ユーザビリティの関連規格
ユーザビリティを取り巻く規格としてはISO 9241とISO 13407が挙げられます。
ISO 9241: Ergonomics – Office work with visual display terminals (VDTs)
人間工学-視覚表示装置を用いるオフィス作業
ISO 9241は、視覚表示装置(VDTs)を用いたオフィス作業に対する人間工学的要求事項を取り扱っています。ISO 9241は、第1章から第17章で構成されていますが、その中でユーザビリティに関係しているのは10章(ISO 9241-10、後のISO 9241-110)と11章(ISO 9241-11)です。ISO 9241-10では「対話の原則」として、一般用語で表した人間工学的原則を示し、ISO 9241-11ではユーザビリティを定義しています。
ISO 9241-10はJIS Z 8520、ISO 9241-11はJIS Z 8521として日本語に翻訳されたものがリリースされています。
- 対話の7原則
- 仕事への適合性(suitability for the task)
- 自己記述性(self descriptiveness)
- 可制御性(controllability)
- 利用者の期待への合致(conformity with user expectations)
- 誤りに対しての許容度(error tolerance)
- 個人化への適合性(suitability for individualisation)
- 学習への適合性(suitability for learning)
- ユーザビリティ3要素
- 有効さ(effectiveness)
- 効率(efficiency)
- 満足度(satisfaction)
ISO 13407: Human-centred design process for Interactive systems
JIS Z 8530:インタラクティブシステムの人間中心設計プロセス
※1999年の制定時、「ISO 13407」と呼ばれていたこの規格は、2010年の改定により、「ISO 9241-210」となりました。
この規格の内容は、タイトルが表すとおり、コンピュータを応用したインタラクティブシステムに対する人間中心設計活動の指針が記述されているものです。人間(ユーザー)の視点にたって、人間(ユーザー)が使いやすい製品をつくるために、一貫したインタラクティブシステムの開発を行うとはどういうことなのか、何をすべきなのかということが書いてあります。
なお、JIS Z 8530はこれを日本語に翻訳したもので、内容は同一のものです。
(1) 適用範囲はどこなのか?
適用範囲は、インタラクティブシステムということになりますが、では一体インタラクティブシステムとはなんでしょう(インタラクティブシステムは本文中にてシステムと表記されている場合もあります)。ISO 13407(JIS Z 8530)では以下のように定義されています。
combination of hardware and software components that receive input from, and communicate output to, a human user in order to support his or her performance of a task
ユーザーの仕事の達成をサポートするために、人間のユーザーからの入力を受信し、出力を送信する、ハードウェアとソフトウェアの構成要素によって結合されたもの
簡単にいうと、ユーザーが何かインプットしたものに対してコンピュータを応用した製品がアウトプットを返してくれるもの、ユーザーと製品の間に「やり」「とり」のあるものということになります。いくつか例としてATMや工場監視システム、ソフトウェアなどが挙げられていますが、かなりの広範囲に適応されると考えてよいでしょう。
(2) プロセス規格とは?
この規格の特徴は、システム(製品)ではなく、そのシステム(製品)を作り出すプロセスについての指針であり、「プロセス規格」となっている点です。プロセスは、数値的判断基準を設定することができませんので、これに代わって設定されている判断基準が「文書化」なのです。規格に適合しているかどうかを審査するために各プロセスにおいて「文書化」が推進されています。
ISO 13407のほかに、ユーザビリティの製品に関する規格としてISO 9241-10、11という規格があります。これは、製品がユーザビリティを満足させているかという規格になりますので、ISO 13407に沿った製品開発をすると、ISO 9241-10、11に適合したユーザビリティの高い製品が出来上がるという関係になっていると言えます。
(3) 誰が使うのか?
この規格の主なユーザーはプロジェクトマネージャーということになっています。プロセス規格ですから、プロセスを管理するプロジェクトマネージャーが使用するということになるでしょう。しかし、実際は、担当者の協力が必須です。
(4) 構成
ISO 13407の構成は以下のようになっています。この規格の中で一番重要なのは第7章で、そこには、「人間中心設計活動とは何をしなければいけないか」ということが記述されています。
- 第1章 適用範囲
- 第2章 定義
- 第3章 この規格の構成
- 第4章 人間中心設計プロセスを適用する根拠
- 第5章 人間中心設計の原則
- 第6章 人間中心の設計工程計画
- 第7章 人間中心設計活動
- 第8章 適合条件
これに加えて、3つの附属書があります。
- 附属書A 参考規格
- 附属書B ユーザビリティ評価に関するレポートの構成例
- 附属書C この規格への適合を示すための手順の例
(5) 主な内容
これから、主な章の重要な部分をご紹介します。
第5章 Principle of human-centred design(人間中心設計の原則)
次の4つの原則が規定されています。どのような設計プロセスであっても、人間中心設計は以下の4つの原則に基づいて行われることが望ましいとしています。
- the active involvement of users and a clear understanding of user and task requirements(ユーザーの積極的な参加、及びとユーザー並びに仕事の要求の明解な理解)
- an appropriate allocation of function between users and technology(ユーザーと技術に対する適切な機能配分)
- the iteration of design solutions(設計による解決の繰返し)
- multi-discipilinary design(多様な職種に基づいた設計)
第7章 Human-centred design activities(人間中心設計活動)
ここでは、ISO 13407の中心となっている、第7章を簡単にご紹介します。
人間中心設計には4つの活動があり、それらはシステム開発プロジェクトを通じて実施されることが望ましいとしています。その活動は以下の4つです。このa~dまでの活動が順番に行われ、dの評価でユーザーの要求事項が満足させられればそこで一旦終了となります。もし、ユーザーの要求事項を満足させられなかったら、その評価がシステム開発プロジェクトにフィードバックされ、要求が達成されるまでこのプロセスは繰り返されます。
- to understand and specify the context of use(利用の状況の把握と明示)
- ユーザー、仕事、組織環境及び物理環境の特徴が、システムを利用する状況を定義する。
- この活動からの成果は、システム設計に対して重要な影響力があると定義されたユーザー、仕事、環境に関連した特徴を記述する。
- to specify the user and organizational requirements(ユーザーと組織の要求事項の明示)
- 製品及びシステムに関する機能とその他の要求事項を明示する活動を拡大して、利用の状況の記述に関連してユーザーと組織の要求事項を明確にする。
- ユーザー及び組織の要求事項を導き出し、様々な要求事項の間で特定された適切なトレードオフによって目的を設定する。これによって、システムの仕事を人による遂行とテクノロジーによる遂行に区分し、“機能の配分”を定義する。
- to produce design solutions(設計による解決案の作成)
- 設計による解決案は、確立された最先端の技術及び、関係者の経験及び知識、そして利用の状況の分析結果などに基づき描き出す。
- 多様な職種に基づいた検討で設計提案を開発するために、既存の知識を用いる
- シミュレーション、モデル、モックアップなどを使用して、設計による解決案をより具体化する。
- ユーザーに、設計による解決案を提示し、仕事又は模擬的な仕事をさせる。
- ユーザーのフィードバックに応えて設計を変更し、人間中心設計の目的が達成されるまで、この過程を繰り返す。
- 設計による解決の繰り返しを管理する。
- to evaluate designs against requirements(要求事項に対する設計の評価)
- 評価を行う目的は、以下の3つ:
- 設計を改善するために利用されるフィードバックの提供
- ユーザー及び組織の目的が達成されてきていることの確認
- 製品及びシステムの長期的な使用のモニター
第7章で述べられている人間中心設計活動は一般的に適応されるものであるが、どの活動に焦点をあて、投資配分を行うかは、製品のタイプや規模によって決まるという記述があります。