製品開発の適否の判断(2) 判定の原則はないのか

新たに企画している製品が、既存の製品の良い点をすべて充足した上で、弁別可能な新規性を備えていること。それが新製品の適切さの判定のモデルであると考えられる。

(「製品開発の適否の判断(1) 適切な判断を欠いた開発」からのつづき)

前回の批判的口調には少しばかりの反省がある。批判するのは容易だけど(しかし、その批判すらやる人の少ないのが現状なんだが)、それならどうすればいいのと反問された場合に回答があるのかどうか、ということだ。今回は、それを考えてみたい。

客観的品質特性、主観的品質特性、意味性

僕の基本的な考え方は、経験工学にもとづいている。経験工学では、経験に影響する要因には三つの側面がある。一つは有効さや効率、機能性、性能、信頼性などの客観的品質特性、二つ目は美しさや快適さ、かわいらしさや楽しさなどの主観的品質特性、そして三番目に意味性を位置づけている。

既存の目標達成のやり方に関するプロフィルを描く

この枠組みを使った判定のやり方としてまず推奨したいのが、これらの諸側面について、まず既存の目標達成のやり方に関するプロフィルを描くことだ。既存の目標達成のやり方には、型落ちした既存の製品の場合もあるだろうし、該当する製品や道具がまだなくて、人手に頼ってやっている場合もあるだろう。その場合、期待値ではなく現実の値を冷静に客観的に評価してつけることがポイントである。

こうして描かれたプロフィルには、客観的品質特性の評価点が皆一様に低くて、主観的品質特性である美しさの得点だけが高い、というような場合もあるだろう。昨今の腕時計のようにアクセサリーになってしまった製品は、まあそこそこの信頼性は確保してはいるものの、客観的品質特性よりは主観的品質特性に重きをおいている。それはそれでいいだろう。腕時計を例にとるなら、そうした主観的品質特性に重点化したアクセサリー的な時計においても、美しさに重点化したものもあれば、高価さに重点化したもの、奇抜さに重点化したものもある。それらは当然、別々のプロフィルとして描かれるべきである。さらに、アクセサリー的な要素よりは、安さに重点化したものもあるし、多機能性に重点化したものもある。要するに同一の製品カテゴリーでも、狙った方向性は多様であり、現在開発を意図している製品の方向性がどこになるかを見定めるためには、まず既存の市場ないし生活現場におけるそうした多様性をすべて列挙することが必要となる。

企画中の製品のプロフィルを確認する

ついで、これから開発しようとする製品の詳細カテゴリーについて、そのプロフィルの種別を同定する形で確認する。まず重要なポイントは、これから開発しようとする製品はそのプロフィルに関して『これまでの水準をすべて満たしている』ことを第一目標としなければならない。ある特性を上げたから、他の特性を多少落としてもいいだろう、ということはない。そこは毅然とした態度で臨む必要がある。

第二の目標は、『その上で何か新しい魅力を備えているようにする』ことである。それは客観的品質特性を例にとれば、機能の追加ということもあるだろうし、性能向上ということもあるだろう。もちろん感性的な主観的品質特性に関する新規性もありうる。ともかく人間は新規性に弱い。だから新しい魅力があることは消費者を引きつける。しかし第二の目標は第一の目標が完全にまた絶対的に満たされていることを大前提とする。

新しさをイノベーションと勘違いしてそれだけを目指して突き進むのは間違っている。いや、新規性だけを追求した製品は、短期的にはユーザの満足感を得ることができるかもしれないが、まず絶対に長続きしないだろう。市場にでてくる新製品について見てみると、この点での勘違いが実に多いように思う。

以前との差をユーザに知覚させる

もう一言追加すると、人間の差の認識には弁別閾が関係している。弁別閾というのは区別できる程度の差があるかどうかが分かることである。新製品が明らかに以前の製品ややり方とは異なっていると知覚できることが必要だということである。信号検出理論という考え方の枠組みを使うなら、まず人間の感受性に関する分布を考えることになる。この理論では、元々はノイズに対する感受性の分布と信号に対する感受性の分布の二つの分布を想定していて、それらの二つの分布がどの程度オーバーラップしているか、あるいは離れているかによって信号の強さを表現するものであった。それを弁別という場面に適用するなら、Aという旧来の製品ややり方に対する感受性の分布と、Bという新製品に対する感受性の分布の二つが、どの程度分離しているかを考えることになる。そして、弁別に関する感受性の軸の上で少なくとも1シグマ(標準偏差)くらいは二つの分布が離れていないと、新規な製品であるという知覚は成立しないだろう。

ウェブサイトのデザインについても、以前のサイトとは違っていることを知覚させることが目的なら、そうした点での新しさが必要になる。しかし1シグマと言ったのは微妙なところで、それ以上異なると、人間は新旧の操作の一貫性が崩れることによる不快感を感じてしまう可能性がある。もちろんやるなら思い切ってやるのがいいとも言えるのだが、たとえばWindows 7からWindows 8への変化は良い事例とは言えない。なぜなら新インタフェースが旧インタフェースよりも操作性の点で劣っており、たとえ第二の目標を達成したと言えても、そもそも第一の目標を達成していないからだ。

新製品の適切さの判定モデル

このような形で、新たに企画している製品が、既存の製品ないしやり方の良い点をすべて充足した上で、弁別可能な新規性を備えていることが、新製品の適切さの判定のモデルであると考えられるだろう。このモデルを実用可能な手法にすることを現在検討しているところである。

公開:2014年10月1日
著者:黒須教授

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