イギリス総選挙のEメールニュースレターの評価

イギリスの主要政党のEメールニュースレターは、我々が前回評価したときのアメリカの政治系ニュースレターよりもユーザビリティスコアが高い。

8年前のEメールニュースレターについての最初のユーザー調査以来、ニュースレターというのが顧客との関係を育てる優れたメカニズムであることはわかっていた。なぜ特定のウェブサイトを訪問しているのかを最近、実際にユーザーに尋ねてみたのだが、最も多かった答も、「そのサイトからEメールニュースレターを受け取ったので、そうしようと思った」というものだった。

ニュースレターというのは、ビジネスに有益である以上に、選挙キャンペーン期間中、政治家の候補者が支持者との連絡を絶やさないようにする手段として効果が高い。(マスコミではTwitterやFacebookを使った選挙運動の方が多く取りあげられているかもしれないが、3政党の代表全員が昔からあるニュースレターの方が実際には効果の高い選挙ツールであるということをThe Economist で述べていた)。

そこで、私は今回のイギリス総選挙でニュースレターのデザインがどのようになっているかをチェックすることにした。それにむけて、主要な3政党全て、つまり、保守党、労働党、自由民主党のニュースレターの評価を行った。
配信登録のプロセスの評価は2010年の4月8日に、配信解除のプロセスの評価は2010年の4月21日に行い、ニュースレターのコンテンツについてはその間の2週間(4月8日〜21日)で評価した。

私が評価を行ったのはウェブサイト自体についてではなく、ウェブから離れたところで政党がどういうふうにインターネット上のコミュニケーションを利用しているかだけである。とはいえ、自由民主党のサイトがタブらしく見えないタブを使うことで、ナビゲーションデザインの重要なガイドラインに違反していることは指摘せざるをえないだろう:

Box from the Lib Dem homepage

このデザインでは「Media Centre(メディアセンター)」というラベルはそれ自身がクリックできるGUIアイテムであるというのではなく、かなりのところ、副題、あるいは「Latest news(最新ニュース)」の説明のように見えてしまっている。

スコアカード

以下はガイドライン上の4カテゴリーにおけるニュースレターの適合度を平均したものである:

保守党 労働党 自由民主党
配信登録のインタフェース 55% 42% 47%
ニュースレターのコンテンツとプレゼンテーション 68% 63% 66%
配信の管理と解除 64% 63% 73%
ニュースレターのジャンクメールとの識別 50% 50% 100%
全ガイドライン 63% 56% 62%

(ユーザビリティ全体の評点はニュースレターのユーザビリティのためのガイドライン149項目を全て平均したものによって決定される。したがって、それは単に4つのカテゴリーの各スコアを平均したものとはならない。各々のカテゴリーに含まれるガイドラインの数は同じではないからである)。

登録プロセス

労働党の登録ページはユーザビリティガイドラインに対していろいろと違反している:

労働党のEメールニュースレター購読者のための登録ページ

メーリングリスト構築時の間違いとして最悪なのは、登録ページからは気を散らせるものを取り除こうというガイドラインに違反することである。あなたがたが後一歩でユーザーのEメールアドレスを確保できそうなところで、彼らはこのページを離れることを決意して、Facebook上のあなたがたのファンのページをぼーっと見に行ってしまうというわけだ。

また、一貫性があるというのはいいことである場合も多いが、「Sign Up(登録する)」ボタンをクリックしてユーザーが行きつくページに、標準ナビゲーションのニュースレター登録用要素があるというのは実際のところ、まずい。それによって、ユーザーを彼らが既にいると同じ状況に単に移す、「ノーオペレーション」命令を避ける、という標準的なアプリケーションデザインのガイ
ドライン
を破ることになってしまうからである。

(同様に、ウェブサイト上の他の全てのページがホームページにリンクを張るべきであっても、ホームページ自身は自分に対してリンクすべきではない。自分自身へリンクを張ったホームページというのは がホームページが犯す間違いの10位に挙がっていた。哀しいことに、労働党も自由民主党もこの昔からある間違いを犯している。私が警告してからは7年も経っているのというのに。しかし、少なくとも保守党はこの点については正しく理解している)。

労働党の名誉のためにいっておこう。彼らは登録ページの個人情報保護方針の説明について及び腰ではある。彼
らの方針が個人情報保護について、歴史上、もっとも効力の弱いものの一つであることは間違いない。「あなたの提供したデータは利用される可能性があります」と言っているだけなのだから。しかし、他の2政党は個人のデータをどう利用するかについて触れようともしていない。(そしてもちろん、サイト上のどこかに個人情報保護の方針がすべて提示されているだけでは十分ではない。ユーザーは慎重に扱うべき情報の提供を依頼されたときには、その場で個人情報保護の方針について説明を受ける必要がある)。

登録直後に体験するものについていうと、自由民主党が提供している確認ページは私が見たことのあるものの中で最悪のものの一つである:

ヘッダーには「Sign up for Email News (Eメールニュースに登録しよう)」とある。しかし、私はたった今、それをしたばかりだ! ヘッダーの後にはスローガンやなんだかんだテキストが続いている。一番下までいかないかぎり、確認について書かれた目立たない1行、「your details have been submitted.(あなたの詳細情報は受領されました)」は見られない。この時点においても、登録が終わっているかどうか教えてくれるわけでもないし、いつ最初のニュースレターが受け取れそうかを言ってくれるわけでもない。たぶん、キャンペーン期間中、そういったEメールを送るのにかかるお金を一銭でも使う前には、新規の登録ユーザーを承認したくないのだろう。

このページはニュースレターの確認に関するガイドラインに違反しているだけでなく、ウェブにふさわしいライティングのためのガイドラインにもいくつか違反している。そこには一貫性のないパンクチュエーションといった初歩的なミスも含まれる。また、オンライン上のタイポグラフィをよく理解しているものなら誰もしないような、最終行でセリフ体にいきなり変えるということもやっている。そうすることで、サンセリフ体ですべて書かれたサイト上で、多少なりとも目立たせられるとしても、だ。

確認ページが最悪なのにもかかわらず、自由民主党は確認メールに関するレースでは勝者となった。ウェルカムメッセージを一番先に送ってきたからである(労働党を4分の差で破った)。保守党は私の登録についてわざわざ感謝するようなことをまるでしなかった。日刊のニュースレター以上に彼らのような週刊のニュースレターでは良質なウェルカムメッセージによる恩恵はあるだろうに。結局のところ、人というのは6〜7日連絡がなくても気にはしないのかもしれないが、ユーザーの中にはその時点で自分が登録したことを忘れてしまって、ニュースレターをスパムと考える人も出てくることだろう。

また、自由民主党はウェルカムメッセージのFromフィールド(送信元欄)とSubject行(件名)でも圧倒的に優れている:

  • From(送信元): Liberal Democrats(自由民主党) ? Subject(件名): Thank you for
    signing up for Liberal Democrat email
    news(自由民主党のEメールニュースにご登録いただきありがとうございます)
  • From(送信元): labourparty(労働党)@email-new.labour.org.uk ? Subject(件名): Thank you for signing up(ご登録ありがとうございます)

ユーザーの周りにスパムがあふれているということを考えると、ユーザーにあなたがたのメッセージを開けることを促すには、件名はできる限り明確で記述的なものであることが重要だ。同じ理由で、コンピューターマニアだけを対象にしたような(理解しにくい)Eメールアドレスよりも、普通の人でも理解しやすいFromフィールドの方が優れている。Liberal Democratsはlabourpartyに勝る。少なくとも活字の見やすさという点においては。

発行頻度

以下に示すのは14日間の評価期間中に各政党から私が受け取ったEメール(確認メッセージは含まない)の数である:

  • 労働党: 3
  • 保守党: 4
  • 自由民主党: 9

保守党のホームページは「David’s weekly email(Davidの週刊Eメール)」への登録をユーザーに依頼している。そのことからメッセージは週に1回届くと思ってしまう。しかし、それは違っていた。私が保守党から受け取ったEメールは2週間で4通だったのである。だからといって、この頻度が選挙キャンペーン中、支持者への負担になるとは思わない。しかし、それが週刊でないことは確かだろう。

逆に、同じ時期、労働党からはたった3通のニュースレターしか受け取らなかった。これではコミュニケーションとしては間違いなく少なすぎである。人々は選挙について継続的に知りたくて、党のニュースレターに登録するからである。

自由民主党が送ってきたEメールは9通だったが、これは情報汚染ぎみといえる。1つのメッセージに情報を集約せずに、1時間の内に3通のEメールを送ってきた日にはとりわけそう感じた。

一般には、選挙キャンペーンの初期には週に2〜3通のEメールを送り、読者の興味が高まってくる投票前の最終的な追い込みの時期には回数を増やして毎日更新するというのが頻度としては適切である。

アメリカの政治家はあまりにも大量のEメールを読者にばらまき、支持者を疲弊させてしまうという過ちを自ら犯している。イギリスの政治家の犯している過ちは逆で、支持者が頻繁な更新を望んでいる期間中に彼らが取るコミュニケーションは少なすぎる。

私の分析によると、3つの政党はどこも、人々がニュースレターの購読を解除しないよう、送信するEメールの数を気を遣って制限するという(安全)策を取っている。これは一般には悪いことではないが、読者の中の関わりを嫌うセグメントの人たちのことを気にしすぎているように思う。これではもっと関わりを持ちたい読者を失望させてしまう。たぶん、党の方ではそうしたグループはTwitterのフィードでカバーできると思っているのだろう。

その政党がニュースレターのガイドラインより、ソーシャルネットワーキングのユーザビリティガイドラインにうまく適応しているにしても、Twitterは良質なEメールニュースレターの代わりにはなれない。その理由の1つは、政党というのはだいたい1時間に1回つぶやくことが多いが、それだと政治オタク以外の人にとっては回数が多すぎるからである。結果として、彼らのフォロワーは14,000〜27,000人しかおらず、それは人口6,100万人の国としてはまるで物足りない。

このジレンマに対して推奨される解決策は、発行頻度の異なる2種類のニュースレターを提供することである。しかし、どの政党もそうはしていない。

ニュースレターの受領

保守党から最初に受け取ったニュースレターのFrom欄には「George Osborne」と書かれていた。しかし、ウェブサイト上ではニュースレターは「David’s weekly email(Davidの週刊Eメール)」として宣伝されていた。(David Cameronは保守党が立てた首相候補であり、Osborneは大蔵大臣候補である)。

一般的なガイドラインではニュースレターは認知されている組織名か有名な人物の名義のいずれかで送るものとされている。もしそうなら 「David’s email」はGeorgeでなく、Davidから送られるべきである。政治に関するニュースレターで党の指導者の名前が複数取り上げられるのは構わないが、そうするのであれば、有名な人物一人の名前だけを宣伝すべきではないだろう。

Email newsletters from all 3 major parties in the British election

3つのニュースレターのうちの2つで、その党のFacebookのページとTwitterのフィードへのリンクが目立つように載せられている。これはうまいやり方である。ソーシャルネットワークの配信についてのユーザーテストで、企業や組織の公式ホームページを見つけるのにユーザーは非常に苦労していた。オンラインサービスの大手の中では、発見しやすさの点でひどすぎるのはAppleのApp Storeだけだったが。

自由民主党のニュースレターは一番流し読みがしやすく、時間に追われている現代の読者向けに唯一きちんとデザインされていた。保守党のニュースレターはキーワードにハイライトを入れるなど、ウェブ向けのライティングのガイドラインによく従っており、テキストを途中で中断するためにビデオクリップにリンクしている写真を入れたりもして、ユーザーの目を画面に引き付けようとしている。ライバル達がこうしたものを提供しているのとは対照的に、労働党のニュースレターは大きな灰色の壁のようであり、テキストがひとかたまりになっている。

幅広い消費者を読者ターゲットにするには、8年生(;日本の中学2年生)のレベルで書くことを推奨したい。(つまり、テキストの複雑さのレベルをしっかり学校に行っている15才のレベルに合わせるべきということ)。ニュースレターのサンプルの読みやすさは以下の通りで、このアドバイスに実際に従っているのは自由民主党のみだった:

  • 保守党: 10年生
  • 労働党: 9年生
  • 自由民主党: 8年生

保守党と労働党のコンテンツが人口の43%の人にとって複雑すぎるというのは問題になるだろうか。それほど大きな問題にはならないとは思う。政治をきっちりフォローしようとして、政党のニュースレターを購読しようなどという人は、そうしたテキストを簡単に読めてしまう57%のエリートに入るだろうからだ。
それに少なくともこうしたニュースレターはどれも大学レベルの英語では書かれていない。大学レベルというのが、政府や大企業のウェブサイトの文体の特徴ではあるのだが(そして私自身の記事ですら大学のテキストと同じくらいのレベルの読みやすさで書かれていることが多い)。

どの政党もタイトルが良くない。ここにサンプルがある。(a) どのヘッドラインがどの政党のものか、そして、(b) (もしどれかを開くとしたら)その後に続くどのEメールを開こうと思うか。考えてみて欲しい:

  • One simple word(シンプルな1つの言葉)
  • Answer time(回答の時間)
  • Can you help make it a fair fight?(それを正せるよう手伝ってもらえますか)
  • Jakob, my take on week two of the campaign(Jakobへ, キャンペーン2週目についての私の見解)
  • State of the Race memo 3(選挙レースの状態のメモ3)

少なくとも最後の2つは(各々、保守党と労働党のもの)、選挙に関するものだというちょっとした情報の匂いを漂わせている。それでも、その分析をまとめた実際の内容をタイトルにつけ加えて、「メールを開こう」と思わせるための魅力を強調した方が良かっただろうとは思う。

以下に示すのは両方とも自由民主党によるより上手なタイトルである:

  • Spread the word ? The tax cut you can believe in(噂を拡げようー税金のカットは可能だ)
  • Help elect a Lib Dem MP(自由民主党の下院議員を当選させてください)

1つめのタイトルには興味を引くトピック(税金)についての具体的なコンテンツが含まれている。しかしながら、哀しいことに、情報を伝達する言葉はヘッドラインの後半にしかなく、中身のない当惑させられる表現から始まっている。(私は噂を広めるかどうかは自分で考えることにしている)。

2つめのタイトルは2週間の全調査期間中、私が受け取った唯一の個人宛のメールについていたもので、登録プロセス中に提供したプロフィールのユーザーが関心を持ちそうな特定の激戦区について触れられていた。(逆に言うと、単にユーザーの名前をヘッドラインに入れるというのは真のパーソナライゼーションではない。そういうのは出しゃばりであって、個々人に合わせたというわけではないからだ)。

勝つのは誰か

前回、2004年に選挙キャンペーンのニュースレターのユーザビリティを評価したとき、John Kerryの57%というユーザビリティスコアに対して、George W. Bushは58% のスコアを獲得して勝利した。そして、Bushは選挙にも勝った。

(2004年のユーザビリティスコアをこの記事のスコアと直接比較することは不可能である。なぜならば、2004年の調査のリビューはニュースレター調査についての初期バージョンを元にして行ったからである。現在ではEメールのユーザビリティについて、我々は以前よりずっと多くの知識を持っているため、良いスコアを得ることはより難しくなっている。今の時代に高い点数を獲得することが困難になっていることから考えると、2004年の勝者のスコア58%より、2010年の勝者のスコアが63%と高くなっているのは、ユーザビリティが進歩していることを示す良い兆候だろう)。

私は1996年にBill Clinton vs. Bob Doleのユーザビリティ評価を行っている。最初の評価では両候補のスコアは同じだったが、2週間以内にClintonは私の推奨したことをすべて実行し、その一方、Doleは私が彼に伝えたことをわざわざ実行はしなかった。結果、キャンペーンのほとんどの期間、Clintonのサイトの方がユーザビリティに勝ることになった。そして、彼はその選挙に勝った。

このようにユーザビリティスコアが選挙結果を予測するという実績からいうと、5月6日のイギリス総選挙で勝つのは保守党なのだろうか。必ずしもそうならないとは思う。4月から5月にかけては、まだいろいろなことが起こりうる。また、インターネットが選挙結果に及ぼしうる影響は1ないし2%に過ぎないだろう。(Bush vs. Kerryのような)接戦になれば、優れたユーザビリティによって、勝者を決めるに足るほどの目立った変化が起こせる可能性もあるだろうが。

5月のレースが厳しいものなら、ユーザビリティに勝る保守党がたぶん勝つことになるだろう。しかし、土壇場になって、Gordon
Brownが苦境から抜け出す策を見つければ、あるいはDavid Cameronが最後のテレビ討論会でヘマをすれば、結果は簡単に覆りうる。有権者の5%以上がそうしたことで意見を変える可能性があるからである。昔からのメディアによる支配は終了した。しかし、だからといってEメールを無視することはない。なんといっても、非常に費用の安い手段ではあるのだから。