Microsoftはユーザの立場を尊重すべき

Microsoftは適切なUXを提供してきたとは言い難い。本当に望ましいユーザインタフェースとはどのようなものなのかを考えようとする真面目で誠実なMicrosoft社員に光が当たるようになることを祈っている。

  • 黒須教授
  • 2023年11月7日

OneDrive: Microsoftの余計なお世話

Windows 11になってからだと思うのだが、OneDriveの仕様が変更された。いつものことだが、不親切なMicrosoftはそのことをちゃんとユーザに告知してくれてはいない。しかも、パソコンの初期状態でOneDriveを利用する仕様になっているのだ(ただし、Windows 11のセットアップに際してMicrosoftアカウントでセットアップした場合である…たいていのユーザは言われるがままにそうしていると思うが)。それまでは単なるクラウド上のオンラインストレージだったのが、勝手にハードディスクと同期してしまうようになったのだ。

そのために、無料の場合に5GBしかないOneDriveの容量が不足してトラブルが発生したり、処理負荷が増えてもそもそした動きになったりするようになったということが起きうる。さらに初期設定では、デスクトップとドキュメントフォルダとピクチャフォルダについて勝手にOneDriveを使うように設定されているが、そのことも自分で確認してみなければ分からない。

ファイルの保存状態が、①クラウドとハードディスクの両方にある場合(チェックマークがつく)、②クラウドにしかない場合(雲のマークがつく)、③クラウドに同期できずにハードディスクにだけある場合(赤丸にバツのマークがつく)、と3通りになってしまって、そのことに気をつけておかないとファイルを失ってしまうことにもなりかねない。

特に、①の場合については、緑の丸にチェックマークがある場合は、クラウドとハードディスクの両方にファイルが存在していると思って安心していいのだが、白丸のチェックマークの場合は一定期間利用していないとハードディスクからは消えて②の状態になってしまう。当然だが、ハードディスクにファイルが存在していない状態でOneDriveの利用を中止してしまったりすると、ファイルが失われてしまうことになる。筆者のような不注意なユーザにとっては、時に致命的な事態につながりかねないわけである。

左: クラウドとハードディスクの両方にファイルが存在している場合
中央: 両方にファイルがあるが、一定期間利用していないとハードディスクからは消えるもの
右: クラウドにしかファイルがない場合
(図は「Windows 用 OneDrive ファイル オンデマンドでディスク領域を節約する」より)

この問題は結構ひどい、ということで、たとえばYouTubeでは、以下のようなアラート記事がいろいろなチャンネルに掲載されている。

もちろんオンラインストレージにはそれなりの利便性があるとは思うし、だからこそGoogle DriveやiCloud、Dropboxなどのサービスが登場したのだろう。特に、特定のファイルやフォルダをクラウドに保存するのは、さまざまな場所からアクセスするにも、他人とファイルを共有するにも便利なことがあるだろう。しかしデフォルトでオンラインストレージを利用するように決めてしまうというのはユーザに対する強制であり、好ましい考え方とはいえない。

筆者は元々、ユーザのことを考えないこうしたMicrosoftの手前勝手な姿勢が嫌いだったこともあって、「ストレージがほぼいっぱいです」というメッセージがでてきた時に、速攻OneDriveを削除してしまった。5GBなんて小さな容量しか提供しておかずに、半強制的に容量増加を迫り、課金して金を稼ごうとする姿勢に腹が立ったからだ。その結果、困った事態に陥ってしまった。デスクトップのアイコンが半分以上消えてしまったのだ。アッという間のできごとだった。まあ、いろいろと手を尽くしてなんとかアイコンは復旧させたけど、Microsoftへの怒りがさらに募ってしまった。

BitLocker: まだあったMicrosoftの自己中心的なサービス

これだけではない。もう一つ指摘するならセキュリティ機能としてのBitLockerによる暗号化である。Cドライブに使っているSSDを大容量のものに交換するなど、パソコンの設定に変化を起こしてしまうと、ある時突然「BitLocker回復」というブルー画面がでてきて、48桁の回復キーを入力しないとパソコンが起動できなくなってしまうということになる。

そもそも、回復キーについてはパソコン購入時にユーザは教えられていないので、ブルー画面がでてからでは遅すぎるのだ。もし事前に回復キーを確認できていたとしても、それをCドライブ、たとえばデスクトップなどに保存したのでは、ブルー画面がでてきてしまった状態ではそれを読み取ることはできない。印刷しておくか、外部のUSBメモリなどに保存しておかなければならないのだ。

幸い、筆者は「デバイスの暗号化」がされていなかったので難を逃れたが、暗号化がされていてしまった場合には青ざめることになるだろう。こういうこともMicrosoftの独りよがりでユーザ無視の姿勢のあらわれと言えるだろう。

Microsoftの姿勢

こうした例に限らないが、Microsoftはユーザのエクスペリエンス、などといいながら適切なUXを提供してきたとは言い難い。Appleユーザでない筆者にはMacやiPhoneでどのような状況なのかは分からないが、少なくともMicrosoftはUXを考慮していないと断定していいだろう。

そもそもの話だが、OSの進化ってそんなに必要なことなのだろうか。信頼性が増してトラブルが発生しにくくなったり性能が向上するのは結構である。しかし、機能の追加とか、ましてやLook & Feelの変更とかの仕様変更に関わることって、そんなに必要なことと言えるのだろうか。たとえばWindows 10では「更新とセキュリティ」だったものを、中身をいれかえてWindows 11で「プライバシーとセキュリティ」に変えるようなことは望ましいことであり、本当に必要なことだったといえるのだろうか。またWindows 11でタスクバーのアイコンをセンタリングするようにしたのは、誰のためだったのだろう。こうしたことは山ほどある。しかし、ユーザ目線で考えたとき、「何となく新鮮だなあ」と思わせるだけのことにどれほどの意義があるのだろう。

家に例えるなら、引っ越しを頻繁にする人もいれば、住み慣れた家に長いこと暮らす人もいる。頻繁に引っ越したい人は勝手に引っ越せばいいのだが、住み慣れた家を愛していた人々を家から追い出して新しい家に引っ越させるのは強引なことだし、人々にとって優しいとはいえない。

建築業者や引っ越し業者が余るほどいる世の中なら、手を変え品を変え、人々を新しい家に引っ越させようとするだろうが、それと同様に、Microsoftではインタフェースの設計者に余剰人員が多いのだろうか。もしかしたら、そうした人々が自分たちの存在意義を誇示しようとして、そして既得権益を守ろうとして、やらなくてもいい余計な仕事をしているだけなのかもしれない。本当に望ましいユーザインタフェースとはどのようなものなのかを考えようとする真面目で誠実なMicrosoft社員のいることを、そしてそうした人たちに光が当たるようになることを祈っている。