10億を越えたインターネットユーザ

インターネットは年率18%で成長を続けており、現在、ユーザ数は10億を越えている。今後10年で、その数は20億に達し、ユーザビリティへのニーズは世界的に劇的な変化を遂げることになるだろう。

2005年のある日、インターネットの歴史に刻まれる劇的な瞬間が静かに訪れた。10億人目のユーザがインターネットの利用を始めたのである。一元的にユーザの登録管理をする仕組みがないため、その10億人目のユーザが誰で、その瞬間がいつだったのかを明確に知る術はない。統計的には、上海に暮らす24歳の女性であったと囁かれている。

モルガンスタンレーによれば、インターネットユーザの36%はアジアに、24%はヨーロッパに暮らしている人々だそうだ。1969年、2台のコンピュータ — 1台はロサンゼルスに、そしてもう1台はパロアルトにあった — をネットワークで繋ぎ、インターネットを実現した北米に暮らすインターネットユーザは、全体の23%に過ぎない。

ユーザ数が10億を突破するまでに36年の月日を要した。20億人に達するのは、2015年頃ではないかと言われており、アジアに暮らすユーザがその大部分を占めるものと考えられる。30億人までの道のりは険しく、2040年以降のことになると想定される。

2002年のNUAによる統計では、インターネットユーザは6億500万人だった。以来、インターネットの利用者数は年率18%で増加してきたことになる。1990年代ほどのスピードではないが、それでも相当の伸び率である。

インターネットは桁外れの成長を遂げてきた。10年前、インターネットを使っているのはコンピュータおたくばかりだった。それが今や、多くの国々のビジネスシーンでまず欠かせないものとなっている。合衆国やヨーロッパでB2Bの調査を実施し、外注先を選定するときの最初のステップは候補企業のウェブサイトを見てみることだとする大勢のビジネスマンに出会った。

eコマースの今後

eコマースも、今後発展を続けるだろう。インターネットの利用を始めた人が、ウェブサイトで抵抗なく買い物をできるようになるまでには2~3年かかると一般に言われている。ということは、現在インターネットを利用している10億のユーザがオンラインショッピングを始めることで、eコマースによる売上げは今の数字の少なくとも2倍に拡大されることになる。

10億のユーザを抱えるインターネットは、極めて多様な環境にある。シリコンバレーをはじめ技術革新の拠点にいるエリートだけでなく、多様なユーザに利用されている。億を越える数の高齢者ユーザがいる。学位を持たないユーザだって大勢いる。皆さんのようなユーザばかりではないということだ。多数派とみられるユーザとエリートユーザの開きは日を追うごとに大きくなっている。

つまり、eコマースが潜在する可能性を開花させ、売上げを2倍に伸ばすには、eコマースのユーザビリティガイドラインに従ったより一層系統的なウェブサイトが作られていかなければならない。新しいテクノロジーをいち早く試したいと考える2億のユーザを相手にした商売は簡単だった。今からオンラインショッピングを始めようとする8億の多数派ユーザには、もっと動きやすいウェブサイトが必要になる。その後に続く10億のユーザは、さらに高いユーザビリティを求めることだろう。

人口統計学的変動

2015年までには、インターネットユーザのうちアメリカ人が占める割合は15%を切るようになり、それらのユーザがもたらす価値は、全体の三分の一程度に過ぎないものとなるだろう(アメリカ人ユーザは、他国のユーザよりもインターネット利用時間が長いとされている)。インターネットを通じてもたらされる歳入の三分の二が外国からのものになれば、インターナショナルユーザビリティの重要性が当然高まることになる。残念ながら、国外でユーザテストを実施している企業は、現在のところほとんどない。しっかりとした国際化戦略を呈している企業は更に少ない。遅かれ早かれ、国や地域にあわせていくことになるだろうし、国や地域独自の需要に見合わないウェブサイトはどんどん使われなくなっていくことだろう。

もう一つ、この人口統計学的変動から言えることがある。企業やテクノロジーの潜在能力を判断するための指標として合衆国内の市場占有率やシリコンバレーの活気が重要視されることはなくなり、世界的に見てどうかというところがずっと重要視されるようになるだろう。たとえばMacは、皆さんが思っている以上にその地位を失っている。合衆国では未だに抜きん出た役割を担ってはいるが、市場占有率が一桁の企業を“支配的”と称することはできない。アジアでは、Macは事実上存在しないに等しい。

中国、インド、そしてユーザビリティ

インターネットユーザの次の10億が中国とインドのユーザで大部分を占めるということから、この2ヶ国の市場でユーザビリティへのニーズが今後爆発的に増大すると考えられる。3年前にも述べたように、これらの国々は、オフショアユーザビリティに対する需要を満たすことさえできない。最近、欧米の企業から更に残念な話を聞いた。中国やインドで開発チームを組み、その中に優秀なユーザビリティ専任スタッフを確保しようとしても、それはほとんど不可能な状況だそうだ。

オフショアリングは、中国やインドにある才能を奪い取り兼ねないというリスクを明らかに伴う。国内のウェブサイトデザインにも、その才能は同じように求められるからだ。中国やインドのウェブサイトが使いにくければ、これからインターネットの利用を始める10億人の生産性と喜びを満たし得ず、悲惨な結果を招くことにもなり得る。両国– アジアやラテンアメリカのその他主要国も含めて — は、優秀なユーザビリティ専門家を輩出すべく、集中的な育成プログラムを必要としており、今後10年、これまでユーザビリティ業界を築き、支えてきた専門家には、その支援が望まれる。

数10億のユーザがウェブを活用できるようにするためにどうしなければならないかを細かく考えなくとも、ユーザ数が20億を越える日が必ず来るという紛れもない事実がある。そしてこの事実は、インタラクティブメディアが確固たる価値を有していることを示す。世界中の人々が、かつて予想だにしなかった権限の享受を楽しんでいる。どんなこともなし得る。ウェブがかくも急速な発展を遂げ、これからも長きに渡り、発展し続けるであろう理由はまさにそこにあるのだ。

2005 年 12 月 19 日