Kindle Fireのユーザビリティ調査に批判的な人達に対する反論

2011年12月のJakob Nielsenの「Kindle Fireについてのユーザビリティ上の発見」に関するコラムへの補足記事

我々が最近行ったAmazon.comの新しいKindle Fireのユーザビリティ調査は、多数のツイートやブログの投稿、様々なニュースサイトでの報道に対する読者のコメント等、何千もの反応をネット上で巻き起こした。誰にでも発言権がある機会均等なパブリッシング環境こそがインターネットの良さである。コメントの多くは以下のような類のものだった。Kindle Fireを持っているが、Nielsen Norman Groupの調査結果と全く同じことを経験した」。ユースケースの違いからくる信頼できる異論もあった。「映画鑑賞用の安いタブレットが欲しかった。私はウェブをあまり見ないので、ブラウザにどんな問題があろうと気にならない」

また、いつも来るユーザビリティの敵もいた。彼らは私や他のまじめにユーザー調査をやっている人たちのあらゆる投稿を馬鹿にして冷やかすが、それはかなり時代遅れである。そこで、私はこういう輩は無視をすることにしている。実験結果によって彼らを納得させられないなら、これ以上何をしようとうまくいかないからである。彼らにはお菓子を好きに食べさせ、見た目には綺麗だが役に立たないサイトをお互いほめ合うということをさせておけばよろしい。

とはいえ、コメントには我々の調査とは見解が実質的に異なっていて、反論するに値するものもあった。

「これはまだバージョン1.0だ。今後のバージョンはもっと良くなるだろう」

違いない。The New York Times報道によるとAmazonはすでにソフトウェアのアップグレードを計画しており、近々に公開されるそうだ。(もちろん、次に出るものがもっと良くなるかもしれないというのは、このアップデートが実際に行われて、ユーザビリティ上の問題が解決されたかどうかわかるまで購入を控えるための強力な理由になる)。

このコラムの元になったコラムを投稿した次の日、私はGoogleからEメールを受け取った。それによると、私が指摘した多数のユーザビリティ上の問題の解決するため、Kindle Fireユーザー用に既にページデザインを変更したそうだ。このことについては、「Googleのみんな、よく頑張ったね」と言うしかないだろう。

したがって、もう一度調査をすれば、外部の検索エンジンが利用しやすくなったという点において、結果が多少良くなることは既に予想される。(ユーザーがGoogleを利用すると仮定すれば、だが。しかし、たいていのユーザーはGoogleを使うだろう。我々はユーザーに特定の検索エンジンを指し示したりはしない。ただ座って、彼らが自らどこへ行こうとするのかを観察することにしている)。

Googleは世界一裕福なウェブサイトで、UIの適切な変更を迅速に行う能力のある、たくさんの優秀なUX担当者と有能な開発者を社内に抱えている。たいていのウェブサイトは彼らにスピードで劣る。また、私が先の分析の中で指摘したように、7インチタブレットがものすごく人気にならない限り、様々なウェブサイトがこのプラットフォームに自分たちのデザインを対応させるのは経済的に成り立たないだろう。

1つのプラットフォームの全体的なユーザーエクスペリエンスというのは、もともとのUIと、その機器に投影されるコンテンツとサービスの両方から構成されている。したがって、ほとんどのサイトの変更がゆっくりしたものであれば、Kindle Fireのウェブエクスペリエンスもゆっくりとしか向上しないだろう。

Kindle Fireから感じるのは、大急ぎで製品化した、という印象だ。もう数ヶ月かけて、ユーザビリティ調査や反復デザインを行い、プログラムを洗練させれば、後の発売が期待されるような素晴らしい成果を挙げたのではないだろうか。とはいえ、Amazonがなぜ2月に良い製品を、というのではなく、11月の後半にお粗末な製品を出荷するといいだろうと思ったかは理解できる。クリスマスショッピングの時期に間に合わせたいからだ。売り上げの追加分が低品質なユーザーエクスペリエンスから来るブランドダメージをカバーするだけの価値があるかどうかは難しい判断であるが。

幸いにも、記事を書くときには、発売を早めることと、より良い製品を出すことの間のトレードオフに直面しなくてもすむ。私はただ、ユーザビリティ調査が教えてくれることを明らかにするだけだ。私の仕事は真実を伝えることであって、製品開発を管理することではないからである。(コンサルティングプロジェクトの場合はウェブサイトのコラムを書くときとはかなり事情が異なる。というのも、クライアントにアドバイスをするときにはどんな開発中のプロジェクトあろうと、そうした避けられないトレードオフに関わる必要があるからである)。

新発売のKindle Fireのユーザビリティ上の欠点をリポートする理由の最後の1つは、他の企業の経営陣が、大企業は正しいに違いないという仮定の下、自分のところのデザインチームに大きくて有名な企業の仕事をコピーしろ、と指示することがよくあるからである。Kindle Fireのようなケースでは、最も大きな企業(Amazon.com)がデザイン上の罪をたくさん犯していたことになる。他企業がデザイン上のこうした判断を真似しようとすれば、損害を受けることになるだろう。とはいえ、Amazonにもそうするだけの理由があるとは思われる。例えば、返金可能だからかもしれないし、改良が予定されていたからかもしれない。しかしこうした点のどれを取っても、Amazonほど恵まれていない他の企業が、最初のKindle Fireのデザインをコピーするだけの価値を与えるものではない。

「200ドルに何を期待するというのか」

誰もがみなシリコンバレーの高給取りのエリートで、新しく出たガジェットにふらっと500ドル払えるわけではないということはよくわかっている。安価な製品が広範囲の顧客を獲得するのに必要であることは間違いない。私はただ、お金がないなら粗悪な製品で我慢すべき、とは思わないだけだ。もちろん、ぎりぎりの価格に豪華さを期待することはできない。しかし、価格がいくらであろうと、品質は一定基準以上であるべきだろう。

例えとして、東京で安いホテルに泊まる場合のことを考えてみよう。部屋はごく狭く、場所も銀座の真ん中というわけにはいかず、スタッフの英語力もかなり限られていて、朝食には生魚しか出ないかもしれない。しかし、そうであっても、部屋はしみ1つなく清潔で、スタッフはとびっきり親切であり、彼らは自分たちの英語力の限界ぎりぎりまで、精いっぱいあなたを助けてくれるだろう。

同様に、安い7インチタブレットは10インチタブレットのようには大きな美しい写真や細かい映像を見せることはできない。画面ごとに載る情報が少ないため、頻繁なページ移動も必要である。高性能のアプリの中には実行できないものもあるだろう。カメラも付いていない。しかし、こうしたことはどれも問題ではない。安価な機種を買おうとしたことのデメリットだからである。

しかしながら、だからといって、ユーザーインタフェースのデザインが酷くなければならない理由は何もないし、対応する画面の大きさに最適化しない理由もない。大いに優れたユーザーエクスペリエンスを作り出すというのは、ユーザーインタフェースの最適化専任のユーザビリティ担当者やインタラクションデザイナー、プログラマーをもう何人か雇うかどうか、だけの問題である。総予算も100万ドルかからない。最初の年に売れると思われるユニットの1台あたりにすると10セントくらいだろう。

ユーザーインタフェースデザインとハードウェアスペックとの違いは、優れたユーザビリティはユーザー調査やデザインの反復、プログラミングに一度出費すれば得られるということにある。一方、ハードウェアは頑丈なものなので(例えばカメラを足そうとすると)追加ユニットを製造するたびに何度も費用がかかる。

これが意味するのは、安い機種であっても素晴らしいユーザビリティを持つことは可能だということである。なぜならば、より良い調査とデザインのための費用も、何百万台もの機器に均されるからだ。こういうわけで、どんな大きなプロジェクトであろうと、ユーザビリティのROIはずば抜けて高いのである。

ホテルの比喩で言うと、もし倍の広さの部屋を希望すれば、清掃や暖房等のコスト同様、ホテルの不動産関係のコストもほぼ倍になるはずである。広い部屋を安く提供することは不可能なのである。しかし、親切なフロントデスクのスタッフにかかるコストは不機嫌なスタッフのものとさほど変わらないはずだ。そして、確実なのは、もしあなた方が所有しているのがホテルチェーンなら、オンライン登録時のユーザーエクスペリエンスは好きなだけスムーズにできる。反復デザインを何ラウンドか余分に実施したところで、一泊の宿泊費に換算すると数セントにしかならないからである。(通常、宿泊客がこの数セントを払うこともないだろう。というのも、出来の良いウェブサイトにかかる高額の費用は、売り上げが何倍にも増えることで回収されると思われるからである)。

「Kindle FireはiPadの3分の2の重さなのに、どうして重いなどと文句が言えるのか」

そう、Kindle FireはiPadより軽い。しかし、iPadの最初のユーザビリティ調査でわかったことだが、ユーザーもiPadが重すぎると思っている。

さらに重要なのは、iPadは両手で使われることが多いが、より小さい7インチタブレットは片手でも使えるものとして期待されていたということである。(古い型のKindleが一晩中、片手に持って読書できるほど軽かったのは間違いない)。2分の1の筋肉に3分の2の重量が割り当てられるのだから、機器を抱えるための筋肉には大きな負担がかかることになる。片手で40ポンドのダンベルを持ち上げるのは、両手で60ポンドのバーベルを持ち上げるより大変であるのとまったく同じである。

「電子ブックリーダーとタブレットを混同している」

Kindle Fireから提供されるウェブブラウジングが今後も酷いものなら、Fireは本当に単なる電子ブックリーダーになってしまうかもしれない。しかし、7インチタブレットが、10インチタブレットと携帯電話の間の地位を築き、幅広く使える新しい種類の機器として普及することが彼らの希望だったはずだ。

また、電子ブックリーダーとして見ても、雑誌等のリニアでないコンテンツでのページ移動の難しさという点で、現時点のユーザーエクスペリエンスはうまくいっていない。

「ユーザビリティが不十分であっても、AmazonはKindle Fireを何百万台も売るだろう」

歴史的に見て、ユーザビリティというのは、製品の成功に影響を及ぼすたくさんの要素の1つに過ぎない。例えば、1980年代には悲惨なMS-DOSが付いたPC/AT互換機のほうがMacintoshよりもはるかに売れていたし、1990年代になっても、Windowsの原始的なユーザーインタフェースのほうがデザインの良いMacよりも売れ続けていた。今のWindows 7はかなり良いが、PC/AT互換機はOSのUXではなく、安い価格と強力なアプリケーションの入手しやすさが理由で、長い間売れていたのである。

同様に、Kindle Fireもデザイン上の欠点があっても、よく売れる可能性もある。マーケティングというのは価格の安さ同様、非常に意味があるからだ。また、Fireのユーザビリティが唯一優れているのがAmazonで買い物をする場合である。物理的な商品を買うために内蔵アプリを利用するときも、コンテンツをダウンロード(し、簡単に支払い)するための統合機能を利用するときもそうである。したがって、大成功とはいかなくとも、Amazonはこの機器で最終的には十分な利益を得るだろう。

それでもやはり、(少なくとも雑誌や新聞、教科書向けの)コンテンツの利用が楽しくないことがわかれば、たとえコンテンツの購入やダウンロードが容易であっても、ユーザーは最終的には不満を示すだろう。

「どのみちヤコブ・ニールセンはすべてのユーザーインタフェースを嫌っている」

そんなことはない。良いと思って、毎日利用しているデザインもたくさんある。どちらかと言えば、新しいテクノロジーの可能性にしょっちゅう興奮しすぎてしまうのが私の欠点なのである。だからこそ、テストに取りかかる前にはKindle Fireには非常に期待していた。(実際、我々はNielsen Norman Group用に6台も予約注文していた)。

また、私はFire以前のKindleの大ファンである。それらは人々がタブレットから読むことについての調査で非常に良い成績を収めた。2年前には自分のチームのメンバー全員にクリスマスプレゼントとしてKindleを贈ったほどだ。

私の公になっている文章が良いデザインよりも悪いデザインを扱っているものが多いことは認めざるを得ない。これはウェブサイトの認知度を上げようと思えば、論争や痛烈なコンテンツに力を入れる必要があるからである。煮え切らないコンテンツでは読んでもらえないからだ。それこそがトレーニングセミナーのような他のメディアとの大きな違いである。我々はセミナーではデザインの規範となる好例も扱う。講義室に一日中閉じ込められている人々が相手だと、ネット上でクリックを誘い、我慢強くないウェブの読者を失うのを避けるときより、ずっと余裕を持って、様々なコミュニケーション戦略を利用できるからである。

私は何度も優秀なデザインを賞賛してきた。例えば、Intranet Design Annual(:イントラネットデザインについての年次レポート)Application Design Showcase(:アプリケーションデザインの紹介レポート)でそれを見ることができる。

昨年はKinectに興奮した。私の分析を読んだ読者はユーザビリティの優れた面に対する賞賛よりも、ユーザビリティ上の問題についての報告のほうに注目するのだろうが。ほとんどのユーザーインタフェースには良い面もあれば悪い面もあるというのが現実だ。しかし、問題については、何を書こうと、より注意を引きつけてしまう。したがって、多くの解説者は私のKinect分析を「NielsenはKinectのユーザビリティを非難」と要約した。実際には、ジェスチャーゲームでのその年の収穫が持つユーザビリティの問題をいくつか指摘しつつも、その可能性を賞賛したのだが。

「あなたは典型的なAppleマニアだから」

それは違う。12年間(1986~1998年)にわたって忠実なMacユーザーであったことは認めるが、1998年に私はMacintoshに見切りをつけている。新しい会社を始めていて、もうすぐだめになりそうなプラットフォームを会社の土台にすることが安全であると思えなかったからである。数年後、Appleの倒産は回避されたが、あの時以来、Nielsen Norman Groupの無数とも言える書類とソフトウェアはWindowsと決まっている。

Amazon.comを嫌っているわけではないことも確かである。私は1996年以来の忠実な顧客だからである。

「あなたのサイトは醜いではないか」

その通り。だからどうした。ユーザビリティとビジュアルデザインは(関連はあるが)別物である。

useit.comのデザインの根拠はThe Guardian紙とのインタビューで説明している。簡単に言うと、Don Normanのエモーショナルデザインの理論での内省レベルに人々を到達させることを目的としている。

「調査サンプル数が少ない」

このもっともらしい意見を述べた解説者がほとんどいなかったのは喜ばしい。定性調査から得られるより深い洞察が以前より尊重され始めているということだろう。

小さなサンプルサイズでは信頼できる結論を導き出せない事柄もたくさんある。例えば、4人のうちの3人のユーザーがXということをしていることが観察されても、「75%のユーザーがXをする」と書くのは根拠に欠けるだろう。同様に、「Kindle FireではモバイルサイトはフルデスクトップサイトよりもY%使いやすかった」と書くこともしなかった。この書き方では推定されるY値周辺の信頼区間が大きくなりすぎ、意味がないからである。

しかし、傾向や概念的な洞察を報告するのには完全に有効である。例えば、今回の調査ではモバイルサイトは結果が非常に良かった。それがどのくらい良かったかは正確にはわからないまでも。私はこの調査結果を自信を持って報告することができるが、それはモバイル機器タブレットを対象にしたテストの結果という広大な基盤からくる既存の知識を使って、調査結果を説明できるからである。

我々は(ここ数年間)4つの大陸のユーザーや様々な機器を対象に、何百ものモバイルやタッチ式のデザインをテストしてきた。(実際、我々のモバイルについての最初のユーザビリティ調査は2000年に実施された)。こうした大量の調査から得られた洞察が小規模な調査から得られた結論に一致するとき、その小規模調査の結果を信頼するのは理に叶っている。例えば、Kindle Fireのファットフィンガー問題についての我々の調査結果はほぼ確実に真実だろう。たとえそれが、手の大きさのバリエーションが少ない、数人のユーザーをベースにしたものであっても。

その一方で、まだ仮説ではあるが、Kindle Fireでの「スキニーフィンガー」(細い指)問題を目にしたと言っておこう。この問題は過去、タッチスクリーンのユーザビリティについて調べてきたことすべてにまるで反している。この初めての小規模調査以外のさらなる調査がないと、この革新的発見についての報告には自信を持てないだろう。

「Barnes & NobleのNookのほうがずっと良い。なぜそちらをテストしなかったのか」

中にはNookのほうをより好む人もいるようだ。我々がKindle Fireを取り上げたのは、高性能の7インチタブレットをデザインするという点において、それが一番意欲的なプロジェクトだったからである。例えば、新しいSilkブラウザは興味深いプロキシベースのアーキテクチャを持っており、テストするに値する。

今回、タブレットを2つ調査できなかったのは、実験的なユーザビリティ調査を実施するためのコストによる。Nookの購入価格は問題にはならない。しかし、本物のテストユーザーを使って、実際のセッションを計画し、実施し、分析するのはたいへんに費用がかかるのである。

我々の7インチプロジェクトと、あなた方がテクノロジー関連のブログ等で読んだレビューとの大きな違いは、自分たちの個人的な意見だけを信用するのではなく、観察されたユーザー行動という、実際の実験に基づいた証拠を収集していることにある。このアプローチはユーザビリティ上の課題やユーザーエクスペリエンス戦略についてのより良い洞察を導き出す。しかし、ずっと多くのリソースが必要なのである。

マスコミ報道

以下は我々のKindle Fireのユーザビリティ調査についてのマスコミの反応のいくつかである:

公開:2011年12月27日(原文:2011年12月5日)
著者:Jakob Nielsen
原文:Rebuttal to Critics of Kindle Fire Usability Study

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