コミュニケーションデザインにおけるプロセス

損害保険の書類のやりとりでは、インタラクションの回数や一回の記入量は会社によって異なる。それなのに、そのなかの一回の書類だけを評価するということで良いのだろうか。

先日、UCDAの評議員会に参加した。UCDAとは、Universal Communication Design Associationのことで、これまでに生命保険や損害保険の申込書などの書類、薬のパッケージの表示など、表示(コミュニケーションデザイン)が重要な意味を持つものについて、独自に開発したインスペクション法を適用したりしながら、良い点と問題になる点を抽出し、アワードを与えるという活動をしている。

今回の評議員会で、損害保険の書類を評価してみたが、書類に書かれている内容と量に会社によって大きな隔たりがあった。聞いてみると、会社によって、申請の手順が違うということが分かった。

以前、ちょっと追突を起こしてしまった時、まず現場から保険会社に連絡をとり、あとで送られてきた書類に記入し、それで手続きは完了した。先方の車の修理や代車の手配などはすべて保険会社がやってくれた。また僕の車の損害についても保険金が振り込まれてきた。軽微な事故でけが人もなく、相手の車の後部が少し凹んだ程度で済んだから手続きが簡単だったのかもしれないが、警察の処理も現場でのやりとりだけで手続きは完了し、特に呼び出しとかもなかった。予想外にシンプルな手続きに驚いた記憶がある。

ただ、評議員会で聞いた話では、そこに提示されていた書類に記入して、それを会社に送付すると、改めて保険会社の方から書類が送られてきて、というように何回かのインタラクションを経るということもあるらしかった。要約すると、一回の手続きで済むけれど、書類も分厚く記入量も多いというやり方か、何回かに分かれていて、それぞれの書類は簡素で記入量も少ないというやり方とがあるようで、最終的には確認する情報量や記入する情報量の全体はどちらのやり方でもほぼ同じであるという話だった。

さて、そうした違いがある場合、そのなかの一回の手続きに必要な書類だけを比較して評価をするということで良いのだろうか、という疑問が沸く。手続きの全体プロセスを比較して、そのなかで、そこで利用されている書類全体の分かりやすさや手続きの煩雑さなどを比較すべきなのではないか、と感じた。

いいかえれば、コミュニケーションデザインの評価とは、単なる書類の評価だけではない、ということだ。申請者と会社とのやりとり、つまりインタラクションの全体がコミュニケーションプロセスであり、その中の一つとして書類の評価がなされるべきではないだろうか。

この点が、薬のパッケージなどの製品パッケージにおけるコミュニケーションデザインとは大きく違う点だ。以前書いた記憶があるが、ホテルに置かれているシャンプーやコンディショナー、ボディソープの表示には、デザイナの趣味なのか、肝心の種別の表示が小さくて読みにくく、反対に、何泊かするだけのユーザにとってはどうでもいい製品名の表示などが大きく書かれているものが多く、デザイナーは何を考えているんだと腹を立てることがしばしばだ。これはパッケージにおけるコミュニケーションデザインの良くない例である。こうした製品の場合、インタラクションは一度きり。その製品を手にとり、そこに必要な情報が見やすく分かりやすく表示されているかを評価すればいい。

しかし、一連のプロセスがある場合の書類によるコミュニケーションデザインというのは、手続き全体を通して、どの程度の情報がどのようにして伝達されるかという全体的プロセスが重要である。大学などの入学願書の作成でも同様だ。受験生はまず願書を申請し、大学から願書が送られてきて、受験生はそれに記入して大学に送る。そうすると大学から受験票が送られてくる。おおよそ、どの大学でもこうしたプロセスを経て受験手続きが完了するようになっているだろう。つまり、あまり大学による違いはないように思われる。こうした場合には、一部の書類の比較評価でも良いようには思える。

しかし、たとえば講演をする時の講演料の支払いだと、まず事前にメールや電話で講演の諾否に関する問い合わせがあり、承諾すると事前に請求書や振込依頼書などの書類への記入を求められ、それを郵送して、講演を行い、それから口座への振り込みが行われる。こうした講演料の場合にはバリエーションが多く、講演終了時に現金で受け取り、領収書への記入を求められるというシンプルなものもある。もちろん、ユーザというか講演者の側としてはシンプルであるに越したことはないのだが・・。

ともかく、コミュニケーションデザインでも、パッケージデザインの場合と、書類のデザインの場合とでは、評価のやり方や基準を変える必要があるだろう。後者の場合には、書類の読みやすさ、その記入量などの他に、全体プロセスにおける役割、やりとりの回数なども評価の対象として含めるべきものだろう。

Original image by: Alan Cleaver

公開:2013年8月7日
著者:黒須教授

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