UXグラフ(ERM)ツールの使い方 (2)
ERM (経験想起法)について、前回は、インフォーマントの経験に関するデータの、オンラインツールを使った集め方を説明した。今回は、データを集めた後、それをどのように分析して利用するかについて、サンプルデータを使って説明しよう。
(「UXグラフ(ERM)ツールの使い方 (1)」からのつづき)
分析のためのデータ加工
データを分析するためには、それをちょっと加工する必要がある。その手順を以下に説明しよう。総数が2というのは分析をするには少なすぎるのだが、その感触をもっていただくために、ここでは次のデータを利用することにする。実際には、少なくとも20から30のデータを取る必要があるだろう。100を越えるデータは分析作業が繁雑になるが、信頼度は向上するので、分析のための時間的余裕があるなら多量のデータを分析するのがいいだろう。データはいずれもExcelにコピペしたものである。(その作業をしやすくするために、現在、ツールの出力をCSV形式にする改修作業を検討しているところである)。
見てもらうと分かるように、シートの右端に「カテゴリー」という欄が設けられている。ここが「ちょっとした加工」の部分である。このサンプルデータはいずれも大学生活というサービス活動に関わる経験を記入してもらったものだが、大学生活のなかには、受験もあれば、授業も、就活もある。さらにサークルやバイト、友人関係などもある。それで、このサンプルのようなカテゴリーを設定したものである。カテゴリーの設定は任意なので、その設定の仕方によって分析結果が影響される余地はある。あまり大括りでもなく、あまり細かすぎず、といったところだろう。
なお、図1の「現在の気持ち」や「これからの期待」には、就活と研究という二つのカテゴリーが含まれている。つまり、インフォーマントは就職をするか大学院で研究をするかで迷っていたわけで、こうした場合には複数カテゴリーを記入することになる。ただ、このままではExcelのソート機能が使えないので、分類をする前に、この例の場合では、同じ項目を2行にして、一方に就活、他方に研究というカテゴリーを割り振る。
その後、全ての(この例では2つの)データをマージする。その結果は図3のようになる。
なお、念のため、それぞれのデータにID番号をつけておいた方がいいだろう。その結果、図2にはカラムがもうひとつ増えている。分析した後に元のデータにもどって、その発言がどのような文脈から発せられたものかを知ることができるからである。
そして、カテゴリーの列をキーにしてソートしたものが図4である。ここではカテゴリーごとに色分けを施してある。なお、データ数が多いときには、第二キーとして時期を使うといいだろう。そうすれば事前の期待は事前の期待として、現在の気持ちは現在の気持ちとしてまとめて閲覧することができる(この点についても改修を検討している)。
結果の分析
ここからデータ分析が始まる。順に見て行くと、まず研究というカテゴリーでは
のように、同じインフォーマントが「現在の気持ち」としては就職と研究の狭間で-7と悩んでいるものの、「これからの期待」としては、すっきりして突き進みたいという10の評価になっている。その落差が大きい分だけ現在の悩みは深いといえるし、それが決着した暁には晴れ晴れした気持ちになるだろうことも予想される。いずれにしろ絶対値で17という落差があることは、進路決定という問題が大学生にとって大きな問題であることが分かる。大学教員の立場からすれば、こうした情報を得ることで、進路指導への個別のガイダンスの必要性を理解することができるだろう。
サークル活動については、多少の緊張感や不安感も抱くようだが、(ここに表示していない他のデータを見ても)概してポジティブな回答が多い。大学という新しい場においてサークルというコミュニティに帰属することが、それなりの安定した心理状態を形成すると考えていいだろう。
就活については、前述のID=01のデータも含まれているが、その他で注目すべき点として、インターン活動がそれなりの刺激になっていることが伺われる。
大学環境については、下記のように手続きの煩雑さが挙げられている。ここでは特にマイナスにはなっていないが、事務方としては、このような意見が多く集まっているようであれば、手続きの簡素化対策を考える必要があるだろう。
大学授業については、下記のID=02の意見を見ると、事前の期待が高かっただけに、落胆も大きいようだ。しかし、マイナスをつけるほど最悪ではないようである。このUXグラフの評価値は(ERMもそうだが)0を基点としてプラスとマイナスの方向に伸びており、0が絶対的原点といえる。したがって、マイナス評価がついていなければ、テキストデータでは失望が書かれていても、それほど大きな失望ではないと解釈していいだろう。ただ、評点が高くないという点を忘れるべきではない。大まかにいって、評点が+5以上であれば良好と考えられるが、それ以下の場合には、何らかの要改善点がある、と解釈すべきだろう。
改善へのフィードバックとして
上記のような解釈において、それではサービス提供サイドはどうすべきかを考える必要があるし、UXグラフやERMの結果はそうした改善のための情報源とみなすことができる。そうしたフィードバックサイクルについては、次の回で改めて説明することにしたい。