“Built your own”というユーザーエクスペリエンス
世界一面倒くさい客相手の、新しい経験価値づくり
最近、アメリカでは、客の言った通りに作ってくれるお店が流行っていると感じます。その理由は、自分の意見を言う、カスタマイズが大好き、という消費者に対して、お店のそんなスタイルが心理的満足感をもたらしているからではないでしょうか。
アメリカでモノを売る日本のビジネスパーソンが、よく悩みの種の一つとして言うのが「返品が多い」ということです。
私も確かに多いと思います。
スーパーマーケットで返品を受け付けるカスタマーサービスカウンタで、人の列が出来ていないところは見たことがないといっても過言ではないです。
アメリカの消費者について、弊社のアメリカオフィスのスタッフに一言で日本との違いを表すと何だと思うか聞いて見ました。
「自分の意見を言う」
「カスタマイズが大好き」
こんな意見が出てきました。今回はこのことについて少し書いてみたいと思います。
サービスとは何だろう
レストランで注文をする時、アメリカ人の注文はいつも長いな。とぼんやりと感じていました。
特にこれは日本からの出張者とアメリカローカルのスタッフとの合同のランチやディナーでよく感じていたことです。
ウエイターやウエイトレスがテーブルにやってきて、注文を一人づつ聞いていきますが、ローカルの人はただ注文するメニュー名を言うだけでなく、もう少しいろいろとやりとりをしています。
単に英語力の差なのでしょうか? 自分がもっと英語がネイティブのように喋れたら、単に注文するメニュー名を言うだけでなくて、もっと気の効いたコミュニケーションが出来たのだろうか?なんて最初は考えていましたが、実のところは少し違っていました。
注文をする際、料理のカスタマイズで一番に思い浮かぶのは、ステーキなどのお肉の焼き加減です。肉料理の際はまず間違いなく焼き加減を聞かれますが、これは、あくまで受身のカスタマイズのような気がします。
実際、ローカルの人の注文は、こういった店側から提供されるカスタマイズに対する受け答えだけではなく、もっと客からの能動的なカスタマイズのリクエストを沢山しているのでした。
「この野菜は入れないで、その代わりにこの野菜は入れられるか?」
「料理のサイドに置かれるサラダは別のお皿で持ってきて。ドレッシングも別に2種類持ってきて。」
「お水は氷を入れないで、水にはレモンを入れて」
といった具合です。
日本人的な感覚で言うとそこまで注文するのは無理じゃないの?というレベルのリクエストも結構聞いてくれることに最初は驚きましたが、これこそが、彼等の求めているサービスであり、そこを聞いてくれるスタッフが良いスタッフ=そのサービスにチップを払うという事なのだなと理解するようになりました。
自分の言った通りに作ってくれるお店が流行り?
先のコラムでも書きましたが、移民の国のアメリカ。人種も違えば考え方も違うのが当たり前です。日本のように、相手のことを「推して知る」なんてことはまず不可能です。よって「自分の意見を言うことことが大事」だと常々言われるわけです。
自分の意見を言うことが大切。では、お客様の好みに合わせて作りましょうというお店が出てきて、それが流行るのはあたりまえなのかもしれません。
お客の好みで作るお店で思い浮かぶのが、もう日本ですっかりおなじみのSUBWAY。サンドウイッチを作る工程に客を巻き込んでその中でお客さんの好みを聞きながら作っていくスタイルを確立したのはこのSUBWAYなのかもしれません。
実は最近、このように客の言った通りに作ってくれるBuilt your ownのお店が増えているし、流行っているのではないかと感じています。
私の住んでいる南カリフォルニアでいくつか挙げてみると、ハンバーガをカスタムで作ってくれるTHE COUNTER Custom Built Burger、ブリトーなどのメキシカン料理をカスタムで作ってくれるChipotle Mexican Grill, テニスの錦織圭選手のコーチ、マイケルチャンの家族がオーナーということでも有名なカスタムピザチェーンのPIEOLOGY, 他にもピザはPIEOLOGYと似たスタイルでBLAZE PIZZAなども人気です。また、ハワイ料理のポキ(ポケ)のどんぶりも最近よく見かけますが、PokiNometryはその流行のポキ丼をさらに流行のカスタムスタイルで提供するのでとても人気があります。
Built your ownというユーザーエクスペリエンス
上記のどのお店も料理を作る工程にお客を巻き込んで、すばやく作ることでファストフードの時間的、価格的ベネフィットと、Built your own styleのユーザーエクスペリエンスからもたらされる心理的満足感=ベネフィットを上手に提供していると解釈すると、これらの店が流行っている事も納得です。
世界一面倒くさい客を相手にして、その客を巻き込んで新しい経験価値を作る。
レストランだけに限らず、このBuilt your ownスキームは他の業界でも使えそうですし、「推して知る」のが得意な日本人と「自分の意見を通したい」アメリカ人の両方に評価してもらえる価値ではないでしょうか?
返品を減らすヒントもここにあったりするかもしれませんね!
- 著者(森原悦子)について
- Interface in Design, Inc. COO/President。
武蔵野美術大学卒。インダストリアルデザイナーなどとして活躍後、旧イードに入社。定性調査やエスノグラフィーといった手法を得意とし、クライアントのグローバルな商品開発のコンサルティングリサーチを多く手がける。2011年8月より現職。