4KテレビのUX

我が家に4Kテレビがやってきた。以下にそのUXについて報告しておきたい。今回の記事では、4Kテレビに関する僕の個人的UX記録を通して、UXがユーザビリティという品質特性だけでなく、さまざまな品質特性に関係あることを示したいと思っている。

我が家に4Kテレビがやってきた

4K放送が始まったのと、消費税値上がりがやってくるのとで、そろそろ買い時かと思っていきなりAmazonで4Kテレビを購入してしまった。

こういう時の僕は、色々調べたつもりでいて、結局考え落ちをしてしまい、肝心なところで馬鹿なことをしてしまうのが常だ。今回も、その例に漏れない。画質のことばかり考えて、日経トレンディネットの記事「4Kテレビを賢く買うならカタログスペックの読み方を理解しよう!」を読み、直下型LED部分駆動がいいことを知り、そうした機種を探し、どうせならデカイ画面がいいだろうと、ソニー SONY 55V型 4K対応 液晶 テレビ ブラビア KJ-55X9000F (4Kチューナー BS/CS4K 地上デジタル 裏録対応 ダブルチューナー DST-SHV1 付)を選んでしまった。直下型にこだわらなければ他にもっと安い機種もあったのに…。

そのスペックを見ると4Kチューナーセットというのが書いてあり、おや大変だ、チューナーがなきゃダメじゃないか、と55インチの4Kチューナーセットを選んだ。その時点では、もう視野がブラビアに限定されてしまっていて、そのなかでの最適解を探してしまっていたのだ。それが203,773円。年金暮らしには当然非常に痛いのだが、生涯もうテレビを買うことはないだろうと考えて、エイヤッと注文してしまった。

読者諸氏はもっと賢明だろうから、ぜひ店頭で直下型がいいかどうかを判断してください。そして、いろいろな機能がついていなくても、テレビが見られればいいと考えるなら、シンプルなセットを購入してください。たとえば東芝 55V型地上・BS・110度CSデジタル4Kチューナー内蔵 LED液晶テレビ(別売USB HDD録画対応)REGZA 55M520Xなら55インチの「4Kチューナー内蔵」で107,800円です。およそ半額です。今の僕だったら、絶対こっちを購入していたでしょう。

ともかくこうして我が家に4Kテレビ(とチューナー)がやってきた。以下にそのUXについて報告しておきたい。今回の記事では、4Kテレビに関する僕の個人的UX記録を通して、UXが使用性(ユーザビリティ)という品質特性だけでなく、さまざまな品質特性に関係あることを示したいと思っている。ユーザビリティと言わずに使用性と呼んでいるのは、「品質特性」として言及したいという理由からである。

図
品質特性図。「ユーザビリティとUXの関係 その2」より。

設置サービスのUX

50インチまでのテレビだと玄関渡しなんだけど、55インチなら設置をしてくれる、ということらしい。2階にリビングのある我が家なので、この重たいものをエッチラオッチラ階段もち上げるのはしんどいので、この点は助かった。開梱してくれて、設置してくれて、ゴミを回収してくれてお終い。え、まだチューナーがあるんですけど。いや、チューナーは予定に入っていないし、よくわからないし、とのこと。amazonで一括購入したのにそう来るのかい、という気持ちだったが、ルールだというのなら仕方ない。

しかもチューナーと本体をつなぐケーブルはどこにも入っていない。ちょっとamazonに騙された気分である。仕方なく、BicCameraまでケーブルを買いにゆく羽目になった。そんなわけで設置サービスのUXはプラス4点(ERM同様、プラス10からマイナス10までで評価する)。これは品質特性でいえば、サービスの機能性ということになるかな。

リモコンのUX

接続を終えて電源を入れた。購入時点で気づいておくべきなんだけど、リモコンが二つになってとても面倒くさい。しつこく言うが、ぜひ読者諸氏はチューナー内蔵型をお選びください。この点で、使用性(ユーザビリティ)についてUXはマイナス8点。

しかも、まずテレビリモコンの入力切替でHDMI1を選択しておかないと外付けチューナーが選択されないとのこと。この使用性もマイナス8点。

さらにリモコンの反応が悪く、押してから2,3秒経たないとテレビが反応しない。これはどちらのリモコンも同様。ソニー仕様なのだろうか。そしてリモコンボタンを押したときに「カチッ」という音のフィードバックがない。だから電源ボタンの二度押しをして消してしまうこともあった。この反応の遅さは性能でありマイナス10、そしてフィードバックの無さは使用性に関してマイナス10。最低のUXである。

さらにリモコンの赤外線の照射角度は、チューナーは広いのだが、テレビの照射角は狭いようで、うまくテレビを狙わないと反応しない。これも使用性についてマイナス8。

画質のUX

そんなこんなで、ようやくリモコンの4Kボタンを押し、4Kテレビが画面に映った。で、驚いた。これ、実にすばらしい。ネットやamazonのコメントなどに書いてあるように、窓が切られていて外の景色がそのまま見えているような感じがする。ちょうどペルーのマチュピチュの番組をやっていたが、現地にいった当時がまざまざと思いおこされる。なんと素晴らしいことだ。これぞ技術の華だ。そう褒めちぎりたくなるほど綺麗な映像であった。

40年ほど昔、世田谷区の砧にあるNHKの放送技術研究所に見学に行き、ハイビジョン映像をプロジェクタで大画面に投射しているのを見たことがある。その当時はたしかに従来のテレビよりは高精細だけど、細かくみるとまだ画像の鮮明さが低くていまひとつだなあ、などという印象をもったことがある。つまり、あまり感動しなかったのだ。しかし、今回、3mほどの距離から見た55インチの4K映像はほんとうに素晴らしいものだった。

そして立体感も感じられるのだ。これはちょっと不思議な感じがした。実は、心理学で奥行き知覚の話をするときにでてくる重なりや線形遠近法、両眼視差等々の要因は、紙にペンで線画を描いて知覚実験をしていた時代に知られていたもので、その後、映画やプロジェクタが登場するようになってから画面サイズの大きな方が遠近感が感じられるという話がされるようになった。しかしそこまでだった。要するに、画面の解像度を4Kサイズ(や8Kや16K)まで上げる技術がなかった当時は、知覚実験の刺激としてディスプレイを使うことができず、画面解像度が奥行き知覚に影響するかどうかははっきりしていなかったのだ。

もちろん、テレビ画面は静止していないから、運動視差の要因が影響していることは考えられる。しかし、その運動視差の要因の効き方が解像度が高くなるにつれ強力なものになるのだ。ともかく、この画質に関しては、性能と審美性という品質特性に関してプラス10のUX評価を与えたい。

コンテンツのUX

4K放送が始まったとはいえ、コンテンツの整備には課題があるように思う。スカパーはスポーツや映画のチャンネルの認可を受けたが、スポーツ観戦に興味のない我が家では、見るとしたら映画ということになる。しかしテレビ放送の映画は一時停止ができない。

僕は普段はパソコンでamazonのPrimeビデオを見ているのだけど、あれの良いところはトイレに行ったり、食事をしたり、仕事にもどったりという時に一時停止をしておくことができ、Primeに戻ってきたときに再開できる、という点だ。HuluもU-NEXTも、ついでに言うならYouTubeも同様で、HuluやU-NEXTに加入していた時には一時停止機能を活用していたものだ。

だから、4K放送で映画をやってくれるにしても、一時停止ができないのなら機能性という点ではマイナス5くらいのUXということになる。

NHKもマチュピチュや南極などの海外ロケものやドキュメンタリーや美術番組などには興味があるけれど、歌番組は興味がないし、ドラマを見ることもない。スポーツを見ないことは既に書いたとおりである。ついでにいえば、ドラマや生放送では出演者の肌のきめがすっかり見えてしまうので、大写しにされると興ざめすることもしばしばである。

民放を含めて、それ以外で見るとしたらニュースや報道番組しかない。芸人がでているバラエティを見ないことはないが、それを4Kで見る必要性は感じない。

その他の番組でいえば、Historyチャンネルや放送大学あたりは見るけれど、BSもCSも元からあまり見ていなかった。取説をまだきちんと読んでいないのだが、このテレビではPrimeビデオやHuluなども見ることができるらしい。もし一時停止機能があるなら見てみようかと思うのだが、ネットの情報ではまだ4Kに対応したコンテンツは限定されたものでしかないようだ。多数の映画を提供していることを謳っているPrimeやHuluやU-NEXTだが、かならずしも見たい映画がみられるわけではない。映画を見るにはTSUTAYAの宅配レンタルでDVDなんかを送ってもらって見ている状態だ。

しかも、映画には好みという問題がある。これは利用状況の問題だ。つまりリビングにおいたテレビを独占するわけにはゆかないのだ。趣味があわなければ「チャンネル変えて」といわれることになる。

こういった次第で、僕にとって4Kが意味のあるケースはかなり限定されているわけで、その意味では結構高い投資をしてしまったことになるかな、と思う。コンテンツの充実度は機能性といっていいのだが、その点で個人的にはプラス3程度のUXしかないし、映画にかぎっていうなら、これまた個人的になのだが±0というUXになってしまう。いや、どちらかというとマイナスかもしれない。

初期利用のUXを終えて

我が家に4Kテレビを導入し、それなりの初期利用を終えた今、僕にとっての4KテレビのUXは総計してプラス2か3というところだ。予想外に低い。

これから取説をきちんと読み、いろいろな機能を使い倒してゆくつもりではあるが、この先どうなるかは分からない。プラス2か3のままで行くことになるのかもしれない。そうだとすれば、購入時点でもっと安価な機種を選んでおくべきではなかったか、そんな深い反省のなかにいる昨今である。

追記:3か月後のUX

購入してからおよそ3か月が経過した時点でのUXについて、ちょっと追記しておきたい。フォン・ウィラモウィッツ-メレンドルフ(von Wilamowits-Moellendorff)達(2006)は、UX評価法の一つであるCORPUSについて、UXの色々な時期でのUX評価値の変化を報告している。それによると、時間が経過するにつれ、ユーザビリティは少し上昇するが、反対に刺激作用(stimulation)は急速に低下してゆく、となっている。僕の経験はまさにその通りだった。

当初は使いにくいリモコンだと思っていたが、やがてテレビのリモコンだけで、テレビとチューナーの両方の電源の投入ができることが分かったりして操作にまごつくこともなくなった。これは習熟性(learnability)が設計時品質のユーザビリティの一要素であることを考えると、初期操作にまごついた点ではユーザビリティが低かったが、徐々に習熟できた点ではユーザビリティはそれなりの水準だった、ということになる。もちろん初期操作での水準が高いに越したことはない。

一方、4K画像のインパクトは徐々に薄れてしまった。一番最初にみた番組が以前訪問したマチュピチュ遺跡の紹介ビデオだったので、懐かしくもあり、石垣などの鮮明な画像がとても感動的だった。しかし、その後、いろいろな番組を見ていると、大して面白くない内容のものが多く、結局、以前のように地上波の番組を中心に見るようになってしまった。さらに、総じてテレビ視聴時間は以前のように短くなってしまった。これは刺激作用の低下といえるだろう。

評価値にすれば、審美性は、最初はプラス10に近かったが、およそ3か月が経過したいまではプラス3くらいだ。使用性はマイナス10からマイナス3くらいになった。機能性はあいかわらずプラス4程度だ。

こんな具合で、ちょっとした騒ぎだった我が家の4Kテレビ導入騒動は、ひとつの当たり前の要素として僕の日常生活に組み込まれることになった次第である。その意味では高い出費だったなあ…と今になっては思う。

参考文献

von Wilamowitz-Moellendorff, M., Hassenzahl, M., and Platz, A. (2006) “Dynamics of user experience: How the perceived quality of mobile phones changes over time” User Experience – Towards a unified view, Workshop at the 4th Nordic Conference on Human-Computer Interaction, pp.74-78

公開: 2019年5月8日
著者: 黒須教授