人間中心設計の基礎、刊行

『人間中心設計の基礎』が刊行された。HCDについて現時点でもっとも詳しい単行本だと思っているので、皆さんに是非ご一読いただきたい。

ようやく人間中心設計シリーズの第一巻として『人間中心設計の基礎』が近代科学社から刊行された。1999年に『ユーザ工学入門』を出したが、それはISO 13407にもとづいた人間中心設計の考え方やアプローチをまとめたものだった。しかし既にそれから10年以上たっており、内容的な改訂が必要だった。途中、2007年には『ユーザビリティハンドブック』を編集し、その第一章として、その時点での考えをまとめてはみたが、いささかスペースが少なく、学んだことや考えたことをすべて掲載することはできなかった。

そうした中、2009年に、共立出版の編集長から近代科学社の社長として移られた小山さんからHCD-Netにお話があり、人間中心設計シリーズを刊行することになった。当初は、シリーズ全体の構想を立て、第一巻はそれぞれの内容に対する概要説明的な位置づけで考えていたのだが、なかなか予定していたように関係者の執筆が進まず、2011年に皆さんの了解をとって僕が第一巻全体を書いてしまうことにした。当時、すでに人間中心設計はUXやサービスなどを含めてどんどんその範囲を広げつつあり、理論的な考察も深まっており、その全体を包含することは並大抵のことではなかった。集めた書籍や関連資料は本当の山を作るほどになった。また、僕自身の考え方も、大げさにいえば月ごとに変化しており、新しいコンセプトやモデルを考えては講演会や学会で発表していた。

この連続した展開の流れをどこかで切ってその断面をまとめなければならない。それが実はいちばん辛いところだった。特にこのシリーズはHCD-Netの企画モノという位置づけがあったので、あまり個人的な考え方を全面にだすのは控えねばならなかった。また全体的な分量の問題もあった。詳しい解説書はあってもいいが、ページが増えれば価格に跳ね返り、価格が上がれば売り上げ部数も減少する。このトレードオフの関係のなかで、最適点を少し過ぎてしまったあたりで執筆を止めることにした。近代科学社には無理をお願いして、281ページという枚数で3,800円(税込3,990円)という価格設定にしていただけた。

内容的には、前半が理論編、後半が手法編となっており、理論編では人間中心設計の考え方の源泉から始め、ユーザビリティ工学の考え方やISOの規格の話をまとめた。特にISO 13407の位置づけを明確にした上で、UXについてその概念だけでなく評価法などについても比較的詳しく触れ、サービスという概念についても言及した。その上でISO 13407の改訂版であるISO 9241-210の考え方について多少批判的ではあるが説明を行った。このあたり、最近は批判の傾向が多少先鋭的になってしまい、2013年6月1日の人間工学会のシンポジウムではISO 9241-210批判を語るまでになってしまったが、それは僕の個人的考えということにして本書の執筆では押さえたトーンにしてある。ただ、シンポジウムでも語ったのだが、ISO/IEC 25010の品質特性と利用特性を区別する考え方は、UXという観点からも適切なものであり、またusabilityはuse+ableだから可用性、quality in useはuseにおける品質だから使用性と訳し分けるのがいいのではないか、と現在は思っている。

え、それではユーザビリティというカタカナ語は無くしてしまうのか・・。実は、このカタカナ語を公式に使い始めた最初は、僕が委員長をしていたISO 13407の翻訳版JIS Z8530を作成する委員会で決定したことであり、UXが一般化してきた現状にはそぐわないような気もしている。もちろん、そこまでは本書に書いていない。なお、手法編については、ISO 9241-210の四段階のうち最初の二段階の区別がいささか曖昧であることから、設計プロセス全体を、上流工程にユーザ調査や要求事項の整理を含め、さらに中流のデザインと下流の評価を加えて説明を行った。

最近は経験工学ということを言い出している僕だが、その観点からはまた別の書籍を書こうと考えている。本書は標準的な内容のテキストのようなスタンスで執筆したが、次はシリーズとは別の単行本として書くつもりでいる。もし『人間中心設計の基礎』の中に多少の方針のぐらつきが感じられるとしたら、それはこうした僕のなかでの揺れが反映したものとしてご了解いただきたい。さらに、ペルソナ構築など、いくつかの話題については、もっと詳しい説明を書きたかったが、それも紙数の制約を考えて断念した。

ともかく、人間中心設計については、現時点でもっとも詳しい単行本になっていることは確かだと思っている。小山社長の方針である書籍としてのユニバーサルデザインの面でも、紙質やレイアウトなど、随所に書籍に対する思いが満ちている。是非皆さんにはご一読いただいてご意見などをお聞かせいただきたい。

書誌情報

書名: HCDライブラリー第1巻 人間中心設計の基礎
著者: 黒須正明
編者: 黒須正明、松原幸行、八木大彦、山崎和彦
出版社: 近代科学社
発売日: 2013年6月3日
販売価格: 3,990円(税抜3,800円)
ISBN-13: 9784764904439
ISBN-10: 4764904438

主要目次

  1. 人間中心設計とは
  2. ユーザビリティ
  3. ユーザエクスペリエンスへの道
  4. ユーザエクスペリエンス(UX)
  5. 人間中心設計のプロセス
  6. 人間中心ライフサイクルと成熟度
  7. 人間中心設計の人材
  8. 利用状況の把握
  9. 質問紙調査とフィールドワーク
  10. 結果分析から要求の明確化へ
  11. デザインのための基礎知識 ―人間工学と認知心理学
  12. デザインのアプローチ
  13. デザインの実践
  14. デザインの評価1
  15. デザインの評価2

公開:2013年6月5日
著者:黒須教授

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