認知的ウォークスルーによるインタフェースの学習しやすさの評価

学習しやすさは、新規の複雑なインタフェースには不可欠なUXの要素だ。しかし、認知的ウォークスルーを利用すれば、新規ユーザーを失敗させるようなデザイン上の問題を特定することができる。

認知的ウォークスルーは、新規ユーザーの視点に立ってシステムの学習しやすさを評価するために用いられる手法である。ユーザーテストとは異なり、ユーザーの参加を必要としない(そのため、実施に比較的費用がかからない)。ヒューリスティック評価エキスパートレビューPURE評価と同じく、高度に構造化された方法で実際にタスクを実行しながら検証し、新規ユーザーの視点からインタフェースを評価していく、さまざまなレビュアーの専門知識を利用する方法であるといえる。

定義:認知的ウォークスルーは、タスクベースのユーザビリティ検査手法で、機能横断的なレビュアーチームがタスクフローをステップごとに実行しながら検証し、一連の所定の質問に答えることで、新規ユーザーにとって課題になりそうなインタフェースのポイントを特定することを目的としている。

認知的ウォークスルーは、ワークショップ形式で行われる。セッション内で評価するユーザータスクは、事前に定義しておく。(最重要なタスクのリストがあれば、そこから評価するタスクを選ぶといいだろう)。ワークショップの参加者は、UXの専門家、プロダクトオーナー、エンジニア、ドメインエキスパートなどである。

参加者のうちの1人がファシリテーターを務める。参加者は全員が評価者となって、特定のタイプのユーザー(ユーザーペルソナによって定義できる)が所定の状況で、そのインタフェースをどのように認識し、行動するかの解釈を示す。さらにもう1人の参加者が記録係になり、各質問に対して見出された回答と、(このグループで決めておいた)最重要なタスクが成功しそうか、あるいは失敗しそうかを記録していく。

タスクを評価する際は、ファシリテーターがタスクを実行する。そして、画面が切り替わったときなど、インタラクションのステップごとにタスクを中断する。そこで、評価者は、ユーザーがフローのそのステップで成功する可能性が高いかどうかを判断するために、以下の4つの重要な質問(分析基準)について議論し、失敗の原因になりそうな要素を明らかにする:

  1. ユーザーは、正しい結果を出そうとするだろうか。つまり、ユーザーは、今、やろうとしている動作(ステップ)がより大きな目標を達成するために必要なものだと理解しているか。
  2. ユーザーは、正解の動作がすぐ行えるようになっているということに気づくだろうか。つまり、そのステップを達成するためのインタラクティブな要素が表示されている、またはすぐに見つかるようになっているか。
  3. ユーザーは、正解の動作と達成しようとしている結果とを関連づけることができるだろうか。おそらく正しいボタンが表示されていると思われるが、ユーザーは、そのボタンのラベルを理解し、そのボタンを使うべきであるとわかるだろうか。
  4. 動作を実行したあと、ユーザーは、目標に向かって前進したということがわかるだろうか。動作が実行されたあとに起こることに基づいて、ユーザーはそれが正解の動作で、それによってより大きな目標に向かって前進できたということがわかるだろうか。

例を見てみよう。診療所の患者が受診時の受付手続きや患者情報の更新をするために使うタブレットのインタフェースを想像してみてほしい。ここで認知的ウォークスルーを利用して、ユーザーエクスペリエンスを評価するためにレビュアーが検討する対象は、そうした受診準備の作業を完了するために患者がインタフェース内で通過するステップとする。

この手法で評価する必要がある重要なユーザータスクは以下である:

  • 受付の手続き:­クリニックに初めて来る患者(事前に定義したペルソナ)が、予約の時間に来院し、受付担当の指示で、用意されているタブレットのアプリケーションを使って、受付の手続きをする。
  • 診療記録の更新:­再診の患者(事前に定義したペルソナ)が、予約の時間に来院し、受付担当の指示で、用意されているタブレットのアプリケーションを使って、患者情報や既往歴を確認して更新する。

1つめのユーザータスクである、患者の受付の手続きについて、さらに詳しく見てみよう。認知的ウォークスルーのセッションで、評価グループは、まず、受付手続きを完了しようとするときにユーザーが遭遇する最初の画面を検討することから始める。下のスクリーンショットの例で、新規の患者が行う正解の動作は、右下隅の正方形をタップすることである。

認知的ウォークスルーの評価者は、患者の受付手続きフローの最初のステップから学習しやすさを評価していく。ここでの正解の動作は、「New Patient」(新規の患者)という四角をタップすることである。

認知的ウォークスルーのこのステップで、評価グループは前述の4つの分析のための質問に取り組む。

分析のための質問評価グループの判断
1. ユーザーは、正しい結果を出そうとするだろうか。はい:患者は、来院時に受付担当から自分の予約の受付手続きするように指示されるだろう。さらに、アプリケーションのヘッダーには「患者の方の受付手続き」(Patient Check in)という言葉も入っている。

:評価グループでは、受付担当が席を外している場合もあるのではないかという意見も出た。また、アプリには「患者の方の受付手続き」という言葉が表示されているが、表示位置が右上隅なため、ロゴと思われ、見落とされる可能性もあるだろう。そこで、グループは、この状況に対するデザイン上の解決策をさらに探すということで合意した。
2. ユーザーは、正解の動作がすぐ行えるようになっているということに気づくだろうかはい:すべてのアクションボタンは、ページの本文部分に配置され、タップできることを効果的に伝える非常に目立つビジュアルスタイルが採用されている。
3. ユーザーは、正解の動作と達成しようとしている結果を関連づけることができるだろうか。いいえ:評価グループからは、画面に表示される4つの選択肢から正解を選び出すのは、新規の患者にとってはかなりの認知的努力が必要であるという意見が出た。他の選択肢が不正解だと評価して排除してからでないと、「新規の患者」(New Patient)という正解の選択肢を特定できないからだ。

また、予約しているのだから患者記録があるだろう、と思う患者がいる可能性もあるし、最初に「患者検索」(Patient Search)という選択肢が目に入ってしまい、「新規の患者」(New Patient)という選択肢を検討する前にそれを選んでしまう人もいるかもしれない。

評価グループは、最初に患者に新患か再診かを尋ねてから、再診の患者には患者記録検索用のさまざまな選択肢を提供することで、デザインをシンプルにする方法をさらに模索するということで合意した。
4. 動作が実行されたあと、ユーザーは、目標に向かって前進したということがわかるだろうか。はい:ページが切り替わり、「個人情報を入力してください」というヘッダーのフォームが表示される。

チームは、最初の動作について議論したあと、フローの次のステップに進み、タスクが完了するまで分析のための同一の質問に取り組んでいく。ステップをどの程度細かく分けるかは、チーム次第である。たとえば、入力欄が5個あるフォームは、5つのステップに分けることもできるし、1つのステップのままにしておくことも可能だ。効率を上げるために、フォームのあるセクションに入力して、「次へ」ボタンを押す、といった、よく行われる小さな動作の組み合わせは、グループとしてまとめておくことをお勧めする。そして、ファシリテーターは、そのステップがどういう要素で構成されているかを該当するタスクとシステムに照らしあわせてワークショップの前に特定しておく必要がある。

大きなタスクのフローを構成する各ステップごとに、評価グループは、ユーザーがそのステップで成功するか失敗するかを総合的に判断していく。上記の質問のいずれかで「いいえ」と判定された場合、記録係は、そのステップ全体を「失敗」と記載する。

すべてのステップの評価が完了したら、評価グループは失敗と見なされたポイントについてまとめ、次にどうするかを話し合う。

手法としての歴史

認知的ウォークスルーは、1990年にClayton Lewisとその研究チームによって初めて発表された。これはキオスクやATMのようなウォークアップアンドユース(事前の説明や練習なしに使用するシステム)のインタフェースを評価するために開発されたもので、ユーザーが事前の知識や正式な練習なしでインタフェースを理解して利用できるかに焦点を当てていた。この方法論は認知科学に根ざしており、特にユーザーが探索と問題解決を通じてインタフェースを学習する方法を説明するCE+理論モデルがベースになっている。認知的ウォークスルー手法は、インタフェースの学習しやすさを評価する手段として、この理論に基づいて開発されたものである。

このオリジナルの方法は時間と手間がかかるものだった。そこで、製品チームが実施できるように何年にもわたって反復と調整が繰り返され、元の手法に基づいたCathleen Whartonたちによって開発されたより簡単で合理的なプロセスが、アプリケーションやWebサイトを含むあらゆる種類のインタフェースに広く採用されるようになった。この方法が、今日UXリサーチで採用されている現代版の認知的ウォークスルーとなっている。

認知的ウォークスルーはすべての種類のインタフェースに適しているのか

認知的ウォークスルーは学習しやすさを評価するためのものなので、複雑で新しい、または馴染みのないワークフローや機能をもつシステムに最も効果的である。

たとえば、先ほど紹介した例(診療所で患者が受付手続きをして自分の情報を更新するために使用するタブレットのアプリケーション)は、認知的ウォークスルー法に適した事例である。ほとんどのユーザーは、過去にこのようなアプリケーション使った経験があまりないため、このアプリケーションがどのように動作するのかについて、既存のメンタルモデルを参照したり、用いたりすることができないからだ。

一方、標準的なデザインパターンを正しく採用している一般向けのWebサイトは、認知的ウォークスルーには適していないだろう。そうしたデザインパターンはWeb上の至る所に存在しているので、ほとんどのユーザーは、これまでの経験から持ちこんだ知識によって、すぐに問題なくそのインタフェースを使えるようになるからだ。そのため、デザイン標準を取り入れている一般的なWebサイトの学習しやすさを認知的ウォークスルーのような徹底的に調べるやり方で評価するのはやりすぎだろう。たとえば、eコマースの基本的な決済フローは、ほぼすべてのユーザーにとってお馴染みなので、認知的ウォークスルーを実施する必要はない。

以上の理由により、認知的ウォークスルーは、新しいデザインパターンやインタラクションを必要とする複雑なアプリケーションやシステムを評価するのにもっともよく用いられる。

認知的ウォークスルーはいつ実施すべきか

この評価手法は、新規ユーザーの学習しやすさを妨げる可能性のあるデザイン上の問題を明らかにするために、新しいシステムの開発中に利用するのが最適だ。実際にタスクを実行しながら初期のコンセプトプロトタイプを検証し、ユーザーがインタフェースを探索する際に通過する認知プロセスに重点的に取り組むことで、製品チームは改善の機会を特定することができる。

もちろん、新しいインタフェースに適用される評価手法は、認知的ウォークスルーだけではない。開発時にはユーザビリティテストが必要なわけだが、ウォークスルーを行うことで、費用のかかる正式なユーザビリティ調査を計画して実施しなくても、問題を発見することが可能になる。

認知的ウォークスルーとヒューリスティック評価との比較

認知的ウォークスルーでは、目標が達成されるまでの途中の各ステップで、ユーザーの視点で事前に定義した一連の探索的質問に取り組むことによって分析を行う。このように段階的なプロセスを踏むことで、システムの弱点になりそうな部分や改善できそうな機会をレビュアーが特定できるようになるのである。

認知的ウォークスルーは、質問ベースの評価方法をよく行われるタスクセットに適用することで、より一般的な性質をもつヒューリスティック評価と一線を画している。ヒューリスティック評価は、一連のユーザビリティガイドラインやベストプラクティスに照らして製品全体を評価することにより、弱点や改善できそうな点を特定しやすくするものだが、システムに対するユーザーの視点や反応を掘り下げることはしない。この2つの手法の比較を以下の表に示す。

ヒューリスティック評価認知的ウォークスルー
視点アナリスト新規ユーザー
目的一般的なユーザビリティ学習しやすさ
対象範囲全体対象となる活動
手法ガイドラインに照らしたインタフェースの評価システムに対するユーザーの潜在的な反応や行動の探索

どちらの評価方法も、製品やエクスペリエンスのユーザビリティを評価するのに有効である。実際、一般的な評価作業の一環として両者を一緒に適用することで、2つの視点からシステムを総合的に理解することができるようになる。しかしながら、2つの方法から得られる知見はある程度重複する可能性もある。

結論

認知的ウォークスルーは、人が新しいインタフェースをどのように評価し、操作するかについて判明していることに基づく枠組みを用いて、システムの学習しやすさを評価する実績のある方法だ。この手法は、ユーザビリティテストのためのユーザーやリソースの利用に制限がある場合に改善点を特定するのに適している。しかしながら、これはデザインを評価する方法の1つにすぎない。したがって、製品のデザインの有効性を包括的に理解するには、他の方法と組み合わせるのが理想的である。

参考文献

Clayton Lewis, Peter Polson, Cathleen Wharton, John Reiman. 1990. Testing a Walkthrough Methodology for Theory-Based Design of Walk-Up-and-Use Interfaces. In Proceedings of the SIGCHI Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI ’90), April 1-5 1990, Seattle Washington USA, Association for Computing Machinery, New York, NY, 235-242, https://dl.acm.org/doi/10.1145/97243.97279

Cathleen Wharton, John Reiman, Clayton Lewis, Peter Polson. 1994. The cognitive walkthrough: A practitioner’s guide. In Jakob Nielsen, Robert L. Mack (ed.) Usability Inspection Methods, John Wiley & Sons Inc, New York, New NY. DOI: https://dl.acm.org/doi/book/10.5555/189200