ユーザージャーニーとユーザーフローの比較

ユーザージャーニーとユーザーフローはどちらも、ユーザーが目標を達成するために通過するプロセスを記述したものだ。どちらのツールも、体験を計画し評価するのに便利だが、その範囲、目的、形式は異なる。

ユーザージャーニーとユーザーフローはどちらも、ある特定の製品やサービスでユーザーがどのように目標を達成するかを把握するためのUXツールだ。両者には類似した特徴がいくつかある。ユーザージャーニーとユーザーフローの共通点は以下の通りである:

  • 体験を理解し、最適化をするために、デザインのアイデア出しや評価に利用される。
  • ユーザーの目標を軸に構成され、(企業や製品ではなく)ユーザーや顧客の視点から検討される。
  • UXマッピングという手法により、把握され、表現される。

一方、両者の主な違いは、詳細さと焦点のレベルだ。すなわち、ユーザージャーニーは、複数のチャネルを横断し、時間をかけて行われる包括的な体験全体を記述する。それに対して、ユーザーフローは、ある製品のユーザー経路を構成する一連の具体的なインタラクションを注意深く調べて、記述するというものである。

ユーザージャーニーとは

定義:ユーザージャーニー(カスタマージャーニー)とは、ある企業や製品について、ユーザーが、通常、チャネルを横断し、時間をかけて、包括的な目標を達成するために取る、1つのシナリオに基づいた一連のステップのことである。

ユーザージャーニーが根本的に目指しているゴールは包括的なものだ。そのため、ジャーニーを記述するには、多くのインタラクションポイントにわたるユーザーの体験を理解する必要がある。なぜならば、ユーザーは1回のジャーニー中に複数のチャネルや情報源を利用すると考えられるからだ。

新規患者のジャーニーを例に考えてみよう。新しい医師を見つけて検討しようとしている人は、長い期間(数日、数週間、数ヶ月)にわたって多くのタッチポイントを経験する。たとえば、診療所のWebサイトで情報を調べて、電話で予約を取り、Eメールで連絡をもらい、実際のオフィスを訪問し、患者ポータルで情報にアクセスし、必要に応じて電話でフォローアップしたりするからだ。

新規患者のジャーニーは、長期間にわたる多くのタッチポイントで構成されている。

このジャーニーは複雑なものであるため、ユーザーの感情や思考に関する情報を使って、彼らの行動を解釈し、文脈化することは、体験を分析し、最適化するのに役立つ。

ジャーニーマップは、物語的かつ説明的であるため、ジャーニーを視覚化するアーティファクトとしてよく使われる。効果的なジャーニーマップは目標を達成するためのステップを伝えるだけでなく、そのプロセスについてユーザー中心のストーリーを明らかにしてくれる。

ジャーニーマップは、顧客やユーザーが時間をかけ、複数のチャネルを横断し、目標を達成しようとする際の行動や思考、感情を視覚化することで、彼らのジャーニーを把握する。

ジャーニーマップの作成に最適な調査手法は、通常、フィールド調査日記調査といったコンテキスト手法であり、そうした手法によって、ユーザーの長期的な目標やその時々の行動が明らかになる。これらの手法をユーザーインタビューと組み合わせることで、直接の不満やニーズを明らかにすることができる。

ユーザーフローとは

定義:ユーザーフローとは、ある製品を使ってよく行われるタスクを達成するために必要な、典型的または理想的なステップを表す一連のインタラクションのことである。

ユーザーフローが根本的に目指しているゴールは、ユーザージャーニーに比べると、細かい要素によって構成され、そこでの焦点は1つの製品内の特定の目的に絞られている。

ユーザーフローで把握するのに適切なユーザーの目標は、スポーツ用品サイトでテニスラケットを購入する、クレジットスコアモニタリングアプリケーションでメール通知に登録する、企業のイントラネットでプロフィール写真を更新する、などだ。これらの目標は、比較的少ない回数のインタラクションで短期間(せいぜい数分から数時間)に達成することが可能である。

ユーザーフローは、忠実度の低いワイヤーフロー、シンプルなフローチャート、タスクダイアグラムといったアーティファクトで表現することができる。こうしたマップで把握できるのは、主要なユーザーステップとシステムの反応であり、ジャーニーマップのように感情や思考によってプロセスを解釈することはない。

ワイヤーフローは、所定のタスクを達成するために訪問する必要がある画面またはページの理想的または典型的な経路を記録したものだ。

ユーザーフローをマップ化するデータのための最適な調査手法は、ユーザビリティテストである。ユーザビリティテストでは、ユーザーが指示されたシナリオで製品と直接インタラクトする様子を観察することができる。また、ユーザージャーニーでもそうであるように、アナリティクス(たとえば、クリックヒートマップ)をキャプチャするツールは、知見の有用な二次情報源になる。

ユーザージャーニーとユーザーフローの統合

ユーザージャーニーとユーザーフローの両方を把握し、それらを組み合わせて、体験をマクロとミクロの両方の視点から理解するのは有益であることが多い。ユーザーフローは、包括的であるユーザージャーニーの特定の領域を深く掘り下げたものと考えることができるからだ。

たとえば、前述の新規患者のジャーニーを構成する上位レベルの活動に戻って考えてみよう。こうした活動の中には、デジタル製品の利用を伴うものもある(たとえば、診療所のWebサイトで情報を調べる、患者ポータルで検査結果にアクセスするなど)。これらの目標に関連するユーザーフローを文書化することで、より広範なジャーニーというコンテキストにおけるミクロレベルの体験をさらによく理解することができるようになる。

ユーザージャーニーとユーザーフローを一緒に検討することで、コンテキストがずっと明確になり、ユーザーの体験をさらによく理解できるようになる。

残念なことに、ほとんどのチームは、チーム内に組織的な断絶があったり、包括的な測定プログラムがなかったり、作業を行う余裕や能力が不足していたりするために、この2つの視点を結びつけるための体系的なプロセスを持っていない。

比較:ユーザージャーニーとユーザーフロー

ユーザージャーニーとユーザーフローの主な違いは下表のとおりである:

  ユーザージャーニー ユーザーフロー
定義 ある企業や製品について、ユーザーが、通常、チャネルを横断し、時間をかけて、包括的な目標を達成するために取る、1つのシナリオに基づいた一連のステップ ある製品を使ってよく行われるタスクを達成するために必要な、典型的または理想的なステップを表す一連のインタラクション
焦点のレベル マクロ:広範で包括的(例:医療機関の新規患者になるという体験) ミクロ:具体的で詳細(例:Webサイトでのアラート登録)
対象範囲 体験全体にズームアウトして、さまざまなタッチポイントやチャネルを検討する ある1つの製品内のインタラクションにズームインして、理解する
把握できること ユーザーの行動、感情、思考、およびチャネル 製品ベースのインタラクション(主要なユーザーアクションとシステムの応答)
最適なアーティファクト ジャーニーマップ ワイヤーフローまたはフローチャートまたはタスクダイアグラム

特定のコンテキストに対してユーザージャーニーとユーザーフローのどちらが適しているかを判断するには、以下の質問について考えてみるとよい:

  • そのユーザープロセスにはチャネルが複数、あるいは既存の製品(例:あなたの会社のWebサイトなど)が複数含まれているか。ユーザージャーニーは複数のチャネルにまたがる活動を把握するのに適しているが、ユーザーフローは1つの製品内でのインタラクションに向いている。
  • ユーザーは、一般的には数分、長くても数時間で目標を達成することができるか、それとも数日、あるいは数週間、数ヶ月にわたって活動していく必要があるのか。ユーザージャーニーはより長い期間にわたる活動を伝えるのに適しているが、ユーザーフローは比較的短期的な目標に向いている。
  • 非常に複雑な意思決定の場を通して、ユーザーの行動だけでなく、感情や思考を理解することが不可欠か。ユーザージャーニーではそうした要素を把握することが可能だが、ユーザーフローの対象は一連のステップのみであり、ユーザーの感情状態に関する情報が追加されることはない。