UXグラフ 最新版

UXの動的変化の表現手法としてUXカーブに着目して以来、僕はそれに改良を加えながら「UXグラフ」と称して使ってきた。ここではその最新版について紹介したい。
(記事の最後で、UXグラフ記入用紙(PDFファイル)をダウンロードいただけます)

  • 黒須教授
  • 2015年6月17日

前回述べたように、多くのサービス活動の場合を除き、UXは長期的でダイナミックなものとして捉えることが重要である。そうしたUXの動的な変化を表現する手法として僕はUXカーブに着目し、以来2年ほど、少しずつ改良を加えながら使ってきた。ここではその最新版について紹介したいと思う。

1. 縦軸に何を割り当てるか

(編注: UXカーブに関する)オリジナルの論文[1]では、製品との全般的な関係、魅力(attractiveness)、使いやすさ(ease of use)、ユーティリティ、そして利用の程度(degree of usage)を縦軸としており、合計5枚のカーブが描かれることになる。

なお、カスタマージャーニーマップ[2]でもUXカーブと似たようなカーブを構成することがあるが、こちらはもともとの対象がサービスデザインでありプロダクトではなく、またカーブはタッチポイントとの関係を概念化することを目的として描かれるもので、感情や思考のグラフを描くようになったのは、バリエーションの一つである。なお、アイ・エム・ジェイの感情曲線[3]では縦軸にテンションを割り当てたグラフをユーザに描かせている。

黒須教授が提唱する「UXグラフ」。グラフ中の実線が「満足度」、点線が「利用の程度」を指す。 (クリックして拡大)

僕自身は、何度もグラフを描かせる負担を軽減する目的から、またオリジナル論文でも満足感についての言及があることから、満足感を縦軸としている。これは既に紹介した品質特性に関する図(学会としては[4]で原型を、[5][6]で現在の形に近いものを発表している)でも指摘しているが、様々な品質特性は満足感(意味性)に集約されると考えているからでもある。

ただし、利用の程度(頻度)については、満足感(主観的評価)と関係はするものの違った側面(客観的性質を持つ)からの情報であるため、併記してもらうようにしている。

2. カーブが重要か、イベントが重要か

オリジナルの方法では、カーブを描かせ、次いでその理由(どのようなイベントが起きたか)を書かせるようになっているが、イベントに関する想起が不十分な段階でカーブを描かせることの意味に僕は疑問を持っていた。そこで、イベントを先に記入させ、その後にカーブを描かせるように順序を逆転した。さらに言えば、イベントの座標が記入された後にカーブを描くのは、いわゆるグラフを作成する手順と同じであるため、UXグラフという命名に至った。

ただし、当初は図の上にイベントを記入させる方法を採っていたが、横軸が曖昧な状態で座標を記入させることの意味の薄さを考慮して、現在では、イベントについてその発生時期(横座標に相当する)とそれに対する満足度の程度(縦座標に相当する)を記入させ、その後にイベントを図の中に記入させるようなやり方に変更した。その場合、カーブは必ずしも各イベントの点を通過する必要はなく、それらを考慮して自由に描かせるようにしている。また利用の程度については、その次の段階で破線によって描くように求めている。

3. 横軸の精度

オリジナルの方法では、始点(利用を開始した時点)と現在がそれぞれ左右の端にあり、それ以外の途中のイベントについては大凡の位置に記入させるようになっているが、その点についても精度を上げるため、利用を開始してから現在までの年数や月数を考慮して、横軸を分割させ、その中にイベントを記入させるようにしている。

4. その他

ユーザーエクスペリエンスの期間(「UX白書サマリー資料20111015」p12より)

これは既に発表してある点だが、入手(購入)した時点より前の期待についても、また現在時点での累積的UXだけでなく将来の見通しについても評価を求めている。なお、一般のイベントについてはエピソード的UXが記入されることになるが、現在についてはこれまでを振り返って累積的UXを記入するように求めている。

オリジナル版でも集団法による使い方が言及されているが、UXグラフも集団法で実施して構わないと思う。ただ個人法によって、グラフを記入したあとで個々のイベントについて詳細な情報をインタビューによって得ることは、僕の科研のテーマである「製品・サービスの意味性を明らかにするビジネスマイクロエスノグラフィ手法の開発」にも適合したものであると考えている。

引用文献

  1. Kujala, S., Roto, V., Vaananen-Vainio-Mattila, K., Karapanos, E. and Sinnela A. (2011) “UX Curve: A Method for Evaluating Long-Term User Experience” Interacting with Computers, Elsevier http://iwc.oxfordjournals.org/content/23/5/473
  2. Dijk, G., Raijmakers, B., and Kelly, L. (2010) “This is a Toolbox – Not a Manual” in Stickdorn, M. and Schneider, J. (eds.) (2010) “This is Service Design Thinking” Wiley (日本語訳)
  3. 株式会社アイ・エム・ジェイ (2015) “ユーザーをありのままで理解する感情曲線・行動文脈リサーチ” http://www.imjp.co.jp/press/release/2015/20150414.pdf
  4. 黒須正明、橋爪絢子 (2014) “経験の評価と人工物発達学” ヒューマンインタフェースシンポジウム2014
  5. Kurosu, M. (2014) “Re-considering the Concept of Usability” APCHI 2014 Keynote
  6. Kurosu, M. (2015) “UX and Quality Characteristics” CHIuXiD 2015 キーノート

UXグラフ記入用紙のダウンロード

編集部より: 黒須先生のご厚意で、UXグラフの記入用紙(PDFファイル)をご提供いただきました。UXの把握をお考えの方は、ぜひダウンロードしてご利用ください。

UXグラフ記入用紙(PDFファイル)

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