3種類のペルソナ:軽量型、定性型、統計型

ほとんどのチームは、ペルソナの作成に定性的なアプローチで取り組むと労力と価値のバランスがうまく取れる。しかし、非常に大規模な組織や小規模な組織の場合は、それぞれ統計的なアプローチや軽量化したアプローチを取るとメリットがあるかもしれない。

UXの作業で利用するペルソナは、ユーザーが製品を利用する際のアプローチコンテキストや動機、ニーズに共感を生み出すための簡略化した表現だ。ペルソナはユーザーにとって何が最も重要なのかに焦点を当て、我々がデザインの意思決定を下す際にユーザーの立場に立って考えられるようになることを目的としている。そのため、ペルソナは常にユーザーに対する定性的な理解に根ざしていて、「何が」「どうして」彼らを動かすのかを反映している必要があり、複数のデモグラフィックグループやアナリティクスの変数間の(疑わしいことも多い)相関関係に基づいて作成すべきではない。

ペルソナは、心理学的、デモグラフィック的、行動学的なさまざまな変数に基づいてきちんと分類された考えられるすべてのユーザータイプの網羅的で科学的な分類を意図するものではない。実際、何十、何百ものペルソナタイプを頭に置きながらデザイン上の意思決定を行おうとしても、すぐに手に負えなくなるだろう。ペルソナにおいて重要なのは、そのペルソナが記憶に残りやすく行動につながるもので、互いにはっきりと異なっているということだ。なぜならば、ペルソナとはさまざまなオーディエンスグループの主なニーズをまとめて、我々がそれらを容易に思い出し、共感できるようにするためのものだからだ。

デザインチームがペルソナを作成する方法は、ペルソナの基になる調査データによって3種類ある:

  1. プロトペルソナは、ユーザーがどんな人であるかについてのチームの既存の想定に素早く整合させるためのもので、(新しい)調査に基づくものではない。
  2. 定性的ペルソナは、インタビューやユーザビリティテスト、フィールド調査のようなサンプルサイズの小さな定性調査に基づいている。
  3. 統計的ペルソナは、大きなサンプルサイズを集める調査票を作成するために最初に定性調査を実施し、その後、統計的な分析からペルソナを作成する。

この3つはいずれも違う長所と短所をもち、異なる状況に適用される。

プロトペルソナ:短時間で整合を取るためのもの

プロトペルソナは、軽量化した暫定的なペルソナで、新たな調査を実施することなく作成される。プロトペルソナは、ユーザーがどんな人で、彼らが何を求めているのかについて、チームの既存の知識(または最も妥当と思われる推測)を列記するものだ。プロトペルソナは、チームに既存のユーザーデータがあればそれを基にして作成することができるが、ユーザーがどんな人で何を必要としているかについてのチームの単なる想定に基づいて作成されることが多い。

プロトペルソナの作成方法

通常、プロトペルソナは、チームのメンバーと主要なステークホルダーやクライアントが参加するワークショップで作成される。ワークショップの所要時間は普通2~4時間で、各参加者は、(シンプルなテンプレートを利用して)2~5個のプロトペルソナをそれぞれ作成し、それをグループで共有する。その後、グループですべてのペルソナについて議論し、さまざまな属性を組み合わせ、練り直し、編集して、3~6個のプロトペルソナに最終的に落とし込む。

ワークショップ環境で作成されたプロトペルソナ:各参加者は、こうしたシンプルなスケッチを2~5枚作成し、それをチーム全体で議論して、練り直し、最終的にいくつかのプロトペルソナにまとめる。

プロトペルソナの長所

プロトペルソナは調査プロジェクトを必要としないため、リーンなUXのフレームワークで作業しているチームや、UXの成熟度が低く、このやり方でないとペルソナをまったく利用しないと思われるチームに適している。プロトペルソナのもう1つの大きな価値は、ユーザーに関するチームの「暗黙」の想定を「明示的」なものにすることだ。典型的なユーザーについての想定というのは、チームメンバーのそれぞれで異なっていることが多い。そして、ユーザーについての整合が取れていないということは、メンバーそれぞれが異なるオーディエンスを対象に意思決定を行っているということである。このように想定がバラバラだと、しばしばチームの焦点がなし崩しになってしまう。そのため、結果が正確に実際のユーザーをとらえていなかったとしても、想定を列記することは少なくともある程度の方向性を共有する機会となる。また、プロトペルソナをチームが調査で検証できる(または想定が誤っていることが明らかになったら修正することができる)仮説であると考えれば、将来の調査への入り口にもなりうる。

プロトペルソナの短所

もちろん、プロトペルソナは調査に基づいたものではないので、ユーザーについての表現が不正確であることも多く、チームによる誤った想定が強化されてしまうことはありうる。さらに、チームがこれらのペルソナにほとんど価値がないと考えた場合には、ペルソナ全般やUXの他の共同作業に対して負のハロー効果を引き起こす可能性もある。

定性的ペルソナ:ほとんどのチームに最適

ほとんどのチームにとって、ペルソナを作成するための最善のアプローチは、小規模から中規模のサンプルサイズでしっかりとした探索的な定性調査(ユーザーへのインタビューなど)を実施し、共通する態度や目標、問題点、期待に基づいてユーザーをセグメント分けすることである。

定性的ペルソナの作成方法

5~30人のユーザーに(新しくインタビューを行うたびに新しい知見がいくつか見つかるまで、5人のユーザーを1グループとするローリングサンプルとして)インタビューを行うことから始めよう。これらのインタビューは、完全に独立しているセッションにしてもいいし、ユーザビリティテストやフィールド調査に付けることも可能だ。この調査では、ユーザーが重視している主な事柄、すなわち、ユーザーにとっての問題点や製品の機能や動作に対する彼らの期待、製品を使って行われるタスクを説明するために彼らが利用する言葉、主要な作業フローへの彼らのアプローチ方法、彼らが達成しようとしていることを明らかにしなければならない。発言の書き起こしをして、そのデータを主要なテーマに分類しよう(この作業をデータの「コーディング」という)。

次に、分析パートで、パターンを探す必要がある。具体的には、上記の重要なテーマの(すべてではないにしても)「ほとんど」で、他のインタビュー対象者と大きく重複しているインタビュー対象者を探していく。単にインタビュー対象者間の完全な一致を探すのではなく、幅広くパターンを探そう。この作業をしながら、そうした対象者間の関係がどういうものであるかを同僚に説明するのは意味があることだ。たとえば、(ECサイトの場合)複数のインタビュー対象者が、決定を下す前に商品ページをいろいろと調べていると述べていて、その同じインタビュー対象者のほとんどが候補商品を比較するための保持領域としてショッピングカートを利用しているとも発言していることに気づいたとする。そうしたインタビュー対象者の他の質問への答えはいろいろだったかもしれないが(たとえば、異なるデバイスを利用していたり、買おうとしていたものや予算が違うなど)、チームにとっては彼らの類似点のほうが違いよりも重要な場合には、類似点に焦点を当てたペルソナを作成するといいだろう(ペルソナの例:「リサーチャー」型の買い物客)。

定性分析のプロセスは微妙で詳細であり、その完全なやり方の説明はこの記事の範囲を超える。このプロセスについては、ペルソナのワークショップで詳しく紹介する。

定性的ペルソナの長所

定性的に導き出されたペルソナは、作成するための労力をその価値に照らし合わせて考えると、ほとんどのチームにとって適したものである。作成にあまり時間がかからないので、UXチームは他の作業と並行して必要なデータを収集することができるからだ。定性的ペルソナはユーザーデータに基づいているため、正確であり、アナリティクスデータやデモグラフィック情報、単なる想定からは得られないユーザーの動機や期待、ニーズに関する重要な知見を提供する。

定性的ペルソナの短所

定性的ペルソナの大きな欠点は以下である:

  1. 大規模なサンプルに基づいていないので、各ペルソナが表すユーザー層の割合を判断する方法がない(たとえば、「賢い消費者のSandra」が自分たちのユーザーベースの60%を占める、といったことを言うことはできない)。
  2. サンプルサイズが少ないため、うっかりユニークな特徴をもつユーザーを省いてしまったり、あまり見られない視点をもつ外れ値に該当するユーザーを過剰に表現したりしてしまう可能性がある。
  3. 特に(定性データの手法を十分に理解していない)UXの成熟度が低い組織では、定性的ペルソナは「科学的ではない」という主張に反論しつづけなければならないかもしれない。

統計的ペルソナ:定性調査と定量調査の混合

ペルソナの作成に最も手間がかかるこのバージョンでは、大きなサンプルサイズのユーザーベースに送られたアンケートを介してデータを収集し、統計分析を利用して類似の回答をしたクラスターを見つけることになる。私はこの手法を統計的ペルソナと呼んでいるが、実際には、定性調査と定量調査の両方に基づいているため、混合方式のペルソナであるといえる。

この種のペルソナは、どういう質問をアンケートに入れるのかを特定するために、探索的な定性的調査を事前に必要とする。チームの行動につながるペルソナを必ず生み出すような万能のペルソナアンケ―ト用質問などというものはない。有用な情報を明らかにするアンケートを作成するには、自分たちのユーザーの期待やニーズに関するしっかりとした実務知識をもっていなければならないのである。

(多くのチームは、定性調査を行わずに、デモグラフィックやアナリティクスのデータに全面的に基づいてペルソナを作成しているが、我々はこうしたアプローチを推奨しない。UXの意思決定に対する有用性に限界があるペルソナを作り出してしまうからだ。ユーザーの行動を高いレベルで示すアナリティクスデータをもってしても、彼らが何を達成しようとしていたのか、それに対して彼らがなぜ、どこで、どのように感じたのかについての情報は得られない。誰かが何かを「なぜ」行ったのかわからない場合、推測しなければならなくなるが、それは間違っていることが多い。ペルソナにおいて重要なのは、ユーザーの立場に立って考え、彼らが何を求めているのか、なぜそれを求めているのかを理解できるようになることだ。ここで重要なのはコンテキストだ。だが、デモグラフィックやアナリティクスのデータにはコンテキストが欠けているのである)。

統計的ペルソナの、定性的ペルソナとの大きな違いは、類似のユーザーを彼らの回答に基づいて手動でクラスタリングするのではなく、定性調査から浮かび上がってくる主要なテーマを取り上げて、多くの人に送るアンケートを作成し、そのアンケートのデータを統計分析して、ユーザーを類似のグループに分類することだ(彼らはほとんどの質問に対して似たような回答をする傾向があるため)。そうすることで、分析する人間によるバイアスをクラスタリングプロセスから効果的に取り除くことができるというわけだ。しかし、バイアスを減らすことで得られたものは、ユーザー間の類似性が意味のあるものかどうかを批判的に考える際に失われる可能性もある。

統計的ペルソナの作成方法

統計的ペルソナ作成の最初のステップは、定性的ペルソナの場合と同じで、探索的な定性的調査を実施し、ユーザー間に繰り返し出てくる主要なテーマを特定することである。そして、この定性データに基づいて、アンケートを作成し、より大きなスケールで興味のある主要なテーマについての定量データを収集できるようにしよう。少なくとも100人(理想的には500人以上)の回答者を対象にアンケートを実施するとよい。統計分析手法は、サンプルサイズが多いほど効果的だからだ。次に、潜在クラス分析(こうしたアンケートから通常収集されるカテゴリデータに適しており、不完全なデータもうまく処理する)や因子分析、K平均法などの統計的クラスタリング手法を利用して、アンケートデータ内のパターンを見つけよう。

注意:この種の分析でよく出てくるパターンは、デザイナーにとっては特に意味がない可能性があるし、こうした分析に基づいてユーザーを分類するための基準を言葉にするのは難しいかもしれない。

統計的ペルソナの長所

統計的ペルソナが他の手法よりも優れている理由は大きく3つある:

  1. 大規模なサンプルを用いることで、ペルソナに外れ値が入りすぎていないと自信が持てる(つまり、他の多くの人と異なる独特な考えをもつユーザーが結果に大きな影響を与えることがない)。
  2. 各ペルソナがユーザーベース全体の何パーセントを占めているかを知ることができるので、別のペルソナよりもあるペルソナにメリットがあるようなトレードオフの決定をしなければならないときに有用である。
  3. ペルソナのクラスタリングをリバースエンジニアリングして(判別分析を利用して)、ユーザーがどのペルソナにクラスタリングされるかを最も予測できるアンケート質問を突き止めることができる。その結果、将来の調査で、そうした質問を利用してユーザーを募集し、すべての調査に全ペルソナを確実に登場させることができる。

統計的ペルソナの短所

統計的ペルソナのセグメント分けは費用と時間がかかる。そして、統計分析の専門知識も必要である。統計の専門家やデータサイエンティストを雇うのでない限り、この手法は実りあるものになる可能性が低く、推奨されない。

しかも、正しく行おうとすると、定性的ペルソナ調査を完全に行い、「さらに」統計分析も一通り実行する必要がある。また、チーム内で統計的な作業をすべて行った結果、同じ定性的調査データから作られた純粋に定性的なペルソナに非常によく似たペルソナができてしまうということもよく起こる。

多くの点で、この手法は油圧プレスを利用してクルミを割るようなものといえる。つまり、クルミの殻を完全に割ることができるのは確かだが、ほとんどの状況ではあまりにもやり過ぎであり、慎重に行われなければ混乱を招くことになるだろう。

要約

ほとんどのチームにとって、ペルソナへのアプローチとしてふさわしいのは定性的な方法だ。どんな人がユーザーで、彼らが何を求めているのかをデータに基づいてしっかりと把握できるし、費用対効果が高く、比較的短期間で実施できるからだ。プロトペルソナは、非常にリーンなチームのための選択肢であり、ユーザーに関するチームメンバーの想定の整合を取るのに役立つ。この手法でない限り、ペルソナ(またはユーザー調査)をあまり利用しないであろうチームに適していて、さらなる調査への入り口にもなるだろう。統計的ペルソナは、大きなリソースをもつチームにとっては選択肢の1つだが、時間や労力がかかるし、統計の専門知識が求められる。また、いずれにせよチームは定性的な調査から始めることになるので、重複する作業を効果的に行う必要性がある。

こうしたさまざまな種類のペルソナを作成する方法について、さらに詳しくは、我々の実施するPersonas workshopにて。