UXエキスパートレビュー

エキスパートレビューとは、ユーザビリティの問題や長所を特定することを目的として、UXエキスパートがおこなうデザイン分析のことである。

  • UX Expert Reviews
  • by Aurora Harley
  • on February 25, 2018
  • 日本語版2018年9月20日公開

デザインレビューとは何か

定義:デザインレビューとは、ユーザビリティの問題を特定するために(通常は)1人のレビュアーがデザインを分析するユーザビリティインスペクション法のことである。

「デザインレビュー」は意味の広い用語で、複数のインスペクション手法のことを指しており、そのインスペクション(検査)のレベルは、誰がレビューをするのかということと、そのレビューの目的によって手法ごとに異なる。デザインレビューの一般的な手法には以下のようなものがある:

  • ヒューリスティック評価:ヤコブ・ニールセンのユーザビリティの10のヒューリスティックスなどの一連のヒューリスティックスがそのデザインで順守されているかを評価するデザインレビューの一種。
  • スタンドアロン型のデザイン批評:(グループでの話し合いとしておこなわれることが多いが)進行中のデザインを分析し、そのデザインが目標を達成しているか、そして、適切なエクスペリエンスを提供しているかを判断するデザインレビュー。
  • エキスパートレビュー:UXエキスパートが(Webサイトやアプリケーション、あるいはその中のセクションなどの)システムを検証して、起こりうるユーザビリティの課題をチェックするデザインレビュー。多くの組織ではヒューリスティック評価とエキスパートレビューの区別があいまいだったりするが、エキスパートレビューは、ヒューリスティック評価のもっと一般的なバージョンと考えてよい。

デザインレビューはデザインサイクルのどのステージでも実施可能だ。ただし、プロトタイプがレビューをするのに十分なレベルの詳細さを備えていることが条件となる。事実、現実のユーザーによる実際の利用とは対照的に、こうしたレビューはインスペクションがベースになっているので、仕様一式などのユーザーにテストしてもらうことが不可能な抽象的な状態のユーザーインタフェースをレビューすることもできる。また、ダイアログボックス単体や例外処理のワークフローのような、デザインの独立した部分のレビューも可能だ。(その一方、ユーザーテストでは、ユーザーにはより広範なタスクに取り組んでほしいので、現在、自分たちが取り組んでいる個別の機能には参加者を直接誘導しないようにすることが多い)。

この記事では、エキスパートレビューに絞って論じる。

エキスパートレビュー

エキスパートレビューとは、一般にはヒューリスティック評価を拡張したもののことで、デザインがヒューリスティックスを順守しているかだけでなく、それ以外の既知のユーザビリティガイドラインや認知心理学やヒューマンコンピュータインタラクションなどのユーザビリティ関連分野の原則、レビュアーのこの分野における専門知識やこれまでの経験にも照らし合わせて評価されるものだ。レビュアーのこれまでの経験やユーザビリティの原則に関する知識が重要視されることが、この種のデザインレビューが「エキスパート」レビューと言われることが多い理由である。

エキスパートレビューの成果物は文書であることが多い。とはいえ、エキスパートが出した結論がミーティングで提示されることもある。文書のほうが作成するのも読むのも時間はかかるが、情報やアドバイスを詳しく入れられるし、デザイン変更の理由を思い出す手がかりとしても機能する。また、こうした文書では、ユーザビリティの調査結果を問題の重大度や頻度によって順位づけすることも可能である。

エキスパートレビューは、UXエキスパートによっておこなわれるべきであるというなら、UXエキスパートとは誰なのだろうか。そこに至る近道はない。というのも、UXエキスパートになるには、UXに関する調査を「実施」し、大量に実際のユーザーの行動に触れるのが唯一の方法だからだ。自分だけの世界でデザインをおこなっていて、ターゲットオーディエンスが自分のデザインとどのようにインタラクトするのかを絶対に見ないというなら、インタフェースをレビューするのに必要な種類のUXの専門知識は構築できないだろう。エキスパートレビュアーの要件としての具体的な経験年数を規定することは不可能だ。というのも、知識を身につけるのが人より早いという人もいるし、たくさんのユーザーを観察する機会に恵まれている人もいるからだ。だが、初めてUXの仕事をした当日の段階では、エキスパートとはいえないし、エキスパートレビューに必要とされる深く幅広いUXの知識を積み上げるにはある程度の時間がかかるということはいえるだろう。

新鮮な視点を得よう

検証する人がユーザビリティのベストプラクティスをよく知っていて、過去にユーザビリティ調査を実施した経験が豊富にあるだけでなく、レビュー対象のデザインの作成に関わっていない場合に、デザインレビューは最もうまくいく。視点が新鮮なので、先入観もないし、率直なフィードバックを与えてくれるだろうからだ。つまり、部外者なら、そのデザインに対する思い入れもないし、チーム内の政治も気にならない。また、同じデザインを長く見詰めてきた人には見えなくなっている明らかな課題にもすぐに気づくことができるだろう。(補足:自分の書いたものを校正するのがうまくいかないのは、自分が書こうとした内容を脳で捉えてしまって、実際にページ上で表されているものが見えていないからである! 自分のデザインの場合も同じだ。そのデザインでおこなおうとしていることを我々は知っている。そのため、デザインがそうした目的を真に達成しているものなのかどうかをはっきりと判断することができないのである)。

対照的に、ユーザビリティテストをすれば、必要に応じてデザイナーは自分のデザインをテストすることができる。テスト参加者がそうした外からの貴重な視点を提供してくれるからである。(しかしながら、調査結果にプライミング効果(:先行の刺激が後続の別の刺激の処理に、無意識的に影響をあたえること)の影響が出たり、バイアスがかかるのを避けるために、中立的な立場の人がテストを進行するようにして、デザイナーはマジックミラーの裏にあるモニタールームにこもるほうがやはりいいだろう)。

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部外者にデザインレビューを依頼すると、新しい知見がもたらされる。そのデザインとの距離が近すぎる人が見落としがちな課題も、部外者なら苦労せずに特定してくれるだろう。

システムが解決しようとしている問題に関する専門知識は、そのシステムの目的や制約を理解するのに役立つが、効果的で徹底的なデザインレビューの実施に必須というわけではない。もっと重要なのは、レビュアーにユーザビリティやユーザーエクスペリエンスについての専門知識があり、起こりうるUXの課題を特定できることだ。実際には、いろいろな分野でのユーザビリティの経験を生かせるレビュアーが理想といえる。そういうレビュアーは多種多様なデザインがさまざまなコンテキストで機能したり、機能しなかったりしたところを見てきているからだ。

エキスパートレビューの構成要素

デザインレビューの主要な要素は以下である:

  • ユーザビリティ上の長所の一覧
    レビューを「将来に希望が持てない」ようなものにしないため、そして、デザインの良い部分がデザイン変更のプロセスで損なわれないようにするために、レビューには長所の一覧と、各長所についての短い説明を入れるべきである。
  • デザインのどこで起こっているかをマッピングしたユーザビリティ上の問題の一覧
    個々のユーザビリティの問題に対して、明確な説明があることが重要だ。すなわち、違反しているヒューリスティックや原則が明確に挙げられていて、デザインと関連づけられていなければならない。そうなっていれば、根本的な課題に対して対策を取ることができるようになり、同じ間違いが他の場所で繰り返されることも避けられるはずだからだ。また、万一、デザイナーなどの利害関係者がさらに詳しく知りたくなったときの参照用に、可能な限り、そうした考察には記事などの追加の情報源へのリンクを入れるべきである。
    問題が必ずしも従来からのガイドラインや原則に違反しているものではなく、それ以外の(レビュアーの経験か、他の信頼できるソースか、いずれかの)ユーザビリティに関する考察に端を発したものである場合は、レビュアーはそのデザインがなぜ問題であるかを明確に説明するべきである。(たとえば、「ユーザーは選択のたびに確認するように依頼されるので、こうした確認画面に慣れており、画面上のテキストに注意を払うことなく、自動的に反応して、スリップを引き起こすことがある」というように)。
    エキスパートレビューの地位を、多数の開発プロジェクトでよくある意見の対立より高いものに引き上げるためには、指摘したユーザビリティ問題がUXに関する既存の知識に反している根拠を提供することが不可欠だ。レビュアーが個人的にそのデザインが好みでないとか、違うデザインのほうがうれしい、といった理由で、デザイン要素をユーザビリティの問題に指定してはならない。UXの常として、「あなた方はユーザーではない」。そして、これはデザイナーにもレビュアーにも当てはまる。エキスパートレビューで指摘するユーザビリティの問題にはすべて、主観的な批判ではなく、客観的な説明を添えなければならない。
  • ユーザビリティの各問題の重大度
    発見された各課題に重大度を入れることが、調査結果から行動を起こしやすく、また、デザイナーがデザイン変更の作業に優先順位をつけやすくするための鍵である。Nielsen Norman Groupで我々がよく利用するのは、それぞれの問題の重大度を「高、中、低」の3段階でシンプルに評価する方法である。
  • ユーザビリティの各問題を解決するためのアドバイス
    ユーザビリティの調査結果から行動を起こしやすくするための鍵となるもう1つの要素は、その課題への対処方法に関する明確なアドバイスだ。課題が指摘され、その課題の根本にある理由が理解できれば、解決策は明白であることが多い。そうでない場合には、さらに詳しく調べたほうがよいというアドバイスになることもあるだろう。たとえば、次のユーザビリティ調査中に、その要素に注目して、そのデザイン要素が本当にユーザビリティの課題の原因なのかどうかを判断するため、あるいは、別種のユーザー調査の実施を検討して、さらに明確な回答を得るため、などがその理由だ。
  • 改善のためのベストプラクティスの例
    良いデザインの実例というのは、どんなに言葉を尽くすよりもわかりやすい説明となる。可能な限り、アドバイスには同じ課題を抱えている複数のサイトの例で裏づけをおこなうとよい。同じ課題を解決したサイトの例をいろいろと提供すれば、解決策をデザインするベストな方法は1つしかないという結論に行きつくこともない。
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デザインレビュー結果の例:デザインのスクリーンショットには、見つかったユーザビリティの課題を説明するために注釈が付けられ(:スクリーンショット内の青字部分)、重大度も添えられている(:右上の「High Severity」(重大度:高))。課題を解決するための現実的なアドバイスは、デザイン変更のスタート地点になる。また、ユーザビリティガイドラインの参考資料を利用できる場合には、好奇心の強い読者により詳しい背景情報を提供することもできる(:最下部にある「For more…」(さらに詳しくは…))。

エキスパートレビューとユーザビリティテスト

エキスパートレビューで見つかるユーザビリティの課題と、ユーザビリティ調査中に発見される課題は、種類が異なる。それこそが、これらの手法を組み合わせることで最良のデザインが生み出せる理由だ。エキスパートレビューでは、インタフェース全体での一貫性のないフォントの使い方や、ブランドのガイドラインに従っていないカラーリング、テキストを左寄せではなく、中央寄せにしている、といった、小規模な定性調査では観察や測定が難しい、細かい問題を特定することが可能だ。また、エキスパートレビューは、デザインのベストプラクティスに反しているもっと大きな課題を捕らえることもできるため、エキスパートレビューをすれば、実際の参加者の時間を無駄にすることなく、そうした課題へ対処することもできる。

一方、ユーザビリティテストでは、エキスパートが思いつかなかった課題が発見されることがある。実際のオーディエンスの知識やニーズはかなり特殊なこともあるからだ。

エキスパートレビューは、そのデザインについてのユーザビリティ調査を計画するプロセスの一環として実施するとうまく機能する。特に、デザインがまったく新しいユーザーエクスペリエンス戦略を反映している場合には、エキスパートレビューでデザインを評価することで、ユーザー調査で重視しなければならない懸念事項を特定することもできるし、ユーザビリティテストの前に解決すべき「明白な」課題を見つけることもできる。そうした課題を解決すれば、邪魔になるものが取り除かれるので、予測不可能な結果がユーザー調査で発見されるようになるだろう。

幸いにも、我々は、この問題に関しては、AかBかの「どちらか」と問われることはない。A「と」Bの両方を実施すればよいからだ。すなわち、時間の許す限り、同じプロジェクトを対象にエキスパートレビューやユーザビリティテストを含むユーザビリティの評価を何度でもおこなえばよい。

エキスパートレビューをおこなうタイミング

エキスパートレビューは、チームがUXエキスパートと知り合うことができれば、デザインサイクルのどのステージでも実行可能である。しかしながら、エキスパートの時間というのはかなり高価なので、大きなデザイン変更プロジェクトの前に、実際のデザインの現時点での重要な長所や短所を特定するためにエキスパートレビューを利用する組織が多い。大きなデザイン変更をおこなう予定がなくても、その時点でのデザインの懸案事項から少し離れて、デザインがユーザブルなやり方でユーザーのニーズに適切に応え続けていることを確認するために、デザインの大きなライフサイクルとは切り離したところで、2~5年ごとにエキスパートレビューは実施すべきである。

エキスパートレビューは、プロジェクトフェーズでの最後の節目と見なされることもある。そこでは、そのデザイン(つまり、開発の完了したプロジェクト)の当初の目標に照らし合わせた測定がおこなわれ、成功と評価されれば、開発や立ち上げといった次のフェーズに進むきっかけにされるのである。だが、こうしたやり方のプロセスがうまくいくのは、それ以前にデザイン批評やプロトタイプのユーザビリティテストが反復しておこなわれている場合に限られる。そうでなければ、エキスパートレビューをプロセスの最後までやらずに、大きな課題が特定された場合は、大量のやり直しが発生するからである!

そのため、デザインが容易に修正できる柔軟性があるデザインの作成フェーズのうちに、何らかのデザインレビューを反復して実施することを我々は推奨する。デザインを反復するたびに完全なエキスパートレビューを実施する予算はないかもしれないが、ユーザーテストによるデザイン批評と不定期のエキスパートレビューを交互におこなうことなら可能だろう。

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デザインサイクルの初期のデザイン作成フェーズ中には、スタンドアロン型のデザイン批評が複数回入る。そして、その後、デザインがかなり定まり、高忠実度のプロトタイプを作成した時点で、部外者による、エキスパートレビューやユーザビリティ調査といった評価を実施すべきである。

結論

エキスパートレビューはユーザビリティの課題を発見するのに役立つ手法で、ユーザビリティテストを補完する。ユーザビリティや人の行動原則の専門知識をもつ人によって実施されることが多く、その結果として、ユーザビリティの課題や長所の一覧と、こうした課題を解決するためのアドバイスを得ることができるだろう。

中立的な立場からのUXエキスパートレビューの実施には、我々Nielsen Norman Groupへの依頼も検討してみてほしい。

付属資料