ユーザーインタビュー中に避けるべき、5つのファシリテーションの誤り

UXインタビュー中に避けるべきよくある誤りには、不十分な信頼関係、マルチタスク、誘導、不十分な深堀り、見学者の取り扱いのまずさがある。

ユーザーインタビューは、ユーザーのニーズや信念に関する知見を得るとともに、ユーザーへの共感を築くこともできる調査ツールだ。

しかし、すべてのインタビューが、「調査」のインタビューとしての条件を満たすわけではない。ジャーナリズムのインタビューは、ユーザーインタビューと似ている部分もあるかもしれないが、調査インタビューは、ユーザーのニーズや期待、製品や製品群とのインタラクションについて、「判断を下さず」、「客観的に」情報を収集することに重点が置かれる。そのため、ユーザーとの会話ならどれでも調査インタビューというわけではないのである。

また、残念ながら、良かれと思ってやったことでも、参加者の回答にバイアスをかけたり、影響を与えたりすることもある。ユーザーインタビューは、細部にまでいろいろと気を配ることが求められ、さまざまな理由で失敗することがある。しかし、今回紹介するよくある誤りを避けることに集中すれば、あなた方が収集するデータは、客観的で偏りがなく、正当な方法で取得されたものに確実になるだろう。

インタビューのファシリテーションのよくある誤り

1.  信頼関係の構築が不十分

世間話をするのは意味のない作業だ、あるいは貴重なインタビュー時間の無駄だと感じる人もいるかもしれない。しかし、しっかり時間を取って信頼関係を構築せずに、いきなりユーザーインタビューに飛び込むと、そのインタビューから得られるデータの質(と量)は限られたものになる。

対面のインタビューで、あまり時間をかけずに信頼関係を築く良い方法の1つが、参加者に待ってもらっている場所まで(この作業を他の人に任せずに)インタビュアー自らが迎えにいくことだ。「待合室」がない場合やリモートでインタビューをおこなっている場合でも、ある程度時間を取って友好な雰囲気を演出し、参加者が居心地良く感じられるようにしよう。

とはいえ、信頼関係の構築は行きすぎることも多い。インタビュアーの中には、最大限の信頼関係を築いてできるだけ好感をもってもらおうと、参加者との連帯感や参加者からの共感を得るために自分自身の経験を話し始める人もいる。しかし、このようなやり方は、インタビュアーが興味をもっていることを明らかにしてしまうことで参加者の回答をゆがめる可能性があるし、参加者がインタビュアーとは「違う」経験をしている場合には、そうした回答を引き出せなくなることもありうる。

こうした誤りを回避するには:

  • 自己紹介をしたら、調査の範囲を超えて、参加者に1日の流れについて聞いてみよう。このようなやり取りは、顧客自身や彼らが製品やサービスを利用するとき以外の生活についての貴重なコンテキストをさらに提供してくれる。
  • 落ち着いてゆっくり話し、参加者よりも多くしゃべらないようにしよう。参加者はリサーチャーの「しぐさや行動の真似をする」ことが多い。したがって、ゆっくり話すことによって彼らも落ち着いていられるようになるし、回答について考える時間も与えられる。インタビューでは、約8割の時間を参加者に話してもらうことを目指さそう。
  • 参加者とのやり取りの中で、「インタビュー」という言葉は使わないようにしよう。その代わりに、「チャット」(chat:おしゃべり、雑談)と呼ぶようにすると、自分についての評価という感じが減る。「インタビュー」(interview)という単語は、仕事の面接を連想させることが多く、不安を増大させる(結果として信頼関係の構築を妨げる)可能性があるからだ。(編注:日本語の「インタビュー」は仕事の面接を連想させるものではないため、使っても問題はないものと思われます)

2.  深堀り質問が不十分

深堀り(具体的で詳細な情報を得るためにフォローアップの質問をすること)は、ある特定の行動や態度、視点の背後にある動機や根拠を明らかにするのに有効だ。「どんな気持ちになりますか」、「それはなぜだと思いますか」、「それについて詳しく教えてもらえますか」などの深堀り質問をすることで、参加者にさらに詳しい情報を提供してもらったり、前の発言の意図を明確にしてもらうことができる。

普段からこうした質問をすることに慣れていない人は、少しぎくしゃくしたり、押しつけがましいのではと感じるかもしれない。しかしながら、突っ込んだ質問を「しない」と、参加者の回答の詳細さや具体性が制限され、調査データに誤解やあいまいさが生じる。そうしたリサーチャーは、(参加者からの直接の説明に頼るのではなく)ユーザーの発言から意味を推定しようとしているということだ。

こうした誤りを回避するには:

  • インタビューガイドを作成する際に、インタビューの質問ごとにオプションのフォローアップ質問を用意しておこう。そうした質問を結果的にはしなかったとしても、当てにできるフォローアップ質問をいくつか用意しておくに越したことはない。こうした質問は、調査しているそれぞれの課題に関するもので(質問の範囲は調査している課題に関わることに限定される)、より広範なものから(このような質問の長所は想定される答えが1つではないこと)、非常に詳細なものまで(本当は知りたいが、必要なとき以外はインタビュアー側からは言いたくないもの)、さまざまな具体度のものを用意しておく必要がある。
  • インタビューガイドの一番上(または一番下)に、汎用的な深堀り質問をまとめた深堀り質問リストを置くことで、必要なときに頼れるようにしておき、繰り返し「なぜですか」と尋ねないですむようにしよう。汎用的な質問はユーザーを誘導しないという点で優れているが、深堀り質問リストは必要だ。(たとえば、「どんな気持ちになりますか」などの)汎用的な同じ質問を何度もされると、回答者がすぐにイライラしてしまうからだ。

3.  インタビュー中にマルチタスクやメモ取りをする

あなたがチームの唯一のリサーチャーである場合、ユーザーの発言に全神経を集中させるのはとりわけ難しいことだろう。とはいえ、ユーザーの発言だけに集中するというのは重要なことだ。そうすることで、参加者の言葉やジェスチャーを最もよく解釈できるだけでなく、参加者と適切な関係を築くこともできるからだ。その鍵は、準備しておくことだ。次に何をすべきかを前もってよくわかっていればいるほど、次に何が起こるかを考える必要がなくなり、「その瞬間を大切に」して、参加者にすべての注意を向けられるはずだ。

参加者から視線を外して、電話をチェックしたり、テキストメッセージに返信したり、時計をチェックしたりするのは、興味がないというシグナルになるので、不要なアプリケーションはオフにし、機器は消音モードにしよう。とはいえ、インタビューを中断させる最も一般的な原因は、インタビューの「進行をしながら」、メモを取ることである。これは問題になる。参加者の話についていくのが難しくなり、参加者があなたが追いつくまで待っていなければならなくなるだけでなく、メモを取ることでリサーチャーの注意や視線が参加者から逸れてしまい、苦労して築いた信頼関係が損なわれるからだ。

その上、参加者が調査課題に関連したことを話しているときだけメモを取ると、その情報は他の情報よりも望ましい、あるいはより興味があるというシグナルを彼らに送ることになる。参加者は、多くの場合、インタビュアーを「喜ばせる」ことをしようとする、あるいはできるだけ役に立とうするので、(彼らの経験を最もよく表すものではなく)リサーチャーにとって最も興味深かったり、望ましいと思われる情報を提供できるように行動を修正してしまう可能性がある。

こうした誤りを回避するには:

  • 可能であれば、インタビューを録音し、後で書き起こしてもらおう。録音があれば、間違った引用をすることを避けられるし、チームの他のリサーチャーも同じ「生」データにアクセスして後の分析に役立てることができる。データ管理時には、参加者のプライバシーの尊重に留意して、録音データは可能な限り匿名化し、共有する情報は機密扱いになることを参加者に知らせよう。(メールで送った説明にこのことが記載されている場合でも、こうした免責事項は形だけの「決まり文句」のように見えることもあるので、声に出して参加者に伝えることもお忘れなく)。
  • 録音できない場合は、専門の記録係を任命しよう。何らかの理由でインタビューを記録できない場合は、記録担当を置こう。(興味のある領域だけでなく)インタビュー全体についてメモを取ることが彼らの一番の役割である。

4. インタビューに影響を与えることを見学者に許してしまう

ユーザー調査に興味をもつのは良いことだ。しかし、インタビュールームに見学者がいると、信頼関係の構築を妨げ、その結果、繰り返しになるが、参加者が自分の経験について個人的な話をしてくれるかどうかの制約になりかねない。

インタビューは、1対1で友好的な会話をするためのものだが、そこに自分の質問を差し挟むことができる見学者もいると、まるで尋問のように感じられることもある。インタビュー中に1人か2人の見学者がいても常に失敗するとは限らないが、参加者にとっては、見学者が目に入らないほうがインタビューでの気まずさは減るだろう。

こうした誤りを回避するには:

  • (前述のように)インタビューを録音し、興味をもっているステークホルダーやチームメンバーに後で提供しよう。この方法を取ることで、見学者がインタビュールームにまったく入れなくして、参加者と信頼関係を築くのに最適な条件を確保することができる。とはいえ、このやり方だと、ステークホルダーやクライアントがインタビューを断片的にしか見ない(あるいはまったく見ない)ことになるので、彼らがユーザーに共感したり、ユーザーについての共通認識を構築できるという点においては理想的とはいえない。
  • 見学者に対する期待と基本ルールを定めておこう。参加者に質問できるのは、インタビューのファシリテーターだけであるべきだ。見学者は参加者との信頼関係を積極的に築くわけではないので(また、ファシリテーターとしての訓練を受けていないこともあるので)、質問をしても好意的に受け取られなかったり、そっけない回答しか得られない可能性があるからだ。期待することと基本ルールは(たとえば、別のメールまたはカレンダーの招待状で)事前に定めておこう。そして、セッション(または一連のセッション)後には、見学者を対象とした短い報告会を実施しよう。そうすれば、新たに追加された調査課題を次回以降のインタビューに織り込むことができる。(注:ビデオチャットでインタビューを実施している場合は、参加者からは出席者リストが見えない会議ツールを選択するといいだろう)。
  • 部屋にいるインタビュースタッフの数を制限して3人までにしよう。さらに彼らにはマジックミラー越しに見学してもらうか、さもなければ参加者の視界の外の脇のほうにいてもらって、参加者の視界に入らないようにしてもらおう。ビデオチャットでインタビューを実行していて、出席者リストを非表示にできない場合は、見学者にプロフィール写真を削除してもらうか、名前をランダムな文字や数字の羅列など意味の取れない文字列に変更してもらうことを検討するとよい。それでも、参加者は、自分が見られていることがわかると影響を受ける可能性がある。

より一般的なポイントとして、ほとんどのステークホルダーは、ユーザー調査の見学に割ける時間が限られている。UXチームの現メンバーでさえ、特に彼ら自身がリサーチャーでない場合は、すべての調査を見学する時間はないかもしれない。どちらの場合も、こうした人々の限られた時間のほとんどは、ユーザーが製品を実際に使用するのを見ることができる行動に関するセッション(ユーザビリティテストなど)の見学に割り当てるといいだろう。

5. 参加者を誘導する

ファシリテーターの誤りの中で危ういのは、参加者の行動をうっかりゆがめたり、プライミングすることだ。リサーチャーの中には、思わず「手の内を見せ」たり、調査の意図をあまりにも早く明らかにして、参加者の発言にバイアスをかけてしまう人がいるのである。

たとえば、参加者に「口コミによるお薦めが不動産の購入にどのくらい影響を与えるかを調査しています」と伝えると、参加者の回答は口コミによる最近のお薦め物件の話が中心になる可能性がある。それに対して、「皆さんの住宅購入の過程がどのようなものかを調査しています」と伝えれば、参加者は、口コミによるお薦めはまったく活用せず、長い時間、オンラインで不動産物件の閲覧ばかりしていると打ち明けてくれるかもしれない。

先に見たように、ファシリテーターの身ぶりも参加者に対するプライミングになりうる。ファシリテーターのうなずきがゆっくりとしたものから強いものに変われば、自分の回答がそのとき面白くなってきたようだと参加者が受け取ることもあるだろう。同様に、質問の言い回しによっても参加者の回答は変わる。たとえば、「芝生を手入れするための機器を検討する際、価格はどのくらい重要ですか」という質問には、「はい、価格はとても重要です」という予想どおりの答えが返ってくるかもしれない。なぜならば、この質問は、価格というのは考慮すべきものであるということを暗に示しているし、ほとんどの人は社会的に望ましく、容認されるような回答をしたいと思っているからだ。また、この質問は、必ずしも価格のことがすぐに思い浮かばなかった人にも価格のことを連想させてしまう。ここでは、「芝生を手入れするための機器を選ぶ際のポイントは何ですか」といった質問のほうがいいだろう。

こうした誤りを回避するには:

  • ユーザーへのプライミングを避けるために、自分や調査についての紹介をする際には、調査の目的をやや曖昧にしておこう。
  • 質問は可能な限り、オープンエンド型(自由回答式)にして、広範なトピックから開始し、フォローアップ質問によって絞り込んでいこう。
  • 自分の身ぶりに気をつけて、インタビュー全体をとおして身ぶりが変化しないようにしよう。厳格だったり、ロボットのようである必要はない。しかし、比較的中立な立場でありながらも、終始、友好的で関心があるという態度を取り続けよう。

結論

インタビューは、ユーザーが世界をどのように見ているかを知るための手法である。調査の質を最大限に高めるために、時間をかけて信頼関係を築き、心を開いて話を聞くことに徹しよう。