eコマースのUXの現状:新型コロナウイルスと直販がそのレベルを引き上げた

eコマースのユーザーエクスペリエンスレポートシリーズ第5版のために行ったユーザー調査によると、オンラインショッピングのUXは単に「良い」というだけでは十分でないことがわかった。

我々が2000年から2001年にかけて行った最初のEC調査では、ユーザーはECサイトで買い物をしようとすると、ほぼ半分の確率で失敗をしていた。サイトの出来がこれほど悪ければ、ドットコムバブルが崩壊したのも無理はないだろう。

20年以上経った今、オンラインで買い物をするのはずっと楽になった。我々は最近、『Ecommerce User Experience』レポートシリーズの最新版の準備として、大規模な国際調査プロジェクトを完了したが、この調査で、(米国、インド、中国の)39人の参加者は、ごく一部を除けば試みたタスクのすべてをうまく完了することができている。

eコマースでの買い物はかつてないほど楽にできるようになった。しかし、ほとんどのECサイトが、基本的なことを押さえることができている現在、もはや「簡単だ」というだけでは十分ではなくなってしまった

今日の消費者は、単に買い物ができるだけのサイトでは満足しない。あらゆる種類の顧客のあらゆる質問に答え、どの商品を購入すべきかをすぐ判断できるような体験をデザインする必要があるのである。

最新のEC調査で観察された最も注目すべき進歩には以下のようなものがある:

  • 堅牢な比較・意思決定支援ツール
  • その買い物客に似たタイプの人からのレビューを選び出すための包括的なレビューフィルタリング機能
  • 拡張現実ツールなど、商品表示方法の高度化
  • 従来の広告的な長尺の動画ではなく、ページ内に短尺のループ動画を画像の1つとして表示し、商品の動きを紹介
  • タイムリーなメッセージのためにコミュニケーションチャネルとしてのテキストメッセージ通知への移行
  • ネット注文店舗受け取りサービスのデザインの改善
  • 多様性、環境への配慮、倫理的なものづくりなどのブランド価値の発信に注力
  • ますます高度化し成功を収めている、ソーシャルネットワークとの融合(たとえば、ライブストリーム販売などの革新的な技術の追加など)
  • これまでのような無秩序で迷惑なレコメンドではなく、適切で有用な商品レコメンド

最も成功している小売業者は、買い物での体験はサイトでの決済の先にも続いていることを認識している。発送、配送、受け取りのプロセスを含む、買い物でのカスタマージャーニー全体を注意深くデザインし、迅速で便利でコミュニケーションがよく取れるシームレスなものになるようにしているのだ。

eコマース体験のデザインの基準を引き上げ、顧客がオンライン小売業者に期待することに特に影響を与えた要因は以下の2つである:

  • 新型コロナウイルスのパンデミック
  • 直販サイトの台頭

新型コロナウイルスがeコマースを進化させた

2020年初頭に新型コロナウイルスのパンデミックが初めて世界中に広がったとき、多くの人が突然家に閉じ込められた。その結果、eコマースへの需要が急速に高まることになった。

この需要の増大はパンデミックを超えても続く、とみるのが自然だろう。これまでオンラインで買い物をしたことがまったくなかった(あるいはほとんどなかった)多くの人が、2020年にオンラインでの買い物を経験したが、その便利さに触れるとそれを手放すことは難しいからだ。

この変化により、あらゆる種類の小売業者が、新しい現実と新しい消費者行動に適応することを余儀なくされた。顧客に提供するオンライン情報の改善に加え、デジタルインタフェース以外の部分でも、店舗が顧客に提供するサービスが進化していることが確認されている。

小売業者は、eコマースの買い物客に以下のような項目に対する選択肢をより多く提供して、柔軟に対応するようになった:

  • 支払方法
  • 分割払い
  • 出荷と配送
  • 定期購入
  • カスタマーサポートチャネル

顧客サービスにおける最も顕著な変化の1つは、多くの大手小売業者が提供する駐車場受け取り(訳注:オンライン注文した商品を、小売業者の駐車場で車に乗ったまま受け取る)サービスの台頭だ。これは、買い物客には便利で安全なサービスだが、企業にとっては物流上の新たな課題となった。その中で、時間と労力をかけて、シームレスなプロセスをデザインし、それを通じて顧客をうまく誘導することができた小売業者が最も成功を収めている。

TargetのDrive Upサービスのように、駐車場受け取りを提供する企業は買い物客にプロセスを明確に説明する必要がある。

直販ブランドがeコマースのイノベーションをリードする

直接販売(直販)ECブランドは、商品をデザインして製造したら、他の小売業者を通さずにオンラインで顧客に直接販売をする。

Bombas.comは、靴下や下着、ルームウェアのみを販売する直販小売業者で、靴下がもともとの主力商品だ。このように専門性が高いからこそ、商品デザインの細かい部分にまでこだわることができていて、その商品は顧客から好評を博している。

近年、ニッチな直販小売業者が、ほぼすべての商品カテゴリーにおいてEC市場に参入している。以下のように、その多くは高価だったり、手触りが良いといった、従来はオンラインで売るのが難しかった商品を販売している:

  • メイクアップ:Glossier、ColourPop
  • スキンケア:Beauty Pie、Disco
  • 下着とブラジャー:Thirdlove、EBY
  • マットレス:Casper、Purple、Avocado
  • 家具:Joybird、Article
  • フィットネス機器:Tempo、Mirror
  • 高級宝飾品:Vrai、Mejuri

これらのブランドは、オンラインショッピングを主要な(多くの場合、唯一の)流通チャネルとして開発されている。そして、直販小売業者は、たいてい1種類の商品に特化していて、そこに徹底的に資源を集中することができる。そのため、彼らはオンラインでニッチな商品を販売するために多額の投資をしていることが多い。直販の商品ページは消費者に商品の詳細を説明するために高度にカスタマイズされ、革新的なデザインになっていることが少なくないのである。

同様の種類の情報を提供しているオンライン小売業者は多いが、直販サイトはよりうまいやり方でそれをやっている。しかしながら、直販ブランドでなくても、彼らの成功したEC戦略を学んで、それを取り入れることは可能である。

たとえば、そうしたサイトは、商品の主要な特徴や利点を強調するためのグラフィックやテキストコンテンツが特に優れている。例を挙げると、ウレタンフォームマットレスのオンライン販売を専門とするLeesa.comは、商品に関するテキストと、イラストやインタラクティブモデルなどの視覚情報を提供して、顧客が多層マットレスの複雑な構造を理解できるようにしている。

Leesa.comは、イラストを使って自社のマットレスの特徴をユーザーが理解できるようにしている。
Leesa.comでは、マットレスのインタラクティブな層状モデルを活用している。ユーザーは、「+」で示されたターゲットをクリックして展開し、各層がマットレスの構造でどのような役割を果たしているのかを確認しながら、このモデルを詳しく見ていた。

また、直販サイトには、インタラクティブな画像や考え抜かれた説明以外に、買い物客が、特に動画や拡張現実(AR)を通じて、デジタルで商品を体験できる革新的な方法を提供しているところもある。

たとえば、眼鏡を販売する直販ブランドのWarby Parkerは、直接、商品ページに拡張現実を取り入れて、買い物客が眼鏡をかけた状態の自分の顔を見ることができるようにしている。

Warby Parkerは、ARツールによって、(すべてではないものの)一部の眼鏡のかなりリアルなバーチャル試着を可能にしている。

しかし、確実に言えるのは、ユーザーは、TargetやWayfairなどの従来のECサイトとニッチな直販サイトの両方で商品を購入するということだ。もし競合他社での体験のほうが情報を多く得られて、自信を持って購入できると感じられれば、多くの買い物客はその競合他社のほうを選ぶことだろう。消費者の多くは、たとえ購入する商品が他の劣っている小売業者の商品と同等であったとしても、優れた体験にはお金をさらに払ってもいいと考えていることがわかっているからだ。

そのため、従来のECサイトは、まずは優先度の高い一部の商品カテゴリーから直販ブランドと競合できる戦略の構築に向けて取り組む必要がある。

直販ブランドと同等の、ユーザーを惹きつける没入感のあるショッピング体験、ディテール、画像の導入に対応できる柔軟な商品ページ構成に投資しよう。

そして、調査を実施して、自社の顧客に合った商品コンテンツを提供する最適な方法を見つけることだ。その際には、具体的な顧客の疑問や懸念を深く理解することから始めるといいだろう。

結論

標準的なeコマースの体験を提供するだけではもはや十分ではない。新たなEC需要の流入が、直販サイトによって推進されたイノベーションと相まって、ユーザーの期待を押し上げてしまったからだ。

発送のスピードでAmazon.comに勝つことは困難だ。しかし、Amazonがその手に負えないほどの巨大さによってユーザーエクスペリエンスの品質を低下させている分野である、Webサイトのデザインやeメールのユーザビリティで彼らに勝つことは間違いなく可能である。

eコマースの状況に変化をもたらしたこれらの要因や、競争に立ち向かえるように自社サイトを適応させる方法については、『Ecommerce User Experience』レポートシリーズの最新第5版を参照してほしい。