カスタマージャーニーマップは、いつどのように作るべきか

カスタマージャーニーマップとは、物語と視覚化という2つの強力なツールを組み合わせることで、開発チームが顧客のニーズを理解して、対処できるようにしたものである。コンテキストやビジネスゴールによって、マップの取るかたちはさまざまだが、そこにはある決まった要素が一般に含まれている。また、根本になるガイドラインがあり、そうしたガイドラインに従うことで、もっともうまくいく。

カスタマージャーニーマップとは何か

この質問をされることは本当に多い。そこで、まずはこの質問に正面から答えてみたい:

定義:カスタマージャーニーマップとは、1人のユーザーが目標を達成するためにたどったプロセスを視覚化したものである。そして、その利用目的は、顧客のニーズや問題点を理解し、対処することである。

もっとも基本的な形式のカスタマージャーニーマップの場合、マップ作りは、ユーザーの一連の目標や行動のあらすじを時系列にまとめることから始まる。次に、そのあらすじをそのときのユーザーの思考や感情で肉付けして、物語にしていく。そして、最後に、デザインプロセスの判断材料となる知見を伝えられるように、物語を凝縮して、視覚化する。

カスタマージャーニーマップの作成とは、物語(storytelling)と視覚化という2つの強力なツールを組み合わせることである。

カスタマージャーニーマップ作りを構成する要素として不可欠なのが、物語と視覚化だ。簡潔で記憶しやすく、また、共有ビジョンが作り出せるように情報を伝達する仕組みとして、この2つは有効だからだ。部署やグループごとにKPIが課され、測定される企業では、断片的に物事を理解することが常習的になっている。そうした企業の多くが、ユーザー視点で全体のエクスペリエンスをつなぎ合わせて明らかにする、ということをやったことがないのがその理由である。こうしたビジョンの共有というのが、カスタマージャーニーマップ作成の重要な目的といえる。ビジョンの共有なしには、顧客のエクスペリエンスの改善についての合意は不可能だからである。

カスタマージャーニーマップを作ると、顧客のエクスペリエンスを全体的な視野でとらえられるようになる。また、この、多種多様なデータポイントをまとめ上げて、視覚化するプロセスによって、こういうことでもしなければ無関心な利害関係者をあらゆるグループから参加させ、協力的な対話や変化を促すこともできるようになる。

カスタマージャーニーマップの再構築

利用されるコンテキストごとに、カスタマージャーニーマップは変わってくるが、「レンズ」(ゾーンA)、マップ化されたエクスペリエンス(ゾーンB)、このプロセスをとおして学んだ知見(ゾーンC)からなる、一般的なモデルに則った構造になっていることが多い。以下がこの図の注釈である。

ゾーンA:レンズにあたるこの領域では、(1)ペルソナ(「誰が」)と(2)検討するシナリオ(「何を」)によってマップの制約条件を提示する。

ゾーンB:マップの中核部分にあたるこの領域では、エクスペリエンスの視覚化をおこない、通常は、(3)カスタマージャーニーを段階ごとに切り分けたものを横一列に並べる。そして、そのカスタマージャーニーをとおしてのユーザーの(4)行動(5)思考(6)感情的なエクスペリエンスを調査からの引用や動画で補完する。

ゾーンC:ここでのアウトプットの内容は、マップが支援するビジネスゴールによって変わってくる。しかし、発見した知見や問題点、そして、(7)重点的に取り組むべき状況(8)社内の担当についてここで説明できる。

カスタマージャーニーマップが必要な理由と、作成のタイミング

カスタマージャーニーマップは必ず既知のビジネスゴールを支援するために作成されなければならない。ビジネスゴールに照準が合っていないマップから、適切な知見は得られないからだ。ビジネスゴールは、特定のペルソナの購買行動についての学習のような、外部の課題であることもあれば、顧客のエクスペリエンスの特定部分についての担当が決められていないことへの対処、といった社内の課題のこともある。カスタマージャーニーマップを作成可能なビジネスゴールには、以下のようなものがあると考えられる。

企業のものの見方を、“社内から社外”から、“社外から社内”に転換する。企業が社内のプロセスやシステムを理由に、顧客のエクスペリエンスに影響を及ぼす決断をしている場合、カスタマージャーニーマップで顧客の思考や行動、感情に再度焦点を当てることで、そうした企業文化の方向性を変えられる可能性がある。カスタマージャーニーマップを作成することで、企業がほとんど知らないことが多い、現実の人間のエクスペリエンスが浮き彫りになるからである。

サイロ(訳注:縦割り型システム)を破壊し、企業全体で共有できる1つのビジョンを作り出す。カスタマージャーニーマップはカスタマージャーニー全体のビジョンを作り出すものなので、部署を超えた対話や協力を生み出すツールになる。カスタマージャーニーマップの作成は、顧客のエクスペリエンスに投資するための、組織全体のアクションプランを構築する第一歩となる。スムーズにいっていないエリアを目立たせるので、「どこから始めよう?」という疑問への回答になるからだ。

主要タッチポイントの担当を社内各部署に割り当てる。カスタマージャーニー内に一貫性がなかったり、不具合のあるエリアがあるのは、単に、その要素を担当している部署が社内にないためであることは多い。対処が必要なカスタマージャーニー中のステージ、あるいは主要なタッチポイントごとに、どの部署やグループが担当しているかを、カスタマージャーニーマップは明確にしてくれる。

特定の顧客をターゲットにする。カスタマージャーニーマップによって、複数のペルソナのジャーニー中の相違点や類似点を理解し、重要度の高いペルソナを優先したり、新しいタイプの顧客をターゲットにする方法を探るなど、開発チームが特定のペルソナや顧客に焦点を合わせることができるようになる。

定量データを理解する。アナリティクスなどの定量データから、何かが起こっていることに気づいたら(たとえば、オンラインでの販売が頭打ちになっている、とか、オンライン上のツールが活用されていない、など)、カスタマージャーニーマップを作ることでその理由が見つけ出しやすくなる。

カスタマージャーニーマップの主要な要素

カスタマージャーニーマップはさまざまな形式になりうる(そして、なるべきだ)が、そこには一般に、ある一定の要素が含まれている:

視点。何よりもまずは、ストーリーの「出演者」を決めよう。つまり、このカスタマージャーニーマップは誰についてのものなのか、ということである。たとえば、ある大学が出演者として選ぶのは、学生の場合もあれば、教職員の場合もあるだろうが、どちらが選ばれるかで、カスタマージャーニーはかなり違ったものになるだろう。「出演者」は通常、もしあれば、一致するペルソナと並べて書く。ガイドラインとして、基本的なカスタマージャーニーマップ作成時の視点は、1つのマップにつき、1つのみとし、強力で、明確な物語を提供できるようにしよう。

シナリオ。次に、マップにする具体的なエクスペリエンスを決めよう。こうしたエクスペリエンスには、すでにカスタマージャーニーが存在しているものもある。その場合は、マップ化することで、現時点のエクスペリエンスの良い時期、悪い時期が明らかになるだろう。あるいは、エクスペリエンスが「将来の」ものである場合もある。そこでは、マップの作成者はまだない製品やサービスについてのジャーニーをデザインすることになる。ユーザーがこうしたエクスペリエンスの中で目指しているゴールは、必ず明確にしよう。カスタマージャーニーマップは、購買行動や店舗への来店のような、連続したイベントを説明するシナリオに最適といえる。

行動や考え方、感情。カスタマージャーニーマップの物語の中心にあるのは、そのジャーニー中に、ユーザーが何をして、どう考え、どう感じているか、である。こうしたデータポイントは、フィールド調査やコンテキストインタビュー、日記調査のような、定性調査がもとになっていなければならない。そこでの表現の粒度はマップの目的による。たとえば、マップの目的が評価なのかデザインなのか。そして、評価したりデザインするものが、大まかな購入サイクル全体なのかそれとも一部のシステムか。

タッチポイントとチャネル。マップにはユーザーのゴールや行動に沿って、タッチポイント(マップの出演者がその企業と実際にインタラクションをするタイミング)と、チャネル(Webサイトや物理的な店舗のような、コミュニケーションやサービス伝達の手段)が並んでいなければならない。この2つは特に重視する価値のある要素だ。ブランドとしての一貫性が欠けているとか、エクスペリエンスがバラバラであることが明らかになる場所とは、こうした要素であることが多いからである。

知見と担当。カスタマージャーニーマップ作成のプロセス全体で重要なのは、ユーザーエクスペリエンスにある裂け目(これはカスタマージャーニーがオムニチャネルである場合に特に多く見られる)を明らかにし、そうしたエクスペリエンスを最適化するための施策を打つことである。知見と担当というのは、非常に重要だが、見過ごされがちな要素だ。カスタマージャーニーマップの作成によって浮かび上がってきた知見はすべて、明確な一覧表示にすべきである。また、政治的に可能なら、カスタマージャーニーマップの段階ごとに担当を割り当てるとよい。そうすると、マップのどの段階を誰がやっているのかがわかりやすくなる。担当をはっきりさせないと、誰に責任があるのか、誰に変更の権限があるのかがわからなくなるからである。

上記の重要な要素がすべて入っているのに、2つのカスタマージャーニーマップがまったく違って見えるかもしれないが、どちらもデザインされたコンテキストに完全に適している、ということはありうる。マップに入れる要素を決める際、範囲、焦点、幅と深さのどちらを優先するのか、についてのトレードオフが求められるからだ。十分に情報を得た上で、こうしたトレードオフに関する判断を下すには以下の点を考慮するとよい:

  • 完全なストーリーを伝えるためには、詳細さのレベルはどのくらいにする必要があるか。
  • また、話をもっとも信用できるように伝えるのに必要なのは、どんな要素か(たとえば、デバイス、チャネル、遭遇するコンテンツなど)。
  • このカスタマージャーニーマップの目的は、現時点のエクスペリエンスにある課題の診断か。それとも、新しいエクスペリエンスをデザインすることか。
  • (顧客側の)外部の行動と(企業側の)内部の行動のバランスはどうか。
  • このカスタマージャーニーマップを利用することになるのは誰か。

成功するカスタマージャーニーマップ作成のルール

カスタマージャーニーマップを成功させるためには、「正しい」要素が入ってさえすればいいというものではない。カスタマージャーニーマップの作成というのは、明確に定義されたゴールを踏まえた共同プロセスであり、調査がその基礎にならなければならないからである。また、このプロセスの進む方向を正しく保ち、そこから得られる知見を説いていくのに必要な合意を形成するには、努力が必要だ。以下は、このプロセスをしっかりとスタートさせ、進む方向を正しく保つためのヒントである:

「なぜ」と「何を」を明確にしよう。まず、このカスタマージャーニーマップが支援することになるビジネスゴールを確認しよう。このプロセスの開始前に、基本となる以下の重要な質問にしっかり答えられるようにしておこう:

  • このカスタマージャーニーマップが支援するビジネスゴールはどんなものか。
  • このマップを利用することになるのは誰か。
  • これは誰についてのマップか。そして、どんなエクスペリエンスを扱っているのか。
  • このマップはどのようにシェアしていくのか。

マップは事実をベースにしよう。カスタマージャーニーマップはおとぎ話ではなく、本当のことが書かれた話になるべきだ。まずは、既存の調査データをすべて集めることから始めよう。だが、カスタマージャーニー用の調査を追加し、既存の調査ではカバーできないであろう隙間を埋める必要もある。この過程でおこなわれるのは定性調査だ。定量データは役立ったり、有効だったり(あるいは、定性データを「あいまい」と見なす利害関係者の説得の助けになったり)するが、定量データだけではストーリーを組み立てることは不可能である。

他の人たちと協力して取り組もう。(マップそれ自体ではなく)カスタマージャーニーマップの作成という行為こそが、このプロセスのもっとも重要なパートであることは多い。したがって、周りを巻き込もう。カーテンを開け、さまざまなグループから利害関係者を招き入れ、データのまとめやマップ作りに参加してもらおう。

あわてて視覚化しないようにしよう。きれいなグラフィックスを作ったり、すぐにデザインに入りたいという誘惑に負けると、美しいが不備のあるカスタマージャーニーマップができてしまいかねない。必ずデータの統合を終わらせ、それをよく理解してから、ビジュアルの作成に入るようにしよう。

他の人たちにも最終的な成果物づくりに関与してもらおう。素敵なグラフィックスをメールに添付して送りさえすれば、自分たちのカスタマージャーニーマップへの「賛意」が得られ、関心を持ってもらえるようになると期待してはならない。活発にインタラクションができる書類にして、皆が参加できるようにしよう。他の人から見ても真実味があり、参照したくなるような物語であると宣伝するためには、ミーティングや対話の中で、自分たちのストーリーを育て上げるとよい。開発チームに直接参加していない人も、そこに来れば、このプロセスとそこから生まれた中間生成物を経験できるカスタマージャーニーマップのショールームを作るのも1つのアイデアである。

さらに詳しく学びたければ、我々の講座「Journey Mapping to Understand Customer Needs」をチェックしてほしい。今年の終わりにアトランタとロンドンで開催するUXカンファレンスで取り扱う。