テストを受けることが学習効果を高める
人というのはテキストを読んだ後、それについての情報を記憶から検索すると、ずっと多くのことを覚えるものである。クイズは、ユーザーがより多くのことを覚える手助けをウェブサイトがするための1つの方法になる。
私が長い間心配してきたことに、ウェブというのは、なにかを本当に学習するには向いてないのではないか、というのがある。そこでの根本的な問題は、ユーザーの情報に対する表面的「ネットサーフィン」である。つまり、1997年以来、数え切れないほどの調査が示しているように、人というのはウェブサイト上ではテキストを流し読みすることが多く、じっくりとは読まないものなのだ。
このことから認識する必要があるのは、ユーザーは忙しいので、ウェブサイトにはそれほど関心がないということだ。彼らのしたいことは、現状のニーズを満たしたら、可能な限りすばやく離れるということだけである。こうして、従来からある、ウェブにふさわしいライティングのためのガイドラインは導かれる。すなわち:
- 流し読みをしやすくするために、見出しの最初の2語や、その他のマイクロコンテンツには手間をかけよう。
- ユーザーが流し読みしそうなデータや情報を示す数字には、単語の代わりに算用数字を利用しよう。
- 箇条書きを利用しよう :-)
どれもそのとおりだが、要点だけを知るというよりは、本当にどうしても何かを学ぶことが必要なときもユーザーにはある。対象がティーンエイジャーであれ、大学生であれ、教育サイトがこのカテゴリーに入ることは明らかである。しかし、商業サイトにもユーザーに情報を与える必要のあるものは多い。
そう、例えば、高血圧の患者用の薬についての、製薬会社のサイトを制作中だとする。目的の1つは、その会社の錠剤を飲む以外に、何をすべきかを患者にアドバイスすることである。しかし、「塩分の摂取量を減らしましょう」とだけ、言うわけにもいかない。必要なのは、このことが実際には何を意味するかを人々に教えることである。例えば、メキシコ料理店での注文方法を提案するのもいいだろう。強力な概念モデルを持つ人は、血圧を下げることに成功して、それを、長い間、低く保てる可能性も高くなるからである。
テスト後には情報保持率が145%向上
自分たちのウェブサイトのコンテンツから、ユーザーにもっと多くのことを学んでもらうためには、どういう支援をすることができるだろうか。ここにあるのは、最近の調査研究から得られたその救済策である。
Purdue UniversityのJeffrey D. KarpickeとJanell R. Bluntが、今月(2011年1月)のScience で発表した論文によると、彼らは人々が科学のテキストを読んでから1週間後に覚えていられる情報量の測定をしたという。
テキストを読んだだけでその後他に何もしなかった学生に比べ、テキストを読んだ後に複雑なテストをこなした学生は1週間後に覚えていた内容が145%も多かった。
興味深いことに、テキストは読んだがテストは受けなかった人たちに比べて、テストを受けた人たちは覚えたと自分で思っていた量が15%少なかった。実際には彼らの方がずっと多く覚えていたわけだが。思っていることと現実のこの食い違いは、ユーザーの実際の行動というのは観察するものであって、彼らの言っていることは当てにしてはならない、という既に山ほど出ている調査結果についての、さらなる小さな証拠である。
この場合、なぜ、テストを受けた学生たちが、実際にはより多くのことを覚えていたのにより少なくしか覚えていないと思ったのかは、(もちろん、終わってみれば、ということになるが)明らかだ。テストを受けることで、自分の知識にある穴がすべて顕在化してしまうため、自分への自信が(正しく)揺らいでしまったのである。対照的に、テキストは読んだがテストを受けなかった人たちは、自分にうぬぼれ、次の週のテストでの実際の成績よりも、ずっと良い点数が取れるだろうと予想したというわけだ。
テストを受けたほうの条件は検索練習テストだったが、ここでの条件は従来のテストに比べ、はるかに複雑なものである。その全体の手順は以下の通りだった:
- テキストを読む。
- 自由想起テストを受け、できるだけ多くの情報を思い出す。
- 再び、テキストを読む。
- もう1度、想起テストに答える。
同じ情報を4回扱う必要のあるこの複雑な手順を踏んだ後のほうが、多くのことを覚えているというのは、たいして驚きではない。しかし、研究者たちは単にテキストを4回読むだけという条件についても調査していた。こういう読み方をした人たちも、1回しかテキストを読まなかった人より、多くのことを1週間経っても覚えていたが、その覚えていた割合は64%多かっただけに過ぎなかった。
言い換えると、2回の再読を2回のテストに置き換えることで、人々の1週間後のパフォーマンスは大きく上昇したということである。
この理由は大きく2つある:
- 第3ステップは、検索練習をしている読み手にとっての唯一の再読の機会だが、人々が第2ステップで覚えていなかった情報により多くの注意を払うであろうことは予想が付く。対照的に、同じ内容のものを繰り返し読み続けるだけの人々は、自分の記憶の欠けているところに気づかないので、間違った優越感だけを持つようになる。
- 想起テストによって、概念は記憶の中によりしっかりと組み込まれることになる。昔からある心理学の定説に、何かを多く覚えようとすればするほど、それについて良く覚えられる、というのがある。なにかを想起しようとするというまさにその行為によって、将来の利用に向けて、より強固に脳の中でコード化されるのである。(「人の心とユーザビリティ」での1日セミナーでは、人間の記憶のユーザーインタフェースデザインに対する意味等、心理学に関わる調査結果についての情報がさらに提供されることになっている)。
ウェブデザインへの意味
もしあなたが学生で、ある試験にパスしたいと考えているなら、どう勉強したらいいかはわかったはずだ。つまり、教科書の各章を読んだ後に、自由想起テストをしてみればよい。
しかし、この研究は実際のデザインプロジェクトにとってはどういう意味があるのだろうか。
ウェブユーザーに無理にフルの検索練習テストを受けさせ、ウェブページを訪問するたびに、それについて覚えていることすべてについての作文を2回書かせることなどできるわけがない。
たいていの場合、ユーザーには検索練習で時間を無駄に使うことすらさせるべきではない。4段階の手順を踏むことによって、情報を1回読むことに比べると、かかる時間は約300%増しになる。それなのに、結果として、保持できる情報の量は145%増しになるだけなのである。
費用対効果分析では表面的アプローチの方が有利になることは間違いない。つまり、4件の記事を読めば、各記事の内容を少しずつ覚えることができる。あるいは、その同じ時間で、1つの記事だけをじっくりと学ぶことも可能だ。情報採餌理論や実験的観察が教えてくれるのもともに同じ結果である。すなわち、ユーザーが好むのはより幅広く経験することであって、より深く学ぶことではない。
それでも、ユーザーが本当に深く知りたいと思うような場合も、数は少ないがある。さっと興味をひくブログの投稿ではなく、見識に満ちた記事を書くことにもメリットがあるように、こういうやる気のあるユーザーをターゲットにすることは有益である。ユーザーエクスペリエンスをブランドとみなすとき、表面的なサイトよりも、あなたがたのサイトのことについて、顧客がより多くのことを覚えてくれれば、そのほうが都合がよいのは明らかだからである。
本物の検索練習というのはウェブでは現実的ではない。しかし、そういうゲームを作って、ユーザーが覚えている限りのことを書き出させ、概念をいくつ正確に書き留めることができたかを数えられるチェックリストにクリックスルーするように働きかけることはできるだろう。とはいえ、たいていのサイトではインタラクティブなクイズのほうが実現の可能性が高いとは思われる。自由想起テストの形で内容を書き出すほうが効果は高いが、書くということは仕事のようなものなので、ユーザーがより好むのは、単にボタンをクリックすることだからである。
どんな場合でも、重要なのはコンテンツを読んだ後に、ユーザーに記憶力を使わせることである。そして、いかに自分たちが覚えてないかを見せた後には、その内容を再訪する機会を与えることだ。
では、今から、この記事について覚えていることを書き出してみよう。そして、その後、もう一度読んでみよう :-)