも、まず実験仮説をたて、実験を実施し、その結果を分析して仮説を評価する。
ただ、製造業やサービス業では、開発を一度やったきりで終わりにせず、それを繰り返し行うし、繰り返しのなかでさらに良いものを、と改善していく。したがって、評価は次の実行のための前提条件となり、計画から実行、そして評価という3つの活動はサイクリックになり、円形で図示されることが多い。
このPDSというモデルは、後にPDCA (Plan Do Check ActionまたはAct)というモデルに発展したが、その途中で複雑な経緯をたどっている。
PDSは、科学的管理法で有名なテイラー(Taylor, F.W. 1856-1915)が、計画、課業、検査に言及した(1903)ことに始まる。テイラーは、生産性を向上させるために、労働管理の枠組みとして科学的管理法を提案した人物である。これは特に課業の段階について、作業の標準化などを行った。この考え方は、後にギルブレス(Gilbreth, F.B. 1868-1924)によって動作の標準化のためのサーブリッグ(Therblig)の提案につながった。テイラーの作業研究は、その前駆的なもので、標準的作業時間を設定したり、道具やその利用手順の標準化などを行うものだった。ただし、その目的が労働者の効率的利用による生産性向上にあったという点で、その非人間性が問題とされ、テイラーリズムという言葉は、現在では批判的な意味合いで用いられている。
次に、統計学者だったシューハート(Shewhart, W.A. 1891-1967)は、生産性に関する研究のなかから、仕様(Specification)、生産(Production)、検査(Inspection)という3段階を直線的にならべるのではなく、円環(サイクル)状にすべきだと指摘した(1939)。また、ブラウン(Brown, A.)も、計画(planning)、実行(doing)、点検(seeing)という円環として考えるべきことを主張した(1947)。彼は次のように書いている。「3つの部面は,直線を描くよりも,むしろ円を描いて働くものとみるのが,最も当を得たものといえよう」。これがPDSサイクルの提唱ということになる。
なお、注意しておくべきことは、PDSもPDCAも、デザインプロセスのモデルとして提案されたものではなく、業務プロセスのモデルとして提案されたものである。もちろん、その考え方を再帰的な入れ子として考えても悪いことはないので、これらのモデルをデザインプロセスに適用して考えることは否定されるわけではない。
PDCA
次にPDCAサイクルについては、デミング(Deming, W.E. 1900-1993)が、設計、製造、販売、調査・サービスの4段階を円環状に並べ、さらに螺旋状に展開していくと論じたことに始まる(1952)。このデミングの論をうけ、水野(1952)は、設計、製造、検査・購買、消費者調査というサイクルを紹介している。さらに、石川(1964)が、Plan、Do、Check、ActionからなるPDCAという表現を提唱した。
ここで、Planは、目的や方法を決めること、Doは、教育訓練を施し計画を実施させること、Checkは、その結果をチェックすること、Actionは、修正措置をとること、となっている。また、品質保証の領域に関するISO 9001:2015では、PDCAにしたがって目次が構成されている。すなわち、ISO 9001の箇条6は計画、箇条7と箇条8は支援と運用、箇条9はパフォーマンス評価、箇条10は評価、となっている。
ここまでは、品質管理の文脈での話だが、PDCAは、その後、製品やサービスの品質に注目する品質管理とは別に、製品やサービスを生み出す経営全般に注目する経営管理の文脈でも使われるようになった。
経営管理での利用を触発したのは、ジュラン(Juran, J.M. 1904-2008)の来日講演で、彼(1956)は、Controlを「標準を設定し、標準を実施するのに用いるあらゆる手段の全体」と広義に定義し、品質管理(Quality Control)は、そのなかの一つであると考えた。つまり、経営管理は、Planning(何をなすべきかを計画すること)、Operating(実行すること)、Controlling(計画に即して行われたかを監視すること)という3つの活動を連続的に繰り返すことだとした。この考え方に依拠して、水野(1984)は、経営管理の円環として、計画、作業、検討、処置という流れを提示した。
ちなみに、政策決定は経営管理の延長とみることもできるが、その領域でもPDSやPDCAは使われている。大西、福元によると、2004年の経済財政諮問会議までは会議でPDSが用いられていたが、それ以降はSをCとAに分け、特に予算編成というAを明確に位置づけるようになったという。
PDSA
なお、PDCAサイクルは、後にデミングによってPDSAサイクル、つまりCheckをStudyに置き換えて、単なるチェックではなく、より深い検討を行い、ノウハウの伝承までをも含むという意味を持たされたが、そうした部分的変更はいろいろと可能であると考えられたこともあってか、現状ではPDCAの方が多く用いられている。
参考文献
大西淳也、福元渉 (2016) “PDCAについての論点の整理”、財務省財務総合政策研究所、PRI Discussion Paper Series (No. 16A-09)
志賀秀樹 (2014) “PDCAと管理過程論に関する研究”、立教ビジネスデザイン研究 11, pp.103-117
(「デザインプロセスについて 2/4」へつづく)