ショッピングカートかウィッシュリストか:
あとで買う商品を残しておく、ECサイトの機能

ECサイトにおいてショッピングカートの商品をあとで購入できるように保存しておく方法は、発見しやすく手間のかからないものでなければならない。

ショッピングカートは外部記憶である

ショッピングカートとは買ったものを入れる単なるカゴではない。外部記憶の一種であり、これによってユーザーが興味のあるアイテムを思い出せて、そのアイテムにすぐアクセスできるツールでもある。最近実施した49のECサイトを対象にした調査で我々はよく目にしたのは、買い物客が買い物を続けている間、アイテムを比較したり、商品を保存する目的で、あるいは、後日、そのサイトを利用するときのために、ショッピングカートを保持領域として利用する姿だ。

充実している現在のeコマース環境では、適切な商品を見つけ出すには時間も手間も必要だ。そのため、ユーザーが同じ作業のやり直しを避けようとするのも無理はない。しかし、興味のあるアイテムを保存するためにショッピングカートを利用すると、「現在」購入するアイテムの保持というカート本来の機能と矛盾することがある。たとえば、ユーザビリティテストの参加者の中には、前回の買い物のときから、カートの中にアイテムを入れたままにしている人もいた。そして、彼らはそうしたアイテムをその時点では買う予定がないにもかかわらず、それを破棄したがらなかった。あとで検討するためにそうしたアイテムを保存できることがこの場合には非常に重要であることがわかる。ウィッシュリストや「あとで買う」というオプション、「お気に入り」リストなどのサイトが提供するツールがそこには用意されていたのだが。

ウィッシュリストか「お気に入り」かそれとも「あとで買う」か

我々の調査した多くのサイトがウィッシュリストを備えていて、今後のためにユーザーがアイテムを保存できるようになっていたが、彼らはその利用には消極的だった。(たとえば、ユーザー登録をする必要があるなど)設定のためのインタラクションコストがかかるだろうと思っていたからだ。その代わりに、ほとんどの参加者は、今後のために商品を保存するのに、カートにアイテムを追加するやり方のほうを好んでいた。その上、「ウィッシュリスト」(Wishlist)というラベルから、そもそもこのリストはプレゼントに何が欲しいかを他の人に伝えるためのもの、とユーザーは読み取った(訳注:アメリカでは結婚やクリスマスなどのイベント時に自分の欲しいものをまとめたウィッシュリストを周りに公表して、その中からプレゼントを買ってもらう習慣がある)。そのため、ウィッシュリストにアイテムを保存すると、がめつく、不適切であるように思われることになるのではないかと考え、ウィッシュリストの他の使いみちを考えもしなかった人が多かったのである。「お気に入り」やさらには「マイリスト」のような名前にはそうしたがめつい響きはない。とはいえ、こうしたツールも登録と設定でうんざりするだろうとユーザーからは思われていた。

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West Elmは、ウィッシュリスト機能を「お気に入り」という名前にして、「ウィッシュリスト」という言葉の持つがめつい響きを回避している。

ウィッシュリストかショッピングカートか

ウィッシュリストはページヘッダー(のカートボタンの隣)と商品ページ(の多くは「カートに追加する」ボタンの隣)に置かれていることが多い。こうした場所にあるため、この機能はすぐに発見できるし、アクセスも容易である。それでも、調査参加者は、まず、カートにアイテムを追加する傾向にあった。たとえプライベートなものであっても、ウィッシュリストには強い意志が存在するというのが、ユーザーのメンタルモデルだからだ。つまり、ウィッシュリストにアイテムを追加すると、「『ぜひ』それが欲しい」ということになるが、カートにアイテムを追加するのは、「それが欲しい『かもしれない』」ということなのである。

こうしたメンタルモデルに応えるために、ユーザーがカートから直接アイテムを保存できるようなリンクを置いているサイトもある。これはあとで検討する商品をすぐ購入するアイテムと分ける手軽な方法である。

「あとで買う」は発見しやすく、インタラクションコストがかからないようにする必要がある

「あとで買う」機能があれば、すぐ購入しないアイテムをユーザーが捨て去るのを防止できる。しかし、「あとで買う」のせいで、プロセスが長くなったり、わかりにくくなると、この機能自体が無視されるか、現在の購入の決済プロセスを妨げるかのどちらかになってしまう。カート内の「あとで買う」機能を有効なものにするには以下の要件を満たす必要がある:

  • 発見しやすい(探し出さなくても、ユーザーがこの機能に気づくことができなければならない)。
  • (この機能が具体的にどう役に立つのかについての強い情報の匂いがする)明確なラベルがある。
  • 使いやすいということがすぐにわかる(ラベルによって、この機能は使いやすそうだとユーザーに思わせるのが理想だ)。
  • 手間がかからない(アイテムを保存するために、ユーザーが登録をしたり、リストに名前をつけたりする必要がない)。

MacyのiOSネイティブアプリでは、「リストに移動」と「削除」というオプションがカート内で隠されていて、それらにアクセスするにはスワイプジェスチャーが必要である。スワイプしないと表示されないようになっていると、ユーザーの多くはこうした機能を発見できない。一方、Macyのモバイルサイトでは、カート内にこれらのオプションが両方とも表示されていた。

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MacyのiOSネイティブアプリ(左)では、「リストに移動」(Move to List)と「削除」(Remove)というオプションがカート内で隠されていて、それらにアクセスするにはスワイプジェスチャーが必要である。一方、モバイルサイト(右)では、これらのオプションは常に表示されている(そのため、より発見されやすい)。
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Searsのモバイルサイトでは、あとで購入するためにカートのアイテムを保存することが可能だが、そのオプション(「Save for later」)はドロップダウンメニューの中に隠れていて、ユーザーには比較的発見しづらい。

カート内の「あとで買う」機能の利用のために、ユーザーに登録やログインを求めないことを強く推奨する。買い物客とは、可能な限り、ユーザー登録を避けるものだから、というだけではない。彼らが今後のためにアイテムを保存しようとユーザー登録を始めたとしても、そのプロセス自体が決済プロセスの進行を妨げるからだ。

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Anthropologie.comの、ショッピングカートのアイテムに対する「ウィッシュリストに移動」(Move to Wish List)と「あとで買う」(Save for Later)というオプションの提供の仕方は混乱を招く。「ウィッシュリストに移動」を選ぶと、ユーザーはログインをするかアカウントを作るかしなければならないが、これはどちらも決済プロセスの進行を妨げるものだ。しかし、「あとで買う」にすると、登録も必要ないし、ユーザーへのフィードバックもすぐにある。決済プロセスでは、(パスワードを除けば)ユーザー登録で集める情報をすべて収集するので、この段階でユーザーに登録やログインを強制する必要はないはずだ。

Wayfair.comでは、ユーザーはアカウント作成やログインをしなくても、今後のためにカートにアイテムを保存可能だ。「あとで買う」というリンクが「数量」の欄の下に表示されていて、そのリンクをクリックすると、アイテムがショッピングカートページの下部にある「保存したアイテム」という名前のエリアに移動するからだ。この機能はユーザー登録が必要ないのである。しかし、そのエリアはページの下のほうに位置しているので(多くのノートブックではファーストビューより下)、発見されにくかった。「あとで買う」をクリックしたある調査参加者は、「保存したアイテム」セクションに気づけなかったので、ユーティリティナビゲーションにある「保存アイテム」リンクに移動しようとした。しかし、その機能にアクセスするには「必ず」ユーザー登録をする必要があった。そのため、このユーザーは彼女が保存したアイテムはもうなくなったと思い、代わりに別の競合サイトに移動してしまった。

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Wayfairのショッピングカートで、「あとで買う」(Save for Later)を選択すると、アイテムがショッピングカートページの下部にある「保存したアイテム」(My Saved Items)という名前のセクションに移動する(これはこのサイトのウィッシュリスト機能にあたる「保存アイテム」(Saves)とは別物であり、まぎらわしい)。「あとで買う」機能にはユーザー登録は必要ない。しかし、このセクションはページの下のほうに位置しているので(多くのノートブックではファーストビューより下)発見されにくかった。

まとめ

ショッピングカートとは、購入するまでの間、アイテムを保存するためだけの場所ではない。それは比較表や参考資料、アイデアのスクラップブックでもある。そのため、eコマースチームの近年の思い込みに反して、アイテムがショッピングカートに追加されたからといって、そのアイテムがすぐに購入される可能性が高いというわけではない。ショッピングカートというのは直接的な購入の手段であるが、商品を検討するためのサンドボックスでもあるから、ユーザーはショッピングカートを購買決定に役立つツールとして利用することが多いのだ。アナリティクス指標の1つとして、ショッピングカート破棄率を追跡しているのなら、この点を忘れないようにしてほしい。つまり、ショッピングカートに残されたアイテムは、実際、あとから購入されることになる可能性もあるということだ。

ユーザーがすぐに買おうと思っているのはカートの中身の一部だけであることが多い。しかし彼らは、今は買わなくても興味のある商品を見つけ出すのに費やした作業をすべて無駄にはしたくないのである。今後のためにアイテムを保存できる機能を、見つけやすいかたちで提供して、それには「ウィッシュリスト」以外のラベルを付け、そして、その機能へのアクセスをログインという壁で遮断しないようにしよう。

フルレポート

ウィッシュリストと決済プロセスの最適化について、さらに詳しくは、最新の第4版レポート、『Shopping Carts, Checkout, and Registration』(全299ページ)と、『Wishlists, Gift Cards, and Gift Giving』(全148ページ)にて。(これらのレポートは最新版の『Ecommerce User Experience』レポートシリーズの一部である)