ISO 9241-210批判 3/3

ISO 9241-210:2010には大きく3つの問題がある。その問題について3回に分けて指摘する。3回目は、HCDのプロセス図の改悪について。

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2. サービスについて(つづき)

2.2 serviceの定義

ISO 9241-210にサービスの定義がないことについては先に書いたとおりだが、定義がないために、それをsystemやproductと同じように扱っていいものかどうかの判断がつかない。いいかえれば、ISO 13407で有名になったプロセス図をそのまま適用できるものかもはっきりしていない。

たしかにserviceをするためには調査を行ったり、企画を練ったりするだろう。時にはそれをマニュアル化することもあるだろうし、練習をすることもあるだろう。しかし、それはsystemやproductのデザインと評価とまったく同じ枠組みで考えていいものだろうか。レストランチェーンやファーストフード店におけるマニュアル化され、練習されたserviceは、それに近いものかもしれないが、多様なservice場面のすべてを網羅できるものだろうか。serviceには接客場面も含まれるが、基本的には人間が関与する人工物、つまりヒューマンウェアのすべてと捉えることができる。その点、どうもISO 9241-210におけるサービスとは、接客場面、それも特にチェーン点におけるマニュアル化された場面を念頭に置いているように見える。

この部分はserviceの定義がないため、これ以上憶測するのはやめておこう。ただ、一点気になるのは、UXについても言えることなのだが、serviceというのは、果たしてuseするものなのだろうか。対物的な関係であればuseという動詞が対応すると思うが、対人的な関係についてuseというのは、対象となる人を見下している感じがある。いわゆる使用人、という見方につながるような気がする。どうも、serviceというのは受けるもの、という気がしており、したがってusabilityやUXのように、useをもとにした概念枠でくくるのは適切でないように思っている。

2.3 serviceの品質

2.2に書いたことと関係して、serviceの品質特性は何なのだろう、とも思う。たしかにusabilityも関係あるとは思うが、ISO 9241-11:1998に定義されている、有効さ、効率、満足度はそのまま適用できるのだろうか。特に効率だ。効率的なサービスというのはファーストフード店では大切かもしれないが、高級レストランで所要時間の短いことは重要だろうか。そのような意味でも、serviceを「安直に」ISO 13407に追加したことは間違っていると思う。

3. 設計プロセス図について

これはISO 13407の時から気になっていたのだが、図1(下図)にあった「Evaluate designs against requirements」から「Understand and specify the context of use」に至る線は、果たして実際にあるのかどうか、という点だ。評価した結果にもとづいてデザインをやり直すことは反復的デザインでは普通のことであり、それによりスパイラルアップが図られる。しかるに評価して、「これはデザインのやり直しでは対応しきれない。改めてユーザ調査からやり直さねば」というようなひどいケースは、全くないとはいいきれないが、納期の問題、人員工数の問題もあって、とても現実的とは思われない。

さらに、そうした理由から、その線を取り除いてしまうと、ISO 13407の図は、デザインと評価の間に反復部分を残しつつも、全体的にはウォーターフォール的な図になることが分かると思う。

なお、この線は、次期製品の設計につながる線だ、という解釈は、評価が完了したら「System satisfies specified user and organizational requirements」に進み、設計が完了し、そこから製造ラインに入り、輸送・保管、そして販売に至る流れに入ってゆくわけで、この評価の部分からユーザ調査に入るわけではないので、それは誤解であるというべきだろう。

人間中心設計活動の相互依存性(ISO 13407:1999の規格検討時)
人間中心設計活動の相互依存性(ISO 9241-210:2010)

この図1がISO 9241-210では、iterate where appropriateということで、「Evaluate the designs against requirements」から、「Understnad and specify the context of use」にも、「Specify the user requirements」にも、「Produce design solutions to meet user requirements」にも戻る形になっている。しかしながらISO 13407では、「Produce design Solutions」について7.4.1に「c) present the design solutions to users and allow them to perform tasks (or simulated tasks); d) alter the design in response to the user feedback and iterate this process until the human-centred design goals are met; e) manage the iteration of design solutions.」と書いてあるように、「Produce design solutions」の内部でこうした形成的評価が行われ、反復が行われるように書いてあった。しかしながら同時に「Evaluate designs agains requirements」も同様の評価を行うように書いてあり、そのあたりが曖昧にはなっていた。

しかし、いずれにせよ、ISO 13407で反復設計と言っていたのはデザインと評価―それがデザイン内部の反復か評価段階との反復かは別として―の間のことであった。またISO 13407では各段階をつなぐ線は矢印ではなく、ただの線だった。それをISO 9241-210では矢印にしたために、少なくとも明示的に評価からデザインに戻る破線を描かざるを得なくなった。

しかし、そこで止めておけば良かった物を、とISO 9241-210の図を見る度に思う。これはやりすぎでしょう、実際にこんなことはしないでしょう、と思う。

まとめ

以上、細かい批判点は別にして、大きく、UXとの関係、serviceとの関係、図の反復設計の描き方の問題について指摘した。個人的な所感としては、ISO 13407は特にいじる必要はなかったように思っている。またUXやサービスなどとの関係については、新たに別の企画として根本から作り直し、またそのために当該分野の専門家を招いて規格作成をすべきだったように思う。TC 159として人間工学関係者が頑張るのは結構なことだし、人間工学はとても重要な研究領域ではあるのだが、そこでカバーしうるのはISO 13407あたりの範囲までではないかと思う。

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公開:2013年2月1日
著者:黒須教授

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