1997年のWebトレンド
参照:
1996年の予言はどうだったか?
さらに
ここで行った1997年の予言はどうなったか?
2つの大きなトレンドが起こって、過大広告のわりに役に立たない現在のウェブが、再び甦るだろう:
- ビジネス界がウェブにまじめに取り組むようになる
- 意味的エンコードの復活
この先をお読みいただく前に、ちょっとした課題を。手近な用紙に「コンピュータ」を描いてみていただきたい。きれいに描く必要はないし、極端に精密なイラストにする必要もない。コンピュータとはどういうものか、その輪郭だけをざっくりとスケッチしてもらいたいのだ。このエッセイの最後で、この課題に戻ることにしたい。だが、私のコメントを読む前にまずはやってみてほしいのだ。
ビジネス界がウェブにまじめに取り組むようになる
ウェブを取り巻く誇大な憶測は枚挙に暇がないが、ビジネスツールとしてまじめに取り組んでいるところはほとんどないのが現状だ。1996年12月の年末休暇ショッピング・シーズンでは、ウェブでかなりの売上を上げる企業が出始めた。とはいうものの、ウェブで実際に何かを買うのは、あいかわらずほとんど不可能だ。あるジャーナリストは、クリスマスのショッピングをすべてウェブでまかなおうとしたが、実際に買えたプレゼントはひとつだけだった。ほとんどの企業が、自社のウェブサイトを派手なパンフレットと考えていて、顧客と接触する手段としては捕らえていない点に問題がある。ウェブサイトを持つ目的は、ウェブを立ち上げたことを友達に自慢するためではない。顧客にサービスを提供する(そしてそれによって収入を得る)ことなのだ。
JCP Computer Servicesが最近行ったイギリス企業の調査によれば、IT担当重役のうちで、今までにインターネットでモノやサービスを買った経験のある人はたった25%しかいなかった。IT重役でさえ、現実的なインターネットの使い方をしたことがないのだから、その企業のウェブサイトが失敗に終わっても、事業計画にインターネット活用の明快なビジョンが欠けていても、何の不思議もない。この文章を読んでいるCEOの方へ。あなたの会社のCIOは、これまでにインターネットで何か買い物をしたことがありますか?同じ質問を、マーケティング責任者にも問いかけてみよう。自分のことで使ってみるくらいの真剣さがない人に、会社のインターネット戦略を任せられるはずがない。(これを聞いてからでも遅くはない。ぜひご自身でも、ウェブで何かを買ってみていただきたい!)
ウェブで買い物をしてみるとすぐわかるのは、本当に顧客にとって価値あるものを提供していると言えるウェブサイトがいかに少ないか、ということだ。確かに、考えられる限りの「いかした」飾り付けやアニメーションはくっついているかもしれない。だが、そこには現実的といえるものはめったにない。詳細なスペックや在庫の有無、それに納品予定日はおろか、全製品の一覧すら載っていないことが多い。これほどお粗末なサービスにも関わらず、何か注文したとしよう。たいていは、UPSのトラックが荷物を運んでくるまで、注文が受け付けられたかどうかすらわからないのが普通だ。在庫および販売の管理システムを電子メールシステムと直結している商用ウェブサイトはほとんどない。だがこうすれば、顧客に、発送完了(あるいはその遅れ)をすぐに知らせられるはずだ。ウェブで購入したモノをすばやく納品すれば、「顧客のロイヤリティが60%から96%も向上する」(http://192.215.107.71/wire/news/may/0508men.html: リンク切れ)という知見に反する現実だ。
自由に使えるインタラクティブ・メディアを手にしたことの意味を、ウェブ担当の重役がよく理解していないことに問題がある。幸いにして、これさえできれば、ウェブで名を上げ、顧客を引き付けるのはそんなに難しくない。ウェブサイトでかっこいいデモを見せるのと、実際に現実的な目的のために利用するのとでは大違いなのである。1997年には、顧客(および彼らのお金)が声高に、こう主張するようになると予想する。うわべだけのかっこ良さを追い求めるのはやめて、ウェブサイトをまじめなビジネスツールにするべきだ。自らのウェブを使えるものにして、顧客が新しいブランドに心変わりするのを食い止めようと思うのなら、今年が、従来の企業にとっては最後のチャンスである。
意味的エンコードの復興
ウェブのそもそもの設計と、その基盤にあるデータ形式HTMLは、情報の意味をエンコードすることを基本にしている。体裁を基本にしたものではないのだ。例えば、この上にある見出しはレベル2の見出し(<H2>)としてエンコードされている。つまり、このエッセイ全体の見出しであるレベル1に続いて、小見出しとしては最上位の見出しだということだ。Tim Berners-Leeがこのエンコード方式を選んだのは、ウェブをユニバーサルな情報システムにしたいと考えたからだ。どんなユーザが、どんなコンピュータ機器を持っているかわからない(高解像度のカラー画面の人もいれば、視覚障碍者で音声オンリーのインターフェイスを使っている人もいる)のだから、ファイル自体からは、情報の体裁に関する詳細は切り離しておく必要がある。ユーザにページをどう見せる(あるいは読ませる)かは、ユーザの機器によって決まるのだ。
文書の意味をエンコードするという概念が、今のところないがしろになっている。ブラウザ・ベンダーの中に、情報の見せ方をエンコードするための非標準的なタグを導入するものが出てきたからだ。例えば、ウェブデザイナーの中には、レベル2見出しといった意味的なエンコードではなく、「高さ18ピクセルの太字Garamond」といった体裁ベースのエンコードになじんでいる人が多い。デザイナーが使っているのと同じハードウェア、ソフトウェアの組合せをユーザが持っている場合に限られるが、体裁ベースのエンコードには、ほぼ意図したとおりのデザインでページを表示できるというメリットがある。このため、より洗練されたレイアウトが可能だ。
体裁ベースのデザインがうまくいくのは、ユーザのハードウェア、ソフトウェア、設定が予測できる場合に限られる。1995年から1996年前半までは、これは簡単だった。ほぼ全員が同じブラウザ・ソフトを使っていて、ハードウェアにも本質的な違いはほとんどなかったからだ。私の指示どおりにコンピュータの絵を描いた人は、恐らく大きな箱型のモニタに、キーボード、マウスをスケッチしたことだろう。これが今日の典型的なコンピュータの姿だからだ。1997年には、今までにないコンピュータ、例えばWebTVや、Newton、PalmPilotのような個人用情報ツールといったものがもっと広まるだろう。こういったデバイスの画面表示能力は従来のコンピュータとかなり異なる(普通はもっとずっと小さい)。このため、標準的なモニタできれいに見えるように、特定の体裁でコードされたウェブページは表示できなくなる。意味的エンコードを採用すれば、デバイスに任せで、画面の能力に合った最適な表示を得ることができる。
1997年中には、音声ベースのブラウザも広く利用されるようになると期待している。障碍を持つユーザ(中でも視覚障碍者)のアクセシビリティを向上させることも、音声ブラウジングを支える条件のひとつだ。両手がふさがっていたり、他に見るものがあったりといった状況(例えば運転中)だと、晴眼者ユーザでも、読み上げ式ならウェブ・ベースの情報にアクセスできる。意味的エンコードがなされていれば、ウェブの音声インターフェイスはもっとよいものになるのは明らかだ。システムがページの構造を理解できるようになるからだ。例えば、テキストのどの部分が記事見出しなのかがわかれば、音声システムは要約だけを読み上げることができ、全部読み上げて欲しい場所をユーザが簡単に選べるようになる。
体裁的ではなく意味的なエンコードに戻れ、という最後の理由は、これによって、ウェブにアクセスできるソフトの幅が広がるからである。ブラウザは同じでも違うバージョンで同じページを見た画面ショットを比較してみれば(あるいは「同じ」バージョンでもプラットフォームが違えば)、最終的な体裁がかなり違うことがはっきりしている。私のサイトは1996年12月に68種類のバージョンのブラウザでアクセスされている。もっとも人気の高いブラウザ(32ビット版Windows用のNetscape 3.0)でさえ、利用数の全体の20%に満たない。これ以外のブラウザ・ベンダーのシェアが向上し、各ベンダーからさらにたくさんのブラウザのバージョンが発表されるにともない、バージョンの数が増えすぎて、ページ・デザイナーが体裁を整えたいといっても、それらすべてでページをテストするわけにはいかなくなってくる。次にどうなるかなど、誰にもわからない。しかし「データは永遠」である。ページを生き残らせたかったら、標準に従うしかない。
コンテンツ内部に体裁の指定を埋め込むよりも、コンテンツと体裁関係の指定を分離しておく方がよい。情報の体裁に関する情報は、別ファイルのスタイルシートに収めておき、意味的マークアップだけを施したコンテンツ・ファイルとリンクしておく。スタイルシートはウェブの新境地であり、今のところ、まだ広く利用されていない。だが、増えつづける一方のブラウザと、ディスプレイ・デバイスの中で、良好な体裁を得ようと思うなら、これが唯一の解決法だ。例えば、ひとつのページから3つのスタイルシートにリンクすることができる。ひとつはデスクトップ・コンピュータ用、ひとつは画面の小さいデバイス用、最後はテレビ用といった要領だ。スタイルシートは埋め込み型ではなく、リンク式にしておくこと。そうしないと、ページ間でのスタイルのメンテナンスや共有が難しくなる(利点が2つ:UIの一貫性が保たれ、キャッシュ機能のおかげでダウンロード時間も短縮される – ただし、スタイルシートへの参照があるたびに毎回サーバにアクセスしてくるInternet Explorerは例外)。
1997年1月